#976 クリス・ピッツィオコス JAPAN TOUR 2017 稲毛『吉田達也DUO』・千駄木『ソロ』

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Text and photos by 剛田武  Takeshi Goda

 

2017年9月28日(木) 千葉 稲毛 CANDY  クリス・ピッツィオコス(as) + 吉田達也(ds)

2017年9月29日(金) 東京 千駄木 Bar Isshee  クリス・ピッツィオコス(as) SOLO

 

ニューヨークの今ここにあるジャズ(Jazz Right Now)を伝えるクリス・ピッツィオコスの単独初来日は10月17日JAZZ ARTせんがわ2017から始まった。動画や音源から想像していた通り表現力の豊かさと凄まじさの片鱗を感じることは出来たが、ソロとヒカシューとの共演あわせて60分弱のステージは、全貌を知るには物足りなく、その翌日静岡からスタートした吉田達也とのデュオ・ツアーへの期待が高まった。TwitterやFacebookの投稿で断片的に知ることは出来た地方公演の反響は。主に戸惑いに似た驚きが多くを占めていた。本サイトを含め一部の熱心なファンの間で評価されるピッツィオコスだが、CDやレコードが入手しにくい状況もあり、全国的な認知度はまだまだ。それだけに初めて生演奏に触れた驚きは大きいに違いない。9月26、27日には単身札幌へ飛び、大友良英等と2日間共演(その模様は別稿の定淳志氏のレポートに詳しい)。その翌日、折からの連続台風襲来の名残で強い風の吹く木曜日に、千葉県稲毛のジャズクラブから関東公演が始まった。

 

2017年9月28日(木) 千葉 稲毛 CANDY

クリス・ピッツィオコス(as) + 吉田達也(ds)

以前から興味を持っていたこのライヴハウスを訪れるのは初めて。入ってすぐ目につくのは巨大なオーディオスピーカー。壁に貼られたフリージャズ系ポスターや写真が楽しい。予約でソールドアウトした満員御礼の観客が見守る中、クリス・ピッツィオコスのソロからスタートした。

滑らかな運指の細かいトリルと高速タンギング。デビュー当時のトレードマークだったフリークトーンの嵐ではなく、表現力の幅を追求した思索的なプレイに成長の徴が伺える。2曲終わったところで吉田達也が加わろうと声をかけると「もう一曲(ソロで)」と合図。ソロセットは30分近く続いた。その後吉田が加わりデュオ演奏。気合いの入った即興演奏の鬩ぎあいは凄まじく、演奏が終わった後のブレイク・タイムにスイッチを入れた空調機の音を、観客全員がBGM用のノイズ・ミュージックと勘違いする不思議なハプニングが面白かった。

2ndセットはピッツィオコスが作曲した未発表の新曲を披露。地方公演ではMIDI音源のベース・トラックを同期させてプレイしたようだが、この日はサックスとドラムだけの演奏だった。変拍子が急展開する目紛しい曲調は、何処までが楽譜に書かれているのか定かではないが、ここ2、3年Chris Pitsiokos QuartetやCP Unitでみせたハーモロディック的なファンク路線とを深化させた新たな領域を目指す意欲が漲る作風であった。吉田が曲名を紹介しようとすると、即座にピッツィオコスが「それは秘密情報だからダメ!」と冗談めかして注意するやりとりは、一緒にツアーして二人の関係が兄弟のように深まったことが示されていた。二人の絆は今回限りではなく、今後の実り多きコラボレーションに繋がることだろう。

 

2017年9月29日(金) 東京 千駄木 Bar Isshee

クリス・ピッツィオコス(as) SOLO

日本ツアー唯一の完全ソロ公演。来日前のインタビューで「崖から飛び降りるよう」に「やるまで何をするか決めない」で挑むと語っていたし、前日の稲毛CANDYのMCでも「ソロでワンマン・ライヴをすることは滅多にないから、自分でも何が起きるか楽しみにしている」と語った。その言葉の通り、開場して観客が席に着く間もステージの椅子に座ったまま準備をしているピッツィオコスの表情は緊張感ではなく好奇心で輝いているように見えた。

冒頭の絞り出すような微弱音がゆっくり音量を上げていくドローン演奏は、管楽器ではなくパイプオルガンのように聴こえる。“循環呼吸”、“ノンブレス奏法”などと呼ばれる、息継ぎによる音の区切れがない連続した演奏だが、喉と頬を多少膨らませる以外は特別なことをしていないように見える。高度なテクニックには違いないが、ピッツィオコスにとっては自然な吹き方なのだろう。複雑なフレーズを超高速で吹き捲くる怒濤のプレイの連続に、溜め息すら出来ない緊張感が漂う。PCの電子ノイズを流しながら、サックスのベルをマイクに被せてフィードバックさせ、ヴォリューム・ペダルでノイズを操作しながらの演奏は、エレクトロニクス・ミュージックに精通する彼ならではのバイオニック・ノイズを聴かせてくれた。調性のあるメロディーが複雑に展開していく現代音楽的なアプローチは、クラシック・サックス奏法の基礎がなければ不可能だろう。

1st、2ndあわせて60分の演奏時間に吹かれたノート(音)数は、通常のコンサートの2,3時間分あるに違いない。それだけ凝縮されたステージにも関わらず、観終わった後は疲労感ではなく、爽やかな充実感に溢れていた。テクニック云々ではなく多彩な表現力に導かれた豊潤な音楽の旅を堪能した一夜であった。(2017年10月27日記 剛田武)

 

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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