#997 Sicilian Dream:
映画上映会 『Sicily Jass – The World’s First Man in Jazz』
フランチェスコ・カフィーソ・デュオ・コンサート

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2017年12月9日 大阪・梅田  ナレッジシアター

Reported by Shuhei Hosokawa 細川周平
取材協力:イタリア文化会館-大阪

 

映画上映会 『Sicily Jass – The World’s First Man in Jazz』

監督:ミケーレ・チンクエ(イタリア-米国 2015)
特別出演:ミンモ・クティッキオ(俳優、演歌師)

 

 

フランチェスコ・カフィーソ・デュオ・コンサート

フランチェスコ・カフィーソ Francesco Cafiso (sax)
マウロ・スキアヴォーネ Mauro Schiavone (piano)

セットリスト:
Sicilia (F. Cafiso)
Scenario (F. Cafiso)
16 Minutes of Happiness (F. Cafiso)
Notes behind the curtain (F. Cafiso)
La Banda (F. Cafiso)
Re-creating (F. Cafiso)
See you Next Time (F. Cafiso)
La Festa (F. Cafiso)

アンコール:
Body and Soul (Johnney Green)

photos: © Istituto Italiano di Cultura di Osaka


十代初めより大きな舞台を踏み当年とって28歳、シチリア出身の話題のアルト・サックス奏者、フランチェスコ・カフィーソ(1989年生まれ)が再来日を果たした。大阪のイタリア文化会館主催のシチリア観光推進企画の一環で、シチリア出身で多方面の演奏歴を持つピアニスト、マウロ・スキアヴォーネ(1975年生まれ)とのデュオで舞台に立った。客席をざっと見渡してジャズ・ファンの他に、イタリア・ファンが多いと見た(ロビーではシチリア・ワインと伝統菓子が出された)。

カフィーソのたくましいうえに優しい最初の低音で釣り込まれた。「自分の音」を最初の一秒で響かせた。こんな突き飛ばすような一撃はめったにない。一発目で切り札のような「これ」を聴かせ、後は自在な音色とフレージングで走り切る。爽快な波に乗せられ遊ばれているような時間をすごした。それに絡むスキアヴォーネはクラシックの基礎に則った達者なプレイで、とりたてて個性を持つとは思えなかったが、カフィーソと仲が良く気の合ったやりとりが魅惑的だった(YouTubeではスタジオの余興なのか、二人がピアノ連弾でチック・コリアの「スペイン」を上機嫌で弾いている)。ちょうどイギリスにとってのアイルランド、日本にとっての沖縄のように、イタリアのなかでシチリアは特別な歴史と風土を持つ場所で、二人は同じジャズ・ミュージシャンという以上に、気持ちのうえでは同郷のよしみで結ばれているのだろう。たとえばカリプソ風のカフィーソの自作曲「フェスタ」では、エンディングの音をわざと吹かない工夫で聴衆皆の期待を外し、ずっこけの瞬間を繰り返し作って笑わせた。ジャズ慣れした観客なら、その音を声で返して埋めたかもしれない。題名のお祭り気分を醸し出すうまい仕掛けだ。実は少し前からジャズ(特にヨーロッパの)が演奏技術の過剰な錬磨に走っているように聴こえて興味を失っていたのだが、このデュオはメンバー間の対話が初めにあることを思い出させてくれた。

演奏に先立って、1917年の有名なオリジナル・ディキシーランド・ジャス・バンド(ODJB)のリーダーで、シチリア系二世としてニューオーリンズに生まれたトランペット奏者ニック・ラロッカのドキュメンタリー映画『シシリー・ジャス  Sicily Jass – The World’s First Man in Jazz』が上映され、ミケーレ・チンクエ監督と二人を交えたトークがあったのも、こうした連想を促したかもしれない。ODJBは世界で最初のジャズ録音を行ったバンドとして知られ、それにもとづき今年をジャズ百年とする催しもいろいろあった。映画はその白人バンドがその数年だけ大人気を得、「ジャズ」を音楽として用語として広めた後長く忘れられ、悪いことに戦後再結成されるもののラロッカの人種差別発言から拒否された。映画はその光よりも影を、伝記的な記録と後世の評価をシチリアとニューオーリンズを往復する巧みな映像構成で振り返り、大いに感銘を受けた。

聞くと四分の一シチリア系のチンクエ監督の父はジャズマンで、以前イタリア国営テレビのためにルイ・アームストロング物語を作ったときに初めて、サッチモが自伝でラロッカを肯定的に回想しているのを読んで、彼の伝記映画を閃いたのだという。トークのなかで面白かったのは、大量のシチリア移民が渡った20世紀初頭のニューオーリンズ(人口の1割ほど)で、元は貧困街区の素人楽隊をやっていたODJBのメンバーは、シチリア由来の音楽もやっていたはずで、そのリズムがジャズの骨となって、やがてはもっと強烈で個性的なスウィング表現になったという話(その際、行進の二拍子はダンスの四拍子になったと映画では説明されていた)。もちろん今から確証しようがないことは監督もよく知っていて、民族主義を高唱するのではない。歴史の別の見方を提供したいと願うだけだ。ただカフィーソの一曲「バンダBanda」(英語でいうband、行進楽隊)は、現在も残る故郷の楽隊の旋律に一部もとづき、あり得たかもしれない歴史を空想させた。この他にも催しの意図を汲み取り、プログラムはシチリアにちなんだ彼の自作曲で多く組まれた。これでただちにシチリアがジャズ史でクロ-ズアップされることはないにしろ、ジャズを新しい耳で聴かせる地元の知性を感じた。イタリア文化会館のご意向通りといえばそれまでだが、デュオは場を心得たショーで応えた。早熟のアルト奏者はイタリア・ジャズの金星のように持ち上げられ、既になかなかの録音のキャリアを積んでいる。しかしそれ以外でこうした足元を固める側面もあるのだと、先の展開をさらに期待させた。

アンコールでは「ボディ・アンド・ソウル」が選ばれた。これまで聴いてきたたくさんのヴァージョンが頭をよぎり、ジャズ史をおさらいしている感を得た。音色の魅力はもちろん、フレーズもたがが外れたように溢れ出て気取りがない。よく計算された部分と先が分からない部分が日めくりのように過ぎ去っていった。どこかで聴いた「あれ」と今初めて聴く「これ」が見事に組み合わさり、野外会場か小さなクラブだったら、たぶん客席から声援が飛んで20分でも続いたのではないだろうか。

『Sicily Jass – The World’s First Man in Jazz』 Trailer

 

 

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細川周平

細川周平 Shuhei Hosokawa 国際日本文化研究センター教授。専門は音楽、日系ブラジル文化。主著に『遠きにありてつくるもの』(みすず書房、2009年度読売文学賞受賞)。編著に『ニュー・ジャズ・スタディーズ-ジャズ研究の新たな領域へ』(アルテスパブリッシング)、『民謡からみた世界音楽 -うたの地脈を探る』( ミネルヴァ書房)など。

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