#1001 ケヴィン・ヘイズ&グレゴア・マレ

閲覧回数 6,185 回

Kevin Hays & Grégoire Maret
2018年2月10日 ボディ&ソウル(東京・青山) Body and Soul

text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Body & Soul ボディ&ソウル

Kevin Hays (p, vo)
Grégoire Maret (harmonica, synth)

1.  I’ll Remember April (Gene de Paul)
2. Lambres
3. Make You Feel My Love (Bob Dylan)
4. Bluesette (Toots Thielemans)
5. Take the ‘A’ Train (Billy Strayhorn) – Caravan (Juan Tizol and Duke Ellington)
6. Body and Soul (Johnny Green)
7. Bluesalinho
8. James (Pat Metheny / Kevin Hays)
9. Scrapple from the Apple (Charlie Parker)
10.Back Home
11. Hit the Dart
12. Green Glass (England old song / Kevin Hays)
13. Senhorinha (Guinga)
14. Amarelo

 


Senhorinha (Recorded on September 9, 2014 live at Smalls Jazz Club, NYC)

 

美しく再構成された音の宇宙で、ふたりの歌心に酔う

ケヴィン・ヘイズは、1968年コネチカット出身、圧倒的なピアノの表現力を持ち、2017年には自己の『New Day』トリオとスティーヴ・ガッド・バンドでも来日している。グレゴア・マレは、1975年スイス出身、トゥーツ・シールマンス亡き後、現代最高のハーミニカの名手。パット・メセニー・グループ『The Way Up』、小曽根真『Road to Chopin』とクリスマスコンサートでも記憶されるかも知れないが、2015年には自己のカルテットで来日、BIGYUKIとも共演している。

ケヴィンの最新アルバム『North』にも収録されたスタンダード<I’ll Remember April>から幕を開ける。ボブ・ディラン作曲<Make You Feel My Love>は、1997年にリリースされ、先行したビリー・ジョエルのカヴァーでも知られる名曲で、ふたりの歌心が光る。そしてジャズハーモニカの神様、2016年に亡くなったトゥーツ・シールマンスの<Bluesette>をグレゴアで聴けたのも嬉しい。なおトゥーツはHOHNERハーモニカを使っていたが、グレゴアは浜松の鈴木楽器製作所のグレゴア・マレ・モデル、金属カバー付きG-48と木製カバー付きG-48Wを使い分けている。当然、木製カバーの方が深め、暗めな音になる。差は微妙なものなので、曲目だけでなく、ハコの特性やその日の雰囲気でも使い分けていると思う。二人からボディ&ソウルの関京子ママに捧げる<Body & Soul>でファーストセットを締めた。

二人の優しい音色とともに、暖かく優しい音楽に包まれるが、実はシンプルに歌うだけではなく、面倒な音作りもしていて”アレンジ”という域を超え、原曲をケヴィンの脳内でバラバラに分解してから再構築してパラレルワールドを作っている (日本でこれが凄いのは林正樹)。しかし、複雑にするための複雑ではなく、感性に正直になったら自然にそうなっているだけで、複雑に聴こえないし、本人たちも普通に演奏して、当たり前のように音を紡いでいく。懐かしい気持ちとともに、その新しい宇宙を、二人の暖かい音色とケヴィンの優しい声、ボディ&ソウルの雰囲気とともに冒険していく幸せな時間。

この曲聞き覚えがあるんだけど何だっけ、と思ったら、サビでようやく分ったのが、『Pat Metheny Group/ Off Ramp』(ECM1216)の<James>。ケヴィンが歌詞とメロディーを付けたもの(理論的には著作権上、別曲を名乗ることもできる)。パット史上でも大人気の一曲だけに中途半端に歌詞付けてもつまらないということになりかねないが、メロディーがパットのギターをなぞっていない、ケヴィン・オリジナルのメロディーなのがみそで、パットの秀越なコード進行にケヴィンのメロディーと深く豊かな声がのり、パット・メセニー・グループ・メンバーだったグレゴアの哀愁に満ちたハーモニカがそこに懐かしさを加える。もともとパットが、”ジェームス・テイラー的な”曲として作っていて、それが36年の時を経て、ジェームス・テイラー的な、いや、それを超える歌が、ジェームス・テイラー・バンドのピアニストによって完成した。スティーヴ・ガッド・バンドへのジェームス・テイラーの賛辞に「この最高のバンドが新しいヴォーカリストを雇わないことを祈るばかりだ。」とあるが、ケヴィンはまさに最高のヴォーカリストだ。幸か不幸かガッド・バンドでは歌わないのだが。声の表現の幅、声質とも素晴らしい上に、ボディ&ソウルの距離感だから伝わる圧倒的な凄さ。(蛇足だが、パット・メセニー、マイケル・ブレッカー、クリスチャン・マクブライド、アントニオ・サンチェスのグループでの<James>も素晴らしかった。)

終盤で演奏された、多分、<Senhorinha>の頃には、もう身も心も溶けていくような、本当に素晴らしいライブだった。ファーストコールとしての地位が明確なグレゴアに比べ、ケヴィンはここまでの音楽性、独創性と演奏能力を持ちながら、日本での知名度は低いように思われる。リオネル・ルイケとのデュオを含め、これからも来日の機会に期待したい。

【関連リンク】
Kevin Hays official web site
http://kevinhays.com/

Grégoire Maret official website
http://www.gregoiremaret.com/

Kevin Hays New Day Trio ‘North’ EPK

Kevin Hays & Lionel Loueke – Hope

Grégoire Maret – “2Beats” from WANTED

BIGYUKI – “Revolution Us” feat. Gregoire Maret

鈴木楽器製作所 ツアーのお知らせ
https://www.suzuki-music.co.jp/notices/26773/

【JT関連リンク】
『Grégoire Maret / Wanted』(text by 常盤武彦)
http://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/

『Michael Blanco / Spirit Forward』 (with Kevin Hays) (text by 常盤武彦)
http://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-9603/

Jakarta International Java Jazz Festival 2015
Grégoire Maret, John Beasley, James Genus and Jeff “Tain” Watts
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report809.html

Share Button

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

↓ ロボットでないかお知らせください。 * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.