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Concerts/Live ShowsNo. 241

#1010 川島誠×齋藤徹

2018年4月9日(月) 埼玉県上尾市・バーバー富士

Report and photos by Akira Saito 齊藤聡

Makoto Kawashima 川島誠 (as)
Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b)

埼玉県上尾市のバーバー富士はその名の通り理髪店なのだが、定期的に即興演奏のライヴコンサートを開く(おそらく)世界唯一の理髪店である。初回は30年前、ルー・タバキンとデイヴ・ホランドとのデュオであったという(!)。今回が114回目、最多出演の齋藤徹とはじめての登場となる川島誠とのデュオである。

これまでの川島誠の演奏においては、自らの内奥に潜っていくようなプロセスが色濃く感じられたのだが、この日は異なっていた。まるでその瞬間に持てるものをすべて音に変えてしまおうとするかのように、ピッチを変え続け、体躯を折り曲げ、またアルトをかかえ上げ、汗を噴き出させながら、たいへんな音圧でブロウし続けた。少なからず圧倒される演奏だった。

後日川島に訊いたところ、相手の懐が深く、あんなに安心して吹いたのははじめてだと言った。気負っているように見えたのだが、むしろ逆だからこそ、ベクトルを外向きにして自分自身を放出できたということではなかったか。

齋藤徹もいつになくハードに指を動かした。音の隙間があって次の展開を模索する、といった時間の進み方ではない。川島のスピードと圧への呼応が、ピチカート中心の形になった。近年齋藤が共演するサックス奏者は、ミシェル・ドネダやかみむら泰一など大気と融合するようなスタイルを取っており、川島がかれらとはまったく異なるという意味でもまたとない刺激だったのかもしれない。しかし、セカンドセットの冒頭では暴風の中で口笛を吹いてみせるなど、気の流れを再構成してみせる動きが見事だった。そして最後には、弦を撫でて音の着地点を見出した。

共演のきっかけもこの場所だった。およそ1年前、2017年の4月10日に齋藤のコントラバスソロが行われたとき、埼玉県在住の川島が興味を持って観に来たのだった。演奏後、川島は、あのような音楽家になりたいといったようなことを呟いた。バーバー富士の松本渉氏はその縁を逃さず共演機会を設定した。そしてこの日には、川島が頻繁に演奏を行っている埼玉県越生市の山猫軒のオーナーも、ふたりの初共演を目撃するために姿を見せた。「ハコ」という呼び方ではこぼれてしまう場の力というものが、確かにあるのだ。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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