#1009 福盛進也トリオ@横濱エアジン

閲覧回数 1,255 回

福盛進也トリオ Shinya Fukumori Trio
横濱エアジン Yokohama AIREGIN 2018.4.6 19:30

text by Hideo Kanno 神野秀雄
photo by ©︎mi-no Ume

 

Shinya Fukumori Trio 福盛進也トリオ
Shinya Fukumori 福盛進也: Drums
Matthieu Bordenave: Tenor Saxophone
Walter Lang Junior: Piano

1. Silent Chaos (Shinya Fukumori 福盛進也)
2. Hoshi Meguri No Uta 星めぐりの歌 (Kenji Miyazawa 宮澤賢治)
3. The Light Suite:
Kojo No Tsuki 荒城の月 (Rentaro Taki / 滝廉太郎) / Into The Light / The Light  (Shinya Fukumori 福盛進也)
4.  No Goodbye (Walter Lang Junior)
5.  Love Song (Shinya Fukumori 福盛進也)
6.  Spectacular (Shinya Fukumori 福盛進也)
7.  Curry Rice (Kenji Endo 遠藤賢司)
8.  Ai San San 愛燦燦(Kei Ogura 小椋佳)
9.  For 2 Akis (Shinya Fukumori 福盛進也)
10. Youth (Shinya Fukumori 福盛進也)
11. When the Day is Done (Walter Lang Junior)
12. Mangetsu no Yube 満月の夕(Hiroshi Yamaguchi, Takashi Nakagawa 山口洋, 中川敬)

 

 

bottom  © Hideo Kanno

 

長い歴史をかけて培って来たハコの魅力と、ミュージシャンそれぞれの音楽のパワーが共鳴して、特別なサウンドが生まれる瞬間がある。4階まで階段を昇った先の隠れ家のような木質のハコ、満席ながらアットホームな空気の中、完全に生音で演奏された福盛進也、ウォルター・ラング(ドイツ出身)、マテュー・ボルデナーヴ(フランス出身)のトリオによる横濱エアジンライヴはまさに特別な夜となった。1984年大阪出まれで、高校からアメリカへ音楽留学しバークリー音楽大学を経て、現在ミュンヘンに居を定め、2018年2月16日にECMから『For 2 Akis』(ECM2574)をリリースしたドラマー、作編曲家の福盛進也が録音メンバーを従えて来日し、3月31日〜4月7日に国内6カ所でトリオ公演を行った。ウォルターはたびたび来日しており、横濱エアジンは馴染みのハコとなる。エアジンが横浜に居を定めたのが1972年。福盛が生まれるより前にドイツに渡り、ケルンのオーケストラでトランペットを吹いていた、うめもと實が、亡くなった義兄に代わり店を引き継いだのが1980年。約半世紀に渡り攻めのライヴ・企画を積み重ね今がある。

福盛のブラシを使った繊細なイントロから、ウォルターのピアノが加わると福盛作曲の美しく切ないメロディーが浮かび上がる<Silent Chaos>。最後にマテューのテナーサックスが加わるが、彼のサックスの音は生で近接して聴くとその特徴が分るというか、よく分らないことが分るというか。そのどこまでも柔らかい音色に包まれる気持ちよさに驚く。その秘密の一端は後ほど。

『For 2 Akis』の最大の特徴でもあるマンフレート・アイヒャーのプロデュースの下で録音した日本の歌が2曲目から登場、宮澤賢治が宇宙を描く<星めぐりの歌>。福盛は明確なタイムを打ち出すことはなく、タイムはウォルターに委ねており、マテューのフレーズの持つタイムにも寄添い、その輪郭の上にあたかも絵筆を駆使して色彩を拡げて行くようだ。福盛のこのアプローチはライヴ全般に貫かれている。もちろんタイムのコントロールを放棄しているわけではなく、作編曲者、プロデューサーとしてデザインを緻密に描き、十分にコントロールした上で、最後の演奏の段階で共演者にタイムを委ねて、福盛はそれに寄添い色彩とサウンドを拡張して行く。また、ジャズにおいてタイムとグルーヴを支配するベースがいないこともこのコンセプトを決定づけている。トリオの他の公演でも、4月8日に原宿Think of Thingsでの伊藤ゴローとのデュオ『Think of Songs』でも共通していた。4月9日に渋谷・公園通りクラシックスで行われた福盛のドラムソロでは、さすがに即興の中で音楽の輪郭を打ち出し、タイム感の構築と遷移を意識していて興味深かった(なお、石若駿Songbook Trio feat. 井上銘との共演もあった)。福盛トリオのどこまでも柔らかく、聴く者を優しく包み込むサウンド〜これはもうその場にいないと伝わらないのだが〜。ピアノもテナーサックスも強力な指向性や刺激性をもって観客に到達するのではなく、明確な指向性がなく心地よい空気の振動を共有する感覚。これを生音で(または優れたPAで)体験できたとき、福盛トリオの魅力に最も近づけて、特別な時間を共にすることができると思われる。

そんな中で福盛のオリジナル<Spectacular>や<The Light>などでは、福盛のメロディアスな作曲能力が光りながら、明確なタイム感覚を持ったドラミングとバンドサウンドが聴ける。福盛は、ドラマーとしては、『Keith Jarrett / My Song』(ECM1115)、『Ketil Bjørnstad / The Sea』(ECM1545)、Eberhard Weber Colours をはじめとして、ノルウェーのヨン・クリステンセンに強い影響を受け、その影響はあらゆる局面で聴こえるものの、特に<Spectacular>などではヨンの特徴的なシンバル・レガートの影響を含むドラミングのスタイルを聴き取ることができるし、キース・ジャレットのヨーロピアン・カルテットの名曲につながる構成を感じる。福盛の今回のドラムスは、横浜ではエアジンのセットにスネアとシンバルを持ち込んだが、他ではグレッチのセットを使用していて、小さめのバスドラムにタム1、フロアタム1というシンプルな構成(ヨンもそう)で、追加のパーカッションは一切なく、スティック、ブラシ、マレットを駆使してどこまでも色彩を拡げて行く。

後半1曲目は、遠藤賢司(1947.1.1〜2017.10.25)を悼み<カレーライス>を演奏した。福盛は遠藤の歌が好きで、強く尊敬していたといい、以前からドイツでのライヴでも演奏していた。拙文の『For 2 Akis』のレヴューでは、福盛の選んだ日本の曲と、大友良英とその周辺の選んだ日本の曲の選曲の一致に触れた。福盛がエンケンを取り上げたことでも改めて領域の近さを感じた。大友はエンケンと親交があり、ラジオ番組の対談で思考を引き出し、大友良英×遠藤賢司のセッションも行い録音が残されていることを付け加えておきたい。

小椋佳が味の素CMのためにハワイ・ノースショアのサトウキビ畑の光景にあてて書いた<愛燦燦>は後半2曲目に演奏された。<愛燦燦>は結果的に美空ひばりの代表曲となり、福盛の祖母がよく歌い、それがECMの歴史の一部になった。淡々と優しく歌い上げる3人、感動的な演奏となった。

大阪市西天満の「いんたーぷれい8」のマスター中村明利とスタッフの”あきさん”に捧げられた<For 2 Akis>。ライヴのハイライトとなる美しい響きのやりとりに涙が出るような演奏となった。山下洋輔と福盛を支えた「いんたーぷれい8」だが、「エアジン」もまた山下に横浜での演奏の場を提供し、創業者が亡くなり閉店を決意したうめもとに思い留まらせたのも山下、と東西の店がどこかつながる。

ここでマテュー・ボルデナーヴの少し特殊なテナーサックスに触れておきたい。1956年パリ製造の SML(Strasser-Marigaux-Lemaire) Saxophone Gold Medal MK1。Marigauxはオーボエで有名だ。「決して高い楽器ではないけど、1年近くかけて1本を作っていて、もう作ってないので、出会うこと自体がとても稀だと思うよ。」と言っていた。マウスピースはジョー・ロヴァーノも同社のものを使っているという、Francois Louis T350 SP、3,5mmの開きで他社の11*相当。リードはRigotto Gold Jazz 4.5。平たく言うと、物凄く大きく開いたマウスピースに、とても硬いリードをつけていて、鳴らすのもたいへん!誰にでも吹けるものではないが、コントロールできるテクニックと感性を持つ限られた名手ならとてつもない表現力を手に入れることができる。マテューのリーダーアルバムでは、本作とはまた異なる輪郭のしっかりした力強さと優しさを兼ね備えた音も聴くことができる。

ウォルターのオリジナル<No Goodbye>、<When the Day is Done>では、ロマンティックで懐かしいメロディーの中に想いが浮かび上がって来る。話しているときの暖かい人柄と同じ空気感がある。なお、自身のリーダーアルバムでも宮澤賢治の歌を取り上げていて、岩手への想いもあるかも知れない。

アンコールは、ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬とヒートウェイヴの山口洋の共作による「満月の夕」(まんげつのゆうべ)。1995年1 月17日の阪神・淡路大震災。大きな余震を恐れながら夜を迎えた被災者たち、寒空に満月が上がっていた。そして中川が何度も行った慰問ライヴの体験を得て、中川・山口が書き上げた魂の曲。当時、10歳の福盛にとって震災は衝撃の体験であり想いは深い。この曲はその後たくさんのミュージシャンにカヴァーされ歌い継がれている。(横浜の港近くにいて、焼け跡に港から吹く風のイメージは、1923 年9月1日の関東大震災にも勝手に想いが及ぶ。)マテューが歌い出し、ウォルターがそれに応えて歌い出し、福盛が歩き出す。それぞれの個が立つ構成の中に、共に歩いていく音楽に勇気づけられ、ポジティヴな優しさを受け取りながらライヴが静かに幕を閉じる。

アルバムの一部を聴いて『For 2 Akis』の評価を決めかねている既存のジャズファンを見受ける一方、ライヴを体験した人は感動していたように見えたし、東京での最終公演では既存のジャズファンとは少し違う若い客層が入っていたようにも見えた。音楽の内容は違うが、日本では無名だった上原ひろみに注目し支持したのもジャズファン以外の幅広い層だった。アルバム以上にライヴで聴くトリオの音は素晴らしく、その音響に包まれる感覚は特別過ぎるものであり、CDレヴューも含めて理屈や余談をこねまくった後に身も蓋も無く言えば、「理屈抜きに福盛進也トリオの音が好き」ということを認識した。そして、またライヴでその音響に包まれる瞬間を心から楽しみにしている。ぜひ、福盛進也トリオはライヴで体験して欲しい。

ECMからのリリースという夢を現実し到達点に立った福盛だが、実は出発点に立ったと思う。ドラマーである以上にプロデューサー、作編曲家としての活動を望み、また期待される福盛だけに第二作が楽しみだが、サウンドプロデュースでも加わった『NILO / 3』のレコ発ツアーで7月に来日を予定していて、美しく膨かな声質を持ち、個性的な活動を続けて来たドイツ在住ヴォーカル&ギターのNILOと福盛と仲間たちが生み出すサウンドも楽しみにしたい。

Shinya Fukumori Trio Live at Unterfahrt on December 15, 2015

 

【関連リンク】

福盛進也 公式ウェブサイト
http://www.shinyafukumori.com/

Walter Lang official website
http://www.walterlang.de/

Matthieu Bordenave official website
https://www.matthieu-bordenave.com/

Shinya Fukumori – ECM Records Website
https://www.ecmrecords.com/catalogue/1511878813/for-2-akis-shinya-fukumori-trio

福盛進也 – ユニバーサルジャズ
https://www.universal-music.co.jp/shinya-fukumori-trio/products/ucce-1171/

Shinya Fukumori Trio “For 2 Akis” Japan Tour 2018
http://www.songxjazz.com/news/2018/01/294.html

4/8 THINK OF SONGS #1 『伊藤ゴロー + 福盛進也 コンサート』
http://think-of-things.com/news/2018/03/think-of-songs-1.html

4/9 渋谷・公園通りクラシックス 福盛進也 drum solo × 石若駿 Songbook trio feat.井上銘
http://u0u0.net/JMOC

<愛燦燦> 味の素CM (1987)
https://www.youtube.com/watch?v=gytOrdQ4Nnk

『大友良英の音楽とコトバ』 ゲスト:遠藤賢司 (2015.5.6 10:00-NHKラジオ第一)
“エンケンの選んだ沢山の本と曲メニュー”
http://www.nhk.or.jp/radiosp/ootomomeetyou/201505.html

NILOオフィシャルサイト
http://www.officenilo.com/

横濱エアジン
http://yokohama-airegin.com/

 

【JT関連リンク】

『Shinya Fukumori Trio / For 2 Akis』(ECM2574)
Text by 神野秀雄 http://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-26207/
Text by多田雅則 http://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-24882/
Text by金野Onnyk吉晃 http://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-26468/

及川公生の聴きどころチェック http://jazztokyo.org/reviews/kimio-oikawa-reviews/post-25376/

『NILO / 3』  http://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-27130/

Share Button

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

↓ ロボットでないかお知らせください。 * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.