#1042 トリフォニーホール・グレイト・ピアニスト・シリーズ2018『マルティン・シュタットフェルト ピアノ・リサイタル』

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2018年11月25日(日)@東京・すみだトリフォニーホール

Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代
Photos by Koichi Miura 三浦興一

<プログラム>
ヨハン・セバスティアン・バッハ:『ゴルトベルク変奏曲』の最初の8つの低音主題による14のカノンBWV1087より3つのカノン
1.カノン12(2重カノン)
2.カノン13(6声の3重カノン)
3.カノン14(拡大と縮小による4声のカノン)

マルティン・シュタットフェルト:『バッハへのオマージュ~ピアノのための12の小品』*日本初演
1.前奏曲ハ調/2. コラール変ニ調/3. B-A-C-Hの主題によるカノン風変奏曲ニ調/4.2つの主題によるコラール前奏曲とカノン変ホ調/5.メヌエットホ調/6.パストレッラ/7. エコー嬰へ調/8.シチリアーノト調/9.前奏曲とフーガ変イ調/10.リチェルカーレイ調/11.フーガ変ロ調/12.コラールロ調

フレデリック・ショパン:24の練習曲集0p.10/25(シュタットフェルトによるインプロヴィゼーション挿む)

*アンコール
J.S.バッハ(シュタットフェルト編):シャコンヌ(ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV1004より)


2002年の第13回国際J.S.バッハ・コンクールにおいて、東西統一後初のドイツ人優勝者となって以降、バッハをライフワークとしながらも独創的な活動を行ってきたシュタットフェルトは、今や現代ドイツのピアノ界において押しも押されぬスターであり、あらゆる次元で「固定観念を覆す」存在だ。重厚で構築性に秀で沈思的、が伝統であるはずのドイツ・ピアニズムにおいて、その幾分華奢ながらも華麗で多彩な音色。ダイナミックな演奏スタイルとも関連するが、クラシック音楽家の枠を良い意味で逸脱する、みごとな即興・作編曲能力。そして、非難を恐れず大作曲家の作品に新たな光を当てようとする大胆不敵な解釈。たしかに、新しい解釈に照準をあわせ、作品の時代性が目まぐるしく引き上げられたり引き下げられたりする彼のスタイルは、賛否両論を生むかもしれない。「正統派」の基準をどこに合わせるか。譜面上の表記に忠実であるか、長井進之助氏のプログラム・ノートにあるように「作曲家の人間性」に寄りそうか。とりわけ、10のインプロヴィゼーションを埋め込んだ、『24の前奏曲』では、「別れの曲」「黒鍵」「革命」といった知名度の高い曲のことごとくが、通常よりも相当な速さで、音量も控えめ、アゴーギクの幅も端折(はしょ)られクールに進んでゆく。難曲のop.25-6やop.25-8も易々と過ぎ去る。個々の楽曲の個性よりは、一陣の疾走感を保ったまま、多彩なタッチと色彩感で場が塗り替えられてゆく感覚。曲の狭間、ひいては自作のインプロヴィゼーションとの境目はぼやけ、混然一体となった小宇宙が形成されてゆく。強烈なビートを刻む左手の舵取りはセンス抜群。プログラム前半に遡るが、バッハのカノンから自作の『バッハへのオマージュ』へは切れ目なく突入。主題の浮沈の表出の在り方、音楽の立体性には混じりけのない清冽さが漂う。バッハのラディカルさを現代につなぐ示唆に富んでいる。横のラインを強調しない、ヴァ―ティカルな打鍵はピアノのパーカッシヴな側面を引き出し、その玉(ぎょく)のような魅力は速度が増すほど、弱音になるほどに発揮される。循環的なグルーヴを強調するリフの効果的な蛇行、慎み深い感情の発露にはミニマリズムへの近似値が。アンコールの「シャコンヌ」は、未知の美しさでその場を圧倒した。今後、そのスタイルがどのような変遷を遂げてゆくのか。ドイツ・ピアニズムの行方とともに期待したい。(*文中敬称略。伏谷佳代)



<関連リンク>

https://www.martinstadtfeld.de/
https://www.triphony.com/

伏谷佳代

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。幼少時よりクラシック音楽に親しみ、欧州滞在時 (ポルトガル・ドイツ・イタリア) に各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評、演奏会プログラムの執筆、翻訳などを手がける。

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