#1043 トリフォニーホール・グレイト・ピアニスト・シリーズ2018『エリソ・ヴィルサラーゼ ピアノ・リサイタル』

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2018年11月27日(火)@東京・すみだトリフォニーホール

Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代
Photos by Koichi Miura 三浦興一

<出演>
エリソ・ヴィルサラーゼ(Eliso Virsaladze):ピアノ

<プログラム>
ロベルト・シューマン:6つの間奏曲op.4
ダヴィッド同盟舞曲集op.6

フレデリック・ショパン:バラード第2番へ長調op.38
ワルツ第3番イ短調op.34-2「華麗なる円舞曲」
ノクターンへ長調op.15-1
ワルツ第4番へ長調op.34-3「華麗なる円舞曲」
ワルツ第9番変イ長調op.69-1「告別」
ワルツ第8番変イ長調op.64-3
ワルツ第7番嬰ハ短調op.64-2
ノクターン第7番嬰ハ短調op.27-1
ノクターン第8番変ニ長調op.27-2
バラード第3番変イ長調op.47
ワルツ第2番変イ長調op.34-1「華麗なる円舞曲」


前半後半ともヴォリュームたっぷりのプログラムである。とはいっても昨年は3つのピアノコンチェルトを一晩で演奏した猛者・ヴィルサラーゼである。聴衆へのサーヴィス精神も含め、彼女にとっては自らの体力と相談し考え抜いたプログラミングなのだろう。2015年の公演の際、『謝肉祭』に感銘を受けたものだが、今回は前半すべてがシューマン。『6つの間奏曲』と『ダヴィッド同盟舞曲集』という初期の傑作がならぶ。弾き始めるや否や、その磨き抜かれた音色が閃光のように走る。指先と鍵盤との距離は最短であり、音が生成されるまでの速度は最速だ。ネイガウス門下、ロシア・ピアニズムの黄金時代を今に継承するヴィルサラーゼの奏法は合理性に貫かれている。どっしりと体幹を構え、身体の動きは最小である。シューマン独特の各声部の肉厚なうごめきは、これ見よがしの物語性とは無縁に、自然にその魅力を開示。多声部の重なりは、それぞれが独自のフィーリングと歌をもち、溶け合い、ぽっかりと虚空に浮くような別次元を現出させる。『ダヴィッド同盟舞曲集』ではとりわけテンポの緩やかな楽曲において、神秘的な響きの世界に泥濘(ぬかるみ)のように捉われる。休憩後はバラードとワルツ、ノクターンを組み合わせたオール・ショパン・プログラム。あたかもひとつの大曲のように、バラード第3番まで弾き進めてゆく。テンポの揺らぎや調性推移、さまざまに浮かび上がる抒情に、ヴィルサラーゼの思慮深い音楽性が投影される。シンプルに単旋律を歌いあげるノクターンやワルツでは、その照りのある音色はあまりに瑞々しく、彼女の芸術家人生の結晶のようである。一旦舞台裏に引き上げたのちに再登場して弾いた終曲のワルツop.34-1。水を差し替え息を吹き返した大輪の花のような躍動感。聴衆の心はリセットされ、ユーフォリィで満たされる。あたかもアンコールのように終曲を演出するところも乙である。ロシア・ピアニズムの真髄を見せつけた一夜。(*文中敬称略。伏谷佳代)



<関連リンク>

http://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-7815/
http://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-22490/

http://jazztokyo.org/monthly-editorial/monthly-editorial-yuh/vol-68-%EF%BD%9C-%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%81%82%E3%82%8B%E8%A8%98%E3%80%80xiv/

https://en.wikipedia.org/wiki/Eliso_Virsaladze
https://www.triphony.com/

伏谷佳代

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。幼少時よりクラシック音楽に親しみ、欧州滞在時 (ポルトガル・ドイツ・イタリア) に各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評、演奏会プログラムの執筆、翻訳などを手がける。

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