#1053 Trio Celeste & Sayaca with グスタボ・エイリス

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2018年12月15日(土) @雑司ヶ谷エル・チョクロ
Reported by Hideaki Kondo 近藤秀秋
Photo by Shusaku Ito 伊藤修作

青木菜穂子 (piano)
北村聡 (bandoneon)
田中伸司 (contrabass)
Sayaca (vocal)
Guest: グスタボ・エイリス (guitar, vocal)


2016年にファースト・アルバムを発表したトリオ・セレステは、コントラバス奏者の田中伸司の声掛けによって結成されたタンゴ・トリオである。いまや東京のタンゴの聖地になった感のある雑司ヶ谷エル・チョクロで行われたこのトリオのライブは、ファースト・アルバムと同様にヴォーカリストのSayaca を迎えて行われた。何曲かでは、ゲストとして来日していたアルゼンチン出身のギタリストであるグスタボ・エイリスが加わった。

国立音大でクラシックを学び、また志賀清、小松亮太、喜多直毅といった日本タンゴ界をけん引してきたプレイヤーたちのグループに参加してきた田中のベースの安定感が、このタンゴ・トリオの牽引力と感じた。フォービート・ジャズもそうだが、リズムや音色やアタックの質感などに関する専門分野の演奏は、門外漢と専門家のそれではまったく異なる。タンゴ独特の「ノリ」を言葉で説明するのは難しいが、それを体現するすばらしい日本人演奏家のひとりであり、そしてそのバスの存在感が、バンドのアンサンブル全体を統括する力だったと言っても、決して言い過ぎではないだろう。

そこに、ふたりのタレントが加わる。いまやタンゴに限らず、あらゆるジャンルからバンドネオン奏者として引く手数多の存在となった北村聡のプロフェッショナルな演奏に、今さら私が申し添える事は何もない。

そして、タンゴの胆のひとつであるアレンジを殆どひとりで手掛けたピアノの青木菜穂子も、いまや日本タンゴ界を支える重要な柱のひとつとなっている。この日、私が特に素晴らしいと感じた曲は、マリアーノ・モレス作曲「Uno」と、青木の新曲「el faro」だったが、どちらもプレイヤー/作曲家アレンジャーという複数の顔を持つ青木の存在なくしては、とうてい成立できなかったものと思う。

白眉であったのは、ヴォーカリストのSayaca のパフォーマンスだった。このトリオのデビューCD『Trio Celeste & Sayaca』でもっとも耳を奪われたのもSayaca の歌だったが、タンゴが持っている「ノラズ」のレチタティーヴォを、ほとんど自分の感情そのもののように歌った彼女のヴォーカルは、この日も見事で、これが田中の「ノリ」と見事な対比となっていた。

古典タンゴ、モダンタンゴ、そしてオリジナルと、バランスの良いプログラム。50年を越える歴史を持つ日本のタンゴの演奏は、ミロンガでの演奏を除くと、これから暫くは文化吸収、エンターテインメント、汎音楽的進化あたりの軸を併存させて進んでいくのだろうが、古典からモダンまでを幅広く扱うタンゴを聴きたければ、トリオ・セレステは間違いなく推薦できる日本有数のタンゴ・バンドのひとつと感じる。

近藤秀秋

近藤秀秋

近藤秀秋 Hideaki Kondo 作曲、ギター/琵琶演奏。越境的なコンテンポラリー作品を中心に手掛ける。他にプロデューサー/ディレクター、録音エンジニア、執筆活動。アーティストとしては自己名義録音 『アジール』(PSF Records)のほか、リーダープロジェクトExperimental improvisers' association of Japan『avant- garde』などを発表。執筆活動としては、音楽誌などへの原稿提供ほか、書籍『音楽の原理』(アルテスパブリッシング)執筆など。

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