#892 パット・メセニー with アントニオ・サンチェス、リンダ・オー&グウィリム・シムコック

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Pat Metheny with Antonio Sanchez, Linda Oh & Gwilym Simcock
パット・メセニー with アントニオ・サンチェス、リンダ・オー&グウィリム・シムコック

2016.5.24 21:00 Blue Note Tokyo

Text by Hideo Kanno 神野 秀雄
Photo by Takuo Sato 佐藤 拓央

Pat Metheny (Electric Guitar, Acoustic Guitar, Guitar Synthesizer, Pikasso Guitar)
Antonio Sanchez (Drums)
Linda Oh (Bass)
Gwilym Simcock (Piano, Keyboard)


ライル・メイズ、スティーヴ・ロドビー、アントニオ・サンチェスによる公演を2009年ブルーノート東京・名古屋で行ったのを最後にパット・メセニー・グループ (PMG)、そしてライルとの共同作業は長い休みに入った。オーケストリオンを平行しつつ、2013 年クリス・ポッター、ベン・ウィリアムスを擁するユニティ・バンド、2014年さらにジュリオ・カルマッシを加えたユニティ・グループで来日。その間にブルーノート・ジャズ・フェスティバルで、エリック・ミヤシロ率いるブルーノート東京・オールスター・ジャズ・オーケストラと共演したのが2015年9月、という時系列で今回のツアーに至る。

今回も中核にはメキシコ出身のドラマー、アントニオ・サンチェスが居る。今パットが最も重用し、映画『バードマン』に即興でつけたサウンドトラックでグラミー賞を受賞したのも記憶に新しい。ピアニストはパットが10年前に見出しずっと共演したかったというイギリスのグウィリム・シムコック。その二人と共演できるベーシストとしてパットがニューヨークで探し出したという、中国系の血を引きマレーシア出身でオーストラリア育ちのリンダ・オー。と顔ぶれは実にインターナショナル。日本公演がワールドプレミアで、その音は全く未知数だった。

ブルーノート東京最終日第二部、パットが一人ステージに登場し、<Pikasso Guitar Solo>から始まる。42弦のうち6弦と12弦をメインにメロディとベースラインを同時に奏で、ハープやシタールのような音遣いや共鳴を織り交ぜながらオンリーワンの音世界で会場を包む。そのまま次曲のイントロへ、やがて3人が登場し、パットもフルアコースティックギターに持ち替え、”バンド”の世界観へとがらりと切り替る。『Still Life (Talking)』 (Geffen, 1987) に収録された、パウル・クレーの印象から書かれた<So May It Secretly Begin>。パットの哀愁を帯びたメロディにリンダのベースラインとアントニオのシンバルワークが光り、早くも新バンドの魅力が溢れ出る。

続いて『Bright Size Life』 (ECM1073, 1975) から<Bright Size Life>、<Unity Village>へと続く。翌25日の新宿文化センターでは同じく<Sirabhorn>、<Unquity Road>を演奏しており、40年前、ジャコ・パストリアス、ボブ・モーゼスとのトリオで録音した初リーダー作からセット冒頭で新メンバーと演奏することに意味があるようだ。トリオのインタープレイを前提に書かれた名曲ぞろいで、パット、リンダ、アントニオが有機的に絡み、グウィリムは一歩引いた感じだ。リンダは、チャーリー・ヘイデンに通じる派手ではない穏やかな印象も受けるが、大音量でもなく音質が太い訳でもないのに、不思議によく伝わる音に驚かされ、歌心のあるベースラインとソロに魅了される。何よりもレスポンスがよく、パットが共演したいと思った気持ちがわかる。また<Bright Size Life>はジャコやリチャード・ボナが弾いているだけに比較される怖さはあるが、リンダは十分力を発揮していた。リンダのリーダー作から<Blue over Gold>の動画もご覧いただきたい。

<What Do You Want?>はオーネット・コールマン的なメロディラインのテーマで、循環コード進行、『Trio 99→00』 (Warner Bros., 2000) に収められ、マイケル・ブレッカーとの名演もある。パットとキース・ジャレットにとっては、ハーモロディックな音楽を共有できるバンドは大切で、このバンドの底力を見せる。

先日亡くなったナナ・ヴァスコンセロスも参加していたライブ盤『Travels』 (ECM1252/53, 1982) から<Travels>。そして<Say the Brother’s Name>へ。同じくナナが参加した『Offramp』 (ECM1216, 1981) から<James>、しかし原曲の爽やかで穏やかな表情から変わって、アントニオとの熱い駆け引きの素材となり全く違う曲に化けた。再び『Travels』から<Farmer’s Trust>、先の<Travels>とともにパットのアコースティックな歌を3人が巧みに拡張し、原曲よりもずっと深い音楽となって、アメリカの大地と空を感じさせる美しいサウンドが広がっていった。

その後、新曲がおそらく2曲演奏され、この中ではグウィリムのピアノイントロが素晴らしかった。セット全般に元気なギタートリオ組に比べ、グウィリムのピアノ&キーボードは控えめな印象が強く、パットが活用していないようにも思えたが、それでも、随所に美しいアクセントやハーモニー、絶妙なフレーズを添えて来る。ライル・メイズをもう少しエモーショナルにした印象があるが、もうひとつ何か懐かしい音がすると思ったら、師匠がECMを代表するピアニストの一人であった故ジョン・テイラーだと言われ納得する。ジョンも目立つタイプではないが、サポートで数々の名演を生み出してきた。グウィリムもパットにそんな役割を提供して行くと思う。他方、パットによればブラッド・メルドーとの共通点を感じるという。グウィリム、スティーヴ・ロドビーらがジョン・テイラーに捧げた曲<A Simple Goodbye>の動画があるので、ぜひご覧いただきたい。

セット終盤は意外にもデュオシリーズに。リンダとは、トム・ジョビンのボサノバ<How Insensitive>を、パットはリンダのわずか1mほどの距離に終始寄り添いタイトルと裏腹に親密なやりとり。驚くべきことに初期PMGの看板曲<Phase Dance>をグウィリムのピアノとのデュオで。ぜひ4人での音を聴いてみたいところでもあるけれど、シンプルな構成の中でグウィリムのピアノとパットの鮮やかな絡み合いがすばらしい。そしてアントニオとは『Question & Answer』(Geffen, 1989)から<Question & Answer>。ギターシンセも交えながら、アントニオのドラムが熱く燃えながらさまざまな表情を魅せた。なおアントニオのセッティングは、低めのシンバル群に、スネアドラムが3台あることが目を引き、セット全体に渡って繊細でダイナミックなドラミングがバンドを支えていた。そしてスタンディングオベーション。

4人が揃ってステージに戻り笑顔で挨拶するが、アンコールは4人の演奏に戻ることはなく、パットが一人ステージに戻ってアコーステックギターソロを。やがて<Last Train Home>の輪郭が浮かび上がって来る。『Still Life (Talking)』でのPMG版と異なり、静かに穏やかに、リハーモナイズされたコードとメロディが絡み合い美しくクラブ内に響き渡る。”ギターソロ”を超越するもので深い感動を覚えた。観客の多くも満足した笑顔で家路についていた。

なお、翌25日は新宿文化センター(1,802人)でのホールライブがあり、上記のプログラムと似た流れに加えて、前半に『Letter from Home』 (Geffen, 1989)から<Have You Heard?>が入り、<Question & Answer>と<Last Train Home>の間を、4人による<Minuano>で締め括り、アンコールで<Are You Going with Me?>が挟まっていた。こちらはざっと2時間ほど。熱心なファンの中には2時間半以上の演奏を期待してホール公演を選んだ向きも多かったと思うが、ブルーノート東京公演第二部がちょっと伸びたくらいの印象で、現時点での演奏内容から言えば、同じチャージなら、クラブ公演の方が濃密でアットホームで楽しめた気がする。でも半年後には大会場でこそ圧倒的な存在感を魅せるバンドに成長している可能性は高い。

曲目だけを見ると、1975年の初リーダーアルバム『Bright Size Life』に始まり1990年頃までの懐かしい名曲が揃う。ファンがそれぞれいちばん好きな時代に入り込めて嬉しい反面、若手精鋭を集めた新バンドが、懐メロ大会では違和感は拭えない、と言いたいところだ。「Marunouchi Muzik Magazine」に掲載された「EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAT METHENY!!」から引用させていただくと、「コンセプトはシンプルだよ。尋常じゃないミュージシャンのグループを集めて、彼らのために音楽を書く。ただし付け加えると、僕のキャリアのあらゆる場面の楽曲もプレイしてもらうってこと。彼らが素晴らしいライブバンドにもなると確信しているからね。なぜならメンバー全員が偉大なプレイヤーだからさ。やっていく内にバンドのアイデンティティーが現れて来ることも期待しているよ。そうなるように僕も余白を残しているんだ。」

また、メンバー選定に当たって、3人の音楽を創る過程でのコミュニケーション能力が高いことも重要だったらしい。3人とも音楽とサウンド全体を俯瞰できる能力と経験を持っている。パットのとあるリハーサルを垣間見る機会があったが、音楽のダイナミクスをはじめとするディテールのアイデアを論理的に伝え、時間を全く惜しまず妥協せず徹底する。他方、相手のフィードバックやアイデアも真摯に受け止める。音楽の構築中も演奏中もダイレクトに双方向にやりとりができる能力はパットにとっての価値はあまりにも大きいことがわかる。

ユニティ・バンド&グループで、パットのサウンドコントロールの下でステージとの間に「見えない壁」を感じてしまったのに比べて、新バンドはダイレクトでインタラクティブなエネルギーをしっかり受け止めることができ、新バンドの魅力全開とまでは至らなかったにしても、高いポテンシャルを感じさせた。2016年秋、そして2017年までヨーロッパとアメリカで連日膨大な回数のコンサートを行う中で、進化して行くこのバンドのサウンドと興奮を楽しみにしたい。

【追記】
2016年9月、パット・メセニー&クリスチャン・マクブライドのデュエットで来日することが決まった。
9月3日 東京JAZZ
http://www.tokyo-jazz.com/jp/program/program_hall0903n.html
9月4日〜5日ブルーノート
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/pat-metheny

【関連リンク】
ブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパン 2015
http://bluenotejazzfestival.jp
Blue Note Jazz Festival 2015 (New York)
http://bluenotejazzfestival.com
Pat Metheny official website
http://www.patmetheny.com
Gwilym Simcock official website
http://www.gwilymsimcock.com
Linda Oh official website
http://lindaohmusic.com
Antonio Sanchez official website
http://www.antoniosanchez.net
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAT METHENY!! (Marunouchi Musik Magazine)
http://sin23ou.heavy.jp/?p=6647
公演直前、パット・メセニーが公演について、またメンバーの魅力を語る
http://www.bluenote.co.jp/jp/news/features/7383/
“A Simple Goodbye” for John Taylor – The Impossible Gentlemen – Sligo Jazz
https://youtu.be/vanDj5n6Y68
Linda Oh / Blue over Gold
https://youtu.be/BWNE3eWBRA4

【Jazz Tokyo 関連リンク】
Pat Metheny Unity Band at Blue Note Tokyo (2013)
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report537.html
『Pat Metheny Unity Group / Kin (←→)』
http://www.archive.jazztokyo.org/five/five1078.html
Blue Note Jazz Festival in Japan 2015
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report851.html
75 Jahre Eberhard Weber: The Great Jubilee Concert
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report782.html
『Hommage à Eberhard Weber with Pat Metheny, Jan Garbarek, Gary Burton, Scott Colley, Danny Gottlieb, Paul McCandless and the SWR Big Band』(ECM2463)
http://www.archive.jazztokyo.org/five/five1250.html
Pat Metheny at Detroit Jazz Festival 2015
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report847.html
追悼 ジョン・テイラー R.I.P.: John Taylor (1942-2015)
http://www.archive.jazztokyo.org/rip/taylor/taylor.html

 

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神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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