#902 第三届明天音乐节 3rd Tomorrow Festival~ 灰野敬二、ファウスト他

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2016年5月14日(土)・15日(日)

中国 深セン B10 Live

Reported by 剛田 武 Takeshi Goda
Photos by 剛田 武 Takeshi Goda, Bullet (*1), Ye (*2), One Trotter Studio (*3)
Special thanks to P.G. Lee

TOMORROW FESTIVAL (明天音乐节)とは、2014年から中国深センのOCT-LOFT「B10 Live」で毎年5月に開催されているノン・メインストリームの音楽フェスティバルである。エクスペリメンタル、ロック、アヴァンギャルド、フリージャズ、ワールドミュージックといった様々なスタイルの音楽をカバーし、芸術的な視点と創造性を最も重視している。Tomorrow(明日/中国語:明天)とは、精神的な方向性のことであり、新たなもの・新たな可能性への探究心に基づいたものである。

第3回TOMORROW FESTIVALはFeldermelder, OvO, Phew, Mamer, Zhang Dong, Li Jianhong, Pandit Narendra Mishra, Kushal Krishna, Wood Pushing Melon, faUSt, Keiji Haino, Brian Turner, Julien Perrin and Oliver Ackermannといった素晴らしいアーティストが出演する。

(以上、公式サイトより抜粋翻訳)

香港から車で1時間の深セン(シンセン Shanzhen)は北京、上海、広州に続く中国第4の都市。古くからの港街で、中国で最初に海外に開放された都市だという(日本でいえば長崎か)。海外の文化が早くから取り入れられ、現在中国に於ける新しい文化の発信地となっている。この街で開催され3年目になるエクストリームな音楽フェスが<TOMORROW FESTIVAL>である。

主催者は著名な画家のテン・フェイ (Teng Fei) と、ラジオDJのトゥ・フェイ (Tu Fei) の二人のフェイ。彼らは深センでライヴハウス「B10 Live」やCD&ブックショップ兼カフェ「Old Heaven Books」を経営する一方で、深センや香港、上海をはじめ中国各地で音楽フェスやコンサートを企画している。深センでは2011年から毎年10月に約 20日間のジャズフェス<THE OCT-LOFT JAZZ FESTIVAL>を開催。二人のフェイが、毎年ヨーロッパ各地のジャズフェスや音楽見本市を訪れ、自らの目で観て出演ミュージシャンを選ぶという。ライ ンナップはいわゆるメインストリーム・ジャズではなく、中国・アジアと、ロシアを含むヨーロッパの先鋭的ジャズ・アーティストが中心。主催者が「観せたい」 「紹介したい」と思うアーティストだけをブッキングし続けて5年経った現在は、ヨーロッパでも知られる名物フェスになった。日本からは2015年にペーター・ ブロッツマン・トリオのドラマーとして豊住芳三郎が、イタリアのミュージシャンとのデュオで秋山徹次が出演している。

その姿勢をより幅広い音楽に拡大したのが2014年にスタートした<TOMORROW FESTIVAL>。これまでの出演者を見ると吉田達也、エリオット・シャープなど数組以外は名前も聞いたことのないアーティストばかり。中国はもちろん、フランス、ドイツ、アメリカ、チェコ、リトアニア、ロシアなど様々な国の先鋭的ミュージシャンが並んでいる。中国ではオルタナティヴな音楽のファンは少なくないが、情報が限られており、実際にコンサートを見る機会が少ないので、いわば飢餓状態にあるという。決して多数派ではないそういうファンが、中国各地から集まる<TOMORROW FESTIVAL>は、深センの中心部の住宅商業地域を再開発したOCT-LOFTと呼ばれるファッショナブルなエリア(東京でいえば代官山と原宿を合わせたような雰囲気)で開催されている。メイン会場は工場跡のビル1Fの煉瓦張りのライヴハウスB10 Live、カフェOld Heaven Bookstoreでもシンポジウムやレクチャーが企画されている。観客の多くは20~30代の若者で、半数以上が深セン以外の中国各地から泊りがけで集まってくるという。

2016年5月14日(土) 20:00 – 21:30

●faUSt

faUSt:
Jean Hervé Péron (vo, b, tp, perc)
Maxime Manac’h (hardy gurdy, key, g, perc)
Werner “Zappi” Diermaier (ds, perc)
Guest: Keiji Haino (vo, g, perc)

70年代ドイツのクラウトロックを代表するロックバンド、ファウスト(オリジナル・メンバー、ジャン・エルヴェ・ペロンとヴェルナー・ザッピ・ディーマイヤーに、2010年に加入したマキシム・マナック)にゲストとして灰野敬二が参加する特別編成のライヴ。会場には早くから開場を待つ観客の長い列ができる。ほとんどが2~30代の若者。男女半々くらい。

『Knitting Ladies/Blanket』と題されたコンサートは、ステージ下手にセットされたソファーで3人の女性(Knitting Ladies)が編み物をする中で、ステーリー性のある組曲が即興風に展開される演奏。メンバーが客席に降りて、プロジェクターの図形楽譜を一緒に歌う参加型パフォーマンスや、ジャンがフランス語、灰野が日本語でダダの詩を歌うナンバー、コンクリートミキサーやガスボンベをパーカッションとして演奏するノイズ演奏を交え、不条理な中に人類の未来を占うメッセージが籠めた110分に亘るスター時。世界有数のエキセントリックバンド、ファウストの本領発揮だった。

驚いたのは観客の熱狂ぶり。メンバーが登場しただけで大歓声があがり、演奏の節々でどよめいたり爆笑したり泣き叫んだり、前衛/実験音楽というよりロック/ポップスのコンサートに近いリアクション。好きな音楽・好きなミュージシャンを生で体験する歓びが会場全体にあふれていた。終演後のサイン会には長蛇の列が出来、ファンとメンバーが楽しそうに交歓していた。

2016年5月15日(日)

20:00 – 21:00  灰野敬二 Keiji Haino
21:20 – 22:20  明天即兴 Tomorrow Improvisation Unit

夕方突然のスコールに襲われた日曜日の夜は、灰野敬二のソロ演奏と、米仏独日中の出演者によるジャムセッションが行われた。出演アーティストのCDに加えて、フェスティバルの公式Tシャツやポスター/パンフレット、関連書籍やデザイングッズが並ぶ会場ロビーは、前日同様に若いファンが多く、賑やかな活気に満ちている。

●灰野敬二 Keiji Haino

Keiji Haino (vo, g, electronics, perc)

灰野敬二は昨年12月に広州の美術館でパーカッションソロライヴを行ったが、エレクトリックのソロ公演は中国本土では初めて。満場の観客の期待感と緊張感の中、深いリバーヴに包まれたヴォーカルに始まり、エレクリックギター、エアシンセ、発振器、ドラムマシーンなど様々な機材を駆使して展開される灰野ワールドに、最初は歓声を挙げていた観客も徐々に静まり息を詰めて聴き入っている。スプリングコイルとヴォイスパフォーマンスの爆音に続き、慈しむような静謐なギターフレーズで幕を閉じる。ため息をつく間が数秒あって、突如わき上がる拍手。前夜のファウストのロックコンサート風の歓声とは明らかに異なる反応は、表現の世界観の違いが中国のオーディエンスに確かに伝わったことの証であった。

●明天即兴 Tomorrow Improvisation Unit

Jean Hervé Péron (b,vo)
Werner “Zappi” Diermaier (ds)
Maxime Manac’h (key, Hardy-gurdy, electronics)
Oliver Ackermann (g)
Keiji Haino (g, vo, electronics)
Mamer (b)
Zhang Dong (perc)
Li Jianhong (g)

フェスの最後を飾るのは、ファウストの3人、エフェクターに関するレクチャーの講師として参加していた米国人オリヴァー・アッカーマン、中国の実験演奏家、马木尔(マーマー),张东(ツァン・ドン),李剑鸿(リ・ジョンフン)、そして灰野の総勢8名による即興セッション。灰野が指揮者としてメンバーに指示を出し繰り広げられる演奏は、集団即興にありがちなカオスではなく、場面ごとに表情が変化し、先を予測できない意外性に満ちた創造的音楽劇となった。初めて観る中国のミュージシャンの独特の演奏スタイルが興味深かった。世界各地のエクストリームな音楽が交歓する中国シーンの

明日への希望に満ちた<TOMORROW FESTIVAL>に相応しいフィナーレだった。

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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