#561 JAZZ ART せんがわ 2013 ~ 野生に還る音 親密な関係 生きる芸術 ~

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日程:2013年7月19日(金)~7月21日(日)
会場:調布市せんがわ劇場ほか
総合プロデューサー:巻上公一 プロデューサー:坂本弘道 藤原清登
text & photos by 剛田 武(Takeshi Goda)
<主なプログラム>

《7/19(金)》
16:00→
アートパレード(せんがわ劇場出発)

18:00→
オープニングセレモニー(18:30→恥骨)

19:00→19:40
「タンデム音声詩」
金澤一志(コンパイラ)+ことぶき光(アーキテクト)with 藤原清登(コントラバスソロ)

20:20→21:00
秘宝感+ゲスト 沖至(tp)
[斉藤良(ds) スガダイロー(pf) 纐纈雅代(as) 佐藤えりか(b) 石井千鶴(鼓)熱海宝子(秘)]

《7/20(土)》
★せんがわ劇場
11:00→11:40
「子どものための音あそび」時々自動

12:30→14:00
『自由即興』入場無料

15:00→16:00
Double Live Painting!! 黒田征太郎+荒井良二+坂本弘道(cello)

17:00→17:40
Superterz + Koho Mori-Newton & SIMON BERNS

18:30→19:10
藤原清登 + 灰野敬二

20:00→20:40
ヒカシュー with ローレン・ニュートン(Vo)
[巻上公一(vo,theremin,cornet) 三田超人(g) 坂出雅海(b) 清水一登 (pf,Syn,B-Cl.) 佐藤正治(dr,perc)]

★Jenny’s Kitchen
14:10→14:50
三田超人(vo,g)スタンダードを歌う with 清水一登(pf)

16:10→16:50
BRIGHT MOMENTS[高岡大祐(tuba) 有本羅人(tp) 橋本達哉(ds)]

17:45→18:25
aqua jade
Haco (vocal,electronics) + 今西玲子(箏, effects)

19:20→20:20
Third Person Workshop [梅津和時(sax/cl) サム・ベネット(perc)] withあなた!

《7/21(日)》
★せんがわ劇場
11:00→11:45
サンデー・マティネ・コンサートvol.109 鈴木昭男(サウンド・アーティスト) ★入場無料

12:30→13:10
Soon Kim(sax)+早川岳晴(b)+藤掛正隆(ds) with 人形・モノ遣い:北井あけみ×塚田次実

14:00→14:40
坂田明ユニット
[坂田明(sax) ジム・オルーク(g/etc) 坂口光央(key) 高岡大祐(tuba) 山本達久(ds)]

15:30→16:10
Third Person [梅津和時(sax,cl) サム・ベネット(perc)]+ 佐藤允彦(pf)

17:00→17:40
Jazz Art Trio[藤原清登(b) 坂本弘道(cello) 巻上公一(vo)]+ 山田せつ子(ダンス)

19:30→21:00
John Zorn’s COBRA ジム・オルーク部隊
[ジム・オルーク 波多野敦子 須藤俊明 山本達久 石橋英子 トンチ ユザーン 五木田智央 千葉広樹 巻上公一 坂口光央]ほか

★Jenny’s Kitchen
13:15→13:55
坂本宰の影 + 坂本弘道(cello)

14:45→15:25
泉邦宏トリオ[泉邦宏(sax) 岩見継吾(b) 野崎理人(g)]

16:15→16:55
広瀬淳二ソロ

18:00→18:40
KILLER-OMA(鈴木勲(b)× KILLER-BONG)

– CLUB JAZZ 屏風
《7/20(土)・7/21(日)/仙川地域各所にて》
四方を囲んだ箱の中で、数名の限られた観客のみがアーティストの演奏を体験できる移動式ライヴスペース。フェスティバル期間中、街の中に出没します!

出演:庄田次郎 ヤンマー島村 岡本稀輔 和田美帆 パスカル・ロガン 元川匠

<屏風デザイン:長峰麻貴 キュレーター:ヤンマー島村>

– オープンステージ
《7/20(土)・7/21(日)/仙川地域各所にて》
「JAZZ ART せんがわ2013」は7月19日(金)~7月21日(日)の三日間に亘って、調布市せんがわ劇場とJenny’s Kitchenの二つの会場を中心にしたライヴ公演とワークショップ、街中での移動式極小ライヴスペース「CLUB JAZZ屏風」とオープンステージが開催され、出演アーティストは総勢61組、入場者数はせんがわ劇場とJenny’s Kitchenで1278名(野外は未集計)。因みに第1回からの通算出演者数は386組を数える。

本レポートでは筆者が体験した公演・イベントのみ記すこととする。
●はせんがわ劇場  ○はJenny’s Kitchenでの公演。

今年で6回目になる巻上公一プロデュースの音楽フェスティバル「JAZZ ART せんがわ」。“JAZZ”と銘打っているが、巻上の弁によれば「ひと言で判られないフェスティバルを目指している。簡単じゃない、音楽も楽しくない。よく音を楽しむのが音楽だと言われるが、冗談じゃない。“音楽”という言葉はあとから作られたのであって、音の方が先にあった。だからなるべくたいへんな音楽をやっている、というのがこのフェスティバルの目的。3人しか入れないJAZZ屏風だとか、小さいことを活かせるフェスティバルにしたいと思っています。」(7/20 せんがわ劇場に於けるMCより)とのこと。ラインナップを見れば一目瞭然だが、いわゆる真っ当な「ジャズ」はひとつもない。かといってロックでもクラシックでも前衛音楽でもない。言葉やジャンルで言い表せないややこしい音楽と出会える世界的にもユニーク極まりないフェスである。


汗ばむような好天に恵まれ、仙川の街もリゾート気分に溢れている。こじんまりした私鉄沿線の駅だが、駅前の商店街はなかなか充実しており、フェスティバルとは関係のない買い物客もどことなく足取り軽く浮かれているように見える。駅前広場にJAZZ屏風が設置されており、親子連れが興味深そうに覗いている。歩いて3分のせんがわ劇場入口には開場を待つ熱心なファンが集まっている。

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◆7月20日(土)
● Double Live Painting!! 黒田征太郎+荒井良二+坂本弘道(cello)

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フェス二日目、せんがわ劇場の最初のアクトは、フェスティバルのプロデューサーのひとり、坂本弘道のチェロ演奏と、黒田征太郎と荒井良二によるライヴペイティングの共演。親子程に世代の離れた黒田と荒井だが、どちらも絵本作家として活躍しており、荒井は黒田に憧れていたというので、出会うべくして出会った共演と言えよう。飽き易い子供の落書きのように、気紛れな感性の赴くままに、絵は次々塗り替えられ色と形が変化する。坂本のグラインダーやドリル、鉛筆や鉛筆削り、様々なオブジェを使った特殊奏法も子供のおもちゃ遊びに通じる。シリアスな即興芸術も、童心に帰り絵と音楽のゲームになぞらえて捉えれば無心で楽しめる。

○ BRIGHT MOMENTS[高岡大祐(tuba) 有本羅人(tp) 橋本達哉(ds)]

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Jenny’s Kitchenはロフト風のスタジオで、演奏者の意向にあわせて会場レイアウトが変更出来る。メイン会場のせんがわ劇場に比べて小規模な分、実験的・冒険的な試みが多く、かつてのピットイン・ニュージャズホールはこんな雰囲気だったのか?と想像が広がる。ローランド・カークのアルバムから命名されたとおぼしきBRIGHT MOMENTSは即興チューバの第一人者、というより“唯一の”、と形容しても間違いではない高岡大祐を中心に大阪で結成されたチューバ/トランペット&バスクラリネット/ドラムのトリオ。編成もユニークだが、微弱音演奏に始まり、ドラムと管楽器が交互に強弱を入れ替える曲や、ソロ演奏に他のふたりが無作為に絡む曲など演奏自体独特。「このトリオは音量と音色のコントロールが最大のテーマ」と高岡は言う。譜面には音符ではなく、言葉で指示が書かれているだけ。高岡は「こんな楽譜で演奏しているのは自分たちだけだろう、と思っていたら、ジム・オルークも使っていた」と語るが、突然椅子の上に立上がってフォルティッシモで吹き捲くる等、視覚的パフォーマンスの面白さを含め、演奏コンセプトとしては世界随一であろう。関西以外で演奏することは滅多に無いトリオを観られたことは、大きな収穫だった。

● Superterz +Koho Mori-Newton & SIMON BERNS

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スーパーテルツはスイス人のマルセル(g,ds)とラビ(electro,syn)のファイド兄弟によるエレクトロノイズグループ。ライヴの際にはゲストミュージシャンを迎える。この日はシモン・ベルツ(ds,創作楽器)と森ニュートン・幸峰(創作楽器)がゲスト。ステージと天井を繋いだスチール弦のオブジェ楽器を森が演奏し、ラビがステージ中央でラッパーのように踊りながら電子楽器を操作。ラビとシモンのツインドラムのビートが絡み合い、ノイジーだが人間味のある演奏を展開した。電子音楽・エレクトロ音響・ノイズと即興音楽の親和性を改めて実感した。

○aqua jade
Haco (vocal,electronics) + 今西玲子 (箏,effects)

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80年代アヴァンポップグループ、After Dinnerで活躍し、海外でも高く評価されたヴォイスパフォーマーのHacoと、箏とエレクトロニクスによる革新的演奏で多面的な活動を繰り広げる今西玲子のデュオ。幻想的なヴォーカリゼーションを和風サウンドがバックアップするサウンドは不思議な浮遊感があり、聴き手を癒す効果がある。

● 藤原清登 + 灰野敬二

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巻上が語る「楽しくない」「たいへんな」音楽にピッタリなのが“モダンベースの王者”藤原と“魂を司る司祭”灰野によるデュオ。初顔合わせのジャズとロックの求道家の共演は、溶け合ったりぶつかったりを繰り返しながらも、即興演奏本来の厳しさと美しさを体現する強力な結晶体になった。ヴォイスとパーカッション&ダンスによる灰野の演奏は、トレードマークの爆音ギターとは異なり音量は抑えめだが、屹立する強靭な魂の力の圧倒的な存在感を見せつけた。それに負けず柔軟なインプロヴィゼーションを貫いた藤原もまた即興の鬼である。

○ Third Person Workshop [梅津和時(sax/cl) サム・ベネット(perc)] withあなた!

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70年代から現代に至るまで第一線で活躍を続けるマルチリード奏者、梅津和時と、アメリカから日本へ移住した個性派打楽器奏者、サム・ベネットのふたりがゲスト演奏家を迎えて活動するユニット、サード・パーソン(第三の人物)が、一般から参加者を募って共演するワークショップ。素人プレイヤーに優しく手ほどきするのかと思ったら、いきなり本気モード、まったく手加減なしの即興セッションを展開。ふたりに感化されて参加者も気合いの入ったプレイを繰り広げる。オーディションをしたのかどうかは判らないが、どの参加者もかなりの演奏テクニックと舞台度胸があるのに感心した。下手に気を使い試運転するより、ぶっつけ本番の方が潜在的な能力が発揮されるのかもしれない。

●ヒカシュー with ローレン・ニュートン(vo) 
[巻上公一(vo,theremin,cornet) 三田超人(g) 坂出雅海(b) 清水一登 (pf,syn,bcl.) 佐藤正治(dr,perc)]

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1978年デビュー当時は“テクノポップ”と呼ばれていたヒカシューは、テクノポップブーム終焉後は変態音楽の急先鋒として独自のスタンスを築き上げ、ジャンルを超越した音楽グループとして海外でも評価が高い。巻上の超絶歌唱やホーミー、テルミン、コルネットをはじめ、どのメンバーも一筋縄では行かない個性派揃い。ゲストにアメリカ出身で、自分の身体そのものを楽器として使うヴォイスパフォーマー、ローレン・ニュートンを迎えた演奏は、持ち前の変態性に加え、さらにレベルの高い革新的音楽を追求するヒカシューの飽くなき進化への意欲が漲っていた。「JAZZ ART せんがわ」の思想の原点にこのバンドがあることは間違いない。

◆7月21日(日)
● Third Person [梅津和時(sax,cl) サム・ベネット(perc)]+ 佐藤允彦(pf)

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“第三の人物”ユニットが前日のJenny’s Kitchenに続き、せんがわ劇場に出演。ゲストに日本フリージャズのオリジネーター、佐藤允彦を迎え、豊穣な演奏を繰り広げる。ストイックな佐藤のプレイに対して、声や身体全体を使って演奏するベネットと、遊び心たっぷりの梅津のスタイルが見事に調和して、即興初心者にも判り易いポップかつアヴァンギャルドな演奏を聴かせた。

○ 広瀬淳二ソロ

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フリージャズ・サックス奏者として日本を代表する存在の広瀬は、一方で音響彫刻家の顔を持つ。今回のソロ・セットでは、前半テナーサックスのノンブレス奏法による超絶演奏、後半は自作楽器 SSI (self-made sound instrument)によるノイズ演奏を披露。今回初披露のSSI-7,8は、ベッドのスプリングや金属製のプレートや空缶等を組み合わせたガラクタ楽器。それを佇んだまま空気噴射機で鳴らすので、楽器演奏と呼んでいいのか迷うところ。風の当たり具合、金属の共鳴の変化により音色・音量が変わる。マッドサイエンティストによる音響実験室とでも表現するしかない不思議な世界を経験した。

● Jazz Art Trio[藤原清登(b) 坂本弘道(cello) 巻上公一(vo)]+ 山田せつ子(ダンス)

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「JAZZ ART せんがわ」のプロデューサー3人が勢揃いした、フェスティバル頂上決戦と言えるセッション。巻上の洒脱な面が支配するかとの予想を見事に裏切るシリアスな三つ巴の真剣勝負。ダンサー山田せつ子が動きのあるパフォーマンスで花を添え、全編を通して極めてアーティスティックな探究心が流れていることに感銘を受ける。終演後の4人の笑顔にフェスティバルの成功とともに、最高のパートナーと演奏を通してコミュニケイトすることの歓びが溢れていた。

○ KILLER-OMA(鈴木勲(b)× KILLER-BONG)

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実験道場=Jenny’s Kitchenの最後を締めるのは、今回の出演陣の中で最も謎に満ち、最も異色で、最も画期的なコラボレーション。ヒップホップDJ兼ラッパーのキラーボンは、自主レーベルBlack Smoker Recordsを主宰し、ディープなヒップホップ作品を多数リリースすると共に、ロック/ポップ/ノイズ演奏家と積極的にコラボレートし、ジャンルを超えた実験的作品もリリースしている。そのひとつが“JAZZ GODFATHER”オマさんこと鈴木勲との共演作『KILLER-OMA』である。鈴木は60年に亘る演奏活動の中でウッドベース奏者として様々なジャズ革命に参加してきた。その意欲は80歳を迎えた現在でも衰えることはない。ヒップホップ/クラブミュージックの手法のエッセンスを抽出した濃厚なキラーボンのエレクトロビートの中、歪んだ音でドライヴするベースプレイは、ジャズの教科書にはやってはいけない演奏例として挙げられているものかも知れない。しかし規則を破ってこそ真の革新が生まれるのは事実。掟破りのふたりの共演はこのフェスティバルのみならず、ジャズ・即興音楽の未来への希望の光と言えるのではなかろうか。

● John Zorn’s COBRA ジム・オルーク部隊

[ジム・オルーク 波多野敦子 須藤俊明 山本達久 石橋英子 トンチ ユザーン 五木田智央 千葉広樹 巻上公一 坂口光央] ほか

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フェスティバルの大団円は、ジョン・ゾーンが1984年に考案したゲーム理論に基づいた即興演奏スタイル、ジョン・ゾーンズ・コブラ。当時から日本の即興音楽家を魅了し、数々の日本人演奏家により実践されてきた。現在も巻上公一を中心に継承されている。何度説明されてもゲームのルールは理解できないが、プロンプターのコミカルな動きと演奏者の反応はいつ観ても面白い。演奏内容を云々するより、ステージ上で繰り広げられる人間味に溢れたゲームの成り行きを観て楽しむのがベスト。贔屓の演奏者がいれば、その行動に注目するのも楽しい。一方でコブラを超える革新的即興演奏理論が生まれていないことも確か。コブラ誕生から30年経つので、そろそろ新たな演奏スタイルの登場を期待したいところではある。

終演後の挨拶で巻上が「年々予算が厳しくなる中、来年も開催するためには多くの人の支持が必要。もっとたくさんの人に観て欲しい。」と語っていた。日本各地の自治体で財政悪化のため文化事業が縮小傾向にあることは間違いない。調布市がどこまで支援してくれるかは判らないが、世界的にも唯一無二のこのフェスティバルの歴史を中断することがあってはならない。そのためには主催者やスタッフ、演奏家、調布市民だけではなく、日本全国の心ある音楽ファンの理解と支援が不可欠だろう。一個人として、フェスティバル継続のために何が出来るか、考えていきたいと強く思う。(2013年8月9日記)

*初出:2013年8月26日  Jazz Tokyo #189

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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