#912 Sound Live Tokyo 2016 ピカ=ドン/愛の爆弾

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2016年9月11日(日) スーパー・デラックス
Text and photos by 齊藤聡 Akira Saito

 

「機械仕掛けの神」(ジェームズ・テニー、1982年)
神田佳子(タムタム)
有馬純寿(エレクトロニクス)

「ピカ=ドン」(ジェームズ・テニー、1991年)
神田佳子、佐々木啓恵、稲野珠緒、服部恵(打楽器)
有馬純寿(エレクトロニクス)

「愛の爆弾」(テーリ・テムリッツ、2003年)
テーリ・テムリッツ(上映、パフォーマンス)

 

この日、作曲家の故ジェームズ・テニーによる作品「機械仕掛けの神」と「ピカ=ドン」とが日本で初めて演奏された。「Sound Live Tokyo」の最初のプログラムである。

「機械仕掛けの神」は一見シンプルな構成だ。会場の真ん中に大きな銅鑼(タムタム)が設置されており、打楽器奏者の神田佳子がゆったりと叩き続ける。その反響や、観客が立てた椅子の軋みや、咳など、すべての音が吸収され、エレクトロニクスで増幅されてゆく。観客はその巨大な力に呑まれ、なすすべなく呆然とするほかはなかった。

そして、会場の4隅に打楽器のセットが組み上げられた。「ピカ=ドン」である。4人の奏者たちが複雑なパーカッションのアンサンブルを繰り広げる。それだけではない。ニューメキシコおよび広島において、それまで人間が知り得なかった世界の姿を目撃し、当事者になった者たちの多くの声が再生され、4つのモニターにはそれらの声が次々に表示される。サウンドも、文字情報も、全貌を理知的に追跡することは、ひとりではまず不可能だ。

テニーは、1934年にニューメキシコ州で生まれた。すなわち、少年時代に、故郷の近くにおいて、世界で初めての核実験が行われたわけである。執念であろうか、「ピカ=ドン」も、ニューメキシコにおいて1993年に初演されている。テニーのパートナーであったローレン・プラット氏によれば、そのとき、感情的で否定的な反応が多かったのだという。またそれは、事実そのものに対する反応ではなく、事実を見せられたことによる反応であったろう、とも。

人間を覆い潰すものが、「機械仕掛けの神」ではマッスとしての<機械>だったのだとすれば、「ピカ=ドン」では、無数の切実なる<取り返しのつかないこと>なのであった。抗えないほどに示されれば、否定であれ確認であれ、対峙する者は感情の閾から反応を引き出さざるを得ない。この演奏にはそれほどの力があった。

蔡國強は、かつて、広島において火薬を用いて原爆雲を創出してみせた。また、Chim↑Pomは、広島の空に、飛行機雲で「ピカッ」というカタカナを描いた。それらは人の心を強引に触ることによって、反発も含めて、自らの認識に向き合わざるを得なくなるようなアートであったと言うことができる。一方、この「ピカ=ドン」は、認識の問い直しどころか、認識から目をそらすことを許さない。

「愛の爆弾」は、テーリ・テムリッツによる1時間弱の映像である。上映前に、テムリッツ氏は「愛と暴力との共犯関係」を口にした。ここでコラージュのように挿入される奇妙なフッテージ群。それはアパルトヘイトでの対立であり、性器から相手の口にめがけて射出されるミサイルであり(ラヴボム)、文化人類学のフィールドにおける異文化の非対称な接触であり、イタリア未来派のマリネッティによる新しい世界を希求するプロパガンダであった。また、誕生したばかりの鉄腕アトムが可愛らしく転んでしまう場面の執拗なリピートであった。

どこに愛があるのか?いや、愛はどこにでもある。支配も、性暴力も、独りよがりな理想世界も、上からのパターナリズムも、すべて愛と分かちがたく結びついているのかもしれない。どれが歪んでいてどれが歪んでいないのか、判別などできようもない。ここでのサウンドも、さまざまな音楽要素やノイズのコラージュであり、やはり愛に満ちている。

テムリッツ氏によるパフォーマンスとは、上映後の質疑応答を意味した。氏は、「なんだか不快なもの」をこそ指向し、それにより観る者が内省に向かうことを欲しているようだ。その観点では、曖昧で、その場で昇華してしまう音楽というものを好まないとも言う。もちろん、言葉への回帰は、言葉による理解を意味するわけではない。

本人の言うように作品は「マルチメディア」であり、再生もライヴも、映像も言葉も音楽も、またトランスジェンダーやクイアも、すべてを混淆させて提示されるものであった。

(文中敬称略)

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齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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