SMotoaki Uehara / 上原基章

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Paul Bley meets 富樫雅彦

「富樫さん、ポール・ブレイとのレコーディングに興味ありますか?」
1999年の春先だっただろうか?新宿ピットインの控え室で、演奏直後の富樫さんに単刀直入に尋ねてみた。「えーっ、ポール・ブレイか...。いいよ。嬉しいなあ。」富樫さんはちょっとだけ考え、笑顔で答えてくれた。

ポール・ブレイのピアノに惹かれたのは、いつからだったろうか。1980年代前半、大学のジャズ研で1年先輩だったピアニストの南博に「このソロピアノ、最高に美しいんだよ!」と『オープン・トゥ・ラブ』(ECM)の<アイダ・ルピーノ>を聴かされたのが最初だったと記憶している。その頃によく聴いていたハービーやキースの華麗さとも、マッコイの饒舌さとも、モンクの寡黙さ、あるいは当時事務所でバイトをさせてもらっていた洋輔さんの過激さとも違う、どこか墨絵をイメージさせる深淵なハーモニーに、もう一発で魅せられてしまった。一番好きなピアニストだった菊地雅章、プーさんと同種のバイブレーションを感じ取ったからというのもあるだろう。ともあれ、ジャズにまみれていた馬鹿学生の頭の中で、ポール・ブレイはスペシャルな存在となった。

「上原くん、ポール・ブレイが23年ぶりに来日するんだけど、レコーディングする気はない?」
話は1999年に戻る。当時ソニーミュージックのジャズセクションに在籍していた私に、本サイトの主宰者でもある稲岡氏から電話があった。もちろんYESである。「やりたい!やりたい!ところで、面子も含めてこちらからリクエストは出来ますか?」
通常であれば、メジャー路線のソニーミュージックでポール・ブレイのような前衛派のレコーディングなどありえなかった。しかし、親会社のソニーがSuper Audio CDの立ち上げとともに高品位DSDレコーディング音源を積極的に行っていたおかげで予算の目処はどうにかなる。では、ポール・ブレイで何を録りたいのか?その瞬間、僕の頭の中に富樫雅彦さんのパーカッションの響きが聞こえてきた。二人のデュオで<アイダ・ルピーノ>を、<ヴァレンシア>を、<スピリチュアル・ネイチャー>を聴いてみたい...。

話は同年6月に進む。レコーディング場所に選んだのは、横浜みなとみらいの小ホール。いくつか候補はあったが、ベーゼンのフルコン「インペリアル」があり、残響感が美しい(前年に同所で、鯉沼ミュージックが招聘したリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラのDSDテスト・レコーディングを実施していた)ことで決定した。レコーディング・エンジニアは、一番信頼している相棒の信濃町スタジオ・鈴木浩二。そして富樫さんを安心させるため(抑え役?)に、鯉沼さんにも現場に入ってもらうようお願いした。そしてレコーディング当日、録音予定曲のスコアも準備され、富樫さんのワゴン車に同乗してホールに到着する直前に、稲岡さんから携帯に連絡が入った。
「ポールが全部即興でレコーディングしたいと言い出したんだけど...」。一瞬絶句。そして「リーダーの意向ということで、相談してみます」と1回切電し、後部座席の富樫さんに伝えた。「ポールが用意した曲ではなく、全部即興でやりたいと言っています」。富樫さんは満面の笑みで即答した。「本当に?やったぁ!」

ホールのステージ上、上手側に富樫さんのパーカッション、下手側にポールのピアノ。この日のために選び抜いたマイクはピアノに3本、パーカッションに4本、そして客席側中段にアンビエントに4本。音そのものではなく音の存在する「空間」を記録するために、すべてオフ気味にセッティングした。マルチはセーフティで用意したが、あくまでもマスターは2chダイレクトにこだわった(手前味噌ではあるが、ジャズ史上において最も美しいサウンドの一つだと自負している)。アルバムのタイトルは、ポールのピアノと富樫さんのパーカッションの音がどこまでも残響して、聴く者の耳に、そして心に永遠の響きを残していくイメージから「echo」と名付けた。ポール・ブレイと富樫雅彦という二人の偉大な即興演奏家による邂逅を記録することが出来た。そして、この体験と記憶は、私自身の音楽人生における宝物の一つとなった。

ポールさん、何年か後に彼岸で富樫さんにヘイデンを加えて『echo2』をレコーディングしましょう。それから、プーさんとのピアノ・デュオも! (元ソニーミュージックエンタテインメント)


Motoaki Uehara / 上原基章
元ソニーミュージックエンタテインメント・洋楽担当ディレクター

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One thought on “SMotoaki Uehara / 上原基章

  • 2017年7月24日 at 8:31 AM
    Permalink

    上原基章さん、お久しぶりです。
    シドニーの松井です。

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