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Jazz and Far Beyond

投稿者: 齊藤聡

CD/DVD DisksJazz Right NowNo. 314

#2323 『エリ・ウォレス+レスター・セント・ルイス+ニック・ノイブルク/Live at Scholes Street Studio』

フリー・インプロヴィゼーションを音だけの缶詰にすることには困難が伴う。ライヴと録音媒体とは本質的に異なるものであり、そのためリスナーの受容もライヴと同様ではない。だが、本盤に収録された36分間ぶっ続けの音には粗雑な要素が皆無であり、聴き手を惹きつけるものがある。

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インプロヴァイザーの立脚地No. 313

インプロヴァイザーの立脚地 vol.19 吉田隆一

吉田隆一のことをバリトンサックス奏者と呼ぶだけでは不十分だ。SFへの深い造詣をもとにした文筆(日本SF作家クラブの理事も務めているのだ!)、サックス奏者たちの演奏法の分析、ラージアンサンブルのプロジェクト、無伴奏ソロなど、八面六臂の活躍ぶりである。

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CD/DVD DisksNo. 312

#2308 『The Bass Collective / 瞬く森』

コントラバスという楽器は単数でも複数でもある。幅広い周波数の葉叢を発生させるだけに、その音にはひとりの演者の意思を超える匿名性がある。また、矛盾するようだが、同時に演者の個性がもろにあらわれる。田辺和弘、瀬尾高志、田嶋真佐雄はそれぞれに自身の音を追い求めてきた者たちであり、なおさらのことだ。

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CD/DVD DisksNo. 311

#2302 『Jo-Yu Chen / Schubert & Mozart: ‘Round Midnight』

台湾出身のピアニスト、ルォー・ユー・チェン(陳若玗)が5枚目のリーダー作を出した。デビューから一貫して起用しているクリストファー・トルディーニ(ベース)、トミー・クレイン(ドラムス)と組んでのピアノトリオである。彼女は独自のジャズ表現を追求してきたが、驚いたことに、ここにきてシューベルトとモーツァルトの曲を取り上げた。だが、その表現姿勢はぶれていないことは、聴き込むとわかる。

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Concerts/Live ShowsNo. 309

#1281 「悠々自適」悠雅彦さん追悼コンサート

2023年11月25日、プロデューサーとして、また文筆家として、大きな功績を残した悠雅彦の追悼コンサートが行われた。亡くなった翌月の開催であり、この場に集まった演奏者、関係者、観客の多さが、悠の影響力の大きさをものがたっていた。そして、展開された音楽の世界は、伝統と革新の両方を同等に重んじる悠の姿勢と重なるものだった。

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インプロヴァイザーの立脚地No. 309

インプロヴァイザーの立脚地 vol.15 池田陽子

池田陽子はクラシックからロックを経て即興に入ってきた人である。2021年の終わりころに意に沿わぬ難聴を抱えてしまったが、それを機に、自分の音楽のあり方を見つめなおしている。それは音楽活動というものを考えるにあたり本質的なことにちがいない。

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BooksJazz Right NowNo. 307

#127 クリフォード・アレン『Singularity Codex – Matthew Shipp on RogueArt』

マシュー・シップは広く知られたピアニストでありながら、日本では過小評価されているように感じられる。スタイルが単純に極端なものでないことがその理由かもしれない。だが、かれの多くの作品に向き合ってみれば、繰り出される音が極めて知的に制御されており、誰にも似ていないことが実感できるだろう。

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CD/DVD DisksNo. 307

#2279 『ジェームス・ブランドン・ルイス – レッド・リリー・クインテット/For Mahalia, With Love』

もはやジェームス・ブランドン・ルイス(JBL)のことを現代のテナー・タイタンと呼んでもよいだろう。意外というべきか、そのJBLが自身の音楽的ルーツのひとつとしてゴスペルを取り上げ、それによって偉大な歌手マヘリア・ジャクソンへの恋文のようなアルバムを作った。

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BooksJazz Right NowNo. 306

#125 シスコ・ブラッドリー『The Williamsburg Avant-Garde: Experimental Music and Sound on the Brooklyn Waterfront』

著者のシスコ・ブラッドリーは、無数のインタビューや資料収集、さらにはライヴ会場に足を運び、この労作をものした。本書は歴史としてだけではなく、現在につながるものとして読まれるべきだ。振り返りはつねに現在進行形である。

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R.I.P. トリスタン・ホンジンガーNo. 305

コスモポリタン、トリスタン by コントリビューター 齊藤聡

アムステルダム。チェロを置いてステージの中心に歩み出てきたホンジンガーは、しゃがみ込み、飛び跳ね、オーケストラを指揮した。メンバーたちも真剣に応じ、みごとなカーニヴァルの空間を出現せしめた。トリックスターの面目躍如である。

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InterviewsNo. 305

Interview #268 松井節子

「Hot House」は、平岡正明が「地下鉄東西線の南行徳と行徳のちょうど中間、埋立地の道路横に一軒だけ、ルート66沿いのモーテルでもはめこんだようなネオンが出ているところが、郷間和緒・松井節子のホームグラウンドだ」と評した、千葉県のジャズ磁場だ。松井節子は、開店以来ここでピアノを弾き続けてきた。

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Concerts/Live ShowsNo. 304

#1269 ブライアン・アレン+田中悠美子+今西紅雪

田中悠美子は、日本の伝統芸能界以外のコンサートにおいて伝統楽器を使うことについて「異なる文脈の中で日本音楽の独自性が際立つことに意義がある」と書いている。トロンボーンという西洋の金管楽器との即興演奏はまさにその実証でもあった。またアレンがどこか特定のルーツ音楽に拘るのではなく、アジアなどを旅しては演奏し、映像を撮る複眼的な者であることも、このトリオを特別なものとした。

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R.I.P. ペーター・ブロッツマンNo. 303

「どうでもいい」by 齊藤聡

ペーター・ブロッツマンが残した大傑作のひとつに『Nipples』(FMP、1969年)がある。2021年、アメリカのテレビ番組「The Tonight Show」の「Do Not Play」コーナーにおいて司会のジミー・ファロンが笑い飛ばしたことにより、この作品はフリージャズ愛好家以外にも知られることになった。なにしろ乳首であり轟音であり騒音なのだ。

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Concerts/Live ShowsNo. 303

#1266 詩與歌的靈魂夜 A Soulful Night of Poetry and Songs

台湾随一のサックス奏者・謝明諺(シェ・ミンイェン)は、ことばによる音楽的な響きの違いを追求している。久しぶりの来日公演で、沼尾翔子、遠藤ふみとともに作り上げる日本語のうたの世界。そしてポップ歌手の林理恵(マーズ・リンことリン・リーフイ)による台湾語・中国語のうたと朗読。なにか豊穣な音世界の起点となるか。

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ウェストコースト・アンダーグラウンド通信Concerts/Live ShowsNo. 302

#1261 パトリック・シロイシ/東京の2夜

異能のサックス奏者パトリック・シロイシが日本公演を行った。ロサンゼルス在住のシロイシは日系のルーツを持つ(かれの祖父母は第二次世界大戦時の日系アメリカ市民を対象とした強制収容所で知り合って結婚した)。それだけに個人的な旅行を兼ねた今回の公演はずいぶん嬉しいものでもあったようだ。

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インプロヴァイザーの立脚地No. 302

インプロヴァイザーの立脚地 vol.8 竹下勇馬

竹下勇馬(楽器製作家、演奏家)はいくつものセンサーモジュールを取り付けた「エレクトロベース」、回転・揺動スピーカー、半自動楽器などを自作し、自ら演奏する。また近年は野鳥の撮影にも本腰を入れており、あまりのオリジナリティに誰もが戸惑っているようにみえる。その不可解さは少なくないインプロヴァイザーたちも惹き付けている。

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BooksNo. 299

#118 『ロジャー・ターナー&マリ・カマダ / Junk Percussion – Notes for the Future』

英国の極めてユニークな打楽器奏者ロジャー・ターナーがパートナーのマリ・カマダとともに書き上げた本であり、ターナーが演奏に使う道具がひとつひとつ紹介されている。だからといって本書が「謎解きロジャー・ターナー」になるわけではない。なぜならば、ターナーは「パーカッショニスト」だからだ。

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インプロヴァイザーの立脚地No. 298

インプロヴァイザーの立脚地 vol.4 細井徳太郎

何年もの間、東京のシーンにおいてギタリスト・細井徳太郎の名前をみない日はほとんどない。かれの活動は多岐にわたっており、バンドも、デュオも、ソロでの弾き語りもある。そしてかれをジャズギタリストと呼ぶことは難しいかもしれない。それは活動領域ではなく指向性のゆえである。

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Concerts/Live ShowsNo. 297

#1240 神田綾子+柳川芳命+内田静男

フリー・インプロヴィゼーションとひとことで括ることは土台無理な話であり、なにがその場で行われているかについては演者自身にしか解らないことも、演者の自覚を超えて開かれた結果こそがものがたることもあるだろう。前者が後者の条件であるとは限らないが、少なくとも三者には明らかにそれがあった。

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インプロヴァイザーの立脚地No. 297

インプロヴァイザーの立脚地 vol.3 外山明

ドラマー・パーカッショニストの外山明は形式にまったくとらわれないプレイを行い、ポップスやジャズだけでなくフリー・インプロヴィゼーションのライヴも行っている。だが、外山自身の演奏に対する考えに照らすならば、この説明は本質的なものではない。仮に外部からフリー・インプロヴィゼーションを演っているように見えたとしても、外山にはそのつもりがないからだ。

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CD/DVD DisksJazz Right NowNo. 296

# 2223『スティーヴン・ガウチ+サンティアゴ・レイブソン+ウィリアム・パーカー+タイショーン・ソーリー / Live at Scholes Street Studio』

まずはタイショーン・ソーリーのサウンドの驚くべき大きさに魅了される。そして剛に柔に演奏を駆動するウィリアム・パーカー、かれらと対等に渡り合うスティーヴン・ガウチの個性と戦略。

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CD/DVD DisksJazz Right NowNo. 295

#2210 『ノエル・アクショテ / J.(B.)B. (For Jaimie)』

ジェイミー・ブランチの『Fly or Die』連作を聴いていれば耳に残るいくつものメロディが、ノエル・アクショテの歪んだ時空間の中で立ち現れ、そうだ、この生命力の奔流がジェイミーの音楽だったのだと、あらためて気付かされる。もう彼女の新しい音を聴くことはできないが、再発見を続けることはできる。

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CD/DVD DisksNo. 294

#2204 『カール・ストーン / We Jazz Reworks Vol. 2』

フィンランドのレーベル・We Jazz Recordsのリリースしたアルバム10枚を音源として自由に使ってよいというルールに基づいた作品であり、レーベル内の宝さがしの試みだと言うことができる。その意味でカール・ストーンにとっても新たな刺激発見の過程だったのではないか。掘り出された個々の要素がストーンの音楽の中で新たに手足を伸ばしてゆく可能性だってないとは言えないのだ。

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Concerts/Live ShowsNo. 294

#1235 MMBトリオ with 神田綾子・ルイス稲毛/林栄一

サックス・クラリネットのリューダス・モツクーナス(リトアニア)、ピアノのアルナス・ミカルケナス(リトアニア)、ドラムスのホーコン・ベレ(ノルウェーからデンマークへ移住)の3人から成るMMBトリオ、日本ツアー。初日は神田綾子・ルイス稲毛と、2日目は林栄一をゲストに迎えた。

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CD/DVD DisksNo. 293

#2196 『ブライアン・アレン+ゲオルグ・ホフマン / El Sur』

音楽だけでなく映画や書物も作ること、旅を愛することが、ブライアン・アレンという不思議なトロンボニストの思想を形成しているように思えてならない。このアルバムも、旅の途中のスイスでゲオルグ・ホフマンと会い、持ち歩いていたプラスチックの軽いトロンボーンで初めて手合わせし、なにかのプロセスの音として作ったものだ。

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CD/DVD DisksJazz Right NowNo. 292

#2193 『カール・ベルガー+マックス・ジョンソン+ビリー・ミンツ/Sketches』

協和と不協和の間の緊張に身を晒し続けるカール・ベルガーの音。この巨匠の音に、ひとまわり下のビリー・ミンツが繊細さを与え、若いマックス・ジョンソンは柔らかくも太くもあるコントラバスでふたりのヴェテランの紐帯となっている。

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Concerts/Live ShowsNo. 292

#1225 カール・ストーン+吉田達也+神田綾子 with 小林径

時間の流れに沿った相互作用だけでなく時間軸を伸縮させる縦波を前提としたふるまい、三者ではなく自分自身の影をメンバーに呼び込んだ共演。それによる予期せぬ現象は三者の力量によって平衡を獲得するが、さらにそこから次の相と新たな現象・平衡へと移行する。驚くべきダイナミクスだ。

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InterviewsNo. 290

Interview #247 松風鉱一

マルチリード奏者・松風鉱一(1948年、静岡市生まれ)。現在は自身のカルテット、渋谷毅オーケストラ、エッセンシャル・エリントン、サックス・ワークショップ、今村祐司グループなどで活動している。あまりにも独創的なサウンドの魅力は昔もいまもまったく色あせていない。

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