Hear, there and everywhere #38 「ヴィム・ヴェンダース ニューマスター・リリース・パーティ」

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text and photos by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

2022年6月26日 7:30pm 代官山:晴れたら空に豆まいて

音響エンジニア: オノセイゲン
映画評論家:湯山 玲子
MC :滝本 龍  (TC エンタテインメント)

デンソーテン Eclipseで 5.1ch サラウンド・ホーム・シアター環境を構築した神宮前サイデラ・マスタリング・スタジオの一室

音響エンジニアのオノセイゲンがヴィム・ヴェンダースの作品十数本の5.1ch化に挑んでいるという話は耳にしていた。もちろん、音楽ファンには見逃せない『ブエナ・ヴィスタ』と『パリ、テキサス』『ベルリン天使の詩』は含まれているはずだから、と心待ちにしていたのだった。セイゲンは去年、バート・スターンの『真夏の夜のジャズ』の5.1ch化を手がけ、擬似ステレオに甘んじていた音楽ファンの溜飲を下げてくれた実績がある。『真夏の夜のジャズ』はカドカワの試写室で鑑賞したが、今回はPAが完備しているライヴハウス、代官山の”晴れ豆”こと、晴れたら空に豆まいてだ。期待が高まるのも当然だ。待ちきれずに「ブエナ・ヴィスタ』はまだ?と尋ねたところ、ほぼ完成しているのでスタジオで、と誘われ、伊香保近郊のWJM21で中牟礼貞則さんと三好3吉功郎さんのギター・デュオをライヴ録音した勢いのまま、神宮前のサイデラ・スタジオに駆け付けたのだった。文字通りうだるような厚さの中、扉を開けて入った一室にはキューバのハバナが待っていた!ホームシアターを想定したサラウンド環境で聴く『ブエナ・ヴィスタ』はリアルそのものだ。初めて耳にするデンソーテンの モニターEclipseが周囲を囲む。セイゲンが精魂込めて磨き上げたサウンドを忠実に反映しているのだろう。『真夏の夜のジャズ』は50年代に録音されたモノラルだったがヴェンダース映画は70~80年代のステレオ録音だ。大変だがやりがいのある仕事だったろう。『パリ、テキサス』『ベルリン天使の詩』『アメリカの友人』をつまみ聴きして帰路に着いた。

“晴れ豆” のサウンド・システムは当然のことながらホーム・シアター・レベルを遥かに超え、セイゲンの腕の冴えを際立たせていた。メイン・モニターはMeyerで、僕が現役時代いちばん好きだったスピーカーだった。とてもナチュラルで肌理が細かく、全く聴き疲れしない。ECMフェスの時はステージ・モニター用に持ち込まれたMayerをそのままPAに使った記憶がある。
セイゲンと湯山さんはともに呆れるほどの早口。喋ってるうちに双方ヒートアップしアッチェランドがかかる。絶妙のタイミングでMCの滝本さんが的確なコメントを投げ入れる。二人の高速餅つきの合間を縫って瞬間的に餅を返す動画があるが、あれを想定していただければ良い。ふたりが最も熱くなったテーマはBlue-Rayをマニアだけのものにしておくのはもったいない、ということ。僕が誤解していたのは、セイゲンが心血を注いだ音づくりが映画館でも反映されるのだろうということ。実際は、映画館の上映用に使われるのはDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)という配給元から送信される映像と音声がパッケージされたデータ。それなら Blu-Rayを上映できるミニ・シアターを作ってチェーン展開したらどうか、という真夏の夜の夢。配給元も収益の道が増えるのでは、という現実的な目線を忘れないところがさすがプロらしい。それが叶うまでは、デンソーテンのEclipseでホーム・シアターを構築し、自宅でBlu-Rayを鑑賞する、これが一番、ということか。
なお、7月10日には “晴れ豆”で1日だけ、第2回発売の4作品を一挙マラソン上映する企画がある。音にうるさい映画ファン、音楽ファンは充分出かける価値があるというものだ。僕もいささかふたりの熱が伝播してヒートアップした嫌いがあるが、チョーチン持ちをしているわけではない。招待枠を嫌って木戸銭を支払って参加している。

作品の詳細は;
https://www.tc-ent.co.jp//products/detail/TCBD-1204

 

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『増補改訂版 ECMの真実』(河出書房新社)編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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