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Jazz à la Mode 竹村洋子No. 242

ジャズ・ア・ラ・モード #11 ディジー・ガレスピーのバップ・スタイル

11. ディジー・ガレスピーのバップ・スタイル

Dizzy Gillespie’s Bop style : text by Yoko Takemura 竹村洋子

photos : Used by permission of the University of Missouri-Kansas City Libraries, Dr. Kenneth J. LaBudde Department of Special Collections,
Library of Congress-William Gottlieb Collection, 他 、Roy Carr 『A Century of Jazz 』1997,
『Jazz- A History of Jazz 』by Geoffrey C. Ward & Ken Burns:2000より引用
他、Pinterestより引用

この人のベレー帽、角縁眼鏡ほど、新しい音楽とスタイルが密接な関係にあり、あるジェネレーションのシンボルになった例はないだろう。このコラムで取り上げるまでもないかもしれない。
ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie:ジョン・バークス・ガレスピー John Birks Gillespie  1917年10月21日 – 1993年1月6日)。

ビル・クロウもその裏話を『ジャズ・アネクドーツ』の中で触れている。
ビバップ時代が幕を開けた時、『エスクァイヤ』などの男性雑誌はそのミュージシャン達の外見に焦点を当てた。
その代表がディジー・ガレスピーの、ベレー帽、山羊髭、角縁眼鏡というスタイルだった。
ビル・クロウは、ディジーが「一番の大嘘は、ビバッパーはワイルドな服を着て、夜でもサングラスをかけているということだね。深夜映画に出てくる40年代のファッションを見てみなよ。膝まであるような長い上着、ダブダブのズボン。俺もみんなと同じようにそういうドレープ・スーツを着て、その当時の普通のお洒落な人間達と同じような格好をしていた。あれは格好良かったね。そのあと、ビバップ時代になって、俺はもっとお洒落になって、ズボンの裾をちょっとカットしたりした。』(村上春樹訳)と言っていた、とある。

ディジー・ガレスピーが眼鏡をかけ始めたのはいつ頃だろうか? 1940年代ニューヨークに行く前に撮られた、メガネなしの20代のディジーの写真がある。
最初はメガネは縁なしをかけていたようだ。これは映像が残っている。ルイ・アームストロングと共演した<Umbrella Man>に見られる。
「俺の最初に持ってた眼鏡は縁なしのやつで、テレサ・ホテルにあったモーリス・ギルデンの眼鏡屋で買ったものだ。でもしょっちゅう壊れていたもんで、それで角縁のやつに変えたわけさ。」ともある。テレサ・ホテルは今でもニューヨークのハーレムにあるが、モーリス・ギルデンの眼鏡屋があるかどうかは定かでない。

このディジーのスタイルは、1955年〜60年代半ばまで、当時のビート・ジェネレーションと呼ばれた若者達を中心に最高にヒップなファッションとされ、『バップ帽』とか『バップ眼鏡』と呼ばれて大きな流行になった。
特に眼鏡については、『バップ眼鏡』は『Bop glasses 』と呼ばれ、下は2ドル位から5ドル前後で売られていた。縁がセルロイドや、べっ甲の物などあったようだ。女性ものもあり、イミテーション・ダイヤやゴールドなどの装飾が施された物も売られていた。この時代の眼鏡屋はさぞ繁盛しただろう。特に、当時20歳前後の若い世代に人気があったようだ。

ディジーの眼鏡は丸いシェイプのデザインで、ほっぺたを目一杯膨らませて演奏すると、その表情はファンキーで、より楽しく、コミカルで、親しみが持てる様な気がする。ディジーのキャラクターにぴったりのアイテムだったのだ。もし、ディジーがあの眼鏡をかけておらず、晩年かけていた様な四角い縁の眼鏡をかけていたら、この流行は生まれなかったかもしれない。

夜でもサングラスをかけていなかったというのは、本人がそういうのだからそうなのだろう。たまたまこの原稿を書く前に、チェット・ベイカーの伝記映画『Born To Be Blue』を観た。冒頭、チェット・ベイカーがニューヨークのバードランドで最初に演奏するシーンがある。観客の中にディジーとマイルス・デイヴィスがいるのにビビって、サングラスをかけて演奏するシーンを見た。ディジーは角縁眼鏡をかけて登場していた。

このバップ眼鏡の話題、あまりにジャズファンの中では当たり前で、取り上げるのをやめようかとも思ったが、帽子好きで有名なピアニスト、セロニアス・モンクまでがベレーに縁なし眼鏡というディジーそっくりのスタイルの写真を見て、取り上げることにした。加えて、この時代のミュージシャンたちの写真を見ると、バーニー・ケッセル、ミルト・ジャクソン、ソニー・ロリンズや多くのミュージシャンが同じ様な眼鏡をかけているのだ。

*ルイ・アームストロングと共演している<Umbrella Man>

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に2016年から不定期に寄稿。

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