ジャズ・ア・ラ・モード# 28.ジャズ界の『サプール』、オーネット・コールマン

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28. Ornette Coleman,『Sapeur』in Jazz world : text by Yoko Takemura 竹村 洋子
photos : SAPEURS the Gentlemen of Bacongo: Daniele Tamagni & Paul Smith 2015, Pinterestより引用

このコラムを始めて2年以上経った。家庭の事情で自宅に居なくてはならないことが多くなり、その時間に私自身がファッション・マーケティングをやっていたバックグラウンドを生かし、何か気楽に書けないだろうかと思った事がきっかけで、軽い気持ちで始めた。

最初の頃は自分の好みで気に入ったミュージシャン達のファッションをランダムに取り上げていた。このコラムはファッション評ではない。ファッションを通してミュージシャン達の別の側面や時代背景などを見てみる。また、音楽もファッションも文化であり、その共通点や相違点をジャズミュージシャン達を通して見てみよう、というのが趣旨である。

始めてみると、ミュージシャン達のファッションの思わぬ事に気付かされたり、新しい発見も多々あり、どんどんハマってしまい、話の本筋から脱線してしまった事もあった。テーマはファッションであるが、対象はミュージシャン達である。取り上げるべきミュージシャンは挙げたらきりがないほどいる。取り上げたい事柄もまだまだ沢山あるが、私の持つ情報量やヴィジュアルの少なさ故に、なかなか1本のコラムに至らなかったミュージシャンも数多い。

今回のオーネット・コールマンもその一人だ。この人のファッションについてはコラムを始めた当初から気になっていたが、個人的にフリー・ジャズにあまり縁がなく、このジャンルの音楽にあまり詳しくないので避けてきていた感がある。フリー・ジャズを初めて聞いた?十年前には、『演奏者が集まって、好き勝手に盛り上がっている』位の認識しかなかった。ただオーネット・コールマンに関していうと、意外と聴きやすく、『とても熱く凄い演奏をする人』という印象があった。そして、この人のファッションについてはずっと気にかけていた。

オーネット・コールマン(Ornette Colman: 1930年3月19日~2015年6月11日)テキサス州フォートワース生まれのサックス奏者。アヴァンギャルドなフリー・ジャズの先駆者として知られている。
14歳の時に母親からアルトサックスをプレゼントされる。1950年にロス・アンゼルスに渡り、いくつかのリズム&ブルースバンドで活動後ドン・チェリー(トランペット)らとグループを結成。1958年にリードアルバム『サムシング・エルス:Somethhing Else!!!!』を発表。1959年『ジャズ来るべきもの:The Shape Of Jazz To Come』、1961年には『フリー・ジャズ:Free Jazz, A Collective Improvisation』など、前衛的な作品を発表してジャズ界に大きなセンセーションを巻き起こした。モダンアートのアーティスト、ジャクソン・ポロックや、作家のノーマン・メイラーといったニューヨークのセレブリティ達も演奏を聴きにライブに訪れた。
1959年11月のニューヨーク・デビュー以降、一挙一動がジャズ界の注目の的となる。
1962年に活動を一旦中止するが、’65年にカムバック。トランペットやフィドルも演奏するようになる。
1970年以降はフリー・ファンクとも呼ばれるユニット『プライム・タイム・バンド』を結成。
2007年にはピューリッアー賞、第49回グラミー賞においては『特別功労賞生涯業績賞(Life Achievement Award)』を受賞。日本の高松宮記念世界文化賞(ジャズからはオーネット・コールマンとオスカー・ピーターソンの2人のみ受賞、賞金1500万円。)その他数多くの賞を受賞している。

デビュー当時のオーネット・コールマンのファッションは極めて地味である。1950~60年代半ばまではシンプルなセーターやスーツ姿が多い。ブラックのセーターを着てサックスを抱えている写真は、彼のアルバム『ジャズ来るべきもの』のアルバムカバーにもなり、よく知られているが、非常に端正な姿である。ブラックのセーターはネックホールにホワイトのトリミングが施してあり、セーターの下にはホワイトシャツでキリッとシックに決めている。オーネット・コールマンもこの時代多くのミュージシャンと同様に、アイビー・スタイルで決めていたのだ。

その彼のファッションは1960年代半ばから、どんどん派手で過激に歳を重ねていくのと同時に面白くなってくる。
柄物や光沢のある鮮やかなカラーのジャケットを着始め、シャツやネクタイもカラフルな物へとなっていく。ジャケット素材は刺繍やストライプ、チェックの織り柄のあるものや、サテンやローシルク(精製しない素朴な絹で織った生地)レザーなど。シャツはシャンブレー素材の物をよく着ている。(シャンブレー:縦糸に色糸、横糸に白糸などの縦糸とは違う色糸を使って平織りにした生地。サテン地同様、光沢がある。)
ややもすればチープになりがちな派手な素材を上手く着こなしている。色は、ブルーが大変お気に入りようだったようだ。そしてお決まりのポークパイ・ハット。

オーネット・コールマンのファッションを見ていると、コンゴ共和国のファッション集団 『サプール』と重なって見える。
『サプール (Sapewr)』とは、現在でもエボラ出血熱の流行が続いているアフリカの中でも最も貧しい国の一つであるコンゴ共和国のおしゃれな男性達の集団である。『おしゃれで優雅な紳士協会(La Societe des Ambianceurs et des Personnes Elegantes)』のことで、パリの紳士服に身を包んで街を闊歩する人達のスタイルのことを言う。

コンゴは熱帯であり常夏の国であるが、週末になると、サプール達は欧米の有名ブランドのカラフルなスーツやネクタイを身につけ街に繰り出していく。彼らの大半はサトウキビや農畜産物を生業にしているため決して裕福ではないが、その収入の殆どをファッションに注ぎ込んでいるらしい。『世界一ファッションにお金をかける男達』なのだ。
サプールのファッションにはコーディネートするカラーは最大3色、という鉄則がある。派手さよりもいかにシンプルなカラーの組み合わせでお洒落に着こなすか、という事がポイントなのだ。イギリスのファッションデザイナー、ポール・スミスも彼らに大いに刺激を受け、コレクションに反映させ、本まで書いている。
サプールのルーツは、1884年からフランスに統治されていた植民地時代に遡る。コンゴの人達はフランス流のエレガントなファッションに出会い、西洋への憧れからスタイルを真似しようと始めた。当時のサプールは名だたるデザイナー達の服、靴、アクセサリーなどを身につけてお洒落をすることが目的だった。1960年のコンゴ共和国独立と共にサプールの文化は定着して行った。
長引く内戦と国内の混乱の中、『武器を捨ててエレガントに生きる』という哲学をそのファッションに反映させて行った。そして外見だけでなく、『サプール』である事は、紳士的な態度、仕草、礼儀を会得しておく事も大切な要素として認識されていく。現在では非暴力、平和の象徴的なスタイルとしても認められ、庶民や子供達にも英雄的な存在として一目置かれている。

オーネット・コールマンが『サプール』の存在を知っていたかどうかは定かではないが、モダンアーティストのジャクソン・ポロックと交流のあった人である。知っていても不思議はない。

オーネット・コールマンのファッションは、一見、派手で気に入ったものを好き勝手に無秩序にコーディネートしているように見えるが、決してそうではない。サプールと同じように彼なりのルールがある。ベースアイテムはシャツとシングルブレストのジャケット、派手なカラーは2色以上は組み合わせない、柄と柄がぶつからないようにする、『マイカラー(ブルー)』がある等。

ファッションに『こうあるべき』はないが、美しいもの、素敵だと感じるものには必ずルールやセオリーがあるだろう。素材感のマッチング、カラー・コーディネション、アイテムのサイズや丈のバランスなど、ファッションのセンスの良さのベースにはまずバランス感覚の良し悪しがあると思う。しかしルールだけでは面白くない。きっちりと決めたトラディショナルなスーツをいつも着ていたら飽きて退屈してしまうだろう。1960年代に大流行したお行儀の良いアイビー・スタイルの後、人々が求めたファッションはもっとカジュアルで自由なものだったし、ジャズミュージシャン達は着崩す事をヒップとした。既存のスタイルをベースにしながらも、ちょっとしたアンチテーゼや遊び心があるファッションの方が面白い。

これは音楽もファッションも同じなのではないだろうか?
メンバーが好き勝手に集まって演奏するからフリー・ジャズなのではないだろう。オーネット・コールマンは「音楽はスタイルではなく表現だ」と語っていたらしいが、ファッションも自己表現だ。彼のファッションからは既存の枠組みから自由になろうとする新しい試みと革新性を感じる。

オーネット・コールマンが派手なジャケットやスーツを着てポークパイ・ハットを被り、サックスを手に取りカメラに収まる姿は決して過激ではない。どこかとぼけたユーモアさえも感じる悪戯坊主といった印象さえ受ける。彼の中には『サプール』の『武器を捨てエレガントに生きる』という哲学と共通するものがあるような気がしてならない。

*参考文献

SAPEURS the Gentlemen of Bacongo: Daniele Tamagni & Paul Smith 2015

<Cologne >Ornette Coleman & Prime Time Band 1987

Ornette Coleman Quartet – North Sea Jazz 2010

 

竹村洋子

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に寄稿。(2016)

One thought on “ジャズ・ア・ラ・モード# 28.ジャズ界の『サプール』、オーネット・コールマン

  • 稲岡編集長
    2019年12月3日 at 6:30 PM
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    1975年だったか、評論家の悠雅彦さんとダウンタウンにオーネットのArtist Houseを訪ねたことがある。近所のデリにソフトドリンクを買いに走ったり、アフリカで撮影したビデオを見せてくれたり、とてもフランクな対応をしてもらった。
    翌日の夜、篠原有司男さんのロフトのパーティに誘われた。そこへ登場したオーネットのコートに目を奪われた。ヴァイオレットのレザーのロングコート。今回の口絵のシャツよりダークだったが、彼のセンスの良さに驚いた。口絵のヴァイオレットのシャツを見て鮮やかに記憶が蘇った。

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