ジャズ・ア・ラ・モード #46.フランク・シナトラの『オレンジ』

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#46. Frank Sinatra in orange
text and illustration  by Yoko Takemura 竹村洋子
photos: Pinterestより引用

色のもつイメージとジャズ・ミュージシャンについて、ソニー・ロリンズやマイルス・デイヴィスの『レッド』について触れたことがある。(#25. ソニー・ロリンズのレッド参照

フランク・シナトラのイメージカラーと言えば『ブルー』だろう。シナトラの『ブルー・アイ』は誰もが知るところである。
もう一つお気に入りの色は『オレンジ色』だったようだ。シナトラ・ファンの方なら何を今更?と思われるかも知れない。

男性ミュージシャン、特にシンガーの場合、ステージ・コスチュームは殆どの場合スーツかタキシードであり、そこには服にも着こなしにもルールがある。ポケット・チーフ(正式にはポケット・スクエアと呼ぶ)やネクタイの色がアクセントカラーとなるくらいで、ファッションに遊びが少なく、女性のファッションのように選択肢が豊富ではない。カジュアル・ファッションに関していうと話は少し違ってくる。

ファッションにおいて、自己表現をするのに『色』というのはコストも然程かからず一番簡単に手に入るものだろう。凝った素材や複雑なカッティングのデザインの服は生産コストがかかる故、服の単価も高くなる。特に目立つ色はそれ自体が個性である為、あまり凝ったデザインである必要はない。

シナトラは、カジュアルなオケージョンではオレンジ色の服をよく着ていた。そして時々、レッドやイエローでも登場していた。アルバムカバーやコンサートのプログラムにもオレンジ色がよく使われていた。

『オレンジ色』とは一般的には柑橘系フルーツのオレンジの色のことを言う。晩年シナトラが住んでいたアメリカ、カリフォルニア州はオレンジの産地である。たっぷりの太陽と肥沃な大地で育ったオレンジはビタミンC、B、マグネシウムなどを豊富に含む。アメリカ人の朝食には必ずと言って良いほどオレンジジュースが登場する。アメリカ人の2日酔い対策はカリカリに焼いたベーコンとオレンジジュースだという。
サム・ネスティコ作曲でカウント・ベイシーが演奏した『オレンジ・シャーベット』と言う曲があるが、甘酸っぱいオレンジ・シャーベットはカウント・ベイシーの好物だったそうだ。微笑ましい話だ。
日本では中秋の名月と呼ばれ、アメリカではハーベスト・フル・ムーンという満月はオレンジ。夕陽や紅葉など少し黄昏時のイメージもある。
ガーベラ、ダリア、ポピー、かぼちゃ、にんじんなどもオレンジ色。
オレンジ色は赤と黄色の中間の色で色味には少し幅があるが、ポジティブなところでは暖かく、酸味があり、明るく、健康的で豊穣なイメージがある。

目立つ色であることも間違いない。
アメリカでは囚人服はオレンジ色という刑務所は多い。アメリカで実話を基に作られた『Orange Is The New Black(オレンジは最新の流行、という意味)』という女子刑務所の実態を描いたコメディでシリアスなヒューマン・ドラマがある。彼女たちの着る囚人服はオレンジのつなぎだ。(余談だが、このドラマのせいで普段着にオレンジ色のつなぎを着る人達が増え、本物の受刑者が刑務所外で活動する際に識別できなくなってきており、最近は囚人服も白×黒のストライプに変ってきているようだ。)
アメリカ合衆国の宇宙服はオレンジだった。スペース・シャトル上昇、突入用のスーツで、どんな風景の中、特に海の中で非常に視認性が高い色であったので使われた。宇宙高級業界ではこのオレンジ色をインターナショナル・オレンジと呼ぶ。
工事現場や犯罪現場に置いてある円錐のコーン、注意喚起を促すポスターや看板などにもよく使われる色でもあり、少し赤みの強いオレンジで、ちょっと危険なイメージもある。

シナトラは、冬場のカジュアルなセーター類、夏物のカジュアル単品、シャツ、ショートパンツ、スイムウエアなどにオレンジをよく着ていたが、晩年タキシードのジャケットにオレンジ色のポケット・チーフを合わせてもいた。
何故、シナトラはオレンジが好きなのだろうかとずっと考え続けている。もちろん本人が好きだったからに違いないが。シナトラ好みのオレンジは淡い色調のものから鮮やかなものまで、少し暖かみがあり明るい。

明るいカリフォルニアの太陽の下、才能に溢れて女性にもモテるちょっと危険な男性の表現にぴったりのカラーだと思う。飲み過ぎた次の朝、オレンジジュースを飲み、ベーコンを食べてオレンジ色のカジュアル・ウエアを着て身も心もスッキリさせていたのだろうか?

冒頭に述べたように、シナトラのイメージカラーは『ブルー』である。色彩学的にいうと、『ブルー』と『オレンジ』は補色である。補色とは、2つの色を混合すると無彩色が作れる有彩色の組み合わせをいう。色相環で円の反対に位置するのが補色であり、反対色、対照色とも言われる。(マンセル・カラー・サークル参照)補色同士の色の組み合わせは互いに色を引き立て合う相乗効果があり、『補色調和』と言われる。

 

シナトラのブルー・アイは誰もが知るところである。『ブルーの瞳』を引き立たせるのに選んだのが『オレンジ色』なのかも知れない。『オレンジ』が『ブルーの瞳』をより魅力的にしたのかも知れない。読者の皆さんには、こじつけに過ぎないと思われてもこれも一つの事実だろう。
シナトラは自宅の一室にアトリエを設け、油彩で抽象画を描くのが趣味だった。時間のある時に次々と描き、描き上がったものはサインもせずに親しい人達に配っていたらしい。サインがないので市場に出回っていないようだ。数十年前にアメリカのドキュメンタリー番組でパウル・クレーばりの絵を描くシナトラを観たことがある。そんなシナトラが、色彩学は知らずとも『色彩』についてのセンスがないはずはない。

オレンジをスタイリストが合わせたかシナトラ自身が選んだのかは不明だが、シナトラは偉大なシンガーであるとともに知る人ぞ知るアーティストだったのだから。

You-tubeリンクは1985年、東京、武道館でのコンサートから、タキシードにオレンジ色のポケットチーフを合わせている。

<New York New York> Frank Sinatra@ 武道館、東京、1985年

*参考文献
Remembering Sinatra: A Life In Pictures

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に寄稿。(2016)

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