ジャズ・ア・ラ・モード #48 水玉模様とお月さま: Polka Dots and Moonbeams

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48. Polka Dots and Moonbeams
text and illustration by Yoko Takemura 竹村洋子
photos: Pinterest, Gettyimages より引用

ジャズのスタンダードナンバーの一つに<ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス:Polka Dots and Moonbeams>という曲がある。この曲を聴く度に、1930年代の女性のファッションとカップルの微笑ましい状況を思い浮かべる。

<ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス:水玉模様とお月さま>はジョニー・バーク(1908~1964)作詞、ジミー・ヴァン・ヒューゼン(1913~1990)作曲によりフランク・シナトラがトミー・ドーシー・オーケストラのバックで唄い1940年に初めて録音されヒットした。
バークとヒューゼンはミュージカルや映画の音楽を一緒に作っていたが、映画の音楽での成功の方が大きかったようだ。このチームは1940年代に大ヒット曲のいくつかを残した。 バークは1939年にパラマウントと契約を結んで作詞家として活動し、ビング・クロスビーの映画に多く取り組んでいた。バークが取り組んだ41本の映画のうち、25本がビング・クロスビー主演で『Pennies from Heaven』、『I’ve Got a Pocketful of Dreams』、『Only Forever』、『Moonlight Gets You』、『Sunday, Monday or Always』など、17曲が大ヒットした。
ビング・クロスビーの映画『我が道を往く』の中の曲<Swinging on a Star>は、1944年にアカデミー賞のベストソングを受賞した。

<ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス>はミュージカルとも映画とも関係なく作られ大ヒットした。どのような歌詞だったのだろか。その一部を紹介しよう。

[VERSE]
Would you care to hear the strangest story?
At least it may be strange to you
If you saw it in a moving picture
You would say it couldn’t be true

[CHORUS]
A country dance was being held in a garden
I felt a bump and heard an “Oh!, Beg your pardon”
Suddenly I saw polka dots and moonbeams
All around a pugnosed dream

The music started and was I the perplexed one
I held my breath and said “May I have the next one?”
In my frightened arms Polka dots and moonbeams
Sparkled on a pugnosed dream

(中略)

Now in a cottage built of lilacs and laughter
I know the meaning of the words “ Ever After”
And I’ll always see polka dots and moonbeams
When I kissed the pugnosed dream

日本語に訳すとこんな感じである。

[ヴァース]
ねぇ、ちょっとこの珍しい話を聞いてくれないかな?
こんな話、君もあまり聞いたことがないと思うよ
でも、もし映画か何かで見たことがあるなら
そんな話ありえないよ!って言うだろうね

[コーラス]
庭でカントリー・ダンスをやってたんだ
ドシンッ!と、誰かがぶつかってきて「あ、ごめんなさい!」っていうのさ
ふと見ると、『ちょっと鼻が上を向いた可愛い女の子』がいて
ドレスの水玉模様に月の光が輝いてて、僕の目がクラクラしちゃったんだよ

次の曲がはじまると、僕はもうすっかりその娘におどおどしちゃって
でも息を殺して、「次の曲、僕と踊ってくれませんか?」って彼女に言ったんだ
そうしたら驚いたことに、
僕の腕の中に『ちょっと鼻が上を向いた可愛い子』が入ってきて
水玉模様のドレスに月の光があたって
次の瞬間パチパチ!っと、火花が飛び散ったんだよ

(中略)

今、二人でライラックの花と笑いに包まれた小さな家にいて
子供の頃に読んだ物語の最後に締めくくられていた
「二人はずっと幸せに暮らしましたとさ。」
っていう言葉の意味を心からかみしめているんだ
だからこの先も、その『ちょっと鼻が上を向いたカワイイ女の子』とキスをする時は
あの日、あの水玉模様のドレスを着て月の光の中で輝いていた君を
僕は思い出すだろうな・・・

the end.

月夜の晩の野外でのダンスパーティーで女の子に一目惚れ。プロポーズして結婚し、今幸せに暮らしている。それだけのお惚気話とも言えるのだが、『野外のダンス・パーティ』、『ちょっと上向いた鼻』、『水玉模様のドレス』、『お月さまの光』が入ってくることで、いかにも庶民的で、暖かく、ちょっぴりユーモラスな雰囲気が感じ取れる。この曲が最初にリリースされたのが1940年なので、おそらく1930年代中頃から後半にかけての状況だろう。
アメリカは非常に不安定な時期だった。世界大恐慌(1929~1939)からようやく回復の兆しが見え始め、第2次世界大戦(1939~1945)に入る頃だ。

この『水玉模様(以下ドット)』。ファッション的には柄の中で一番ポピュラーだろう。 歴史は古い。ドットは玉の大きさによって、大きいものからコインドット、ポルカドット、ピンドットと大きく3つに分類される。コインドットやピンドットは文字通り、コインやピンの跡といった大きさを表している。女性なら何かしらのアイテムで一生のうち一度は身に付けるだろう。
ドットは1800年代後半からあった。ポルカドットの“ポルカ”は“ポルカダンス”から由来しているが、模様とダンスとは何の関連性もない。ポルカダンスが当時大人気だったので、ポルカドットはダンスの名と共に流行しただけの話。
ドットは1930年代から1950年頃までの長い期間に、アメリカを中心に日本でも最もに流行した柄の一つと言えるが、特に<ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス>がヒットした1940年には、多くのファッション・デザイナー達がこの歌に影響され、ポルカドットのファブリックで服を作った。当時のファッション誌に山ほど見られる。

 

ジャズ・シンガーか女優でこの時代にドットのドレスを着ている人がいないか探してみた。サラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリデイ、モニカ・ゼッタールンドなど何人かのシンガーが典型的な1930~1940年代に流行ったドットの柄のアイテムを身につけていた。エラはどんな大きさのドットも好きだったようだ。
ハリウッド女優にも人気があった。まだ若い頃のルシル・ボールはまさにこの歌のイメージ、というポルカドットのドレスを着ている。(彼女の鼻は上を向いてはいないが)

この歌の中でのポルカドットのドレスの特徴としては、肩がちょっと張り、袖山にギャザーが少しあり、ウエストマーク、スカート部分は控えめなフレアシルエットで膝が隠れるか、ミモレ丈(ふくらはぎ丈)だろう。ガーデン・パーティで着るドレスなのでカジュアル感があるはず。
素材は落ちのある綿、あるいはこの時代にポピュラーになり始めた光沢感とドレープ感のある合繊のレーヨンやビスコースといった素材ではないだろうか。地の色が黒か、紺、もしくは濃いワインレッドなどのダークなカラーが一番ポピュラーだったはずだ。が、この歌の中ではそんなドレスの地の色はさして重要ではない。とにかく『水玉模様のドレスに月の光が輝いた』のだ。

ストライプとドットは柄の中でも一番シンプルで、生産コストがかからないので、世の中が不景気になると流行ると言われている。シンプルであるが故、飽きがこない柄でもある。時代が変わっても多くの人たちに愛され、ジャクリーン・ケネディ、アマル・クルーニーといったセレブリティもうまく着こなしている。ダイアナ妃もドットのドレスが好きだったが、比較的体が大きいこともありコインドットの方がよく似合う。

ドットはどちらかというと、レディス・ファッションに多く使われるが、メンズ・ファッションでもフランク・シナトラがネクタイに、マイルス・デイヴィスがスカーフに使用したり、現在ではデザイナーズブランドもドットのシャツも多く作っている。ネクタイはメンズ・ファッションの定番アイテムになっているだろう。生地の色もどんどんカラフルになって来ている。

<ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス>はフランク・シナトラが1940年にヒットさせて以来、男女を問わず多くのシンガーやミュージシャンがカヴァーしている。男性シンガーではシナトラと並んで有名なのがナット・キング・コール。女性シンガーではエラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、レナ・ホーンなど。

サラ・ヴォーンのヴァージョンはコーラスの初めの方で何かにぶつかり、”ドン”!という音が録音されていて、あたかも歌詞さながらで可笑しい。
演奏はかなり多い。有名なところではウェス・モンゴメリー(g)、チェット・ベイカー(tp)、デクスター・ゴードン(ts)オスカー・ピーターソン(p)、ポール・デスモンド(as)、バド・パウエル(p)等。
個人的にとても好きなのが、ジェリー・マリガン(bs)とジョン・コルトレーン(ts)の演奏だ。
ジェリー・マリガンは甘く、ほんわりとした雰囲気のバリトン・サックスの音色がこの歌のイメージをよく表現しているように感じる。
コルトレーンがこの曲を演っているのはちょっと意外だったのだが優れたミュージシャンは皆バラードの名手と言われる。彼の<ポルカドッツ・アンド・ムーンビームス>は、力を抜き、気負うことなくロマンティックなムードを醸し出している。『水玉模様のドレス』と『お月様の光』が持つ不思議な魔力の成せる技だろうか?歌詞のイメージをとてもうまく表現した微笑ましい演奏で好感が持てる。ファッションやお洒落とは無縁のコルトレーンにも水玉模様のドレスを着たガール・フレンドがいただろうか?水玉模様のネクタイは持っていただろうか?コルトレーンは何を考えてこの曲を吹いてたのだろう。時代の先端を行く人は皆ロマンチスト?などと想像が膨らむのも楽しい。
シナトラのドット・タイにクラクラした女性も数多いだろう。水玉模様は単純だが不思議な魅力を持った柄だ。

*You-tubeリンクは1940年録音のフランク・シナトラと、1956年録音のジョン・コルトレーン。コルトレーンの方はトランペットのドナルド・バードが勢いよく演奏している。
最後は1954年録音のサラ・ヴォーンの” ドン!”という音が録音されたヴァージョン。

<Polka Dots And Moonbeams>John Coltrane 1956

<Polka Dots And Moonbeams>Sarah Vaugh1954

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に寄稿。(2016)

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