ジャズ・ア・ラ・モード #57. ビリー・ホリデイの『ビッグ・ボウ・ドレス』

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57. Billie Holiday in the big bow dress
text and illustration  by Yoko Takemura 竹村洋子
photos:In Vogue: Georgia Howell, Cosmopolitan America, Pinterestより引用

ビリー・ホリデイといえば、ジャズシーンの中でも一際ファッションセンスが良く、常に最高級のものを身につけファッション・アイコンの一人だった。このコラムでも既に7回目の登場になり、ビリーのファッションだけで1冊の本が書けそうだ。
ビリーのファッションはステージ・コスチュームであってもカジュアルなものであっても非常に洗練されており、その時代のトレンドセッターとでもいうべきスタイルでだった。

ところが、数ある彼女のドレスの中に、どうしても理解できない、どう理解したら良いものか分からないドレスがある。
ドレスの前見頃中央に巨大な蝶が羽根を広げたかのような大きな黒いリボンがついており、強烈なインパクトのあるドレスである。ビリーはこのドレスを気に入っていたのだろう。1940年代後半から1950年代に頻繁に着ており、写真も数多く残されている。

このドレスは何かおかしい、とずっと思っている。ビリーに似合っているのか、似合っていないのかも分からない。
まず、ステージ・コスチュームとして作られたことは間違いない。こんなドレスで町中を歩く姿はいくらビリーでも想像できない。だが、見方によってはユニークでとても面白い。
ドレス母体のトップは夏場の普段着や一見下着に使われるようなコットンレース素材のノースリーブで襟ぐりの広いVネック。ボトムのスカートは、張りのあるタフタのような素材で作られており、ボリュームがある。丈は全体のカジュアル感からミディかミモレ丈だっただろう。トップとボトムのつなぎ目の縫製がいかにもお粗末な仕上がりだ。そして、前見頃中心にスカートと同素材の大きなリボンが付いている。この場合、『リボン』というより『ボウ』というのが正しい。
このボウのつき方が何とも理解できない。襟ぐりのVネックに対して、ボウの上の端が水平になったり、ボウが胸の膨らみを覆っているようにも見える。

『リボン』は物を束ねる時に用いる紐状の織物のことで、大体が平たく細長い。主に髪を結んだり、贈り物を結んだりするのに使われる。また、勲章、胸章、トロフィーやペナントなどにも使われる。洋服では、ベルトやストラップ、装飾に使われたりする。結び目を作って装飾性を持たせたものが多く、その時の結び方から『リボン結び』や『蝶結び』と呼ばれる。その蝶結びしたもののことを『ボウ:bow』と呼ぶ。
このビリーのドレスの巨大なボウは装飾としてではなく、服の大きなパーツと捉えるべきだろう。

ボウは歴史的に見ると18世紀のロココ様式が流行した頃のドレスによく見られる。当時のトレンドセッターだったマリー・アントワネットのドレスには大きなボウがついているのをよく見る。この時代の上流階級の女性たちはリボンやボウがついた総力性たっぷりの服で着飾っていた。

近代では1920年代、ココ・シャネルはニットドレスにボウを編み込みのモチーフとしたドレスを発表している。これは、他のデザイナーたちにもコピーされた。

1930年代以降はドレスの装飾やアクセサリー的な使い方が圧倒的に多い。

また、ヘア・アクセサリーとしては時代を問わず支持され続けている。リボン、ボウ共に、服につける場合、どちらかというとガーリッシュ、女の子っぽい可愛い印象になる。

男性のファッションの場合は『ボウ・タイ』が一番わかりやすく、これしかないだろう。
蝶結びの形状から『バタフライ』と呼ばれる。ジャズ・ミュージシャンで似合うのは、誰だろうか?ベニー・グッドマンやフランク・シナトラが浮かぶ。

2021年にアメリカHuluが制作した映画『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs ビリー・ホリディ:The United States vs Billie Holiday』では、プラダ(PRADA)とのコラボレーションにより華やかな衣装が再現されていた。コスチューム・デザイナーのパオロ・ニードゥがビリーのドレスをリメイクしているが、デザインは似て非なるもので、これまた首をかしげたくなる。ボウの大きさや位置はバランスが良いのだが、その地となる見頃のデザインが、白黒生地のパネルのパッチワークの様で、ボウはオリジナルより小さめのものがウエスト位置についている。


どこかおかしい、と言っても、読者の中にはこのドレスを素敵だと思われる方もいるだろう。それはそれで主観の問題なので、正解はない。
しかし、ビリー・ホリディの評伝ともいえる映画なのだから、ビリーの本物のドレスを忠実にコピーすれば良いのに、どうしてデザイナーはこんな事をやってしまったの?という様なリメイクである。筆者の勝手な想像だが、パオロ・ニードゥも、ひょっとするとオリジナルのボウ・ドレスのデザインに何かしらの疑問を持っていたかもしれない。オリジナルのドレスの奇抜ともいえる “何か変なところ” を省いてしまったがため、逆にさらに変なデザインになってしまった様な気がする。

ここ数年のアカデミー賞をはじめとするレッド・カーペットに登場するセレブリティたちの中に、何人か大きなボウをつけたドレスを着ていた人がいたのを思い出し、探してみたところ、意外や意外。ビリー・ホリデイのドレスに負けないような大きなボウ・ドレスを何着か見つけた。
ファッションは繰り返すものでもある。中には、ビリーのドレスからインスピレーションを得たのではないか?と思えるようなものもあった。これが美しいか、素敵だと思うかはここではコメントを控え、読者の判断にお任せする。
このコラムはファッション評でもミュージシャンのファッションチェックでもなく、ジャズ・ミュージシャンたちのファッションから、読者の方々が何か少しでも感じ取っていただけたら、というのが趣旨なので。

ビリー・ホリデイのドレスは本人がどう言った心境の時に作って着ていたのか想像できない。誰がデザインしたのだろうか?調べてみたがわからなかった。誰かのギフトだろうか?
ここは、このビッグ・ボウ(リボン)・ドレスについてあまり追求するのはやめよう。物事には、時に “解きほぐせないこと”もあるのだから。

You-tube リンクは< オール・オブ・ミー:All Of Me>ビリーは甘く語るように歌い上げている。バックはレスター・ヤング(ts)、レスター’シャッド’コリンズ (tp)、エディ・ベアフィールド(as)、エディ・ヘイウッド(p)、ジョン・コリンズ(g)、ケニー・クラーク(ds)、レズリー・ジョナキンス(as)、テッド・スタージス(b)。
< オール・オブ・ミー:All Of Me>

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に寄稿。(2016)

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