ジャズ事始め Vol.7 金澤英明(ベーシスト)
text & photo by Moto Uehara 上原基章
2026年初の「ジャズ事始め」は、前回登場していただいたピアニストの石井彰さんの盟友である金澤英明さんの登場です。辛島文雄トリオを皮切りにジョージ大塚WE THREE、近藤房之助、日野元彦、日野皓正など錚々たるメンツのバンド・サウンドを力強いリズムで支えた金澤さん。2023年11月に故郷の札幌に拠点を移しながら、今もレコーディングやライブに引っ張りだこの金澤さん。実は遅咲きのジャズとの出会いは、意外な1枚から始まりました。
上原:さあ、今日は金澤さんのジャズ人生における「ヰタ・セクスアリス」を赤裸々に暴かせていただきます。
金澤:どんと来い!
上原:プロフィールを見ると1954年3月北海道札幌生まれですよね。 そもそも金澤さんが育った環境に音楽は存在したのでしょうか?
金澤:それが全く無かった!(笑)記憶を辿ると、中学の入学式のオリエンテーションでブラスバンドを聴いてえらく感動したことは覚えてる。それまで音楽に感動したことなんか無かったから、ある意味これが音楽初体験だったのかな?でも、その瞬間に「オレも楽器をやりたい!」と思ってすぐに中学校のブラスバンド部に入りましたね。
上原:ブラスバンドって楽器がいっぱいあるじゃないですか。やりたいと思った楽器は何だったんですか?
金澤:笑うなよ。クラリネット!
上原:おお!(笑)
金澤:今考えても何でだか分からないけど、アンサンブルみたいなものに共鳴したんでしょうね。それは今も続いているかも。でも、クラリネットをやりたいと思ったその時はベニー・グッドマンも北村英治さんも知らないわけですよ。ただただ、クラリネットという楽器が好きになっちゃった。だから手本になるプレイヤーは1~2学年上の先輩しかいなかった。
上原:ブラバンに入ってから音楽への興味っていうのは湧いて来たんですか?
金澤:音楽との出会いは中学に入学してブラバンに入った時だったけど、実は 親父に「勉強しないで楽器ばっかりやってちゃダメだ!」って1年で辞めさせられたんですよ。その反発もあってか、「もう音楽なんかやるか」と思ってスポーツやったりして高校まで過ごしたんだけど、大学で東京に出て来た時に1枚のレコードと出会ってしまった。それがあの有名なカモメのジャケット、チック・コリアの『リターン・トゥ・フォーエバー』です。B面2曲目に入っている<Sometime Ago/La Fiesta>のスタンリー・クラークのソロを聴いて、「こんなに自由な世界があったんだ!」「これは多分クラシックみたいに譜面に書かれた演奏じゃないぞ!こんな勝手なことしていいのか?」って感じで、とにかくすごい衝撃を受けてしまったんです。
上原:その時にはチックやリターン・トゥ・フォーエバーがジャズだとかフュージョンだとかいう知識は全く無い状態ですよね。
金澤:そうなんだよ。大学の友達の家で「これが良いんだよ」って聴かせてもらったのが最初。とにかく衝撃の出会いだったんだ。
上原:ただ音を聴いて「えっ!」て感じてしまったんですね。幼い頃から楽器に親しんで、中学高校時代に「ジャズって何かカッコいいな」と思って大学でジャズ研に入るっていうのはよくあるパターンじゃないですか。 でも、金澤さんは大学に入って『リターン・トゥ・フォーエバー』を聴くまではジャズの存在自体をほとんど知らなかったんですね。
金澤:そう、全く触れる機会がなかった。
上原:そしてスタンリー・クラークのインプロヴィゼーションにビビンと反応してしまったのが十九とか二十歳の時。
金澤:そうだね。ちょうどその頃、仲の良い友達が「ジャズを聴きに行こう」って誘ってくれたんだよ。自分としては「へー。ジャズという音楽をやってる場所があるんだ」みたいな感じで連れて行かれたのが新宿歌舞伎町の「タロー」でした。
上原:誰が出演していました?
金澤:ジョージ大塚。メンバーは大野俊三さん(tp)、山口眞文さん(ts)、古野光昭さん(b)、大徳俊幸さん(p)にジョージ大塚さん(ds)。 初めての体験で何が何だか分からなかったけど、あんな小さい小屋で満員のお客さんを前でドンパチやる音楽なんて初めて体験。演奏中に古野さんがジョージさんに何か言われたりして、良く分からないけど<刺激的な世界>だとは思ったよ.
上原:それは金澤さん自身がベースを触る前の話ですよね この時のジョージ大塚クインテットの古野さんのベースを見て「カッコいい!」って感じたんですか?
金澤:もちろん感じましたね。それからレコードを集め始めました。するとあの日のジョージさんのバンドで演奏していた曲(「81」)を演っているレコードを見つけたんですよ。 それがマイルスの『ESP』だったな。
上原:すごい「引き」ですね!
金澤:それからは日々レコード店に通って買い漁り状態。例えば渡辺貞夫さんのバンドに古野さんが参加してるんだとかいろんな情報が僕の頭の中を駆け巡るわけですよ。ジョージさんのバンドを聴きに行ったらニューヨークに行った大野俊三さんの代わりに植松孝夫さん(ts)が参加していて、でもメンバーが入れ替わったのにバンドは相変わらずエネルギッシュにバリバリ演奏している。なんかもう<マジック>を見せられている感じでしたね。もう五十年くらい前の記憶ですけど。
上原:ちなみに、金澤さんはなぜベースを手にすることになったんですか?
金澤:ライブを見続けていく内に、もうベースが欲しくなって居ても立ってもいられなって、友達と一緒に中古楽器屋に飛び込みました。あの時は何の迷いも無かったと思うな。
上原:すごい行動力ですね。楽器屋で実際にベースを触ってみて「あ、この楽器は俺に馴染むな」っていう直感はありましたか?
金澤:馴染むかどうか以前に、ウッド・ベースのあの大きさに惚れたんですよ。ほら、プラモデルだって小っちゃいのよりもデカいの買った方が嬉しいみたいな。せっかくベースを買ったのでジャズ研に入ったんですが、友達の伝で青学じゃなくて慶應のジャズ研に入れてもらったんです。ビッグバンドじゃなくてコンボ系の方に。そこにはキーボードの笹路正徳とかスクエアの伊東たけしがいた。それとジャズ研同士の横のつながりで成蹊大のコンサートに行くとサックスの本多俊之やギターの加藤崇之がいたりと、なかなか大学のジャズ研も濃い時代でしたね。
上原:そんな環境で初心者ながらもセッションやバンドで演奏を重ねてジャズを覚え始めて行ったわけですね。
金澤;そういうことですね。あとはもう自分の部屋で日々レコードかけながら一緒に弾いてました。今思うと恥ずかしいぐらい合ってないんだろうけど、あの時はその気になっちゃってた。
上原:その時はどんなレコードと共演していたんですか?
金澤:例えばマッコイの『リアル・マッコイ』。マイルスは一緒に演っていても何か難しくてよく分からなかった。オースカー・ピーターソンは片っ端から一緒に弾いてましたね。 もちろんレコードの音と合ってないんだけど、合ってないから弾けたんだよね。その気になって居たから(笑)。
上原:その頃に好きだったベーシストは誰でした?。
金澤:先ずはロン・カーターとポール・チェンバース。その内にジミー・ギャリソンも好きになった。 ただ今思うと、そのプレイ内容よりもベーシストのパッションみたいなものが自分の身体の中に入って来たんだと思いますね。 ベースの一音一音の細かいニュアンスは分かっていなくても、プレイヤー自身の熱いエネルギーやソウルみたいなもの、それを体感してたのかなとは思いますよね。
上原:「パッション」という話で言えば、やはり金澤さんが長年一緒に演奏を共にした辛島文雄さんですね。
金澤:うん、そうなんですよ。今だから言えるけど、先ず辛島さんが目をつけてくれたっていうのは僕にとっては本当にラッキーでした。 毎日のように怒られたけど、後々になって辛島さんに「どうしてあんなに何も弾けなかったのに俺を使ってくれたんだ?」と聞いたら「お前が一番怒りやすかった」と言われた。 コイツなら怒ってもへこたれないだろうと思われたのかな?
上原:そもそもプロを目指そうと思ったのはいくつぐらいの時ですか?
金澤:そういう意味で言うと、自分のベースを手に入れた瞬間からだったかもしれない。プロを目指すとか、こうすればプロになるっていう目安は何もなかったけど、いきなり辛島さんに「お前、オレのバンドに入れ」って言われて、友達に「オレ、辛島文雄さんとかやるぞ」って言ったら「ええー!すぐクビになるからやめた方がいいよ」という感じでしたけど。でも、自分のプロフィールを見ると23歳の時ですよ。すごいでしょ?あの頃なんてオレは何も弾けてないんだよ。
上原:そもそもベースを買ったのが二十歳くらいの時でしょ?わずか3年で辛島さんのレギュラー・ベースになるなんて、結構無茶苦茶ですね。
金澤:辛島さんは物凄いピアノを弾けた人じゃないですか、だから共演するベースは「テクニック」じゃなくて「エネルギー」が欲しかったのかもしれない。日々怒られながらだけどさ。
上原:そういう意味で辛島さんは金澤さんの「パッション」を買ってプロの道に誘ったんでしょうね。
金澤:そう思いたいし、そう思って今もベースを弾き続けています。
(2025年11月22日新宿ピットインにて収録)
>>>以下、プロモ情報
金澤英明 最新アルバム『SHOWDOWN』
3月11日発売 税込¥3,300(TR2501)
https://kanabass.web.fc2.com
2024年10月から2025年3月まで、札幌芸森スタジオ、東京スタジオDedeで数回にわたって録音した本作は、自分の原点を探る旅でもあり、現在の自分の体内で鳴る音を追った結果でもある。参加共鳴してくれた演奏者の音の数々は自分の期待をはるかに超えたものであり彼等から放たれた音は心の豊かさと共に確固たる実力に裏付けられた至高のそれである。このアルバムに収められた音の数々を世間に問えることを誇りに思ってやまない。
<参加アーティスト>
金澤英明(b) 石若駿(ds) 小田原豊(ds) 近藤房之助(g.vo) 井上銘(g) 秋山一将(g) 金澤健太(g) 藤田貴光(org) 山元拓真(p.key) 高橋祐成(p) 五十嵐一生(tp) 林栄一(as) 吉川昭仁(engineer.per.)
※レコーディング集合写真&ジャケット写(表裏とも)
アルバム発売記念ライブ@新宿ピットイン
4月13日(月)19時半開演
金澤英明(b) 林栄一(as) 石若駿(ds) 高橋祐成(p)
http://pit-inn.com/artist_live_info/260413kanazawa/
4月14日(火)19時半開演
金澤英明(b) 近藤房之助(g.vo) 秋山一将(g) 石若駿(ds)
井上銘(g) 金澤健太(g) 林栄一(as) 山本拓真(p)
http://pit-inn.com/artist_live_info/260414kanazawa/



