JAZZ meets 杉田誠一 #106「浦邉雅祥 x 千野秀一」
text & photo by Seiichi Sugita 杉田誠一
2019年(平成31年)4月28日(日)
浦邊雅祥 (as) x 千野秀一(pf)
Bitches Brew for hipsters only 横浜・白楽
平成30年の幕が閉じた。 ぼくは、その最後の12年間を“Bitches Brew for hipsters only”と名付けた「表現の場」で、生きている。 目指すは、”Beyond Jazz”。 ジャズは、ジャズを超えることで、ジャズであり続けるのである。 平成最後のライブ@Bitches Brewは、 4月28日(日) 浦邊雅祥(as) x 千野秀一(pf) そのとてつもなくクールな対峙は、文字通り “Beyond Jazz” そのものではあった。 「アルトの息の根を止めるのは、ぼく以外にはいない」と言い切る浦邊が意識しているのは、 チャーリー・パーカー『オン・ダイアル』の「ラバー・マン」 エリック・ドルフィー『ラスト・デイト』(ライムライト)の「ミス・アン」 の2枚だけである。 ハナから浦邊は、ラジカルに千野秀一を執拗に挑発するも、千野は一環して淡々と、挑発には乗らない。 その奇妙なアンビバレンスが、不思議な確執を生み出し、楽しめる。 「よお、音ってこんなものなのかよお!」と、ピアノを叩くのは、浦邊。 まるで、映画の1シーンを冷徹に直視しているかのように、タバコを静かに燻らせる千野。 これは、まだまだちょっとしたイントロにしか過ぎなかった。
1951年生まれの千野秀一は、現在ベルリンに在住。 クラシカルで言うところのコンテンポラリーな作編曲家、即興演奏家として活動している。あのダウンタウン・ブギウギ・バンドの一員であった千野が、初めてのエレクトリック・ジャズ・ユニットを結成したのは、2013年になってのこと。セロニアス・モンク、オーネット・コールマン、カーラー・ブレイらを意識したと聞く。 これまで共演してきたミュージシャンは、浦邊雅祥のほか、大友良英(g)、林英哲(太鼓)、照内央晴(pf)が、記憶に焼き付いている。 さて、浦邊が一方的に挑発し続けるという関係性が、一瞬にして崩れるのは、ラストの15分足らずのことであった。それは、千野が叩き出したたった一音から開示される、いわゆるフリージャズの打楽されるピアノ世界ーーー。 それまで多面的なベクトルをもって蠢いていた空間が、唐突に、めくるめくひとつになる。 すぐれてノイズが、静寂を見せるように、時空が停止するのである。 千野が打楽するピアノは、とてつもなく流麗であり、華麗にうたってすらいるではないか。 ぼくたちは、紛れもなく来たるべき ”Beyond Jazz” の「いま」にいる。 令和元年の幕が上がった。