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小野健彦の Live after LiveNo. 305

小野健彦の Live after Live #339~#346

text & photos by Takehiko Ono 小野健彦

#339 7月15日(土)
表参道 live space ZIMAGINE
http://zimagine.genonsha.co.jp/
坂上領 (fl/司会)中村善郎 (vo/g) 橋本一子 (p/vo)

今日は’20/3 以来2度目の訪問となる表参道 ZIMAGINEにてマチネーライブを聴いた。

坂上領(FL/司会) 中村善郎(VO/G)橋本一子(P/VO)

聞けば共に共演歴の長い坂上=中村並びに中村=橋本 DUOの交歓による稀有な初顔合わせのトリオミュージックとなったが、中でも中村氏と言えば、本邦ボサノヴァ界を代表する表現者としてつとに知られる存在であり、かくいう私も今世紀初頭に発表された佳作盤の数々を長らく愛聴して来た経過はあったものの、そのナマのステージは未体験であり、今日ここに、最近その毎回趣きの異なる多面体の充実した表現活動に触れる機会の多い一子さんと、さらにそこに気鋭のフルート奏者坂上氏が加わるとあって、大いなる期待を胸に現場に向かった。

梅雨明け間近のコンクリートジャングルを抜け、B1Fのcaveを思わせるヒンヤリとした空間に逃げ込み冷たいジントニックで喉を潤していると、定刻13:30からややあって、それまで静かに客席後方にて選曲の作戦会議をしていた本日の演者三人が揃ってステージに姿を現した。

はたして、以降繰り広げられた2ステージ、約2時間では、両ステージ共に異なるDUO編成による息を飲むような深淵なるショーケースを効果的に挟み込みながら、トリオとしては、主にホザノヴァ物を素材に採りつつも(特に1stセットはオール・ジョビン・プログラム)、そのリズムとメロディが否応無しに纏う穏やかな耳あたりの良さからは少し離れた処に在って、この編成だからこそ実現し得る、よりエッジの効いた硬質なムードを持つ音創りが展開されて行った。

御三方の発する音の連なりに身を委ねていて、とくに印象的だったのはその清冽な体感温度とでも言うものだった。意外なほどにゴツゴツとしていて生々しい音像の奥に透かし見える鉱石のような煌めきがヒンヤリとした質感を伴って客席の隅々を満たすさまは快活この上なく、爽やかな微風のようなアンサンブルが続くかと思うと、一転、堰を切ったように全員が柔らかな攻めの姿勢に移る場面展開が鮮やかだった。

依って立つボサノヴァの持つ心地良さなどといった既成のイメージ/ムードを巧みに排そうとしているのでは?と私にはそこはかとなく感じられたそんな往き方が呼び込んだ、いかにもクールな局面のスリリングな連続が場を一層鎮めた感もあり、このところの不快指数高き天候にすっかり参っていた我が身にとっては、この上ない一服の清涼剤となったひとときだった。

#340 7月27日(木)
荻窪・VELVETSUN
http://www.velvetsun.jp/
十二本の弦と、五人の男:定村史朗(vn)石井智大(vn)瀬尾高志(b)芳垣安洋(ds)石井彰(p)

引き続く猛暑の中、待望のユニットとの出会いを求めて念願のハコへ。
今宵は初訪問の荻窪・VELVETSUNにて、『十二本の弦と、五人の男』を聴いた。

定村史朗(VN)石井智大(VN)瀬尾高志(B)芳垣安洋(DS)石井彰(P)

ほぐしてみると、両石井氏は「石井家」で、石井定村両名は小林真由子氏(箏)を加えた「three wisdoms 」で、さらに石井・瀬尾・芳垣の各氏は「tales of another」でと、それぞれに意欲的かつ創造的な音創りを続ける名うての表現者達がタッグを組む独創的な編成との待望の初対面に心躍らせながら海辺の町より都心部へ駆けた熱帯夜。

はたして、定刻20時からややあって幕開けした今宵のステージでは、ライブならではの比較的長尺にアレンジされたメンバーのオリジナル曲を多く取り上げながら、いかにも噛み応えのあるサウンドが展開されて行った。

絶妙に伸び縮みするリズムに対して、怪しげな音色を帯びながら絡みつくダブル・バイオリンのコントラストが秀逸であり、そんな5人のサウンドが攻めぎ合うところ、そこには雄大な風景が立ち現れて来たが、中でも印象的だったのは全体を支配する静謐な中にも不穏なムードとでも言えるものであり、その、こちら聴き人の遠い記憶さへも呼び覚ますような音の連なりには心騒つかされること度々であった。異様なまでの集中力を保持しながら多くを思索的なトーンで織り成された音像はさながら五次元を自在に浮遊した感があり、それは研ぎ澄まされた圧巻の空間芸術としてこちらの臓腑を貫いたと言える。

最後に、蛇足ながら恒例のライブ前の今宵の晩飯のひとときをひとくさり。
さしたる当てもなく、荻窪駅南口を彷徨った私はとある路地裏で趣きのある赤提灯と縄暖簾に遭遇した。聞けば創業7年ながら老舗の風情さへ漂う焼き鳥屋「鳥七」にて、美味なる串と肴(スルメイカの肝合えはとくに美味)に舌鼓をうった。(ご興味のある方は添付写真をご覧下さい)

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#341 8月4日(金)
西荻窪 アケタの店
http://www.aketa.org/
渡辺隆雄(tp)藤澤由二(p)

盛夏を迎え、なんとようやく今年2度目の訪問となった西荻窪アケタの店にて、待望のDUOを聴いた。

渡辺隆雄(TP)藤澤由ニ(P)

こちらのおふたりが局所的ながら意欲的なプログラムを携えその音創りを深掘りしていることは知りつつも未体験の中、11月にはその協働の成果をRECに問うことが決定したとの報を受け、昂まるその交歓の実相を目撃しようと酷暑の下を駆けた夜。

はたして、今宵のステージでは、何をさておき披露された楽曲のバラエティの豊さを特筆したい。前後半共に6曲ずつが用意された今宵のステージでは、おふたりの柔軟なセンスが投影されたじつに多彩な曲想を持つ佳曲の数々が披露されることとなった。

まず1stセットでは、幕開けから渡辺氏の卓越したソングライター振りを反映させた4曲を連ねたあとで、T. ウェイツ作〈johnsburg illinois〉並びにE. コステロ作〈you shouldn’t look at me that way〉へと繋ぎ、転じた2ndセットでは、各々のオリジナル各1曲のあと、自家薬籠中のA.C.ジョビン作品から〈Águas de Março〉と〈sabia〉で場を鎮め、(じつは私自身ぜひこのおふたりに採用して欲しいと密かに望んでいた)A. イブラヒム作品から〈the mountain〉を繰り出しつつ、A. ピアソラ〈tanti anni prima〉で締めた。

いずれもが印象的なメロディをもつ佳作の数々を、おのおの持ち味の、渡辺氏は哀愁と寂寥の情緒を色濃く帯びたどこか殺気と背中合わせの色気で、一方の藤澤氏は外連味の無い朴訥さを纏った艷やかで、存分に「吟じて」いった。深い相互理解から互いの動きに柔軟に対応しつつ自らの主張を刹那の内に描き切ったふたりの世界観は実直かつ深さと広さを兼ね備えたどこまでも伸びやかなものであり、総じてそのスピード感と抑揚に十分な目配せをした一夜の語らいは、人肌のペーソスとユーモアに溢れた聴き応え十分なものであった。今宵のステージに接したいま、今後さらにその協働作業が深化を遂げながら来たるべき REC の時を迎えて頂きたい、との実感を心底持ち得ることの出来た充実のひとときだった。



#342 8月5日(土)

表参道 live space ZIMAGINE
http://zimagine.genonsha.co.jp/
デラシネライブシリーズ2023:カルメン・マキ(vo/鳴り物)丹波博幸(g/vo/cho)清水一登(p/key/cho)

酷暑にマケズ進むLAL〈Live after Live〉。
今宵はこの夏二度目の訪問となった表参道 ZIMAGINEにて、カルメン•マキさん(VO/鳴り物)のデラシネライブシリーズ2023を聴いた。

w丹波博幸(G/VO/Cho)清水一登(P/Key/Cho)

目下、DUO、TRIO(野々宮卯妙氏らとの朗読ユニットを含む)等の小編成と5ピースのデラシネバンドを併行させながら、自らの内に去来する「今」の想いをこの令和の時代に向けて果敢に問うているマキさんであるが、今日はデラシネバンドの生命線とも言える名うての表現者ふたりを召集しての初顔合わせとなっただけに、こちら聴き人の期待も大きく昂まる中、定刻19:30からややあって音が出た。

はたして、以降の約2時間を通して、1stセットでは洋楽カバー(BeeGees、R.スチュアート/D. ウィッテン、G. ガーシュイン、D. ホランド、C. キング、M. ブルームフィールド & A.クーパー、B. レイット等)の。2ndセットでは日本語(春日博文、丹波博幸、浅川マキ、カルメンマキ、リクオ、C. ポーター等)の唄物をふんだんに盛り込みながら、MCはごく控えめにテンポ良くステージが進められていった。

三人の紡ぎ出す音の連なりに身を委ねていて、ついつい(意味のないこととは理解しつつも)デラシネバンドの音と比較してしまったが、そこではリズム隊が居ないことで逆に、削ぎ落とされてその核心が搾り出されたスッキリとした味わいを持つ生一本のグルーヴが際立って感じられて私はおおいに唸らされてしまった。私の眼前に居るのは、より所帯の大きなハーモニーとアンサンブルに依る「バンド」ではないが、バンド以上にバンド感を産み出す十分なスペースをマキさんの前に差し出す丹波氏と清水氏による自在な手際の良さがいかんせんふるっていて、緩急のいかなる局面にあってもその大きな畝りを伴った波間を伸び伸びと泳ぎ切ったマキさんの、いかにも解き放たれた自由な表情がとくに印象的だった。

今宵は、ZIMAGINEの音響の良さもこの三声の旨みを引き出すことに功を奏していたと今振り返り強く感じている。
最後に、このユニットは是非とも音楽を愛するより多くの方に聴いて頂きたく、乞再演。

#343 8月7日(月)
合羽橋 なってるハウス
https://knuttelhouse.com/
ボサトリ:加藤崇之(g)杉山茂生(b)藤ノ木みか(per)+宅’shoomy’朱美(vo/p)

本業が夏季休暇に入り、翌日の仕事への気兼ねなく待望の現場へと向かう充実の日々。今日は合羽橋なってるハウスにて、ボサトリを聴いた。

加藤崇之(G)杉山茂生(B)藤ノ木みか(PER)

今宵はこのレギャラートリオに宅’shoomy’朱美氏(VO/P)がゲストで迎えられるのも嬉しいところ。暑い夏にじっくりとして落ち着いた音創りの中に暫しの涼と刺激を求めたいとの想いから、この日この初体験のユニットとの出会いに狙いを定めたわけであるが、幕開けのスペイシーな加藤さんのE.Gtに導かれた〈Estate〉から、その期待は即座に確信となった。三者の織り成すアンサンブルの、どこまでも落ち着きのある静けさを湛えながら極くしなやかな躍動感を産み出すさまはいかにも含蓄に富み、こちら聴き人の想像力をいたく刺激して説得力十分だ。

そこにシューミーさんが入ると(13曲中8曲)、これがまたサウンド全体の表情に大きな変化が生まれて、より惹き込まれてしまう。そこでは、ステージから発せられる音の流れに生々しい人間臭さが増してゆくと私には感じられた。加藤さんの佳作〈海の想い出〉〈サウダージ〉から〈dingi〉〈corcobado 〉〈Começar de novo 〉〈Pra dizer Adeus〉等々のボサの著名曲、さらには最終盤に披露された圧巻のSting作〈Fragile〉に至るまで、加藤さんMC曰くこれまでの共演を通して「味をしめた」仲間達との器楽と声楽の旨味をヴォサのリズムの内に塩梅良く織り成したこの夜の音創りは、シンプルでありながらも空間の拡がりを大きく感じさせつつ静かなパッションを帯びて...。それ故に創造的な「クールミュージック」としてこの日この場所に集いし者どもに一服の涼を届けてくれたと言える。

#344 8月10日(木)
下北沢 Apollo
https://ameblo.jp/430416apollo/
OEN Org.:小林洋子(p)小美濃悠太(cb)秋元修(ds)

2年振り2度目の訪問となる下北沢Apolloにて、小林洋子氏(P)率いるオーソドックスな編成のピアノトリオ:OEN Org.を初めて聴いた。w:小美濃悠太(cb)秋元修(DS)

創造のマグマ噴き出しの昂まりを見せて、最早6種のユニットを同時主宰する脅威的な活躍振りを見せている洋子さんであるが、中でも今春に始動し今宵が僅か3回目のギグを迎えたこのユニットは、恐らく演者自身にとっても未知の可能性を大きく秘めたトリオだけに、これまで折りに触れて洋子さんの深化の道程に接して来た者のひとりとしては大きな期待を胸にその幕開けを待った次第。

果たして、隆盛するSNS上での演者自身の前口上にて、バンマス曰く、「このTRIOは、言葉で表現しがたく、おそらく、「妙ーーーな」雰囲気を醸し出すとしか言えません。」と評した協働体は、その全てをメンバーのオリジナル曲(小林作6曲+小美濃•秋元作各2曲)を題に、聴き慣れたピアノトリオのサウンドとは全く異質の構造で活きた音をいかにも満足げに紡いで行った。三者の音創りに身を委ねていてまず印象に残ったのは、三者の間から立ち上がる音が持つ寡黙さだった。それはいわば余白の取り方の妙とでも言えるものであり、そこでは、示唆に富んだバラードから洋子さんの十指がダイナミックに鍵盤の上を疾走したドラマティックかつハードドライヴィングな楽曲に至るまで緩急のいかなる局面においてもその音数の別なく、決して性急になることなく冗舌さを一切排したしたところから生じる緊張感が際立って冴えながら音場を貫いた点はなんとも噛み応えのあるものだった。

そうしてさらに印象的だったのは各々のポジショニングの妙だ。それはスピードと重心の両面で聴いてとれたが、前者について言えば、トリオは終始各自が同一のテンポに支配されることなく各々が独自のタイム感で音を連ねる中でいつしか絶妙な同期が生まれて行く感覚であり、後者は、各々がサウンドの層の高低を自由に往き来することで音像に自由な広がりと奥行きを生み出して行く感覚であった。

前述のバンマスの前口上に踊った「妙—な」雰囲気だったかはさておき、今宵の音創りはありきたりのピアノトリオが指向する建付けとは明らかに異質な細部にまで工夫を凝らした意匠を感じさせるものであったことは確かだ。
到底一筋縄では行かない、それぞれが互いの間合いを巧みに推しはかりながらにじり寄って行く感覚とでもいおうか、そのニュアンスが生み出したムードが極めてスリリングだった。
洋子さんは過日、このユニットをして「私が才能ある若手から煽られるトリオ」とも語っていたと記憶しているが、どっこい、煽られる仕掛けを巧妙に仕込みながら自らを追い込んで行っているようにさへ私には感じられた。
今宵のステージに接して今は、氏曰くの「ヒヨコトリオ」において、洋子さんの名伯楽振りが遺憾なく発揮されてさらなる深化を遂げられることを期待して止まない。そんな前向きな希望を感じさせてくれたイイ感じのピアノトリオだったと思う。

 


#345 8月11日(金)

荻窪 珈琲「驢馬とオレンジ」
https://twitter.com/robatoorange
伊勢秀一郎(tp)加藤崇之(g)

どんなに声高に叫んでも、到底伝わらない想いはあるわけで、逆に今宵のふたりのように、ごく密やかな会話の中にあっても、伝えたいという強い意志が感じられれば、こちら聴き人の心は確実にそれを感知し、突き動かされる。そんな、ある意味で、演者が音楽を奏で客席とそれを共有する現場には自明の事柄を強烈に見せつけられた時の移ろひだった。
強靭なる意志漲る弱音の美、ここに極まれり。

伊勢秀一郎(TP)加藤崇之(G)DUO @西荻窪•喫茶「驢馬とオレンジ」

「人柄はその音色に宿る」を絵に描いたように、小さなライブハウスを中心に地道な活動を続けることで育まれた万人の認める高い実力を、声高にひけらかすことなくこの日この刻に集いしひとりひとりの聴き人にダイレクトに投げ続けたこの夜のセットリストを参考までに以下に記す。

〈1st.set〉
①night has a thousand eyes
②days of wine and roses
③desert moonlight 〈月の砂漠〉
④body&soui
⑤cantaloupe island
⑥satin doll

〈2nd.set〉
①zingaro
②solar
③take the a train(鈍行ver.)
④loss of love〈ひまわり〉
⑤só danço samba
⑥bye bye black bird
⑦ do you know what It means to miss new orleans?

〈enc.〉
danny boy

最後に、インターバルで食したこちらの名物、ブラックペッパーを添えたブラックチーズケーキはお勧めです。

#346 8月12日(土)

稲毛 Jazz Spot CANDY
http://blog.livedoor.jp/jazzspotcandy/
山崎比呂志(ds)中村豊(p/syn)

二十四節気では立秋を過ぐるも、未だ酷暑只中の候。

稲毛CANDYにて、最早同所の名物企画となった山崎比呂志氏(DS)のDUOシリーズを聴く。 w.中村豊氏(P/Syn)

中村豊さん? 聞かないお名前だ。そこは山崎さんが指名した表現者なのだから、それで充分ではないか、などと思いつつもネット検索をしてみたがこれが難航を極めた。予想以上に数少ない情報の中からなんとかその横顔を探り出すと、

鹿児島県姶良市出身。年齢不詳。各所の音楽教室講師を歴任しながら、ジャズフィールドでは、松本英彦氏や日野皓正&元彦兄弟等との共演歴があるが、そのキャリアの多くはポップス/歌謡界にて南沙織、郷ひろみ、三原順子、シブガキ隊、小林幸子、欧陽菲菲、研ナオコ、杉良太郎等々の昭和を代表するアイドルや歌手のバックでキーボードを演奏して来られたようである。さらにYouTubeを頼ってみた。ごく少ない映像を見ても、いわゆるフリーフォーム臭は薄く、かと言ってオーソドックスなビート系でもない。ここまで氏のことを調べる中でますます面白くなって来た。一体どのような音創りが展開されるのだろうか。予備知識なく今まさに眼前で生まれる音と対峙する、これこそ音楽を聴く際の醍醐味ではないか、などと考えつつ迎えた幕開けの時。聞けば30年来の付き合いながら、現場での共演は今日がお初だというふたりは、終始上滑りしない硬質な音の流れを維持させながらその音創りを展開して行った。

1stセット、始まりは静かに入り、最後はフリーフォームへと転じた展開。先ずは中村氏の抒情的な中〜高音域のパッセージに思索的な和音を沿わせるコンビネーションが際立った。そうして、右手が然るべきポイントを見つけると、その音域の周辺を執拗に辿りながらパラグラフを積み上げ、それに感応した山崎氏は徐々に音数を増やしつつ中村氏を攻めたてた。静から動へと気負い無くスムーズに展開させた流れが圧巻のセットだった。

続く2ndセット。こちらも始まりは静かに入り、最後はかなり激烈なフリーフォームへと転じた展開。まずは中村氏が繰り出したシンセサイザーの残響が際立った。そうして、その不穏な響きの中で中村氏は、ピアノによる単音を中心に、初めフォーキーに、徐々にゴスペル調やアラビック調も纏わせながら黙示的なパラグラフを積み上げ、それに感応した山崎氏は徐々にスピードをあげながら中村氏を攻め立てて、中でもエンディング直前に繰り出した中村氏の高速パッセージに噛み付くように対した山崎氏の乱打は脅威的な彩度を放った。暗から明へと迷いなくスムーズに展開させた流れが斬新なセットだった。

以上が、今宵私の眼前に生まれたふたりにとって初の交歓のドキュメントであるが、そこに一切の予定調和は感じられなかった。
自然発生的に内なる衝動に突き動かされてフリーフォームへと転じた展開が良かった。何より初体験のふたりの、互いに「探らない」感じが良かった。ふたりから発せられた音の全てに活き活きとした意志が感じられた。美しかった。破綻に過ぎず、あくまでもメロディックに自らの物語を紡いだこの夜のふたりの立ち居振る舞いに私の心は静かに動かされた。それこそこれまでに幾度となく接して来た山崎さんの現場であるが、今宵の中村さんの気概には山崎さんも意気に感じるところ大だったのではないかと思う。最後の一撃の後で発した山崎さんの一言がふるっていた。

「いやー、面白かったあ」「面白かった、で良いんじゃない?」齢(よわい)83で達した境地から発せられたこの至言を引き出した中村さん恐るべし、である。私的には、音楽を「名前で聴かない」楽しさを再認識出来たのが何より嬉しかった。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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