JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 5,182 回

小野健彦の Live after LiveNo. 319

小野健彦のLive after Live #431~#436

text & photo by Takehiko 小野健彦


#431 8月1日(木)
ミューザ川崎シンフォニーホール
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/
フェスタ・サマー・ミューザ KAWASAKI2024『円熟の小泉×都響〜交響曲の王道〜』

開館20周年を迎えたミューザ川崎シンフォニーホールで開催されたこの時期恒例の一大クラシック・イベント:フェスタ・サマー・ミューザ KAWASAKI2024 にて『円熟の小泉×都響〜交響曲の王道〜』公演を聴いた。

〈演奏〉東京都交響楽団
〈指揮〉小泉和裕(同団・終身名誉指揮者)
〈コンサートマスター〉水谷晃
〈曲目〉①モーツァルト:交響曲第40番ト短調K.550
    ②ブラームス:交響曲第1番ハ短調op.68

私にとっては当代日本クラシック界にあって最も信頼を寄せている名コンビによる、ドイツ・オーストリアを代表する名作中の名作交響曲を採り上げる本公演は、私個人的には、まさに行かない手はない現場と言えた。果たして、内省から覚醒への叙情の変化を緩やかなグラデーションの内にコンパクトに纏め上げた①、重厚かつ勇壮なハーモニーの中にあっても所々にどこか諦念の情緒を秘めたこの佳曲の質感の芯をメリハリの効いたコントラストの内に鮮やかに表現してみせた②と、共に同じく短調を基調としたこの人気交響曲2題の旨味を持ち味の外連味の無い実直な構成力を見せつけながら手兵をしなやかな所作の数々を以てコントロールした稀代のマエストロと、その解釈意図を十二分に理解しながら徒に性急になることなく終始サウンドの拡がりと奥行きを維持し続けたオーケストラとの響き合いから交響曲を聴くことの醍醐味を感じ続けられた泡沫(うたかた)は、まさに、私にとって約90分間の「夏の夜の夢」となった。
最後に、最近マエストロ小泉の現場に接していて度々目撃する光景であるが、近年の氏の充実振りは相当なようで、今宵も同様に、終演後満場からの惜しみない拍手に応えたカーテンコールは実に6回に及び、その後団員が全てはけた後も独り下手から登場し客席に手を振る一コマがあったことは書き漏らしてはなるまい。

#432 8月15日(木)
横浜ReNY- beta
https://ruido.org/yokohama_reny/
『納涼歌絵巻 at 横浜-新春歌絵巻番外篇-』

8/4に新規オープンした横浜ReNY- betaにて開催された『納涼歌絵巻at横浜-新春歌絵巻番外篇-』を聴いた。
〈1st.セット〉 
 三宅伸治 有山じゅんじ  永井’ホトケ’隆  いずれも(G/VO)
〈2nd.セット〉
 MOJO CLUB 三宅伸治(G/VO)谷崎浩章(B)杉山章ニ丸(DS)
〈3rd.セット〉
 all casts
さて、そもそもの「新春歌絵巻」であるが、’87/8神戸チキンジョージで開催された憂歌団のライブに上田正樹氏が突如飛び入りしたことに端を発し、’88/1以降毎年同時期に多彩なゲストを迎え’05/1まで続いた関西ブルース・ロック界の名物イベントの一つであり、それから時を経た本年1月東京赤羽ReNY alphaでの19年振りの開催が大好評を得たことから今宵の宴が企画されたというのがことの次第である。さて、私がこの日この刻に狙いを定めたのは、かつての関西赴任時代にこのイベントに慣れ親しんだことに加えて、もう一つ大きな理由があった。それは、’ホトケ’さんのナマに久しぶりに触れたいとの強い想いからだった。確かに、氏は現在のパーマネント・バンドであるブルース・ザ・ブッチャー等と共に高円寺の老舗店への出演をされているが、同所は下りの急階段が私には如何にもリスキーであり、これまで二の足を踏んでいたのである。まあ、それらはそうとして話を進めよう。肝心の今宵の音、だ。

先ずは1st.セット。これはある意味予想外であったが、大看板がいきなり三人で揃って登場した。スローなブルースでスタートし、〈夕焼け小焼け〉やベッシー・スミスを挟みながら有山さんのオリジナル数曲を唄い継いで行く構成。其々に独特の喉と粋なフィンガーワークを鮮やかに絡ませながらハコ全体を瞬時にして鷲掴みにし自分色に染め上げて行きつつも同時に終始三人のハーモニーにも心配りしている姿が色濃くうかがえた音創りは三者三様に流石の仕業と言えた。このセットは全6曲45分といささか短い気もしたが、私個人的には、お目当てのホトケさんの哀愁のあるハスキー・ハイトーンの健在振りも満喫出来て大満足のステージだった。続いて15分ブレイクの後の2nd.セット。冒頭の光景に私は今日のライブに対する自分の「感」が外れたことを知らされることとなった。MOJO CLUB の面々が登場するや場内は総立ち、興奮の坩堝と化した。正直なところ私はMOJO CLUB になんの予備知識も持ち合わせていなかったが、今日のお客様のお目当ての中心はどうやら彼等にあったようだ。しかし、音が出た瞬間、私は惹き込まれた。リズムはタイトでメロディラインにはドライヴ感がある。活きの良いサウンドの中心に居る三宅さんは、流石に忌野清志郎氏や仲井戸麗市氏、木村充揮氏等との協働を経て来た逸材だ。片時も、「聴かせ続けること」と同時に「魅せること」を忘れずに音の流れを前に前にと押し出して行こうとする姿がなんとも魅力的だった。私個人的には思いがけずに溌剌として威勢の良い未知なるブギーロック・バンドとの嬉しい出逢いとなった。さて、開幕から凡そ100分余り。いよいよ最終セットのスタートを迎える。歴戦の猛者5人が居並ぶステージは壮観だ。そこで聴こえて来たのはC.C.R〈rolling on the river〉だった。程よくあたたまった5人のハーモニーがえらく心地よい。今宵私は久方ぶりに比較的大きなハコにて、軽快にバウンズする腰のあるビートの中に流れる味のあるボーカルとギターの幸せなコンビネーションにどっぷりと浸かることが出来た。帰路、巨大台風7号は未だ遠くにありて何ら邪魔されることも無かった。至極佳き夏の夜の出来事だった。


#433 8月22日(木)

横浜・白楽 Blues Ette
https://blues-ette.com/
『2人だけのオーケストラ』-Sweet Old Jazz 1920〜30年代のSweetなJazzを!-

今宵初訪問となった横浜・白楽 Blues Etteにて、『2人だけのオーケストラ』-Sweet Old Jazz 1920〜30年代のSweetなJazzを!-を聴いた。

鈴木まさあき(TP/FLH) さがゆき(VO/G)

目下、各種ユニットにて意欲的かつ創造的な音創りを推進中のゆきさんであるが、私はこのユニットに触れるのは初めて。一方の鈴木さんは、かつて毎週水曜日に藤沢BECKで開催されていた小林新作氏(B)主宰のセッションにて数度お聴きしたことはあるものの、レギャラーユニットでの演奏はお初であり、大きな期待を胸にその幕開けを待った。果たして、今宵のステージでは、前口上に触れられたように20C前半〜中盤にかけてこの世に生み落とされた所謂ジャズ・スタンダードの佳曲等を中心に、更にゆきさんお得意のブラジル物からC.ブアルキ&ジョビン・コンビによる〈zingaro〉や、これはいささか驚きの選曲と言えたC.ブレイの楽曲〈lawns〉に至る迄全12曲が披露された訳であるが、ことゆきさんについて言うと、聞けば満身創痍の状態ながら、一旦ギターを抱いてマイクを前にすると、アメリカ版小唄端唄の名手としての実力を遺憾無く発揮して、持ち味のチャーミングなウィスパー・ヴォイスとスキャット、更には丁寧なフィンガーワークのコンビネーションで聴く者を静かに力強く惹きつけて行った。対する鈴木さんもそんなゆきさんから発せられる音と言葉の間を、トランペット(時にオープンで、時にミュートで)とフリューゲルホーンを巧みに使い分けながら絶妙な塩梅で縫い込んで行く姿が印象的だった。おふたりが長年かけて掴み取ったバランスの取れた肩肘の張らないアンサンブルは終始安寧の極みを描き、それは、まさに「オーケストラ」の名に相応しい深さと広がりを持つものだったと言える。最後に、今日は客席に念願叶って今宵が同所初訪問となった、これまた今宵の編成と同じくTPと Gを勉強中の中年男性のコンビがいらしていた。彼らは曲毎の終わりに驚嘆の声を上げていた。そう、彼らにとって本格的なジャズの現場への扉が今宵開いたという訳だ。以下は私がこれまでに何度も書いて来たことであるが、「音は人と人との得難きご縁を結ぶ」。「ハコは、まさにその人間交差点」だということを改めて目の当たりにしてなんとも清々しい気分に浸ることが出来たひとときだった。


#434 8月24日(土)
合羽橋・なってるハウス
TRY ANGLE ahead 山崎比呂志 (ds)永武幹子 (p) 須川崇志 (b)

お馴染みの合羽橋・なってるハウスにて、TRY ANGLE aheadを聴いた。
山崎比呂志(DS)永武幹子(P)須川崇志(B)

 

芸歴64年を迎えた山崎さんが、気鋭の逸材を迎え、自ら表現者としての更なる高みを目指しつつ日本ジャズ史の継承を賭けて発信する既存の TRY ANGLEとは基軸を異にするこのニュープロジェクトは、4/15同所での初共演以来二度目の手合わせとなったが、確かにリーダー格がドラマーであることから、サウンド面でも画的にも山崎さんの存在感が先ず目立つ。しかし、初演時にも感じたことであるが、永武・須川両氏の善戦が今宵も際立っていた。共にサウンド内でのアイデア創りについては秀逸な両者のことだ、メロディにリズムにと多彩なアプローチで山崎さんを果敢に「追い込んで行く」場面が散見されたのが印象的だった。そうなると山崎さんのボルテージも俄然昂まるのは畢竟であり、真骨頂のブラシワークから、時に伝家の宝刀であるシンバルレガート迄を繰り出しながら音場をひとときも停滞させず、一貫して溌剌とした音像を描いて行ったのは流石の手際と言えた。静謐で内省的な響きから、奔流を想わせる鮮烈なリズムの饗宴に至るまで今宵三者が織り成した攻めぎ合いのパワーバランスは、特定の様式に囚われることなく終始ジャズの旨味と醍醐味を我々に力強く届けてくれた。


#435 8月27日(火)
ブルーノート東京
https://www.bluenote.co.jp/jp/
チャールズ・ロイド SKY QUARTET

’19/9以来の訪問となったブルーノート東京にてチャールズ・ロイドSKY QUARTETを聴いた@2ndセット。
チャールズ・ロイド(TS/FL)ジェイソン・モラン(P)ラリー・グレナディア(B)エリック・ハーランド(DS)
先週よりその動向にハラハラさせられていた台風10号の影響も程々に回避出来たことに加え、今宵はいつも独り旅が常の私のLALに親父の誘いをふたつ返事で快諾してくれた(今宵が初のジャズの現場となった)22歳の次男が同行してくれたのはなんとも嬉しいところ。想い返せば、’08、’17(同所)、’19(東京Jazz/同所)と聴き継いで来たチャールズの現場であるが、’08、その初対面は、その時期癌の末期ステージ直前にあった父を含め亡き両親と我が家族が最後に行った北欧への一族旅行の最終日にスケジューリングしたオスロJFであったこと(実際の現場行きは私と親父のみ)から、期せずして、チャールズを介して我が家の音の歴史が受け継がれることに感慨深い想いを馳せながらその終始豊潤な音の流れに身を委ねた。果たして本公演は、米ダウンビート誌’24(第72回)批評家投票において、自身は「年間最優秀アーティスト」及び「年間最優秀テナーサックス奏者」の二冠に加え「名声の殿堂」入りを果たし、更には今宵のメンバーでの吹き込みによる最新作『The Sky Willl Still Be There Tmorrow』盤が「年間最優秀アルバム」に輝く等圧倒的な評価を受けた余勢を駆っての来日となった訳であるが、当年86歳を迎えたチャールズは、長旅と時差、更には約70分に及んだという当夜の1stセットによる疲れを微塵も感じさせずに、いずれも俊英達で構成されたバンドを鼓舞し、鼓舞されつつ、全編に亘り視覚、聴覚の両面において圧倒的に説得力のあるパフォーマンスを見せつけてくれた。今宵我々の前に提示された大胆さと繊細さのニュアンスが交互に立ち現れた新作収録曲を中心とした全7曲・75分間の音創りのいちいちについての細かい事柄はさておき、そのサウンドのスケールのとてつもない大きさ(間口、深さ、奥行のいずれの構造面でも)と自由さには刮目させられること度々だった。それはまさに、これこそが真のスタイリストなのだということを改めて痛感させられた夢のようなひとときだった。こと私個人にとっては、帰路の電車で隣に座った次男の横顔が、多くは語らずとも高揚しているのを見られたのが何よりも嬉しかったかもしれない。



町田ニカズ

http://nicas.html.xdomain.jp/
山口真文 (ts) 田中菜緒子 (p) 小牧良平 (b) 小松伸之 (ds) +ゲスト:原朋直 (tp)

お馴染みの町田ニカズにて、待望の組み合わせによるユニットを聴いた。
山口真文(TS)田中菜緒子(P)小牧良平(B)小松伸之(DS)+ゲスト:原朋直(TP)
夏の終わりに真文さんの現場に是非共触れたいとの想いから、実は前夜も他所での真文さんのDUO公演行きを計画していたのだが、折からの台風10号影響を考慮した真文さんとハコ側の賢明なご判断により公演自体が中止となった経緯が有り、今宵は、台風の影響も小康状態予測になったことから予定通りの開催となり、勇んで現場に向かったというのがことの次第。しかし、開場時間直前の同所付近は強雨となったため、お客様も演者自身もかなり大量の雨の中集うことになったのだが、果たして、世代を超えた人気・実力共に秀でた表現者達のレアな組み合わせが実現するとあって、ハコ内はかなりの賑わいをみせる中、そのステージは終始この一瞬を味わい尽くそうとする演者と客席の相互共振の結果ジャズの自由度と解放感を存分に味わうことの出来るひとときが出現した。〈miles ahead〉と続けて〈footprints〉で幕開けし本編最終曲を〈so what〉で締めた今日のステージでは、和音とパッセージのコンビネーションに的を得た菜緒子さん。サウンドのボトムをしなやかにキープし続けた小牧さん。力強く溌剌としたドラミングが抜群にキレの良い推進力を生み出した小松さん。とバックを固めた面々の纏まり具合が申し分無く、その際立つスピード感とダイナミクスの上で繰り広げられた、真文さんは数ある引き出しの中から導き出した豊富なアイデアと、原さんは伸びやかでストレートかつシャープなトーンからこんこんと湧き出したメロディの応酬とが相まってサウンド全体のハーモニーに分厚さが産み出されることとなった。其々の演者が奏でる音の連なりからはクールな表情さへ感じられる瞬間もあるのに、いざアンサンブルとなると熱っぽさ充分の音創りを見せたこの体幹の強いワンナイト・ユニットの圧巻とも言える熱量のなせる技だろうか、終演後戸外に出ると雨の気配はだいぶ収まりを見せて街は随分と静かだった。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください