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小野健彦の Live after LiveNo. 321

小野健彦のLive after Live #443~#448

text & photos by Takehiko Ono 小野健彦

#443 10月11日(金)
市川市本八幡 cooljojo jazz+art
https://www.cooljojo.tokyo/
藤井郷子 TokyoTrio:藤井郷子(p) 須川崇志(b) 竹村一哲(ds)

‘22/7以来の訪問となった市川市本八幡のcooljojoにて、念願の藤井郷子 TokyoTrio を聴いた。
藤井郷子(P) 須川崇志(B) 竹村一哲(DS)

先ずはご亭主の長谷川マスターとの久し振りの再会も嬉しいところ。一方で、このユニットについては、これまで何度となくスケジューリングを試みるも中々タイミングが合わず、既発の佳作盤2品:『Moon On The Lake』/『JET BLACK』を愛聴するにとどまっていたため、今宵ようやく機が熟し、東海道線~横須賀線〜総武線を乗り継ぎ大きな期待を胸に現場へ駆けつけたというのがことの次第。果たして、トリオの面々は、これまでの協働の成果を遺憾無く発揮して、幕開け早々から極く緊密なまとまりを見せつつ小気味良いスピード感及び幅と奥行きのある均整のとれた構造美を維持しながら片時も緊張感を途切らすことのない驚異的な集中力をもってその音創りを展開して行った。ステージ上に湧き出した清冽な音の連なりは、随所に現われる(アレンジ上在るようで、その場の随意に任されていて実はないのかもしれないとさへ思わされた)「決め」の瞬間では三者の描いた縦のラインは鮮やかに過ぎる一致を見せつけ、一方で音場に自らを惜しげもなく投げ出すことで各々がより自由に解き放たれ闊達な動きをみせることの出来る十分なスペースが用意された「揺らぎ」の間では三者が描いた横の層が生み出す音の重なりからは玄妙さを強く感じさせらた。全体として、それら縦横無尽な音列が生み出した大きな畝りは強い説得力に溢れ、度々こちらの臓腑を射抜くような切れ味の鋭さをも見せていった。トリオの面々は、いついかなる局面においても、瞬間ではなく俯瞰で音全体をがっしりと掴まえ、片時もブレることなく、一切型崩れしないと同時に歌うことを決して忘れずに終始した。兎にも角にも、自由度の極めて高く野心溢るるチャレンジングな精神に律せられた清々しいまでのサウンドに圧倒され尽くした時の移ろひだった。

#444 10月18日(金)
町田ニカズ Nica’s Jazz Coffee & Whisky
http://nicas.html.xdomain.jp/
Gentle Trio:元岡一英 (p) さがゆき (vo) 宮野裕司 (as/cl/fl)

少しく久しぶりの訪問となった町田ニカズにて、今宵が初顔合わせとなった『gentle trio』を聴いた。
元岡一英(P)さがゆき(VO)宮野裕司(AS/CL/FL)

同所のマスターでもある元岡氏にとって、その表現活動の柔軟さと行動力の高さから当代随一の唄歌いと目しているゆきさんとの30年振りとなったステージ上での共演に、こちらはかなり意外と言えた元岡氏とは同年代ながらこれまで余り接点の無かった宮野さんを招集し、トリオ仕立てにてその音創りに臨んだ今宵であったが、そこでは先頃急逝した伊勢秀一郎氏の遺作メロディの断片を元岡氏が繋ぎ一編の物語に仕上げた感動的な〈leaves〉を含め、こちらはゆきさんのまさに絶唱と言えた〈you don’t know what love is〉の他、トリオ名命名の由来となった〈gentle rain〉やD.エリントン=B.ストレイホーン・コンビによる佳曲の数々等全14編が披露されることとなったが(私には中でも全14曲中5曲に、’I’で始まる楽曲を選択されたところにこのトリオの面々のこの夜に賭けた自発的な強い意思を感じた訳でもあったが)、そんな今宵のステージに接していて、私の特に印象に残ったのは宮野さんの寡黙にして説得力のあるマルチ管楽器奏者としての仕事振りだった。日頃「アルトの詩人」の称号を冠されることの多い宮野さんであるが、私個人的には、そうした抒情的な横顔よりは、むしろ各種の管楽器を駆使して「ひりひり」とするような絶妙な辛味をもってサウンド全体の隠し味となる様を演じる場面に度々接して来ただけに、今日もそのツボを得たバッキングが、独特のウィスパー・ヴォイスと愛嬌でコトノハを織り成しつつ洋楽曲にまるで「小唄端唄」のやうな「粋でおつ」な味わいを纏わせるゆきさんの唄と、ゴツゴツとしていて決して流麗かつ器用で饒舌でないところがより一層この表現者らしい「人間臭さ」を炙り出す元岡さんのピアノとの掛け合わせに絶妙なスパイスの役割を果たしていたと強く感じさせられた。
ステージ全般を通して元岡さんゆきさんによるメロディ隊も、相思相愛だからこそ、ひとつ間違えれば破綻に転じる危険性を孕んでいるそのパワーバランスの中を其々が巧妙な手捌きで各楽曲の持つ「筋を通す」のに成功していたように思う。今宵は三者が三様に、寄り添いすぎず、離れ過ぎずの適度な距離感を維持し続けながら「gentle」に終始する趣味の良い様を聴きつづけることの出来たとても気持ちの良い夜だった。

#445 10月19日(土)
阿佐ヶ谷  LOFT A
https://www.loft-prj.co.jp/lofta/
『オルタナミーティングvol.32』「デビュー50周年記念 友川カズキ 阿佐ヶ谷ライヴ」

’19/12以来二度目の訪問となった阿佐ヶ谷 LOFT Aにて、『オルタナミーティングvol.32』「デビュー50周年記念 友川カズキ 阿佐ヶ谷ライヴ」を聴いた。
オープニングアクト:五十嵐正史とソウルブラザーズ メインアクト:友川カズキ(VO/G)
ご本人曰く「ただ50年生きて来ただけの三流歌手」でありながらも、根強いファンを数多く持つ稀代の吟遊詩人の周年ライヴが絶好の土曜日に開催されるとあってか、開場時間前にはパールセンター商店街中程付近に位置するハコ前に老若男女の長蛇の列が出来る中、開場時間ギリギリになって案の定「前打ち上げ」を終えた友川さんがスタッフの大関さんを伴い風のように現れ私の顔を見つけるなり、右手を私の首に回しつつ熱烈なハグをしながら「おお、小野さん、久し降り!元気だったか?」と声をかけて下さった。私自身、氏とお逢いするのは、’22/9以来であり、その間にコロナ禍を経て氏が従前の旺盛な活動を再始動されているのは知りつつもタイミング合わずにて中々再会の機を得られなかっただけにこの再会の瞬時の優しさには、完全にヤられてしまった。

 

まあ、それはそうとして肝心の音、だ。オープニングアクトを極く簡潔にまとめたソウルブラザーズに続いて登場した友川氏は、途中セット間の休憩に加えてこれは予想外の事態となった体調不良のお客様の看護時間のため場を鎮めるのに急遽中断した小休止の時間を除いて、約2時間をかけてこの表現者ならではの優しさと激しさのバランスの取れた味わいのある喉と力強いギターワークで終始説得力のある音創りを展開して行った。今宵のステージを通して披露された楽曲は満場の拍手に応えたアンコールも含め実に全15曲に及んだが、それらは私のフェイバリットソングである買い物シリーズ2種:(ちあきなおみ氏に提供した)〈祭りの花を買いに行く〉、〈イカを買いに行く〉に加えて(遠藤ミチロウ氏がカバーしていたことでも知られる)〈ワルツ〉や、自身のスマッシュヒット作でもある(競輪愛好家の面目躍如たる)〈夢のラップもういっちょ〉や〈一人ぼっちは絵描きになる〉等々、まさにオールタイムヒットソングズ選の様相を呈して行った。しかし、そこで肝要だと感じたのは、氏が「あの」時代を生きてはいなかったということだ。健康状態の話題に端を発して老いを自覚した我が身を自嘲する素振り。現在の政治の有様を見据えた上で時代に物申す毅然とした態度。そんな身の回りに存する事態に対する徒然なる所見を恨み節とは異次元な格好でMCの中でキッパリと語った後に自身の旧作を誦んじたその姿に、現在を生きる気高き表現者の横顔を認めたのは決して私だけでは無かっただろうと今振り返り強く感じている。それこそ何度となく噛んで含んだ自身の言葉とそれを乗せるメロディは氏にとっては旧作ではなくいずれも新作なのではないかとさへ感じさせられたのが偽ざる気持ちである。

 

最後に、祭終わって、私はいつものように打ち上げに雪崩れこんだ訳であるが、終電も気になり始め最後の一服を吸おうと戸外に出ると、遅れて友川さんもやって来られた。
開口一番「やくざな二人で火でも分け合おうかね」との友川さんに対して私「すみませんがそろそろお先に失礼しますね」友川さん:「えっ、もう帰るの?」私:「だって、もう0時回っていますよ」友川さん:「分かった、また聴きに来てね」そうして、再び右手を私の首に回しつつ熱烈なハグを交わしてうれしい再会の夜が終わりを告げていったのだった。

#446 10月31日(木)
茅ヶ崎ストーリービル  Jazz& Booze
http://www.jazz-storyville.com/
陽瑚 (vo/g/p) ゲスト:長谷順子(vln)

今宵は、少しく久しぶりの訪問となった茅ヶ崎ストーリービルにて、ここ湘南を中心に地道な活動を続ける才媛ふたりによる待望の共演を聴いた。
陽瑚(VO/G/P) ゲスト:長谷順子(vln)

先ず初めに本日の主役である陽湖さんであるが、ここ茅ヶ崎を中心に湘南全域、更には首都圏下を股に幅広く活動を行っている主にブラジル物を手掛ける表現者であることは知りつつも、実は私はひょんなことからSNS上でご縁を頂いた経緯があり、直接お目にかかるのはなんと今宵がお初となった。一方、ゲスト出演の長谷さんであるが、こちらは鎌倉を中心に首都圏各所に至る迄、単身行脚から、清水くるみ氏(P)、朝本千可氏(SAX)、更には山崎弘一氏(G)等との協働を積極的に行う等、そのジャンルに囚われない旺盛な活動により知る人ぞ知る表現者であり、私とはくるみさんを介してご縁を頂いたものの、今宵久しぶりの再会が実現したというのがことの次第。

まあそれらはそうとして、肝心の音だ。先手を切ったのは陽湖さん。Cヴァルキ、Pダヴィオラ、Nホーザ、Fハイミ、Jボスコ、ACジョビン、Nカヴァキーニョ、更にはアメリカンスタンダード等々の佳曲の数々を小気味良く軽快に唄い継いで行くが、そこではボサ、サンバ、ショーロ、ジャズと幅広い曲調の楽曲群を題に採った選曲の妙が功を奏して、単に耳触りの良い心地良さに終始することなく、アタックすべき所はアタックすることを忘れずにブラジル物の旨味である抒情の起伏に対する微妙なニュアンスの付け方におおいに好感の持てる音創りを展開してくれた。一方で、ゲスト格故に登場はアンコールを含め全17曲中7曲(いずれもDUO)にとどまった長谷さんであるが、そこはフルオケ在籍を経た後並居るジャズ界の名手との協働を経験して来た確かな技術力と表現力の幅を如何無く発揮して、音場に一層の深みと多彩な色付けを施したのは流石の手際と言えた。そんな両者の共演からは、繰り返しになるが、私の好みではない単に耳触りの良さを超えた、より確かな質感を持った噛み応えのある力強さを纏った肩肘のはらない確固とした主張が強く感じられた。そんな適度に芯のあるコクを醸した音の連なりが、最早冬の寒さを本格的に感じ初めているこちらの身と心をじわりじわりと温めてくれたささやかながらも極めて落ち着きのあるハロウィンのひとときとなった。

 


#447 11月3日(日)

横浜・野毛ドルフィー
https://dolphy-jazzspot.com/
『Standard Ub-X』:橋本一子 (p/vo)井野信義 (b) 藤本敦夫 (ds)

横浜・野毛ドルフィーにて、『Standard Ub-X』を聴いた。橋本一子(P/VO)井野信義(B)藤本敦夫(DS)

私がこの御三方の現場に触れるのは、’23/6同所での『Quiet Ub-X』名義でのgig以来二度目。ハコの告知のみに「Standard」の冠が付いた経緯や如何にとは思いつつも、久しぶりに体感するこのハイブリッドなユニットの音創りにおおいなる期待を胸にその幕開けを待った。果たして、「Standard」が所謂ジャズスタンダード曲を主軸にするのでは無いだろうとのこちらの予測通り、一部にそれらを題に採りながらもそこでは策士一子さんの本領が発揮された一筋縄では行かないアレンジで料理しつつ、そこに多彩な曲想を持つ新旧オリジナル曲を織り交ぜた楽曲群を通して展開されたステージからは、三者が互いの音に込められた其々の想いを丁寧にキャッチしながら、即座に自己の内で咀嚼し自らの想いと言葉に変換させ音場にアウトプットして行くという鮮やかでキレのある循環行為の冴え渡る様がみてとれた。そんなサウンドマネジメントの中にあって、特に井野・藤本両氏のリズム隊が見せた痒い所に手が届くようなアイデアの数々に富んだ仕事振りは圧巻であり、その伸び縮みする柔軟なリズムがサウンドの土台に確たる楔を打ったことで主旋律を任された一子さんのメロディラインの光彩度がより輝きを増して行ったと強く感じられた。私にとっては、サウンドの「重点」が時々刻々と自発的に三者の間を移ろいつつ高度なインタープレイの内に帰結するこのユニットならではの静かなスリルを存分に満喫することが出来たひとときとなった。最後に、今宵の2ndステージ中盤では、一子さんの実妹である眞由己さんがステージに呼び上げられ11/13に発売予定の新盤《風のささやき》から一子さん作詞作曲の〈ヒバリ〉を披露してくれる一幕があった。そのかそけき唄声が、彼女を後ろから優しく見守ったトリオから絶妙な浮遊感に溢れた空間演出力の秀逸さを引き出したことを書き漏らしてはなるまいだろう。尚、本日披露されたアンコールを含む全10曲の内、所謂ジャズ/アメリカンスタンダード等について以下に記して置きたいと思う。

・milestones ・stella by starlight・all blues ・all the things you are・freedom jazz dance


#448 11月8日(金)

合羽橋なってるハウス
https://knuttelhouse.com/
DUO:山崎比呂志 (ds) 松本健一 (ts)

お馴染みの合羽橋なってるハウスにて、待望のDUO公演を聴いた。
山崎比呂志(DS) 松本健一(TS)

現在は山形・鶴岡在の松本さんと現在は茨城・鹿嶋在の山崎さん。過去に協働の歴史はあるものの、今宵久しぶりに邂逅の時を迎えることとなった。果たして、口火を切ったのは山崎さん。ドラムセットの各パーツを慎重に鳴らしながら今宵の響きの端緒を探リ始めると程なくして松本さんの野太く深味のあるトーンがその間を丁寧に縫い込んで行くシークエンスが暫し続いてゆくが、そこでは互いの「かくも長き不在」を推しはかりながら「空白の時間」に刻まれた其々の年輪をじっくりと振り返っているかのような印象を受けた。その後両者の音創りはさながら一筋の川の流れの様に生々流転する水面の表情を鮮烈に表現し尽くして行く展開を見せた。それは清流から奔流へと移ろい行きそれがいつしか等流と不等流が交錯すると行ったやうに。それら、まさに自然界の抒情を凝縮した音の連なりの中に鮮やかに帰結させた大きな世界観を持つふたりのやり取りからはさながら「一筆書き」の持つ強い説得力を感じさせられることとなった。当年5月、私が未だ松本さんと直接のご縁を頂く前、山崎さんが再三私に語ってくれた「マツケンは良い曲を書くんだよ」を裏打ちするように、様式はフリーフォームではあったものの、今宵の松本さんは良く唄っていった。畢竟、山崎さんもそれを受けて抜群に唄えることとなった。トータル約90分に及んだ本編の後のアンコールに供された、「鮮烈なまでに疾走した」10分間に至るまでふたりは絡み合い続けた。一切の外連味を感じさせない肩の力の程よく抜けた感動的な時の移ろひだった。数えてみれば、私にとっては、実に今年13回目となる我がジャズ界のオヤジたる山崎さんの現場は、DUO編成ながら決してお行儀良く纏まることのないワイドレンジな音場を現出させた点において、私には、歳84才にして(僭越ながら)まだまだ表現者として更なる高みを目指そうとされる静かな覚悟のようなものを強く感じられたひとときとなった。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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