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小野健彦の Live after LiveNo. 323

小野健彦のLive after Live #455~#460

text & photo: Takehiko Ono 小野健彦

#455 12月13日(金)
東銀座・歌舞伎座
https://www.kabuki-za.co.jp
「十二月大歌舞伎」

東銀座・歌舞伎座にて「十二月大歌舞伎」を観た。
一、[加賀鳶] 河竹黙阿弥作
〈天神町梅吉/按摩竹垣道玄〉 尾上松緑
〈加賀鳶日陰町松蔵〉 中村勘九郎
〈加賀鳶〉 中村獅童 坂東彦三郎 他
〈女按摩お兼〉 中村雀右衛門
二、[鷺娘] 二世藤間勘祖振付
〈鷺の精〉 中村七之助
〈後見〉 小三郎 仲四郎
〈長唄囃子連中〉 唄、三味線、笛、大・小鼓等

団十郎・菊五郎・白鴎・仁左衛門等々、所謂「超大看板」の出演はないものの、91歳を迎えた重鎮雀右衛門や75歳を迎え円熟の極みを魅せる玉三郎を筆頭に、権十郎、彦三郎から獅童、勘九郎・七之助兄弟、松緑といった現在の梨園にあって中堅実力所の役者陣をバランス良く取り揃えた今月の番組構成の中にあって、お目当ては中村屋兄弟であり、私が観たのは三部構成・第二部の上記二品であった。
果たして、先ず、加賀藩お抱え鳶のリーダー格たる松蔵が、江戸の市井に起きる様々な出来事を鮮やかに捌く黙阿弥の傑作「世話物」の一においては、勘九郎が体現した「江戸の粋」が冴え渡り、その鯔背な七五調の台詞回し等からは、恐らくこの国に育った我々には共通項であろう居心地の良い原始的な調べを感じさせられること度々であり、個人的には深く細胞レヴェルの情感が騒つかされることとなった。
次に、近年その存在感と表現力を増している女方である七之助が、ここ歌舞伎座では初の鷺の精に挑んだ女方舞踊屈指の人気作/長唄の大曲作品である二においては、舞台上手に勢揃いした長唄囃子連中が奏でる情感溢るる調べに乗せて舞台中央の「セリ」(昇降装置)から白無垢姿で登場した鷺の精が、広い舞台を存分に只独りで使い切り、途中、衣装を引き抜き一瞬にして衣装を変える「引抜き」の効果を活かしつつ、紅、紫、朱鷺色、そうしてしんしんと降る雪の中を事切れのクライマックスへと向かう場面では再び白無垢へと様々に衣装を変化させながら、人間男性との道ならぬ恋心に身を焦がす鷺の精の姿と心持ちを情緒に流された劇的さは控えめ目に嫋嫋〈じょうじょう〉とした涼やかさの情感の内に見事に演じ切った圧巻の30分となった。
間に20分の休憩を挟みつつ150分をかけた今日の舞台に触れ、コントラストも鮮やかな世話物と舞踊を巧みにカップリングさせた所にこの部の妙があったと強く感じた。「匂ひ立つ」という表現があるが、舞台物のそれは、まさに視覚、聴覚の両面が相まって物語の中に移ろひゆく情感を客席に向けて(時に柔らかく時に力強く)届けることが出来て初めて産まれ行くものと考えるが、その意味では「色」と「音」が「動き」の中に見事に調和した今日の舞台からは総合芸術として現代に活きる歌舞伎の「匂ひ立つ」醍醐味を強く感じ取ることが出来た。何かと気忙しい師走にあっては、個人的にはなんとも落ち着いた時の流れに身を任せられた佳き時間の移ろひだった。

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#456 12月27日(金)
新宿ピットイン
http://pit-inn.com
大友良英4デイズ8連続コンサート:[Old and New Dreams]Part 2

新宿ピットインにて、年末恒例「大友良英4デイズ8連続コンサート」:[Old and New Dreams]・2日目夜公演-Old and New D reams Part 2を聴いた。
山下洋輔(P)山崎比呂志(DS)大友良英(G)
’70後半、地元福島のジャズ喫茶で流れていた『Old and New Dreams』盤を聴いていた当時の自身を振り返り「過去の集積」と「未来への意志の塊」でもある「今」を生きる現在の心境から今年のテーマ・タイトルを設定した(以上本公演に寄せた氏のコメントより抜粋)大友氏が今日設えたのは、昼の部:w 須川崇志氏(B)&石若駿氏(DS)と夜の部:上記メンバーといういずれも初顔合わせのトリオであり、再び大友氏の言を借りれば、「まさにタイトルそのまま、過去と未来が大きく繋がっている」一日が実現したというのがことの次第だった。まあ、それらはそうとして、私が聴いた夜の部では、山下(’42年生)山崎(’40年生)両氏の約60年振りの邂逅(公的には、例の’63-6/26深夜録音の〈銀巴里セッション〉盤時以来)が実現するとあってか、場内には多くのお客様(今宵は場内の後方部⅓の机・椅子が取り払われかなりの数の立ち見も出る状況に)が詰めかける中で音が出た。果たして、本編2セットに加え文字通り万雷のアンコールに応え正味約90分に及んだ稀代のインプロヴァイザー達による魂の交歓は、冒頭の〈lonely woman〉(O.コールマン)や2ndセット二曲目に配置された〈ghosts〉(A.アイラー)等々を題材に各々の主戦場であるフリーフォームの音創りに収斂する場面が多かったものの、三つ巴の混沌から、直感的というより意図的だったのであろう、大友氏が音数を抑えつつ山下・山崎両氏による語らいへと場を明け渡す心難い演出や、2ndセット冒頭に、大友氏MC曰く「無茶振りですが」でスタートした山下・山崎両氏による「至高」のDUO等見せ場も多く、そこでは全編に亘り独りよがりの瞬間は皆無であり、極めて律せられた抑制の下に今宵この瞬間に生まれ行く活きた音が展開されて行くこととなった。各人から迸り出た音の連なりの中に感じられた鮮烈な迄の内的熱量と疾走感は片時も途切れることはなく、音場が静に振れようと動に振れようと、そこには各々の明快なストーリーが感じられたのは其々に圧巻の仕業と言えた。個人的には、今年14回目となった我がジャズ界のオヤジたる山崎さんの現場であったが、実は一昨日、当夜に向けた心境等をお聞きすべく氏と電話越しに会話した際のコメント:「周りが色々盛り上がろうとも、俺はいつも通り自然体で行くよ!」を絵に書いたような瞬間の連続だった。私には山下さんからも同様の印象を得た。両者の中に「PAST」は無く、今この瞬間に自らに聴こえ来る音をどうキャッチし、speedyに自分自身の言葉へ置き換えvividに表現して行こうとする本能的な希求しかないのだろうと強く感じ取ることが出来た。肝要なのは「Now and Then」なのだと。そんな純粋な心持ちを持ち続けている気高き表現達の崇高な姿に触れ、ぬるま湯に浸りきった己に対しておおいに喝を入れられたような気分になった掛け替えのない年の瀬のひとときだった。更に、大友氏が再三口にされた「今日は最高に幸せです」はこの日この場に集いし全ての人々が同様に感じた想いだったと確信する。最後に、今日は昼夜同一プログラムが組まれていたようであるが、そのいずれもがライブ・レコーディングされたという。宴終わって、「来春ディスクユニオンDIWレーベルよりリリース予定」が決定的になったのは、演者自身も、我々聴き人達も、そうして実はこれまた匠揃いの制作陣の皆さんも同感だったであろうと思う。

尚、演奏中の写真はピットイン・スタッフのご厚意により撮影頂いたものを掲載しております。

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#457 12月28日(土)
横浜みなとみらいホール
https://yokohama-minatomiraihall.jp
日本フィルハーモニー交響楽団第九交響曲特別演奏会’24

横浜みなとみらいホールにて、千代田化工建設(株)クラシックスペシャル:日本フィルハーモニー交響楽団第九交響曲特別演奏会’24を聴いた。
〈指揮〉小林研一郎(同団桂冠名誉指揮者)
〈演奏〉日本フィルハーモニー交響楽団
市原愛(ソプラノ)山下牧子(メゾソプラノ)笛田博昭(テノール)青山貴(バリトン)
石丸由佳(パイプオルガン独奏)
〈合唱〉日本フィルハーモニー協会合唱団
[曲目]
① ブラームス:コラール前奏曲〈わが心の切なる喜び〉
② J.S.バッハ:クリスマスコラール〈甘き喜びのうちに〉
③ 同 上:トッカータとフーガ ニ短調
④ ベートーヴェン:交響曲第9番〈合唱〉

最早師走の風物詩ともいえる「第九」であるが、個人的には二年前飛び石で巡った三公演(飯守×東京シティーフィル、インバル×都響、井上×N響)以来二度目となった。今日のマチネー公演は「炎のマエストロ・コバケン」の愛称で親しまれる当代きっての人気指揮者の登場とあってか、フルキャパ2千席が満員御礼となる中その幕が切って落とされた。果たして、メインの楽曲を念頭にブラームス、バッハの楽曲を並べクラシック音楽界の「ドイツ三大B」を一望出来る粋なプログラムを用意してくれた石丸氏のパイプオルガン独奏三品により場内が祝祭ムードに包まれた後で披露された第九ではコバケン×日フィルの長年に亘る協働の成果が如何無く発揮されてこの楽曲の旨味を存分に堪能出来る音創りが展開されて行った。しかし、改めてこの楽曲に触れてみてその構成の実に面白いという感を強くした。先ずはこの楽曲がドイツを代表する詩人のひとりであるシラーの書いた〈歓喜に寄す〉に刺激を受け作曲されたものであることはつとに知られるところであろうが、その肝心の合唱部分は、最終第四楽章の途中、開始から約60分後にしか現れない。且つその約20分後にはもうフィナーレを迎えてしまうのだ。言わば「我慢」の楽曲。次に合唱に至る器楽パートの部分においても「二律背反」とでも言おうか、オーケストラは不協と調和、喧騒と安穏、不気味と明快、性急と慎重、可憐と猛烈等々といったように二極の風景の間を刻々と動き回って行くのである。言わば「振幅」の楽曲。しかし、以上のようなある意味で一筋縄で行かない構造の妙味を限られた時間の流れの中で味わえるからこそ、人皆こぞってこの師走の何かと気忙しい時期に第九に足を運ぶのではないかという気もするのである。その意味では、今日の演奏からは二極の間を丁寧なニュアンスで繋ぎつつ其々のコントラストを明快に表現しながら周到に用意された劇的なクライマックスに向けて音場のエネルギーをじわりじわりと盛り上げて行ったまさに「炎のマエストロ」の鮮やかな手綱捌きが冴え渡っていたと思う。振り返れば、昨夜はジャズ界の重鎮たる山下洋輔氏(’42年生)と山崎比呂志氏(’40年生)を。そうして今日はクラシック界の小林研一郎氏(’42年生)を、と。期せずして異なる音楽カテゴリーに在って生ける怪物のような表現者達に接してしまった。音楽を世代論で語るなどという不粋な真似はしたくないが、それでも多彩な経験に裏打ちされた人間力の幅と深さが志向する音に力を与えることは確かだとは思う。手前味噌ではあるが、自分で組んでおきながらなかなか意義深い趣向のLAL〈Live after Live〉になったと感じている。最後に、今日のカーテンコールの最後には意表をついてスタッフの用意したマイクがマエストロに手渡される一幕があった。そこでは、スポンサーに対する謝辞があったものの直接的な表現はなされなかったが、世情の安寧に対する希望と世界平和に対する希求が言外から強く感じられそれが場内をさらに温かな雰囲気に導いたことを書き漏らしてはなるまい。



#458 12月30日(月)
藤沢・sound market
https://soundmarket.jimdofree.com
『中西俊博と嶋田吉隆の音響実験室』

地元藤沢のsound marketにて、『中西俊博と嶋田吉隆の音響実験室』を聴いた。
中西俊博(vln/P)嶋田吉隆(DS/PERC/Harp/VO)
方や、クラシック、ジャズ、ポップス等の垣根を軽々と行き来しつつライブ活動に加えて映像の世界、更には舞台音楽をも手掛ける怪人バイオリニストと、方や生粋の鵠沼育ちであり、17才に山内テツ氏のバンドでプロデビューして以降、国内ではゴダイゴ、CHAR氏、カルメン・マキ氏、喜多郎氏、遠藤賢司氏等と、更に’91渡米後はB.ディドリー、C.ベリー、B.B.キング、Dr.ジョン等々名だたるアーティストと共演するなどまさに世界を股にかけて来た敏腕ドラマーとの協働は現在同所のみとのことであり、迎えて六回目となる今宵には是が非でも伺いたくかなり早くからこの日この刻に狙いを定めていたというのがことの次第だった。
果たして、1stセットは中西氏から、2ndセットは嶋田氏から、共に問わず語りでイメージの断片が提示された今宵のステージでは所々に不穏な雰囲気を纏わせたエキゾティックなオリエンタル・ムードを通奏低音にカラフルなメロディと伸び縮みするリズムの饗宴が展開されて行った。歪みながも豊かな抒情を描く中西氏のエレクトリック・バイオリンの音色とそこにタイトなロックビートで容赦なく絡みついた嶋田氏の縦横無尽なドラミングは、まさに「実験室」の名に相応しい創造的な現場として満場の心を強く打った。本編の後には、客席からお題を募り、「今年の総括」と「音楽人生での一大事」に関するトークコーナーが設けられた後、アンコールには、こちらも客席からのリクエスト(何か年末に相応しいものを)に応える形で〈第九〉と〈お正月〉を盛り込んだかなりアブストラクトなバイオリンと嶋田氏のボーカルもフューチャーされたブルースタイムで大団円。

#459 1月5日(日)
町田ニカズ Jazz Coffee and Whisky
http://nicas.html.xdomain.jp
『米木康志復帰記念「北海道バンドplays Coltrane」』

待ちに待った私の’25LAL初めは、お馴染みの町田ニカズにて『米木康志復帰記念「北海道バンドplays Coltrane」』を聴いた。
高橋知己(TS)元岡一英(P)米木康志(B)本田珠也(DS)
同店にとっても初春仕事始めとなった日曜昼恒例「光の中のJAZZ」のこの日。まさに「役者は揃った」の感は強く、中でも何をさて置き愛機のウッドベースを抱いた米木さんがバンドの中心にすっくと立っているのは嬉しいところと言えた。果たして今日、メンバーの変遷を重ねつつこれ迄に3枚のアルバムを世に生み出したオリジナル曲中心のこのバンドが自らのジャズエイジの原点に立ち帰り選び採ったのは不世出の巨星J.コルトレーンであり、元岡氏の言を借りれば、「今回はその人間コルトレーンに焦点を当てて、<苦悩するコルトレーン>と<祈るコルトレーン>をテーマに」そのステージが展開されることとなった(詳細後述)が、その終始熱のこもった音創りにおいては、コルトレーンの「黄金のカルテット」におけるJ.ギャリソンの例を出すまでもなく、決して派手さはないものの地味ながらも如何にも米木さんらしい重心の低いベースワークが特に際立っていた。サウンド全体の芯をがっしりと掴みながら強い推進力と共にバンド全体を前に前に押し出して行くその光景は、我々現在の日本ジャズシーンを愛する者達全てが待ち焦がれていた瞬間であり、その地を喰むようなこちら聴き人の腰に来るこの人ならではのベースサウンドはまさに「無くてはならない」存在として初春を寿ぐべく大入りとなった文字通り満場のひとりひとりの胸に迫り来た。そんな感動的な時の移ろひだった。

最後に、以下が本日のセットリストであり、幾つかの著名曲に混じって(ここが大方の予想を裏切る形で一捻りを加えたこのバンドならではの選曲の妙であった訳だが)コルトレーン自身の録音歴はないものの彼が演っていたとしてもおかしくはない楽曲(M-8&9)も披露された事を付記しておこう。
[1st.セット:〈苦悩するコルトレーン〉]
M-1:on a misty night  M-2:time was  M-3:monk’s mood  M-4:trinkle tinkle
M-5:26-2
[2nd.セット:〈祈るコルトレーン〉]
M-6:naima  M-7:central park west  M-8:isfahan  M-9:little niles  M-10:cresent
[アンコール]
M-11:vilia


#460 1月11日(土)

自由が丘ハイフン
http://r.goope.jp/hyphen/
『カルメン・マキPRESENTS DUODUO VOL.6』

 

‘22/3以来三度目の訪問となった自由が丘ハイフンにて『カルメン・マキPRESENTS DUODUO VOL.6』を聴いた。
カルメン・マキ(語り・唄、鳴り物) ✕ ファルコン(G) VS 小谷まゆみ(voice) ✕立岩潤三(perc)

これまでに様々の意欲的かつ創造的なDUOコンビとの手合わせを行って来たマキさんとファルコンさんが今宵迎えたのは、ロックからフリーフォーム(ジャズ)(御本人曰く林栄一氏・国仲勝男氏等に学ばれたそう)へと、更には詩吟の世界をも掌中に収める即興唄歌いの小谷まゆみ氏と、こちらは国内のみならず米国・欧州/亜細亜各国を股にかけ精力的に活動中の打楽器奏者である立岩潤三氏。私自身、マキさんのこのDUOシリーズは念願の初参加であり、今宵の一見かなり風合いの異なるDUO対決の帰結点に対しおおいなる期待を胸にそのステージに臨んだ。果たして、先陣を切ったのは小谷・立岩コンビ。幕開き早々に連ねたH.ベラフォンテ〈bananaboat〉と〈宇治拾遺物語の一節〉からこのセットのクロージングに設えたジャズ・スタンダード〈summertime〉に至るまで全編完全即興の音創りにあっても破綻には至らず、互いのグルーヴをタイミング良く受け止めつつ客席の反応をも敏感に取り込みながら音場の緊張感を維持し続けた点は大いに好感の持てるものがあった。続いて登場したマキ・ファルコン  コンビ。自家薬籠中の楽曲(中にはマキさんMC曰く久しぶりに採り上げたという喜多直毅詞作〈有り難き不幸せ〉も含まれたが)や(今宵は幾分少な目だった)詩作品等が並んだが、ファルコンさんとはかなりの共演歴を重ねて来ている中で、ともすると陥り易いであろう予定調和のマンネリ感を一切感じさせない点は流石熟達者達の仕業と言えた。以上、ふたつのDUOチーム其々の音創りを通してこのシリーズの旨味であろうと私が予想していた「別々の在り様を持つ二人芝居が二幕仕立てでシンクロすることにより、全体として響き合う一遍の戯曲が成立するか」に対する答えは十分に受け取ることが出来た。今宵の二幕を繋いだのは圧倒的な説得力を持った生命力溢れるふたつの息吹であり、それは呟くように、語るように、叫ぶように、そうして時に詠むように、と。ふたつの声の主達はいずれもがダイナミクスの振幅を慎重に推し量りつつ客席と共振しながら「唄う」ことに腐心されていたように思う。「声を限り」と字引きで調べると「ありったけの大声で」と出て来るけれど、ここではそれを「声の持つ可能性を求めて」と勝手に読み替えてみてはどうだろうか?小谷さんもマキさんもまだまだご自分の唄に、否、声に満足してはおられないのだろうと私には感じられた。その飽くなき探求心の断片を「声を限り」の唄の中に感じ取れたことが 今宵の戯曲に触れた私の一番の手応えだった。言うまでもなく、そのような場所に彼女達を誘ったのは頼れる相棒であった、片やエフェクターの効果を存分に活かしながら色彩のパレットを惜しげもなく展開してみせたファルコンさんと片や締まり切った打点から様々に土俗的なリズムを縦に横にとしなやかに拡張させてみせた立岩さんの其々に容赦のない緻密な仕事振りがあったからであるのは間違いないだろう。

尚、演奏中の写真はアーティスト・スタッフが撮影されたものをご厚意により拝借し掲載させて頂きました。

 

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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