小野健彦のLive after Live #504~509
text & photo byTakehiko Ono 小野健彦
#504 10月9日(木)
中野 Sweet Rain
http://jazzsweetrain.com/
‘DOLLAR BRAND Night’:吉野弘志 (b) ませひろこ (ss) 二村希一 (p) 三科律子 (ds)
年初以来の訪問叶った中野Sweet Rainにて、念願の’DOLLAR BRAND Night’を聴いた。
吉野弘志(B)ませひろこ(SS)二村希一(P) 三科律子(DS)
私にとって、かねてよりのアイドル的存在である南アフリカ出身のピアニスト:ダラー・ブランド(ABDULLAH IBRAHIM :アブドゥラー・イブラヒム)に捧げるこの意欲的なプログラムは、当年8月上旬他所にて実現されたもののタイミング合わずで伺うことが叶わなかったため、早速昵懇の三科律ちゃんに問い合わせをし再演予定を教えて頂きこの日この刻に狙いを定めたというのがことの次第。過去に四度生で触れたアブさん(日本の特に氏とは縁の深い京都の友人達は親しみを込めてこう呼ぶ)であるが、最初の出会いは確か80年代半ば。私が高校生の頃、神奈川・大和にあった(かのフェダインがホームグラウンドの一つにし、D.ベイリーも来訪した)ジャズバー「足穂」であり、続けて’87高校の卒業旅行で訪問したニューヨークのNYU音楽ホール、更には’93渋谷シアターコクーンで開催された伝説の祭宴FESTIVAL CONDA LOTA(当夜は、なんと嘉手苅林昌やN.ヴァスコンセロスも同じ舞台に立った!)と続き、そうして後年’06 京都上賀茂神社・庁ノ舎ライブに至った訳で、こと程左様に氏は私の積年広域に亘るLALにおいて特別思い入れの深い表現者であり続けて来た存在なのである。まあ、それらはそうとして、肝心の今宵の音、だ。なんと、期せずして、アブさん91歳の誕生日を迎えられた記念すべき今宵。愛すべき同胞達は、稀代のソングライターであるアブさんの佳曲(enc.では同所におけるこの企画では初お目見えとなったアブさん不朽の名作〈The Wedding〉迄飛び出した)に的を絞り吉野さんSNSの前口上通り「大地の息吹を感じさせる」スケールの大きな世界観を余す事なく表出させながらそのステージを展開して行った。吉野さんの、(こちら聴き人の腰に来る)地を喰む様な肉厚なベースライン。ませさんの、それはまるで大空を伸び伸びと羽ばたき続ける小鳥の可憐さと翳りを合わせ持った囀りを想起させる軽やかな音の連なり。そうして二村さんの黙々と大地に楔打つが如くの思慮深い音の運びと、三科さんの(ブラシとスティックを効果的に使い分けながら緩急の自在に在って)果敢にサウンドの核心と交信する中に見てとれた残響への慎重な配慮といったやうに。そこに生まれ行くハーモニーからは、私がこれまで四度生で聴いたアブさんによるサウンドの拡がりと奥行きと比してもなんら遜色の無い’25寒露版に仕立てられた上質の音魂を色濃く感じとることが出来た。そこでは、ハコ内に生じる筈も無い緩やかな風の揺らぎを感じ得たのは私だけではなかったと思う。時間の経過と共に私の体感温度も心地良い柔らかさで上下に変化して行った。絶好の素材の前に適格な捌き手が居て。そこに徒らな作為の一切感じられない中にもおおいなるカタルシスを存分に味わうことの出来た充実に過ぎる時の移ろひだった。
#505 10月10日(金)
Art Baboo146
https://www.facebook.com/abb146
DUO:マルコス・フェルナンデス(percussion)さがゆき(tabletop guitar/鳴り物/voice)
双十節(「中華民国」の建国記念日)で賑わう横浜中華街(関帝廟近くの)Art Baboo146にて、興味深いDUOを聴いた。Marcos Fernandes (各種percussion) さがゆき(tabletop guitar/鳴り物/voice)
〈今宵のセットリスト〉all improvisations
[1st.セット]
M-1:インプロ〈祭〉 ~双十節によせて~
M-2:〈Amazing Grace〉
[2nd.セット]
M-3:童謡〈とんぼのめがね〉
M-4:「イエローサブマリン組曲」~「モールス信号」のモチーフを織り込みつつ~
国民歌謡〈海行かば〉童謡・唱歌〈うみ〉〈Fly Me To The Moon〉
M-5:〈ラストダンスは私に〉(ゆき訳詞版)
M-6:セント・ジェームス病院
横浜で生まれ、永らくサンディエゴを拠点に活動しつつ’08帰日前後を通じ国内外の各種表現者達との交流を成し遂げて来たマルコスさんと、片や六月に自身に起きたまさかの重度腰椎骨折から八月復帰後、(サポーターの手を借りずに)初めて各種楽器を自らの手により運び込んだゆきさんとの今宵の現場は、かつてユニット:ひこーきで協働を重ねたおふたりにとって、実に9年振りとなる待望の手合わせとなった。
各種パーカッションを駆使しながら丁寧かつ思慮深い手際の中に土俗的・呪術的テイストを織り成しつつ結果的におおいに説得力のあるグルーヴ感を立ち上げたマルコスさんとの魂レヴェルの共振を通して、ゆきさんの撥音を中心としたヴォイ・スパフォーマンスと抑えたギターワークは抜群の冴えを見せて、それはまるで待ち焦がれた雨上がりに戸外へと飛び出した少女が発するがごとくの自由闊達さを浮き彫りにさせることとなった。互いの不在の中にあっても決して鍛錬の歩を止めなかった稀代のインプロヴァイザーふたりの心意気が次に何が出て来るか分からないというスリル感と共にこちら聴き人の胸へと静かに、しかし熱く迫り来た、そんな充実の2時間余りの圧巻の刹那だった。
#506 10月12日(日)
横浜野毛 DOLPHY
https://dolphy-jazzspot.com/
カルメン・マキ×阿部篤志DUO
三ヶ月振りの訪問となった横浜野毛DOLPHYにて、カルメン・マキ×阿部篤志DUOを聴いた。
カルメン・マキ(VO/語り/鳴り物)阿部篤志(P/Cho)
一時期は比較的頻繁に足を運んでいたマキさんの現場も、間に私自身の骨折入院等もあったため、マキさんご自身と直接お逢いするのは実に年初1/11以来となった。私にとってはお初となるマキさんとピアニストとの完全DUOという編成と、マキさんSNS に踊った前口上:曰く「新しさや変わったものを求めたら肩透かしを食うでしょう。普通の歌を普通に唄うライブです」に強く心惹かれ現場へと向かったというのがことの次第。果たして、私はこの日がお初となった阿部さんの清廉なピアノに導かれた浅川マキ詞/かまやつひろし曲〈賑わい〉で幕開けし、本編をCポーター詞曲〈Everytime We Say Good-bye(訳詞版)〉で締めた後、満場のアンコールに応えた阿部さんたってのリクエスト曲〈Tennesee Waltz〉でお開きとなった今宵のステージでは、マキさんの語りを含めた詩作品[寺山修司〈懐かしのわが家〉、金子みすゞ〈不思議〉、森崎和江〈祈り〉、萩原朔太郎〈白い月〉等]とマキさん自家薬籠中の楽曲[浅川マキ詞曲〈少年〉、D.ホランド〈Quiet Fire〉、春日博文詞曲〈たつまき〉、Eri Liao詞ファルコン曲〈夏の雨〉、カルメン・マキ詞ファルコン曲〈月夜のランデブー〉、マーク=アーモンド〈Monday Bluesong〉、更には吉田信〈酔い待ちワルツ〉やサトウハチロー詞加藤和彦曲〈悲しくてやりきれない〉等]とが同一線上に巧みに配置された全16編が披露されることとなった。聞けば、普段は舞台音楽の現場も多いという阿部さんであるが、1stセットでは、やや気負いが優ったか、音数の多さが目立ちそこに大仰さを感じさせるきらいもあったが、全体を聴き終えた印象としては、現代音楽、ポルカ風、タンゴ風、ジャズ/ブルース、フリーフォームといったように間口の広さを見せつつ、何よりもマキさんの呼吸感に合わせて充分なスペース/ムードを当意即妙に用意する非凡さが感じらた点は好ましい在り様と言えた。そんな阿部さんのピアニズムに導かれたマキさんも、詩作品に、唄物にとレンジの拡がりを際立たせながら終始肩の力の抜けた伸びやかさを維持しつつ丁寧に、そして熱く、コトノハを紡いで行った。今日のおふたりの音創りに触れていて特に印象的だったのは、ふたりの描いた世界観が持つベタ付きの無い優しさであり、その硬質な音の流れの中に意味のある言葉の数々が持つ重みを押し付けがましくなく解き放つことで聴き手の心の襞に柔らかく寄り添わせたのは流石の手際と言えた。今日私の眼前に立ち現れて来たのは、確かにマキさんの前口上通りの「普通に唄われた普通の歌」の数々であった。しかし、そこに強いメッセージ性やドラマ性が認められなかったからこそ、「日常」を淡々と描く飾り気の無い普段着のひとりの唄歌いの矜持を強烈に感じることが出来たのも事実だった。来月50歳を迎えられるという阿部さんとマキさんとは、’3.11’以前からの長いお付き合いと聞いた。何の衒いも無く普通の音を客席に向かって普通に投げ出すことの出来る機がまさに今熟そうとしているのだろう。これからも肩肘を張り何かを「狙って」殊更伝えようとする「欲」を出さずに、兎に角淡々と深化をして行って頂きたい。そんな伸びしろのある自然体なDUOとの再会が今はなんとも待ち遠しい。
※尚、演奏中の写真はマキさんスタッフの方から借用し掲載させて頂きました。
#507 10月17日(金)
町田 ニカズ Nica’s
https://nicas.pinoko.jp/nicas/
駒野逸美5:駒野逸美 (tb) 谷殿明良 (tp) 瀬田創太 (p) 清水昭好 (b) 高橋直希 (ds)
お馴染みの町田ニカズにて、駒野逸美5を聴いた。
駒野逸美(TB)谷殿明良(TP)瀬田創太(P)清水昭好(B)高橋直希(DS)
私が逸美さんの音を同所でお聞きするのは、盟友である上杉優氏との2TBユニット:THE BON BONES及び大徳俊幸氏(P)とのDUO Nightに続き三度目であり、駒野さんのニューバンド自体も同所出演は三度目(高橋さんは初参加)と聞いた。フロントラインのおふたりはお馴染みながらリズム隊の御三方とはいずれも今宵がお初とあって、バンドとしてのコンビネーションと共に各人のプレイの両面を楽しみに開幕の時を待った。果たして、満場の拍手に応えたアンコールも含め今宵披露されたのはいずれも比較的長尺ながら丁寧に仕立てられた全9曲の数々。その中にあって、プレイに作編曲にと全編に亘り逸美さんのリーダーシップが冴えた今宵の音創りは、金管の雄とも言える二管の編成を存分に活かしたサウンドの層が程よく厚く、そんなフロントを駆動力が高く体幹の強いピアノトリオが手堅く土台を支えたことによりサウンドの間口が広がった点が印象的であり、加えて逸美さんと清水さんのオリジナル曲とスタンダード曲とをバランス良く織り成したセットの構成力も魅力的。更には互いの出方に十分に耳をすましているからであろう、大所帯故に陥り易い音の離散が無くサウンドの腰が座っており、そうしてステージ上に度々笑顔が溢れたことからバンドメンバー各位がこのバンドの中で音を創っていることを心底から愉しんでいる様子がハコ内に充満して行く点が何よりも良かった。こと程左様に今宵はオーソドックスなジャズを聴くことの旨味、痛快さ、醍醐味を様々な切り口から存分に楽しませて頂けたご機嫌なひとときとなった。最後に、一夜を聴き終えて、「ジャズ・メッセンジャーズ」のようなサックス入りの3管編成にしなかった事が(当然それは逸美さんの狙いなのだろうが)ハーモニーとスペースの整え方の在り様としては洗練されていて、こと私の好みのツボにハマったことも書き加えて置きたい。
#508 10月18日(土)
すみだトリフォニーホール
https://www.triphony.com/
『渡辺貞夫 meets 新日本フィルハーモニー交響楽団』
初訪問叶ったすみだトリフォニーホールにて、
『渡辺貞夫meets新日本フィルハーモニー交響楽団』公演を聴いた。
〈第一部〉渡辺貞夫カルテット[8曲/50分]
渡辺貞夫(AS)小野塚晃(P)三嶋大輝(B)竹村一哲(DS)
〈休憩&セットチェンジ〉[20分]
〈第二部 & enc./W.enc.〉
渡辺貞夫meets新日本フィル[12曲/70分]
渡辺貞夫(AS)小野塚晃(P)養父貴(G)三嶋大輝(B) 竹村一哲(DS)
中田延亮(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団、伝田正秀(特任コンサートマスター)
〈last.enc.〉
渡辺貞夫(AS)小野塚晃(P)
貞夫さんと新日本フィルの3年連続3度目の協演。垂涎の邂逅に三層約2千席は完売。
第一部はレギャラー・カルテット。第二部は、ギターの養父さんを加えたクインテット編成がフルオケと対峙する豪華音絵巻。次から次へと飛び出す稀代のソングライター貞夫さんのオールタイム・ヒットソングの数々。
私にとっては五度目のナマとなる御年92歳の貞夫さんは、音色とフレーズも、プレイする際の動作も、全てが只々清らかで美しかった。生命力溢るる無垢なジャズ魂。崇高にして、圧巻の優雅。
#509 10月22日(水)
新宿 PITINN
http://pit-inn.com/
『TRYANGLE』:山崎比呂志 (ds) 井野信義 (b) 林栄一 (as)
この年末に目出たく創業60周年を迎えられる老舗・新宿PITINNにて『TRYANGLE』を聴いた。
山崎比呂志(DS)井野信義(B)林栄一(AS)
久しぶりにレギュラー・メンバー三人が一同に顔を揃えた今宵。中でもリーダーである山崎さんは、前週10/16~19の四夜に亘り、好セールスを続ける佳作盤『Punctum Visus-視角』(Point.レーベル第一弾でバンマスは謝明諺氏)リリース記念のプチツアーを台湾各所にて(中には25,000人を動員した台中Jジャズフェスティバルへの出演も含まれたが)大成功裡に完遂し一昨日夜帰国、前日一日のみの休養後今宵のステージに立ったというのがことの次第だった。まあそれはそうとして、肝心の音、だ。結成7年目を迎えるこのユニットのアンサンブルは相変わらずしなやかで強固。緩急の自在に在って、文字通り三者が三つ巴になりながら山崎さんが長年追究して来た「フリーフォームのビート」を客席に向かい鮮烈に問い続けて行った。85歳というご年齢を考えるとかなりの強行軍だったであろう旅の疲れを微塵も感じさせることなくブラシに、スティックに、マレットにと、サウンドの流れの中に生まれ行く機を逃さずニュアンスに富んだタッチを際立たせながらセット全体を鳴らし切った山崎さん。独自のテンポ感にて相変わらず切れ味鋭く時空を縦横無尽に駆け抜けた林さん。そうして、サウンドの内周と外周とを自由に行き来しながら泰然としたビートを刻み続けた井野さん。といったやうに。其々が自分自身の役割りを見据えながら丁寧な音創りと向き合ったところに生まれる説得力のある音の連なりたるや今宵も必要にして充分なものだった。千両役者達による無駄話の無い「抑えた」ジャズ。颯爽として痛快。
※尚、演奏中の写真はピットインスタッフのご厚意により撮影頂いたものを掲載しております。
最後に、甚だ蛇足ながら、久々にLAL恒例の夕飯タイムの一コマをひとくさり。今宵は新宿三丁目入りの時間も塩梅良く、と来れば当然のことながら創業72年の焼き鳥屋「海老忠」の暖簾を潜ることに。眼にも鮮やかな鳥刺しを皮切りに、焼き鳥は、塩タレそれぞれ「混ぜて」(鳥×2+だんご&もつ焼きがセットになったもの)頂き、間に野菜焼き(塩)を挟みつつ〆には海苔茶漬けを満喫してからハコに向かいました。
すみだトリフォニーホール, 町田ニカズ, 新宿PitInn, 中野Sweet Rain, Art Baboo146, 横浜野毛Dolphy












































