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小野健彦の Live after LiveNo. 335

小野健彦のLive after Live #523~#528

text & photo by Takehiko Ono 小野健彦

#523 1月10日(土)
日本橋三井ホール
https://nihonbashi-hall.jp/website/
DUO:南佳孝 (vo/ac) 松本圭司 (p)

記念すべき’26初春音始めは、初訪問の日本橋三井ホール(COREDO室町I•5F)にて、待望のDUOを聴いた。
南佳孝(VO/AG) 松本圭司(P)

南さんといえば、私が湘南に住み始めた’90年代後半には、地元辻堂・茅ヶ崎の寺社仏閣夏祭りイベントや、兄弟フォークDUO:ブレッドアンドバターが主宰したビーチクリーン活動関連のベアフットコンサート、更に珍しい所では、当時私が勤務していた松下電器湘南電池工場でのサマーフェスティバル出演等の機を捉え比較的頻繁にその現場に触れていた表現者であるが、その後長らくの無沙汰が続いたため、今宵、約30年の時を経て念願の再会が叶ったというのがことの次第だった。まあ、それはそうとして、肝心の音、だ。前日1/9に目出たく76歳の誕生日を迎えられた南さんであったが、積年のライブ活動で鍛えられた声の伸びは申し分無く、幕開けからこの日会場に詰めかけたフルキャパ7百席を埋め尽くした老若男女のお客様を瞬時に掴んで仕舞う手際は圧巻だった。定評のある趣味の良いコードワークを畳みかけながら、そこへ「時代」に潜む人と街のせめぎ合いの機微を鮮やかに切り取った洗練された言葉が木霊する新旧のオリジナル、実に全20曲で押し通した約2時間半の音絵巻。そこでは「シティ・ポップス」から受ける「軽さ」とは対極にある「骨太な」音楽観を終始強く受け取ることが出来た。本編が終わり満場のスタンディングオベーションに応えた〈スローなブキにしてくれ〉と〈モンロー・ウォーク〉の二大ヒットソング連発も、それは「既定路線」であったにせよ、「色褪せない」ショーマンシップの現れとしては十二分に過ぎる天晴れな在り様として私の眼には映った。

最後に、終演直後に行われたサイン会においても、一切の疲れを見せずに長蛇の列に丁寧な応対を続けた南さんの清々しい横顔があったことを書き漏らしてはなるまい。

#524 1月11日(日)
国立・音楽茶屋 奏
https://kunitachi-music-sou.hateblo.jp/
新春 初トリオ:渋谷毅  (p) 長谷順子 (vln) 山崎弘一 (b)

前日の’26初春音始めに続き、今宵は、3年振り2度目の訪問となった国立・奏にて、待望の「新春 初トリオ」を聴いた。
渋谷毅(P)長谷順子(Vln)山崎弘一(B)


鎌倉在のバイオリニスト長谷さんが渋谷さんとの共演を(長谷さん曰く「恐れ多く」も)希求し、その想いを山崎さんが繋いだところに端を発したこのトリオは、作夏同所にて企画されるもライヴ前日に発生した老朽化した同ビルの水漏れ事故によりやむ無く延期されたという経緯があり、その時も早くから予約を入れていた私は、今宵も急ぎ現地に向かったというのがことの次第だった。果たして、渋谷さんの優しいイントロに長谷さんがそっと寄り添った〈Ave Maria〉~〈Satin Doll〉で幕開けした今宵のステージは、終わって見れば実に全20曲に及ぼうかという充実の内容を持つものとなったが、とりわけ印象に残ったのは、ジャズスタンダード曲、ブラジル物、ミュージカル曲、シネマミュージック等々その楽想も多岐に亘ったセットリストのバラエティさに加えて、ステージと客席を行き来しながら曲毎に担当の演者指名とヘッドアレンジを施しながら各楽曲に最適の陣容を即座に判断したミュージカルディレクター役の山崎さんによる楽器編成の妙にあったと言える。以下に、幾つかの場面を点描すると、渋谷さん「十八番」のソロパートでは、1st.セットでは、氏大好物のJ.ルイス作品、D.エリントン作品等を連ね場を鎮めるのに大きく功を奏し、2nd.セットでは、山崎さんからのDUOでのリクエストに応え「テーマを弾くから適当に演って」とさらりと受けるも、自身ソロ「定石」の自作〈蝶々〉~T.モンク作〈Misterioso〉に繋げたくだりでは、その重心も低いベーシストを得たことで、体幹の強い音の連なりへと昇華させて行ったのはなんともスリリングな流れと言えた。他ではDUOパートでも多くの聴かせ所があった。山崎・長谷ペアが奏でたC.ヘイデン作〈En la Orilla Mundo〉。ハードボイルドとロマンティシズムが心憎く共存する山崎さんの魅力を長谷さんが巧みに引き出した名演であり、渋谷・長谷ペアが奏でた〈tea for two〉。小唄・端唄の捌き方については当代随一と目される渋谷さんの旨味を長谷さんが十二分に引き出した快演だったと言える。トリオパートでも、M.ナシメント〈Travessia〉では、ブラジル物の肝とも言えるサウダージを。S.ウォルトン〈Holyland〉では、モダンジャズに不可欠のダイナミクスを。(指定楽譜以外の演奏を認めないという使用許諾規定範囲の都合上ここでは明示を避けることとする)E.モリコーネ〈不朽の名品〉では、哀切と儚さの極地を其々存分に体現化してみせてくれた。「個」が互いに活きることで「ユニット」の魅力が最大限活かされた稀有なひととき。本編ラストでは渋谷さんソロの二大代表曲〈Lotus Blossom〉~〈Danny Boy〉を繰り出す大盤振る舞いにも驚愕。戸外はことの他寒さが増していたが、私個人的には、人肌の温もりを持つ温燗のような極上のジャズが心底身に沁みた夜だった。


#525 1月25日(日)

西荻窪 CLOP CLOP
http://www.clopclop.jp/
佐藤研二 (b/vo) 阿部耕作 (ds/vo) +さがゆき (vo/perc)

夜の帳が降りる頃、めっきりと寒さも増した初春睦月の最終日曜日。凡そ1年振りの訪問となった西荻窪CLOP CLOPにて、興味深いトリオを聴いた。
佐藤研ニ(B/VO)阿部耕作(DS/VO) +さが ゆき(VO/G/各種鳴り物)
ユニット「ELECTRIC SYNAPSE」にて協働を続ける佐藤さんがゆきさんに声を掛けたことに端を発したこのユニットは、昨年11月に続き2度目の現場お目見えとなったが、私は、その際生憎と聴き逃していたため、満を持して今宵を狙ったというのがことの次第だった。果たして、今日のステージは、いずれも10~15分程にコンパクトに纏めあげられたインプロヴィゼイション曲が次々と供されることとなったが、中でもロック、シャッフル、ブギーから4ビートに至るまで柔軟且つタイトなサトケンさんと阿部さんのコシのあるリズムの間に間をしなやかに切り込みながら選び抜いた言葉の数々を説得力のある音へと鮮やかに変容させつつサウンドの層に彩りを与えて行ったゆきさんの手際の良さにはこの表現者のヴォイスパフォーマーとしての如才の無さを改めて感じさせられることとなった。そこでは、叫びと促音のミクスチャーの中に佐藤さんとの絶妙な掛け合い(言葉戯び)が産み出した「可笑し味」が良い塩梅に効いて、「インプロ」を小難しさの中に閉じ込めることなく客席に向かって開かれたご機嫌なサウンドとしてそのクオリティーを維持するのに功を奏したと強く感じた。今宵の音場に触れていて、ふと私の脳裏を「おもちゃ箱をびっくり返したような」との形容がかすめる瞬間もあったが、それは決して「多種多様なものが雑然として散らかっていて、纏まりに欠ける」という意味ではなく、三者が三様に言葉と音の響き合いを心底愉しみながら、彩り豊かなサウンドの層を積み上げて行こうとする姿勢が色濃く読み採れたところから来ていたのだろうと今改めて振り返り確信する次第である。本番中、客席から「ユニット名は?」の問いかけがあったが、ステージサイドからの答えは、「佐藤・阿部+さが」であった。しかし、私個人的には、「可笑し味」をその中核に持つこの稀有なユニットに対しては、敬愛と賛辞の念を込めて『ハイパーコミックインプロ社中』の称号を献上したいと思う。しかし、実に愉快な夜だった。


#526 1月26日(月)

合羽橋 なってるハウス
https://knuttelhouse.com/
TRYANGLE ahead:山崎比呂志 (ds) 永武幹子 (p) 須川崇志 (wb/eb)

昨年8月以来、久方振りの訪問叶ったお馴染みの合羽橋なってるハウスにて、こちらもその時以来となった待望のTRYANGLE aheadを聴いた。
山崎比呂志(DS)永武幹子(P)須川崇志(WB/EB)


果たして、私にとってジャズ界の我がオヤジたる山崎さんとの今年初めての現場は、嬉しい驚きに満ち足りたものとなった。これまで何度となく触れて来た「ahead」であるが、その幕開けは山崎さんのドラムで口火が切られることが多かったと記憶しているが、今宵は、山崎さんがイントロを委ねたのは永武さんだった。そこからの永武さんの音創りが今宵は冴えに冴えていた。表現者のプレイを他の表現者のそれと比較して述べること程無粋なことは無いが、こと今宵の永武さんのプレイからは、意欲的ニューアルバム『Tribute to Cecil Taylor』制作に際し通過した偉大なるピアニストの影を想起させられること度々であった。それらは、可憐なメロディの散らし方、和音の崩し方、鍵盤全体を俯瞰的に捉えたパッセージと和音のコンビネーションの織り成し方といったやうに。そこでは元来アイデアの引き出しの多い表現者としての永武さんが手持ちのカードをより増やした感を強くした。そうなるとそんな永武さんの音創りに感応した山崎さんのドラミングにも変化が現れた。ブラシのパートはブラシで通し、スティックのパートはスティックで通し。といったやうに。いつも以上に音数を厳選して叩き過ぎない在り様に徹する場面が多く観て採れた。須川さんにしても同様だ。「機を見るに敏」ではないが、永武さんのサウンドマネジメントの変化とそれに呼応した山崎さんの往き方の変化によるトリオサウンドの変容に対し、より効果的と判断したか、2nd.セットではエレベを取り出して、これが結果的にこれ迄に無いスペースをトリオサウンドの中に用意することに功を奏したのである。今宵のステージに触れていて、’24/4の初顔合わせ以降回を重ねた協働の成果が大きく花開き、山崎さんが長年追究して来た「フリーフォームのビート」を永武・須川両氏が確実に継承し、独自のスタイルに落とし込みながら自発的に昇華する様をまざまざと見せつけられる思いがした。そんなふたりを如何にも頼もしげに聴きつつサウンドの展開を託した山崎さんのプレイも印象的だった。「叩かずにはいられない」ドラマーが「叩き過ぎないこと」をも安心して選択出来るに至った夜。結成から程無く2年を迎えるこのトリオが、この3月には齢86才を迎えられる山崎さんの掌中にありつつも時に少しずつ手離れをしながら「フリーフォームのビート」の現在進行形を携え新たなる展望に満ち溢れた「第二章」のスタート地点に立った。そんな感を強くした嬉しいひとときだった。


#527 2月1日(日)

南青山BAROOM
https://baroom.tokyo/
DEEP SPECIAL DUO『時間と空間』:大友良英  (perc/g) 山崎比呂志 (ds/perc)

初訪問の南青山BAROOMにて、
大友良英×山崎比呂志 DEEP SPECIAL DUO『時間と空間』公演を聴いた。
大友良英(Perc./G)山崎比呂志(DS/Perc.)

開店から約3年半の年月を通じて、様々の意欲的な公演が繰り広げられて来た同所も、運営会社の移転に伴い、この2月末を以って閉店が決定される中、今宵のオーガナイザー役である大友氏が企画したのは、これまで幾多の協働の機会を経て来た山崎さんとのDUOによる対峙だった。しかし、これ迄と勝手が違ったのは、公演案内にも告知されていた「大友氏がギターのみならず、様々な劇伴や現代曲で使用してきた特殊なパーカッション類をあらん限り持ち込んで」の手合わせだったところにあろう。我々聴き人は、後述するように、そこに大友氏が今宵に賭けた「狙い」を感じることとなった。恐らく、氏が当夜、大量のパーカッション類を持ち込むことは山崎さんにも事前に伝えられていたのであろう、対する山崎さんもインチの異なるバスドラム2個や、小型高音系のタムタム数種にカウベル、更には過日私が氏に謹呈した(インドネシア・ガムラン楽器に属する)銅鑼:クンポル等々いつにも増してセットに組み込む楽器類を増やし今宵に備えていたのである。まあ、それらはそうとして、そんな大量の打楽器類を前に上手に山崎さん、下手に大友さんが座し開幕した今宵のステージであるが、1st.セットは両者による完全打楽器対決(大友氏は敢えてであろう、ついぞギターに手を触れることは無かった!)。続く2nd.セットは前半部と後半部に僅かの時間をかけて大友氏が緩やかなノイズギターの味付けを施す場面も見られたが、大部分は両者の打楽器対決で占められることとなった。こうして書いて来ると今宵は両者による打楽器対決に終始したかの様な印象を与えかねないが、答えは、否、である。大友氏は打楽器は打楽器でも、両セット共にダンボール、シンバル、銅鑼等々を駆使しながらほぼパーカッショニストに徹したのに対して、山崎さんは、冒頭の僅かな時間こそ、高音系タムタム、カウベル、クンポル等を織り成しながらパーカッショニストの横顔を見せたが、1st.セットでは、音数の多さを見せた大友氏に対してオーソドックスなドラムセット、主に太鼓類を中心に音数を抑えた緩やかな畝りを。反対に2nd.セットでは、引き続き音数の多さを見せた大友氏を上回る勢いで、太鼓類にシンバルをコンビネーションさせ、更には2バスドラムの響きを際立たせながらドラマーとして対決に挑んで行ったのである。この辺りに及び、冒頭で触れた大友氏の「狙い」が見えてきたのだった。そう、それは、今宵の企画の伏線は、「時間と空間」を鮮やかに制御出来る表現者同士のDUOでありつつも、その主軸は、大友氏が自らの主楽器であるギタープレイを封印しつつ音数の多いパーカッショニストに徹することで山崎さんのドラマーとしての「ソロ」の妙味を存分に引き出そうとしたことにあったのだろうと思う。そこでは、我々聴き人にも「ソロ」の在り様が、「独り」奏でること以外にもあることを気付かせてくれた。それはまさに山崎さんの音創りを知り尽くした大友氏ならではの流石の策士振りだったと感じた。最後に、事前の告知では当夜の模様はREC.されるとあった。実現の暁には、是非共満場のアンコールに応え、両者「短く」と言いながら奏でられた〈Lonely Woman〉が収録されることも期待しつつ、その時を待ちたいと思う。そうして、今改めて当夜を振り返り、私自身としては、いずれにせよ、今後のドラマー:山崎比呂志氏の「ソロ」に大いなる期待を抱いた夜となったことは確かである。

#528 2月11日(水)
合羽橋 なってるハウス
https://knuttelhouse.com/
渋谷毅  (p) 近藤直司 (ts/bs)

お馴染みの合羽橋なってるハウスにて、待望の’初’顔合わせによるDUOを聴いた。
渋谷毅(P) 近藤直司(TS/BS)
過日、某所にて渋谷さんと会話していた際、当夜の企画の話をお伺いし、絶好の祝日夜の機を捉え向かった現場にて大いなる期待を胸にその開幕の時を待った。過日渋谷さんから伺ったところによれば、奈良ブルーノートのカウンターで飲んでいた際かかっていた「いいsax」が近藤さんの音であり、その後4月に企画されたブルーノート公演の前哨戦としてブックされたのが今宵とのことだった。まあ、それはそうとして、肝心の今宵の音だ。ステージは、2ndセット冒頭、渋谷さんに促された近藤さんのバリトンサックス無伴奏完全ソロによる〈lonely woman〉と、続いた渋谷さん十八番のピアノソロ(〈memories of you〉でスタートし、自家薬籠中の〈body and soul〉、〈my man〉、〈soldier in the rain〉、板橋文夫作〈good bye〉等々を連ねながらスタンダード〈lover man〉に至る全10曲余りの珠玉の短編集)を挟みつつ、2セットに亘りふたりの語らいをじっくりと聴くことの出来る構成が採られた。そこでは、予め決められたセットリストによらず、ピアノの上に置かれた大量の譜面の中から渋谷さんが閃きでセレクトした楽曲が澱みなく展開されたが、特筆すべきは初顔合わせ故のともすると易きに流れるリスクもある名の知れたスタンダード曲に多くを頼ることなく幾編かのそれらの中にC.ブレイ、C.ヘイデン、T.モンク、ペートーヴェン作品、更に最終曲にはなんと渋谷さん不朽の名作である〈beyond the flames〉(←浅川マキさんが清水俊彦氏の詩集「直立猿人」よりその断片を自由に歌い〈無題〉とした)等々のバラエティに富んだ佳曲群を巧みに織り成したところに全体として噛み応えのある音場が立ち上がる鍵があったとの印象を受けた。渋谷さんの訥々してノンシャランな中に迷いの無い説得力のある音の連なりに対し、曲想を巧みに見極めながらテナーとバリトンを吹き分けつつ、無駄な虚飾を廃した削ぎ落とされた哀切溢るる芯のあるトーンで応えた近藤さんの音創りからはこの表現者の体幹の強さを改めて感じさせられた。そこに大仰なドラマ性はないものの、各々の楽曲の行間に込められた物語のエッセンスを濾し出しながら滋味深い音の塊へと結実させたこの夜のおふたりの音の粒立ちにジャズの奥義を感じたのは決して私だけでは無かったであろうと今振り返り強く感じている。極く静かにではあるが私にとっては身も心も芯から温まることの出来た稀有な時の移ろひだった。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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