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小野健彦の Live after LiveNo. 338

小野健彦のLive after Live #541~546

text and photo by Takehiko Ono 小野健彦

#541 5月16日(土)
合羽橋なってるハウス

https://knuttelhouse.com/
DUOシリーズ:原田依幸 (p) 太田惠資 (vln)

お馴染みの合羽橋なってるハウスにて、同所では月例の原田依幸氏によるDUOシリーズを聴いた。
原田依幸(p) 太田惠資(vln)
当夜は、最寄駅:入谷から程近い「小野照崎神社〈テルサキさん〉」(852年に創建され、御祭神に「百人一首」にも撰された平安初期有数の歌人:小野篁公を祀り、菅原道真公とも所縁のある)の前日から開始された三日間に亘る毎年恒例の「大祭」中日に当たったため、周辺道路には宵の口に鮮やかに映える祭提灯を掲げた幾台もの御神輿と担ぎ手を含めた無数の群衆がごった返す一種騒然とした街の雰囲気を背にし開始されたステージでは、少人数での、ましてDUOでは初めての邂逅を果たした両者による充実に過ぎる音場が紡がれ行くこととなった。

1st.セット約30分、2nd.セット約20分と比較的コンパクトに、それでいて必要充分に纏められた今宵のステージ。初対面故の探り合いを微塵も感じさせる事なく、極く自然と静かに入りセット全体を通して音を巧みに散らすことで幽けき印象が際立った1st.セット。対して身体も温まったか、スピード感溢れる鮮烈な煌めきの内に、後半では太田さんが〈over the rainbow〉の断片まで繰り出すに至った2nd.セット。と、共に鋭利な刃物同士から迸ったフレーズは刺激的に連続し、断続し、アタックの強い和音は刹那の内に深淵を鮮やかに捉えて行った。終始静かなトーンの中にスリリングな火花散った当夜の語らいを終え、戸外で共に煙草を燻らせながら原田さんがふと独り言ちた「こんなに静かな音で弾くことはめったにないヨ。太田さん、電気も「拡声器」も使わず生音一本で来たから、こっちもいつもと弾き方変えたヨ」は、確かにご本人的にはそうだったのかもしれないが、持ち前の高速パッセージはやや控え目に、それでいて強打美和音を効果的に繰り出した在り様から私が受け取ったのは、エレガンスの極みを描く待望の「原田節」であり、ふたりが紡ぐ抑制されたテンションの内にシンクロした音像の切先が、私の耳底で鳴り続ける「祭り囃子」に木霊する。風薫る季節にはなんともお似合いの実に涼やかな趣き溢るる充実のひとときだった。

 

#542 5月23日(土)
横浜・野毛DOLPHY

https://dolphy-jazzspot.com/
『The Blend』:鈴木’Chin’良雄 (b) 峰厚介 (ts) 中村惠介 (tp/flh) ハクエイ・キム (p) 本田珠也 (ds)

横浜・野毛DOLPHYにて、鈴木良雄『The Blend』を聴いた。
鈴木’Chin’良雄(B)峰厚介(TS)中村惠介(TP/Flh)ハクエイ・キム(P)本田珠也(DS)


芸歴実に60年余り、当年3月には目出たく傘寿を迎えられた’チンさん’率いるこのオールスター・バンドの音に触れるのは、’22/7 伊香保World Jazz Museum 21ライヴ以来2度目。既に2枚の力作アルバム(『Five Dance』、『EXPECTATION』)を世に問うている当ユニットは、今宵も引き締まった体幹から繰り出すセクシーなグルーヴを際立たせながらこの夜この場に集いし多くの聴き人達の耳目を鮮やかに捉えて行った。チンさんが約6年半前、満を持してこのバンドに召集したメンバーはいずれも一国一城の主だけに、各人が其々にサウンド全体を俯瞰し大きく捕えようとする手際の数々には刮目させられること度々であり、リズムセクション/フロントライン乃至はソリスト/伴奏者の役割分担の枠組みを超えながら、5人が文字通り一丸となってハイブリッドなスピード感とダイナミクスのコンビネーションの内に導き出した腰のあるリズムと華やかなメロディラインが有機的に「溶け合う」様に、チンさんが1st.アルバムのライナーノートに寄せた、曰く「もうこれはジャズなのにアメリカの音楽ではない日本の音宇宙」を痛感し、心の内で何度も快哉を叫んだ。正味2時間強のステージを通して披露された楽曲は、前述の既発2作品収録曲を中心にハコ全体が揺れた熱い拍手と声援に応えたアンコールも含めて全9曲に及んだが、中でもクライマックスは、半世紀の時空を超えて蘇った2ndセット冒頭の驚きのセレクション:チンさん27才の時、盟友である故本田竹廣氏、村上寛氏、更には峰さん等と共に吹き込んだ処女作のアルバムタイトルチューン:現代を生きる我々の耳にも斬新な7拍子〈Friends〉のこのバンドでは本邦初演であったことは衆目の一致するところだったろう。


#543 5月24日(日)

新宿ピットイン

http://pit-inn.com/
『プレイズ・カーラ・ブレイ』

新宿ピットインにて、吉田隆一氏主宰による『プレイズ・カーラ・ブレイ』公演を聴いた。

(DS)


当プロジェクトは、’20に開始され、その後折々にゲストを迎えながら年一回のペースで推進されて来たが、当夜のオリジナルメンバーがステージ上に居並ぶのは、同じく吉田さんにより主宰され大好評を博した同所での’23/1『The Third World of Jazz プレイズ3デイズ』公演(この時は別日には、異なるメンバーでG. バルビエリとC. ヘイデンが取りあげられた)以来とのことであり、最近再び多人数ジャズへの関心高まる中、4月上旬の「高瀬アキ&D.エルトマン・タイムレスプロジェクト」は残念ながら聴き逃したものの、GW休暇中に接した「渋谷毅オーケストラ」並びに渡辺隆雄「ミンガス・スペシャル」にいたく触発された我が身にとってはまさに待望の現場であった。まあ、それはそうとして、肝心の今宵の音、だ。其々が多彩な音楽フィールドで意欲的な表現活動を展開する逸材達が一堂に介したステージから(恐らく十分に考え抜かれた事であろう)塩梅良く整然とした流れ(曲順)に乗せて届けられたのは、鬼才カーラ氏の手になる(後述の)全9曲であったが、そこではいずれも一筋縄ではいかないペーソスに溢れたカーラ・ミュージックの謎解きには最適な面々を配し腰のあるグルーヴを力強く産み出すリズム隊をバックにしたリーダーを除くフロントラインを金管楽器に託した編成が「突き抜けた」祝祭ムードを昂めるなど才人・吉田さんならではの捻りの効いた巧みな采配振りが遺憾なく発揮され、その重層的且つ能動的で緻密なソロパートとアンサンブルの絶妙なコンビネーションを通して、各楽曲に潜むSF寓話的な可笑しみと哀しみの情緒を鮮やかに表出させてみせた。オクテットの面々は一貫して無駄の無い仕事振りに徹した感があり、それはカーラ氏が指向した音創りと比しても遜色の無いものだった。単なる「カバー」に止まらず、素材であるカーラ・ミュージックを「自分事」として捉え、各人が自らの内に取り込み独自色に昇華させようとする渾身の在り様が私の眼にはなんとも清々しく映った。飛び切りヒップでダンサブルな音に浸り切ることの出来たなんともゴージャスな日曜宵のひとときだった。

[本日のセットリスト]
〈1st.セット〉
M-1:Dreams So Real
M-2:Ad Infimium
M-3:Healing Power
M-4:Syndrome
〈2nd.セット〉
M-5:Blunt Object
M-6:Ida Lipino
M-7:Drinking Music
M-8:medley-A.I.R.〜EOTH Theme〜Rawalpindi Blues
〈enc.〉
M-9:The Load Is Listenin’ To Ya, Hallelujah!
[personnel]
M-1:細海/伊賀/芳垣/細井+吉田
M-2〜9:all casts

※尚、演奏中の写真は、ピットイン・スタッフのご厚意により撮影頂いたものを掲載しております。

#544 5月27日(水)
茅ヶ崎・ストーリービル

http://www.jazz-storyville.com/
増尾好秋 (g) 佐藤允彦 (p)

久し振りの訪問叶った隣り街茅ヶ崎のストーリービルにて、いずれも名題役者同士による充実のDUOを聴いた。
増尾好秋(G)佐藤允彦(P)

先ずは1st.セット。前日訃報が届いた(増尾さんもそのバンドに在籍した)サキソフォン・コロッサス:S. ロリンズ氏に捧げられたステージ。おふたりはロリンズ氏ゆかりの楽曲5曲を連ねたが、著名な〈Alfie’s Theme〉〈Don’t Stop The Carnival〉と並べてロリンズ氏の愛奏曲だった佳作歌曲二品:いずれもJ. カーン作曲の〈I’ve Told Every Little Star〉〈Look For The Silver Lining〉を取り上げた選曲は、無類の唄物好きとして知られたロリンズ氏の傍に居て協働の道程を築いた増尾さんならではの哀悼の表し方として極めて好感の持てるものがあった。続いて短いブレイクの後の2nd.セット。 H. カーマイケル作〈Memphis In June〉、 H. シルバー作〈peace〉と趣味の良いアメリカン/ジャズ・スタンダードを間に据えつつもそこに佐藤さんオリジナル3曲を重ねる意欲的な構成。ハコに向かう前、功成り名を遂げたベテラン二人のワンナイトスタンドは、名の知れたスタンダードチューンに終始するのではとの私の憶測は杞憂に終わることとなった。スゥィートでメロウな増尾さんのフィンガリングはこの方ならではの気さくなポップス・フレーバーに溢れ、それに触発されたか、佐藤さんは持ち前の思索的なフリーフォームの探求者としての横顔は陰を潜めて、恐らくはこちらがこの表現者の実像なのだろう、変拍子、バラードなんでもござれの意気の中に硬質なブルース/ラテンタッチを存分に際立たせて行った。今宵のおふたりの音創りに触れていて、そこでは、両者共にジャズの表現者としての通過点には当然ある筈の、また一方私個人的には、その様式に固執され過ぎると時に居心地の悪くなる「バップ」とは遠い地点に在って、其々自らの旨味をこの日この刻に最大限追究せんとするチャレンジングな姿勢から両者とても「アラ傘寿」とは感じさせないフレッシュなニュアンスを随所で感じ取ることが出来た。一聴すると風合いの異なる二筋の音の連なりが交じり合う所、いかにも小気味良い音像が立ち上がるまさに匠ならではの手際の良さに唸らされ通しのひとときとなった。

 

#545 5月30日(土)
国立 No Trunks

https://notrunks.jp/
『Jabuticaba』:永武幹子 (p) 加納奈実 (as/ss)

昨年7月以来の訪問となった国立NO TRUNKSにて、待望の『Jabuticaba』を聴いた。
永武幹子(P) 加納奈実(AS/SS)

南米原産フトモモ科の常緑高木:ジャボチカバ(樹の「幹」に直接「実」の成る植物)の名を冠し’17/末より始動した同ユニットについては、激動のコロナ禍’20にREC.された1st.アルバム@OWL WING RECORDに触れて以来気になる存在でありつつも、タイミングを逃し続け、今宵漸くその現場行きが叶ったというのがことの次第。果たして、方や自身のリーダーセッションの他、Yum Yumズ、M’s Three、TRYANGLE ahead等々全方位に亘る意欲的な表現活動を通しておおいに気を吐き続けている幹子さん。方や最近ご自身初の手術を経験するなど少しくお休みモードから徐々に復活の狼煙を上げている(私は今宵がお初となった)奈実さん。結成9年目を迎えるコンビはその堅実な活動の道程を踏まえた高い融和性を際立たせながら、外連味を一切感じさせない清冽な音の連なりを紡いでいった。オリジナルも S. ワンダーも、S. スワローもK.ワイルも、更には(アンコールの)H. マンシーニも皆を同一線上に捉える柔軟性をみせつけながらいずれの楽曲をも鮮やかに自分達色に染めあげてみせたおふたりの音創りに触れていて印象的だったのは、長期ユニットがともすると陥りやすいマンネリズムを感じさせる瞬間の殆ど無いこと。そこでは、頼れる相棒が繰り出す多彩なアイデアにハッとして、それを瞬時に受け取り自らのチャレンジを嬉々として展開して行く姿が度々見受けらたのは今宵の大いなる収穫だった。共に秀でたプレイヤーでありコンポーザーであるおふたりが、まるで少年の様な冒険心を武器に大胆な勝負を仕掛け合う迷いの微塵も感じられないスリリングな語り口は潔い程に清廉であり、私は初夏の宵には実にお似合いの喉越しの良さを味わった。

 

#546 6月6日(土)
吉祥寺・サムタイム

https://www.sometime.co.jp/sometime/
『TReS Plus!』:永田利樹 (b) RIO (bs)  早坂紗知(ss/as)+ゲスト:斉藤タカヤ (p)

昨年8月、創業50周年記念ライブ以来の訪問となった吉祥寺・サムタイムのマチネー公演にて、『TReS Plus!』を聴いた。
永田利樹(B)RIO(BS)早坂紗知(SS/AS)+ゲスト:斉藤タカヤ(P)
‘Plus’としては、ガーナ出身のパーカッショニスト:Nii Tete Boye氏を迎えた’22/5。今日と同じくピアニストを入れた編成では、さらに遡り、田中信正氏を加えたここサムタイムでの’21/4と、長らくの無沙汰が続いた私にとっては念願のこのユニット。つい数日前に伝えられた今秋11月開催予定のLONDON JAZZ FESTIVAL-Haruki Murakami’s Jazz at Peter Cat:A Japanese Jazz Night招聘の報に触れ、ユニットの現在他を是非とも目撃したいとの思いから少しく寝不足の目をこすりながら真昼間13時の音出しを目指したというのがことの次第。果たして、絶好の土曜昼公演、老舗のハコに人気ユニットの登場とあってか、場内には多くのお客様が詰めかけた(40~50人程の入りだったのではないか)今日のステージでは、飛び切りダンサブルなブラジル物〈E,ロボ〉やキューバ物〈C.ヴァルデス〉とメンバーのオリジナル曲をバランス良く組み合わせた全10曲が披露されたが、そこでは、このユニットの真骨頂とも言えるcheerfulとmelancholicの抒情の間を自在に行き来するスピード感に溢れたコシのあるグルーヴの際立ちを堪能することが出来た。重心の低く且つ柔軟性に富んだ利樹さんの悠々とした動きのあるベースラインに、紗知さんとリオさんの絡みあいの中に立ち上がる切れ味鋭いメロディラインがシンクロして生まれる分厚いハーモニーがサウンド全体に強力な推進力を生み出して行く在り様は相変わらずスリリングこの上なく、今日のゲスト:’ラテン番長’の異名を持つタカヤさんもこれ見よがしの派手さはないものの、その粒立ちの良いタッチはおおいに好感の持てるものがあった。ステージ全般から受けるニュアンスはラテンタッチが色濃いが、芯を貫くのはブルージーなオリエンタリズムであり、これは必ずやロンドンっ子の臓腑を射抜くことだろうと確信した。私個人的には、久方ぶりにしなやかに伸び縮みするリズムとカラフルなメロディが鮮やかに同期する圧巻のTReSサウンドに触れ、実に痛快な気分に浸ることの出来た充実の午後のひとときとなった。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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