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小野健彦の Live after LiveNo. 339

小野健彦のLive after Live #547~#552

text & photo: Takehiko Ono 小野健彦

#547 6月7日(日)
横浜反町・ギャラリーカオル

https://ameblo.jp/g-kaoru/
【U Gi Ha】:さがゆき〈うた/G〉八木のぶお〈harp〉

前日に続き今日もマチネーライヴ。今年四月以来二度目の訪問となった横浜反町ギャラリーカオルにて、「中村八大 三十四回忌特別企画」~中村八大氏最後の専属歌手・さがゆきが歌う!~『上を向いて歩こう』公演を聴いた。

出演【U Gi Ha】:さがゆき〈うた/G〉、八木のぶお〈harp〉

ロングセラーの佳作盤『中村八大楽曲集』を世に送り出しているこのコンビの現場に触れるのは、’21/10日暮里、’23/11新子安、’24/11成城学園と聴き継いで今日が四度目。思い返せば、折々に豊饒なる時間を味わわせてくれたおふたりであるが、今日は敬愛する八大さんの追善興行とあっても、妙な緊張感や徒な気負いを微塵も感じさせることはなく、一旦音を織り成し始めると、瞬時に音場全体を鮮やかに掴み取り柔らかな和みの境地へと誘うステージングは両者共に流石のエンターテイナー振りと言えた。そんな今日のステージでは、上述盤収録曲を中心に、アルバム外からの〈黒い花びら〉、〈遠くへ行きたい〉、〈帰ろかな〉、更には(八大さんご自身数多ある自作曲の中でも特にお気に入りだったという)〈黄昏のビギン〉等々を加えた実に全15曲余りが供されたが、全編に亘りゆきさんから発せられた毅然として芯のあるウィスパーボイスと無駄の無いギターワークに八木さんの息遣いの直ぐ先にある心憎い迄のペーソスに溢れたハーブの音色が溶け合い行く様は官能の極みを描いてみせた。そこでは素材の良さは言うまでもないが、最早息が合っているという域を超えて、魂レベルで心が感応し合う中でブレンドされた互いに対する真心が何の無理も無く音に乗り移る様は「神秘的」ですらあった。人間交差点の機微を絶妙に掬い取った選び抜かれた歌詞に、そここそがその言葉達のまさに居場所であると強く感じさせられる美しいメロディが付された楽曲が並ぶ崇高で珠玉の時間がゆったりと流れて行く。何度聴いても飽きの来ないおふたりの語らいが、従前以上になんとも穏やかな心持ちにしてくれた。

#548 6月12日(金)
合羽橋・なってるハウス

https://knuttelhouse.com/
TRYANGLE ahead:山崎比呂志 (ds) 永武幹子 (p) 須川崇志 (b)

お馴染みの合羽橋なってるハウスにて、お馴染みのTRYANGLE aheadを聴いた。
山崎比呂志(DS)永武幹子(P)須川崇志(B)
今年3月に86歳を迎え依然意気軒昂たる山崎さんが、日本ジャズ史の継承と自ら表現者としての更なる高みを目指し鋭意入魂中のこのユニットに触れるのは今年に入り三度目。メンバー各位は、今宵も三つ巴による水も漏らさぬハイテンションの内に、2セット其々に趣きの異なる一双の音屏風絵を鮮やかに描き出して見せてくれた。

先ずは須川さんの指弾きで幕開けした1st.セット。山崎さんの繰り出した硬質の打点をもったマレット捌きと、かの世界的ギターリスト:J. ホール氏をも唸らせたというしなやかで繊細なブラシワークのコンビネーションがこのセット全体を支配した静寂のトーンをより一層落ち着きのあるものにさせたが、そこでは、音数の多さ、音量の大きさに頼らずともドラムセットを鳴らし切ることでサウンド全体に確たる推進力を産み出すことの出来るこのドラマーの非凡さを改めて思い知らされることとなった。続いてグッと華やかさが増した2nd.セット。序盤から佳作盤『Tribute to Cecil Taylor』を世に問うた幹子さんをフィーチャーした展開が続くが、そこでは同盤で通過した先達の影響を強く感じさせる「和音を崩しながら」のアプローチにこの表現者の成長振りを強く感じさせられた。そんな幹子さんに対した山崎さん。前セットとは異なりスティックを手に取る場面が多く見受けられたが、こちらもうって変わってシンバルとタムの切れ味鮮やかなコンビネーションを際立たせながら異なるアプローチでドラムセットを鳴らし切る在り様を見せつけてくれたのは流石熟達者の至芸と言えた。今宵の山崎さんはドラムセットの「鳴らし切り方」の違いで一夜のステージの中に絶妙なコントラストを持つふたつの場面を描いてみせたのである。そう、リーダードラマーとして、そこにメロディやコード進行は無いものの、構成を考え楽曲として全体を形にするサウンドのコンポーザー/ディレクター(水先案内人)としての役割を存分に担ったという訳である。想い起こせばこの四月で結成から丸二年が経過したこのユニット。山崎さんのミュージカル・ディレクター振りは益々冴え渡り、幹子さんの「フリーフォーム」の表現者としての成長振りには目を見張らされ、そんなふたりの「疾走」する場面ではいつも沈着冷静に自らのペースで構える須川さんに安堵させられる。其々の役割分断が馴染んで、随分としっくりして来た。今後の展開が更に楽しみでならない。

#549 6月13日(土)
横浜馬車道・上町〈カンマチ〉63

http://jmsu.web.fc2.com/63/
小太刀のばら(P)

昨年8月以来、久しぶりの訪問叶った横浜馬車道・上町〈カンマチ〉63のマチネーライヴにて、待望のソロピアノを聴いた。
小太刀のばら(P)
ご亭主佐々木さんの慧眼光る独自のブッキングに定評があるここカンマチ63に、これ迄多く触れて来たのばらさんの現場の中でも私自身お初となる「独白の時間」がかかると聞き、早くからこの日この刻に狙いを定めたというのがことの次第。果たして、スタンダード曲〈Body and Soul〉で幕開けし、〈Embraceble You〉で本編を締めた後、定刻の終了時間には未だ間があったことから客席の想いを慮ったのであろう、ご亭主の「もうちょっとですかね?」のリクエストに応えたバーデン・パウエル作〈Tempo Feliz〉、更にはのばらさん、はにかみながら「おまけで」の後の自作曲〈The End〉を披露してくれた今日のステージは、一部客席からのリクエストに応えたという楽曲(〈Estate〉等)も含め恐らく事前にかなり吟味されたであろう曲想もバラエティに富んだ実に全17曲が供されることとなった。そこでは、前述冒頭の二曲に加え〈It Ain’t Necessarily So〉、〈I’ll Remeber April〉等のアメリカン・スタンダードや、B. ストレイホーン〈Lotus Blossom〉、T.モンク〈Pannonica〉〈Le’t Cool One〉等々のジャズ・スタンダードは安定路線としてそれなりに頷ける選曲としても、他にP. モチアン作〈Etude〉やO. コールマン作〈Peace〉等のジャズメン・オリジナルに加えて更に(これは正直嬉しい驚きの選曲だった)黒人霊歌〈SoonI I will be done with the troubles of this world〉等々のかなり渋目の佳曲をメニューにリストアップした流れは、この表現者のセンスの良さを物語るに余りあるものがあった。まあそれはそうとして、肝心の音、だ。「ソロ」の場合、楽器の種類は別にして、自己の内面と対峙したところから発せられる独白には、時として想いが溢れてサウンドが堅苦しくなり聴いているこちらも窮屈さを覚える経験をされたことのある向きもあるのではないかと思うが、今日ののばらさんにはそんな感情過多の押しつけがましさを感じさせられる瞬間は一切なく、ただ無心に其々の楽曲と向き合いその核心を掬い取るべく少し離れたところから俯瞰して眺めつつ淡々と淀みなく紡ぐことに腐心されていると感じさせられる表情が色濃く観て取れた。「何も足さない、何も引かない。」 小手先のテクニックに走らず徒なムードに流されない。あくまでも自然体であり続けたいついかなる時も賢明なこの表現者ならではの素朴さが確たる重味をもって我が胸に静かに迫り来た。ささやかではあるが、広く深く大きなのばらさんの音楽観にゆったりと包まれた稀有な午後のひとときだった。

最後に、極めて蛇足ながら終演後のひとときをひとくさり。充実のライブを披露して下さったのばらさんに、心よりの感謝を申し上げたいとの想いから、僭越ながらのばらさんを「打ち上げ」の夕飯にお誘いすると有難いことにふたつ返事にて快諾頂いた。ふたりして意中の河岸を協議した結果、ここ上町ライブ終わりのミュージシャン達が時々流れることでも知られる中華料理屋:野毛「清香楼」で意見が一致。早速タクシーを駆って現地へ急行した。当夜は二人ともお神酒はほどほどに美味なる料理の数々を肴に内容も多岐に亘る会話を心ゆくまで楽しんだ。佳き音と佳き食を満喫することこそLALの醍醐味。更に今宵はそこに充実の会話が加わるというおつな時間を堪能したことを書き漏らしてはなるまい。

#550 6月19日(金)
横浜日の出町・JAZZ FIRST

https://jazz-first.com/
ケイ赤城 (p) 守谷美由貴 (as)

今年三度目の訪問となった横浜日の出町JAZZ FIRSTにて、待望のDUOを聴いた。ケイ赤城(P)守谷美由貴(AS)

春先に帰日し、自身初の日本人メンバーとなったかつてのバンドリーダー:M. デイヴィス氏の生誕100年関連イベントも含めこの5~6月にかけて実に全15回のギグを精力的に推進中のケイさんと、氏とは長年に亘る積極的な協働の道程を重ねて来た美由貴さんとの邂逅が自宅湘南からもアクセスの良い同所で実現するとの報に触れ大きな期待を胸に現場へ向かったというのがことの次第。果たして、私はライブハウスの現場では今宵がお初となったケイさんは、タッチ、フレージング、ペダリングの全てにおいて高次元に均整の取れたピアニズムを際立たせつつ、文字通りピアノという楽器と一体になりながら緩急の自在に亘りサウンドの中に清廉でキレのあるパルスと驚異的なドライヴ感を生み出していった。対する美由貴さんも、その華奢な体躯から繰り出した力の程よく抜けた畝りを効かせたブローで応酬。おおいに善戦した。どちらがオランダか日本か、などという勝敗の判定を引き合いに出すのは野暮というものだろう。今宵は、DUOという極くインティメイトな編成の中で大きな世界観を描いてみせたおふたりの大胆なアイデアに溢れたインタープレイに触れ、ジャズ音楽を聴くことの醍醐味を存分に味わうことが出来たのだから。マイルスと同様に今年生誕100年を迎える巨星•J. コルトレーン作〈Lazy Bird〉もまじえつつ、いずれもチャレンジングな互いのオリジナル曲が多く含まれた今宵のステージにあって、2ndセット冒頭に配した古のスタンダード・チューン〈Body and Soul〉、心底信頼し合うふたりだからこそ醸し出されるのであろう含蓄に富んだ音の連なりが立ち上がる。秀逸だった。

#551 6月20日(土)
新宿Pit Inn

http://pit-inn.com/
芳垣安洋5DAYS公演:Nu Art Ensemble Large

新宿Pit Innにて開催中の『芳垣安洋5DAYS公演』最終日に登場したNu Art Ensemble Large を聴いた。芳垣安洋(DS/hand sign)類家心平(TP)吉田隆一(BS/cond.)後関好宏(SS)上運天淳市(TS/bCL)松井宏樹(AS/SS)後藤篤(TB)ミヤマカヨコ(VO)吉森信(P)瀬尾高志(B)田嶋真佐雄(B)岩原大輔(Perc.)


果たして、公演フライヤーに踊った「ジャズの第三世界を目指すラージユニットの登場。AEOC(ART ENSEMBLE OF CHICAGO)や(LESTER BOWIE’Sブラスファンタジー)に代表されるグレート・ブラック・ミュージックへの我々の答礼を見届けてください。」との力強い前口上を意気に感じてか、生憎の雨模様にも関わらず、場内満席のお客様が詰めかける中開幕した今宵のステージでは、冒頭の芳垣さんMCに曰く「今日は、楽しい曲と追悼曲を演ります」の言葉通り、(詳細後述の)去る6/15に惜しまれつつ天に召された南ア出身のピアニスト:A. イブラヒム氏の代表作から、本編最終に配したこれぞまさに現代の我が国を生きるジャズ屋にとっての「第三世界」の真骨頂ともいうべき日本ジャズ史上不朽の佳曲に至るまで芳垣さん乃至は頼れるミュージカル・ディレクター役の吉田さんにとって思い入れのある古今東西の名曲全10曲が披露されることとなった。まあそれはそうとして、肝心の音、に触れる前に「画」だ。今宵のステージは、全曲ステージ上手半分のスペースにリズム隊計5名、下手半分にホーン・セクション+VO計7名が居並ぶ壮観なセッティング。まさに視覚聴覚の両面でこちら客席の耳目を強烈に惹きつけるものであったが、そんな12名の表現者から迸り出たゴージャスの極みを描いた音塊に身を委ねていて強く感じたのは、時に無頼に振れつつも低音域から高音域までを余すことなく有機的に結びつけた痒いところ迄手の届く配慮の行き届いたアレンジの妙味だった。そこでは、いずれも高次元の音楽性を持った表現者達の集合体だ。短い音と長い音が縦横無尽に絡み合い、個々の感じでいるだろうテンポ感の同期とズレが重層的に絡み合う様が刺激的であり、畏まったお行儀の良さにからめとられない躍動感に満ち溢れた攻撃的なアンサンブルが実にスリリングだった。各種の検索サイトを紐解けば『ジャズ文脈での「第三世界」は、冷戦期の第一世界(西側先進国)・第二世界(社会主義圏)に対し、アジア・アフリカ・中南米などの植民地支配や貧困を経験した発展途上地域を指し、その文化や抵抗の表現としてのジャズを象徴的に呼ぶ言葉であり、特にアフリカやラテンアメリカなど非欧米圏の視点から、抑圧への抵抗や解放をテーマにしたジャズを語る際に用いられる』と捉えられるようだが、今宵私の眼前で繰り広げられた音創りは、ブラック・ミュージックとしてのジャズを尊重しながら、現代の我が国を生きる者こそが体現出来る、また違うジャズの在り様を提示したものであった。最終盤に日本人コンポーザーの佳曲を並べたところにその強い意志を感じたのは決して私だけではなかったと思う。日本に於けるジャズの第三世界を高らかに謳ってみせた芳垣さんの大仕事はまだまだ転がり続けて行くのだろう。そんな感を強く抱かされた充実の宵の出来事だった。

[本日のセットリスト]
〈1st.セット〉
M-1:The Mountain (Abdullah Ibrahim曲)
M-2:God Bless Africa(原曲:賛美歌Nkosi Sikelel’ iAfrika)
M-3:The Lord Is Listenin’To Ya,Halleluja! (Carla Bley曲)
M-4:A Jackson In Your House(AEOC曲)
M-5:The Great Pretender(The Platters 歌唱)

〈2nd.セット〉
M-6:I Only Have Eyes For You(Harry Waren曲)
M-7:Theme De Yoyo (AEOC曲)
M-8: Oh-Net!(塩本彰曲)~〈Decord2~Eatborfa〉(芳垣安洋曲)
M-9:皇帝(加藤崇之曲 ミヤマカヨコ詞版)
〈enc.〉
M-10:Blesed(鬼怒無月曲)

※尚、演奏中の写真はピットイン・スタッフのご厚意により撮影頂いたものを掲載しております。

#552 6月21日(日)
高田馬場・MK STUDIO

https://studio-mk.net/
『Three Wisdoms vol.24』

前日から一変して、天候にも恵まれた日曜日のマチネーライブは、初訪問となった高田馬場MK STUDIOにて、『Three Wisdoms vol.24』公演を聴いた。

定村史朗(Vn)石井彰(P)小林真由子(十七弦箏/十三弦箏/メインMC)

其々の表現者とは個別にはご縁を頂いていたものの、「三人寄れば文珠の知恵」に想を得て結成されたこのユニットの音に触れるのはこの日が初めて。(構造的には)いずれも弦楽器である西洋と東洋の楽器が織り成すユニークな編成ならではのハーモニーの行方に大きく期待も昂まる中、迎えた開幕の時。ユニットは、この季節にはお似合いのいずれも爽やかなブラジル物、L. ボンファ作〈Manhã de Carnaval〉(カーニバルの朝)を幕開けに、満場のアンコールに応えたM. ヴァーリ作〈Summer Samba〉(So Nice)[決めの歌詞では三人が声を揃えた]に至るまで、メンバー各位のオリジナル曲も交えつつ、そこにジャズ・スタンダード〈Softly, as in a morning sunrice〉やスクリーン・ミュージック:N.ブロドスキー作〈Be In Love〉、更には坂本龍一作〈A Flower is Not A Flower〉をも含めた楽想も実に多彩な全9曲を澱みなく紡いでみせてくれた。今日ユニットの音に触れていて私が感心したのは、音の連なりの中に「弦」の響きがもたらす叙情の余韻というよりはむしろ其々の演者がサウンドの中に楔刺したアタックの鮮やかな同期であり、そこでは、其々の楽器の特性を「弦楽器」よりも「打楽器」として捉えることで生み出されるハーモニーの構造の妙味を味わわせるのが狙いなのではと感じさせられること度々だった。そう考えると、徒なムードに流されず、潔ぎ良い程の硬質な打点に律せられた輪郭もクリアーに立ち上がる音像を色濃く感じとることが出来、俄然面白みが増して行った。弦の生み出す「線」と打「点」を合わせ持つ「一粒で二度美味しい」螺旋構造が描いた高密度のテンションが実に快活な音場だった。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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