小野健彦の Live After Live #010~#018

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text and photos  by Takehiko Ono 小野健彦

Intro:

初お目見えに際して、まずは自らのことなど紹介させていただきたく。
国内では、安田講堂が「落城」し、世界ではアポロ11号が月面に着陸。街には「長崎は今日も雨だった」が流れていた昭和44年 (1969年) にこの世に生を受け、出生直後から、神奈川県川崎市西部のいわゆる都心郊外のベッドタウンで育つ。
1992年、大阪に本社を置く電器メーカーに就職、結婚後、湘南・藤沢に居を構え、湘南⇔大阪の異動を繰り返しながら、2012年に、インドネシア・ジャカルタに海外赴任するも、わずか1年後に、現地にて脳梗塞を発症し命からがら帰国する。
帰国後、複数の病院でのリハビリの成果により、現在は、依然、後遺症による左半身片麻痺の状態ながらも、杖に頼れば、自力で都内のライブスポットまで出向けるまでに回復。本連載は、そんな私のライブ日記と相成ります予定。
微力ながら、本稿が日本のライブ (とりわけジャズ) シーンの裾野を広げる一助になれば幸甚につき、以後何卒よろしくお見知りおきのほどを。
(編集部より:筆者、脳梗塞の後遺症による左半身片麻痺状態での写真スナップであることをご了解ください)

 #010 8月24日(土)
横浜関内 横濱エアジン

http://www.airegin.yokohama

shezoo シズ (piano)  藤野由佳 (accordion)  石川真奈美 (vocal)  西田けんたろう (violin)

今夜のライブは横浜関内・馬車道通り辺り。ハコまでの動線上には、所謂グルメスポットも多く 耳と舌にはこたえられないエリアである。 とんかつ系なら創業昭和2年の勝烈庵や、丸和があるし、中華系なら、共に近隣に本館 新館の2店舗を構える大振りの滋味深いしいたけそばが人気の味雅や、料理の鉄人と して名を馳せた故周富徳氏の実弟富輝氏の生香園がある。その他にも 鰻・どぜうの川昌や、特大オムライスが人気のグリルSなど、さながらグルメワールドの趣がある。 さて、今夜の私はというと、その中から今年の酷暑をのりきるため、ビタミンBを取るべく とんかつをセレクトした。丸和はいつものように行列ができているのが遠くに見えたので 勝烈庵へ。
そうして、小腹を満たして向かった先は、本日のハコ、横浜エアジンだ。 創業50周年というから、私と同じ歳のこのハコ (現在のご亭主うめもとさんが、御姉様夫婦から引き継いでからも既に39年!)、 昨年来、再び足繁くこの空間を訪れるようになったが、幸いにもここで、様々な未知なる表現者とのご縁を頂けた。あそこに行けば、何か創造的で面白そうなことが起きているのではと思わせる強い磁場は、そのご亭主と客人、演者の幸せな交歓の賜物なのだろう。
今夜は様々なジャンルを超えて活躍する、ピアニスト・作編曲家のシズさんとその仲間達の宵。 一部は、シズさんとアコーディオンの藤野由佳さんのduoチーム「透明な庭」のステージ。続く二部では、ボーカルの石川真奈美さんとバイオリンの西田けんたろうさんが加わる。 透明な庭のおふたりのオリジナルに加えて、ミルバも歌唱したピアソラ版アヴェ マリアや、 白秋耕作コンビの童謡からたちの花まで飛び出すバラエティ豊かなセットリスト。 押しつけがましい感傷的要素を全く感じさせない、演者同士の小さき、かつ豊かな化学反応をベースにした、極めて創造的で静謐な音場だった。


#011  8月25日(日)

新子安  しぇりる
http://barsheryl1.sakura.ne.jp/wp/page/2/

清水翠 (vocal)  田中信正 (piano)

昨夜のライブの帰路から、約17時間後、私は、同じ京浜東北根岸線の今度は、上り方面に揺られて、ボーカルの清水翠さんとピアノの田中信正さんのduoへと向かった。
今日のハコは、新子安しぇりる。オーナーママ:まさこさんの自然食も美味しい、普段着が似合う 街のライブハウスだ。ここで、いささか唐突に、私は、そこに美しい旋律と身につまされる歌詞がある時、それを自らのレパートリーにすべく、果敢に挑戦する歌うたいに大いなる魅力を感じる。と、ここで、話は、約2ヶ月前に遡る。6/30に馬車道のライブハウス、上町63で行われた、青木タイセイさん、小林洋子さんらのライブで、彼らが、キューバの国民的歌手である、silvio rodriguez の rabo de nube (雲の尻尾) を演奏してくれたことを私が、翠さんと会話したことが、どこかに引っかかったようで、その後彼女は、方々手を尽くして、自ら譜面を起こし、スペイン語の意味も十分理解した上で、発音のブラッシュアップ含めて相当の時間をかけて仕込んで行ったようだ。そんな彼女から数日前に、もしかすると、今日のしぇりるにかけられるかもしれないとの報を受け、何をさて置き向かった次第である。
幸運にも、私は、リハーサルから聴かせて頂くことができたが、その段階では、正直、手探り状態で、曲の骨格が朧げに見えた状態であった。しかし、約30分後、お客様を迎え入れて、ライブが始まると、なんと、この難曲の新曲を最初にもって来る飛び六方を見せた。だが、あに図らんや、腕利きのおふたりにかかっては、客席の磁場を巧みにとりこんで、彩度のある小品に仕立て上げたのは、流石だった。翠さんは、この曲を恐らく今後も様々なフォーマットで歌い続けて行ってくれることだろう。その際の深化の道程に今から期待が膨らむひとときとなった。

#012  8月27日(火)
上野・合羽橋  jazz & gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/

山崎比呂志 try angle:山崎比呂志 (drums)  井野信義 (double-bass)  纐纈雅代 (alto sax)

今夜は、今、私の最も好きなハコで、最も好きな表現者のライブ!
今宵は、山崎比呂志 try angle@入谷 なってるハウス。このハコには食べ物がないから、近くの入谷食堂さんで小腹を満たして、いざ出陣。これまで、ずっと、入谷と思ってきたが、今夜店の看板を改めて しげしげと眺めていたら、「合羽橋なってるハウス」となっていたので、以後、これで行こうと思う。
山崎氏の try angle は、先月から始まった、目下、私が最も注目しているプロジェクト。山崎氏のドラムとベースの井野信義氏の鉄壁コンビに毎回楽しみなゲストを迎える趣向とのことで、今宵は、アルトサックスの才媛、纐纈雅代さんが登場した。
疾風が駆け抜け、雷鳴が轟き、大地が揺らぎ、その中にあっても、小鳥啼く。2時間余りの間に、そんな小宇宙が出現したような充実の音場。フリーインプロ界の歴史的マスター2人を向こうにまわして、果敢に攻め飛び込んで行く纐纈氏のプレイが、何とも瑞々しく清々しかった。


# 013 8月29日(木)
関内・馬車道「上町63」
http://kanmachi63.blog.fc2.com/

小太刀のばら(pinao)  青木タイセイ(trombone/pianica)  落合康介 (bass)

思い返せば、1984年、15歳の時だったか?現在の前の新宿ピットインで、辛島文雄トリオ+1のレコ発ライブを聴いて以来、多くの日本人ジャズ・ミュージシャンの演奏に触れて来たが、ついぞ今日まで、その生音に接することが叶わなかった片想いの表現者とご縁を頂けた宵。
今夜のライブは、@関内・馬車道「上町63」カンマチロクジュウサン、横浜各所のライブハウスで修業を積んだご亭主の佐々木さんが、18年前に自らの生地の番地からとって名付けたハコだ。
レトロ調の店内は、決して広くないながら、大層居心地が良く、私もこれまで何度も訪れて来たお気に入りの空間。
さて、ライブである。
今宵の演者は、私の片想いのピアニスト 小太刀のばら氏と トロンボーン&ピアニカの青木タイセイ氏に加えて、ベースの落合康介氏。今夜が、実質的に初顔合わせのこのトリオであるが、実にしっくりと来る肌触り。何とも趣味の良い音場が展開される…。

さながら、密やかなサロンに招かれたのかと思うような感覚に陥りながら、心地よいひとときを過ごさせて頂いた。目下、私の周囲で密かなブームの<rabo de nube>も嬉しい選曲だったが、本編最終曲の<smile>は、大層心に沁みた。

それにしても、しなやかで可憐過ぎる のばらさんのプレイとの出会いは、余りに遅きに失した感がある。

#014 8月30日(金)
東中野  Jazz Spot THELONIOUS
https://thelonious-hp.jimdofree.com

吉田哲治 (trumpet) 小林洋子 (piano)

密度が濃く、スピード感のあるトランペットが好きだ。 闇を切り裂くジャックナイフの様な、切れ味鋭いドランペットが好きだ。 そんなトランペットには、ゴツゴツしたピアノが良く似合う。 我が国のジャズシーンを賑々しく盛り上げて来た、生活向上委員会、アケタ・センチメンタル・フィルハーモニーオーケストラ、渋谷毅オーケストラ等の所帯の大きなバンドの中にあって、その情緒溢れる印象的なプレイで絶妙な隠し味的要素を担っている。それが、トランペットの吉田哲治氏に対する私の印象だったが、生音に触れるのは、今夜が初めて。その吉田氏が、復帰から約1年を経て、目下絶好調のピアニスト小林洋子氏と会い見える宵。 今夜のライブは、@東中野セロニアス。 今夜のお二人の交歓は、上記の様な、私にとって理想の音場。 突き刺さる様な吉田氏のフレーズに対して、決して流れることなく、ゴツゴツとしたフレーズで応える小林氏。 凹と凸のバランスの妙に酔った宵。

#015 8月31日(金)
吉祥寺  pianohall SOMETIME
https://www.sometime.co.jp/sometime/index.html

纐纈雅代 (alto-sax)  大口純一郎 (piano)  米木康志 (bass)  竹村一哲 (drums)

今宵のライブは、アルトサックス纐纈雅代氏のスペシャル・カルテット@吉祥寺サムタイム。 脇を、ピアノの大口純一郎氏とベースの米木康志氏の両重鎮に加えてドラムの竹村一哲氏が固めるという、何とも豪華な布陣。 M.ウォルドロンの <ファイアー ワルツ>、D.エリントンの <アフリカン フラワー>、M. デイヴィスの <ブルー ・イン・ グリーン>、P. デスモントの <ウィンターソング> など渋めの選曲をちりばめて、自在な表現者達は、曲の深層を見事にすくい取りながらステージを進めて行く。 中でも今宵は、C. パーカーのバップ曲がキレにキレて、大きな山場を作った。1部では <ホットハウス> を、2部の最終盤では <デクスタリティ>を、そうして、さらにアンコールでは、<ビリーズ・バウンス>で始めて、最後は <オー・プリバーヴ> で締めた。胸がすく快演。 夏の終わりの夜の音場は、なんとも爽やかなものだった。

#016 9月6日(金)

高田馬場  blues and jazz Gate One
https://jazzgateone.com

『昭和子供バンド』:橋本信二(g) 大口純一郎(p) 小杉敏(b) 村上寛(ds) 梶原まり子(vo)

今夜のハコは、高田馬場。 駅からこのハコへの動線は、回遊魚の如くいつも同じであった。と、過去形で書いたのは、その双六の1升目である駅隣接のビッグボックスから程近い路地に佇むジャズ喫茶、マイルストーンさんが、この夏で惜しまれつつ閉店してしまったからだ。 そうなると2升目は、少し早めの夕飯にありつくべく、今では、都内でも数少なくなってしまった、名画座 早稲田松竹近くの定食屋、一膳さんへ。 ここで、ゆるゆると呑み食べしてから、夜の帳も降りる頃、早稲田通りを渡って、いざ出陣。 今宵のライブは、@gateone。ジャズ界のオシドリ夫婦、ボーカルの梶原まり子氏とギターの橋本信二氏がオーナーのこの店は、1999年の創業。 いつものように、自身はドラマーで看板娘の舞さんに介助頂き、地下1階の穴蔵へと降りて行く。 今宵の演者は、「昭和子供バンド」。 昭和、平成を潜り抜け、令和の時代をも疾走する5人のベテラン・ミュージシャン達。 ウナギの寝床の様なつくりの店内は、長いカウンターの先に狭いステージが開ける。 最初は、ボーカル抜きの4人の男衆でスタート。 ショーの華は後から登場は、いつもの構成。 このバンド、各々が、名うての腕利きだけに、何とも豊かで心地よい時間が流れて行く。 そうして、男達がバンドスタンドを十二分に温めたところで、いよいよ、まり子さんの登場だ。 これがまた、いつものように、圧倒的にしなやかなステージングを披露してくれる。 いわずもがな 口先だけの節回しではない、心根を震わせるところから生まれる彼女だけの快唱。 飾らない、普段着の表現者達の至芸を今宵も堪能させて頂きました 。

#017  9月7日(土)
高円寺 グッドマン
http://koenjigoodman.web.fc2.com/

mikatamashibu (福) :渋谷毅(p,うた)  tamamix(うた,ウクレレ) 藤ノ木みか(うた,perc)

今夜のライブは、mikatamashibu@高円寺グッドマン。このハコに聞き覚えのある方は、荻窪時代のそれか? お客様、演者も帰ったその後に ご亭主でフリー ジャズ・アルトサックス奏者の鎌田雄一氏に伺い、その歴史を辿ると、1973年荻窪で創業し、2006年に現在の場所に移転したとのこと。店は、約10坪、定員10名強の空間だ。 高円寺南口を出て、JR線高架に沿って、店に向かう路地は、浅草のホッピー通りよろしく、さながら、焼き鳥屋通りの賑わいを見せている。 お腹ぺこぺこの私は、中でも、比較的空いていて座り心地の良さげな、やきとん 煮込みのとんきちさんに錨をおろした。馬刺しの鮮度、煮込みの塩梅、ジャンボ焼き鳥の量質などに満足して店を出ると、トンカツを食べてご満悦の今宵の演者達にバッタリ遭遇。mikatamashibu。このユニットは、パーカッションの藤の木みかさん、ウクレレのtamamixさん、ピアノの渋谷毅さんの頭文字を組み合わせてグループ名にした、文字通り遊び心満載の音曲ユニット。多摩川を越えて、横浜、湘南方面で観られる難易度は極めて高く、私も中々曜日などのタイミングがあわず、体験するのは、本年七夕の夜の同店でのライブ以来。 演者の前には、各々マイクが。各人から発せられる何とも心地よく暖かな音の粒。 取り上げられる曲は極めて幅広く、いずれも、印象的で優しいメロディを持った曲ばかり。 渋谷さんが、由紀さおりさんや安田祥子さんのために作曲した曲や、山川啓介氏作詞、渋谷さん作曲で、恐らく今や、みかさんが世界で一番多く歌っている人だろうとのジョークに、本日満員札止め状態の客席がどっと湧いた、佐良直美さんの〈銀河の子守唄〉。はたまた、西岡 “ぞうさん” 恭蔵氏の〈プカプカ〉、高田渡氏の〈コーヒーブルース〉〈わたしはわたしよ〉 そうして、前回聴いて、今回もこれを待っていた、私の高校時代の友人、小沢健二氏 :オザケン の 〈愛し愛されて生きるのさ〉まで。 陽のとっぷりと暮れた雑居ビルの二階の狭い空間に 緩やかな風にそよぐ樹々の音が広がっていったようなほんわかとした音場。 本編が終了し、両女子に促されて渋谷さんが最後にセレクトしたのは、高田渡さんの歌唱でも有名な、〈靴が一足あったなら〉だった。 ちょうど先日来、渡さんのDVD.『まるでいつもの夜みたいに』で渡さんを送る会でのエンディングで皆が歌ったこの曲を繰り返し聴いていたところだけに、これも嬉しいセレクションだった。

#018  9月8(日)
辻堂 STAGECOACH
http://www.stage-coach.net/teramoto.htm

寺本圭一 (guitar, vocal)  マッシー鴨川 (guitar)  片山さとし(bass) 他

1933年のお生まれと言えば、我が国ジャズ界では、渡辺貞夫氏、鈴木勲氏、中牟礼貞則氏らと、 海の向こうでは、かの Willie Nelson氏と同年生まれということになる。 台風15号の襲来を前に向かったライブはカントリー。 寺本圭一 真昼のコンサート@辻堂ステージコーチ。 現オーナー片山誠史氏の御父上で本日のベーシスト、片山さとし氏が 1981年この地で創業したハコである。寺本氏といえばご存知、ジミー時田氏、小坂一也氏らと共に和製カントリー界を牽引して来た重鎮である。 御歳86歳、来年はカントリー暦70年!とのこと。このハコには、月2回の定例出演だが、私がお聴きするするのは初めて。 ご高齢故に、確かに、声の出は往時に比して弱く、少々の間違いもされるが、そんなことは、NO problem。 かつて、ムッシュかまやつ氏が話してくれた、六本木の交差点をテンガロンハットを被り馬で渡っていたという逸話の持ち主に直接お会い出来、 その歌声に触れられただけで私は感激。 こういう方こそ、リビング・レジェンドっていうのだろうなあ。 客席には同じ時代を過ごして来られたと思しき、ご夫婦やご婦人方の姿も多く見受けられ、和やかな雰囲気の中、移ろい行く時間を過ごさせて頂けたのもゴキゲンだった。 リードギター:マッシー鴨川氏のメローなサウンドも秀逸で、随所に味のあるフレーズを入れて来る。 本日の最終曲は、〈ジョージア・ オン・ マイ・ マインド〉。現存する我が国の歌い手の中で、この曲の最初のジョージアのフレーズをこれだけ味わい深く唄える表現者を私は他に知らない。この一曲を聴けただけで、嵐を覚悟しても伺って良かったと思えるひとときだった。

小野 健彦

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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