小野健彦の Live after Live #28~#36

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text & photo: Takehiko Ono 小野健彦

#028 10月5日 (土)
新宿 Pit Inn
http://www.pit-inn.com/index_j.php

大口純一郎 (p) 米木康志 (b) 本田珠也 (ds)

「ピットインが燃えなければ、日本のジャズは燃えない」と言ったのは、かの渡辺貞夫氏であるが、創業から54年の時を経た現在でも、けだし名言だと思う。 かくいう私も、15歳の頃、以前の伊勢丹パーキング裏のビル地下にあった頃にその場所に初めて足を踏み入れてから、爾来約35年、このハコに音楽的な素養を育てていただいたという感を強くする。 あの頃は、朝の部もあって、外の壁には、大判の模造紙に手書きの出演者表が貼ってあったなあ、などと懐かしく想いだす。 現在でも、ほぼ連日、志の高い多種多様なミュージシャンにその表現の場を提供しているし、昼の部では、比較的時間とお財布の都合のつけやすい若者や、 年金受給者を含めたベテラン・リスナーなどに、その生きがいの場を提供し続けている点において、今もって貴重な文化の発信拠点であることは、万人の認めるところであろう。
今夜のライブは、その新宿ピットイン。 今宵は、ピアニスト大口純一郎氏の 3days4 公演の2日目、夜の部。 このライブに伺うにあたり、改めて、自分のライブ日記を読み返してみたが、氏と直接のご縁をいただいた、2017年4月の茅ケ崎ライブから数えると、今夜、氏の演奏に触れるのは、じつに通算32回目。延べ30ヶ月から割り出すと、ほぼ、1ヶ月に1度のペースでお逢いしてきた計算になる。 それでも、決して馴れ合いになることなく、いつでも、真剣勝負の演者と聴き人の関係でいられるのは、本当に幸せなことである。 しかし、今さらながらに驚くのは、その編成の多彩さである。各種ピアノトリオに、昭和こどもバンド、大口=林4に至るまで枚挙に暇がない。 当夜は、アルバム『invisible』の吹き込みメンバー、ベースの米木康志氏とドラムスの本田珠也氏のトリオ編成。 緩急自在のリズムが伸び縮みし、色彩感溢れるメロディが溢れだす。 縦横無尽に拡がり、転がり続ける大口氏の各種音楽指向の、まさに核になっている「今夜、大口氏はいみじくも、“ホーム”と称した」音場であるとの印象を強くした。今夜は、当初クレジットになかった、若手アルトサックスの俊英、松井宏樹氏の飛び入りもあり、祝いの宴に華を添えた。

#029 10月6日 (日)
新宿 Pit Inn
http://www.pit-inn.com/index_j.php

OHM3:大口純一郎 (p) マーティー・ホウロベック (b) ジェームス・マコーレー (tb)

今日のライブは、昨夜に引き続いての新宿ピットイン。ピアニスト大口純一郎氏の3days4 公演、3日目、昼の部。「OHM3」 聴き慣れないバンド名だが、それもそのはず、大口氏の最新プロジェクトで、大口氏の他にふたりのオーストラリアからの逸材、ベースのマーティー・ホウロベック氏とトロンボーンのジェームス・マコーレー氏のトリオだ。ほぼ全編各メンバーのオリジナルで固めたセットは、随所でモノトーンの幽玄さを感じさせて、とても今日が2度目の顔合わせとは思えないコンビネーションを見せてくれた。南半球由来の刺激的な風を受けて、大口さんは、また新たな地平に足を踏み出したようである。先般古希を迎えられたとは思えない、あいかわらずの瑞々しい感性に多いなる元気をいただいた。このトリオ、場数を踏むほどに様々な展開を見せてくれそうだ。ぜひ再演を望む。今日は、開演前と休憩時間に、人気DJの大塚広子氏が、華を添えてくれたのも、探究心旺盛な大口氏ならではの憎い演出として功を奏していた。(ちなみに、今日のステージ写真は、お店のツイッターから、マネージャーの許可をいただいて転載しました)

#030 10月13日 (日)
西荻窪 アケタの店
http://www.aketa.org/index.html

チコ本田 (vo)  高瀬順 (p)上村勝正 (b) 楠本卓司 (ds)

嵐は、列島各地に大きな爪跡を残しながらもひとまず過ぎ去った。小田急線も総武線もかなりの遅延状態のようだったが、もう、ライブの虫は制御不能状態ゆえ、ライブの始まる6時間も前から、自宅を飛び出した。 今宵は、11月に開店45周年を控えるまさに中央線ジャズの雄、西荻窪アケタの店。今宵の演者は、過去に、アケタの店録音のアルバムが3枚もある、文字通り、アケタ生え抜きの歌姫であるチコ本田氏のグループ。今さらながら、チコ姐は、かの渡辺貞夫氏の妹であり、文男氏の姉。今は亡き本田竹広氏の元妻にして珠也氏の母。 まさに、ジャズを愛し、ジャズに愛されてスポットライトを浴びつづけている稀有な存在。今夜もご機嫌な仲間達に囲まれて、彼女の唄魂が、狭い店内の隅々までを現在進行形のジャズで満たして行く。小室等氏作詞、本田竹広氏作曲の〈save our soul〉は沁みたなあ。 相変わらずの胸のすくような快演だった。

#031 10月20日 (日)
市川 cooljojo jazz+art
https://www.cooljojo.tokyo/

酒井俊(vo) 纐纈雅代 (as) 永武幹子 (p)

当代我が国が誇る音楽界の才媛達が、千葉県市川市に舞い降りた日曜日の夕方。 今日のライブは、@本八幡 cool jojo jazz +art 。現在、この2ヶ月に亘る秋のロード真最中のボーカル 酒井俊さんが、本日招きいれたのは、アルトサックスの纐纈雅代さんとピアノの永武幹子さん。 ここで、いささか唐突だが、京都龍安寺の石庭に行かれたことのある方は、うなづいていただけるやもしれないが、あの小宇宙の如き空間に配された15個の石たちに対していると、いつしかそれが、全体としてえも言われぬ物語を持っているようで、反面、何ということのないひとつの石が、唯一無比のモノとして圧倒的な存在感をもって愛おしく感じられて来る。 今日のステージも、私にとってはさながらそれと同じように、御三方が奏でられた楽曲の数々が、全体として大きな流れを持ちながら、その中でいくつかのかけらが、私の胸に迫った。 それは、marthaや、both sides now であり、回想であり、 はたまた、クルーソーであり、夜を急ぐ人や、紅い花などの楽曲たち。 世代を超えた女子たちのエレジーが、圧倒的に深く広い音場に我々を誘う。今日、会場につどったおひとりおひとりが、彼女たちから大きなエネルギーをもらったことと確信する。私も明日からの1週間を乗り切る元気をいただけた。演者の皆様、長谷川オーナーご夫妻に深謝です。

#032 10月24日 (木)
目黒・不動前 permian
http://www.permian.tokyo/

長沢哲 (ds) 加藤崇之 (g)

10月中旬から長崎在のドラマー長沢哲氏のライブツアーが続いた。10/16の福岡から10/28東京までの日本縦断全12公演を通して、様々な表現者と共演をする。
今夜のライブは、ギターの加藤崇之氏との宵。 @目黒・不動前 permian。2人のギター奏者、大上流一氏と増渕顕史氏が運営するスペースだ。コンクリートブロック積み上げの壁にパイプ剥き出しの天井。私は今夜は初訪問であったが、まず、その極めて潔い空間に意表をつかれた。徹底的な無機質が産み出す温かな場 そこで繰り広げられた、長沢氏と加藤氏の抑制された密やかな会話。今回のツアーのフライヤーには、「詩的で映像的で幻想的な独自の即興演奏」との評が付されていたが、私は、そこにさらに「どうしようもなく人間臭い」の一言を加えさせていただきたいと思う。それほどまでに互いが自らが奏でる相棒である楽器のポテンシャルを最大限に引き出して対峙した卓越した個と個の何とも幸せなぶつかり合いだったのだから。

#033 10月26日 (土)
下北沢  jazz bar Lady Jane
http://bigtory.jp/

蜂谷真紀 (voice) 原田依幸 (p)

季節は移ろい、酷暑の後の秋を迎えたとたんに、各地では甚大な台風被害が起きてしまった。そうして、冬の到来を感じ始めた今日この頃、今夜は「冷まじの月」と題された公演に行ってきた。「すさまじ」は中秋の季語。 というわけで、今宵のライブは@下北沢 LADY JANE ご存知、かの松田優作氏も度々寄港したことでも知られるこのお店。 「ステップ・アクロス・ザ・ボーダー」をスローガンとするこのハコのご亭主は、大木雄高氏。今宵の演者は、天衣無縫な声の使者  蜂谷真紀氏と 抑制と浪漫の錬金術師  ピアニストの原田依幸氏。 私には、8月の合羽橋なってるハウスでの邂逅の場に幸せにも居合わせることができて以来、待ちに待った夜だった。 破綻と調整のギリギリの狭間でせめぎ合ったふたりの表現者。 何ものかとの交信と回想の螺旋階段は、この上なく切なくてスリリングだった。

#034 10月30日 (水)
合羽橋 jazz & gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/

TRY ANGLE:  山崎比呂志 (ds) 井野信義 (b) 林栄一 (as)

今宵のライブはお馴染みの@合羽橋なってるハウス。
ドラムスの山崎比呂志氏が、盟友のベース井野信義氏と共に創造する要注目プロジェクト「TRY ANGLE 」。このハコでは今夜が4回目。 今宵、お二人が招き入れたのは、アルトサックスの林栄一氏。ご存知、切れ味鋭いスピード感のある林さんのサウンドが、鉄壁のリズム陣が創り出す広大な大地の上を駆け抜ける。大いなる緊張感を孕みながら「哀切」を存分に謳いあげた男たちに酔った宵。終演後のバーカウンターで、林さんから、「今夜の演奏を通して、今まであまり接点の無かった山崎さんに自分の新たなる部分を引きだして貰って、何かとても解放され、嬉しかった」との発言あり。それを受けて山崎さん、「そんなこと言われたら舞い上がっちゃうよ」で、互いに固い抱擁。美しすぎるよ!

#035 11月1日 (金)
町田 Jazz Coffee & Whisky Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/

TRIAL TRIP:秋山一将 (g) 山田丈造 (tp) 小牧良平 (b) 井上功一 (ds)

前日までの連夜の九州ロードを経て、鯔背な男衆が町田に降りたった。
今夜のライブは、ギタリスト秋山一将氏の4ピースバンド TRIAL TRIP@町田ニカズ。 決して広いとは言えない店内が、タイトかつヒップでしなやかなバンドサウンドで満たされて行く。私は、久しぶりのご対面であったが、転がり続けるこのバンドのカラフルでしなやかなドライブ感溢れる表現を今宵も堪能させていただいた。 過日、彼らのホームグラウンドである西荻窪 clopcclop にて録音された新作リリースが待ち遠しい。 しかし、秋山氏曰く、今宵はツアーの実質的最終日とあってか、そのバンドサウンドは、より一層その緊密なまとまりを見せて、演者同士が互いに攻めに攻めた至極スリル満点の音場だった。 話が前後したが、今宵の夕飯は前から気になっていたハコの向こう岸にある焼き鳥「三軒目」。 Y字路に建つ狭小空間は185㎝の私のたっぱぎりぎりであったが、常連と思しきお客様で 賑わう店内は活気に溢れ、人当たりの良い女将と会話しながらの串はご機嫌な味でした。

#036 11月7日(木)
西生田 カフェバー masa2sets
https://www.masa2sets.com/

菊地雅晃4:菊地雅晃 (b) 藤原大輔(ts,fl) 市川空 (key) 藤井信雄 (ds)

今夜のライブは、再びの@masa2sets 読売ランド店で、2度あることは3度あるの、菊地雅晃4 plays jazz STANDARDS, AOR& original。
過去2回のライブでフロントに立っていたギターの生島佳明氏に替わって、今宵はテナーサックスとフルートの藤原大輔氏が加わる。藤原氏は、かのジョージ・ラッセル氏が提唱した音楽理論「リディアン・クロマティック・コンセプト」の教員ライセンスを持ち、南米文学にも造詣の深い逸材。
共に理論派?の菊地氏と藤原氏に、武闘派?のドラム藤井信雄氏がsteadyに絡みつく。クールな20歳のキーボード市川空氏は我が道を悠々と行く。出自の異なる演者同士のサウンドの濃淡が微妙に溶け合う不思議に心地の良いひとときだった。菊地氏曰く、今後は、このハコの活性化を、より図って行きたいとのこと。
その解は、すでに今夜の演奏にも現れていたと私は思う。ここには、音楽に向かって真摯にかつ丁寧に向きあいご機嫌にスイングする表現者がいるのだから。
そうだ、今宵の夕飯は、ライブ前の散歩の途中で見つけた、焼き鳥、もつ焼き屋「忠ちゃん」で。一見、吉田類氏好みの店かと思いきや、店内は、至って小綺麗な佇まい。でも、肝心のお味の方は、串もの、刺しもの、共に満足の行くレベル。場所柄、ジャイアンツ関連の色紙なども多くあり、ファンには堪らん店かもしれんなあ?

小野 健彦

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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