小野健彦のLive after Live #037~#045

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text & photos by Takehiko Ono 小野健彦

#037 11月8日(金)
西荻窪 アケタの店
http://www.aketa.org/mise.html

アケタの店 45周年記念 山崎弘一退院記念:
山崎弘一(b) with 高橋 知己(ts) 米田正義(pf) 亀山賢一(ds) 倉地 恵子 (cho) 田山ひろみ(cho) 矢野眞道(cho)

今夜のライブは、@西荻窪アケタの店
当月開店45周年を迎えたこのハコで、私は、まさしく愛の塊を実感する宵を味わうことが出来た。まずその1は、アケタの階段に手摺りが付いたこと!
それは、2人の奇特な女子達の発意によって実現したことを知る人は少なくないだろう。
このハコの申し子のような表現者と、極めて奥ゆかしいひとりの聴き人によって、文字通りの世界に誇るべきバリアフリー・プロジェクトが進行していることは、令和元年の日本ジャズ界にとっての最も輝かしい快挙だったと私は断言する。というより、大袈裟かもしれないが、私の40年に亘る日本ジャズとのお付き合いの中での最大のクライマックス的美談と言っても過言ではない。
そうして、愛を感じたその2、
今夜のライブは、ベースの山崎弘一氏の退院祝の趣向。
共に、このハコで研鑽を積んで来た燻銀の男達が駆けつけた。加えて、山崎氏とは馴染みのボーカリスト3名も華を添える。
何とも美しい魂の交歓。心に沁みました。

#038 11月9日(土)
吉祥寺 STAR PINE’S CAFE
https://mandala.gr.jp/SPC/home

中山ラビ&ラビ組Live 2019
ラビ組:中山ラビ・小川ヒロ・加藤ヒロユキ・高橋誠一・森ヒデハル・山口とも・梅津和時 (sax)

私と彼女の間には、いつも酒の瓶や、数多の人の手によって磨かれて来た木のカウンターがあったが、今宵は、その間には蠢く何重もの観客が居た。
今夜のライブは、中山ラビ&ラビ組Live 2019@吉祥寺 STAR PINE’S CAFE。
いつもは、彼女がオーナーママを務める国分寺ほんやら洞のカウンター越しにしかお会いしたことのなかったラビさんの唄を聴くのは、アングラ劇団新宿梁山泊の新宿花園神社テント公演を除いては、今宵が初体験。
ラビさんから発せられる煌めくコトノハが乱反射しながら我々聴き手の心に切々と突き刺さって来る。「もつれた様々な愛の形」を ロック、歌謡曲、フォークなどに仕立てながら極めて大きく波打つタイトなバンドサウンドに乗せて、途中休憩無しの2時間をたっぷりと歌い切った。一時代を作った表現者の衝撃的なまでの貫禄。恐れ入りました。尚、途中のMCもほぼ皆無。これも私は多いに気に入りました。

#039 11月10日(日)
藤沢 カフェ・パンセ
https://ameblo.jp/penseee/

酒井俊 (vo) 青木タイセイ(tb, el-b, pianica) 太田朱美(fl)

今日のライブは@地元湘南藤沢のカフェパンセ。
現在はベトナム在のボーカリスト酒井俊氏のリーダーライブだ。
私にとっては、今年4回目の俊さん。で、このお店では、7月以来のご対面。しかし、このお店は、オーナーの金井さんの慧眼による不定期のライブがすっかりと定着しており、老若男女、幅広い層のお客様が駆けつけて来るのだから、演者にとっても、なんとも居心地の良い空間に違いないのだろう。休息日の日曜夜に集う生きることに比較的余裕のあると思しき聴衆の視線は極めて熱い。俊さんも毎回の帰国の旅の途中で度々寄港してくれるのだから、なんともありがたいものである。
今夜、俊さんが招き入れたのは、トロンボーン、エレベ、ピアニカ等の青木タイセイ氏とフルートの太田朱美氏。
管楽器二本中心の気兼ねの無い友が奏でる真っ新なキャンバスの上に、俊さんの点描画がカラフルに描かれる。
「martha」も、「回想」も、「ナーダム」も、「マイマン」も、「エンリコ・カルーソー」も、そうして「夜へ急ぐ人」も、「紅い花」もたっぷりと聴かせて頂けたが、私にとっての当夜の白眉は、意外にも飛び出したデビューアルバム『shun』に収めらた「little girl blue」
3人の卓越した表現者により至極穏やかにかつ丁寧に紡がれた音場は真綿の趣。俊さん曰く「この曲は久しぶりに引っ張りだして来た」とのこと。十二分にその甲斐があったと思いますよ.私は。でも、恐らく皆さんも。

#040 11月15日(金)
Jazz Coffee & Whisky Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/

古野光昭 (b) 市川秀男(p)

今宵のライブは、@町田ニカズ。
今夜も、何とも心憎い顔合わせが登場した。
リーダーは、ベースのヴァチュオーゾ、古野光昭氏。編成は、管入りのドラムレストリオだ。
ピアノの椅子には、ジョージ川口&ビッグ4への参加でも知られる叙情派市川秀男氏。そうして、フロントは、と、ここで話は、15年前に遡る。
当時、会社から湘南→大阪への異動を言い渡された私は多いに悩んだ。それは、単身赴任で行かざるを得ないということより、慣れ親しんだ東京のジャズシーンとお別れしなくてはいけないことで。お恥ずかしながら、当時の私には、関西ジャズシーンの動静は、殆ど入っていなかったのだ。結果的には、大阪市城東区野江を根城に、老若男女が躍動する関西ジャズを満喫することになるのだが。その突破口を開いてくれたのが、今宵の第三の男、テナーサックスの鈴木央紹氏である。氏とは、かつて大阪ミナミの道頓堀にあった、ピアニスト田中武久氏がオーナーのセントジェームズでお会いして以来となる。氏がその後上京され、大野雄二氏のルパンバンド等で大活躍されていることは存じ上げていたが、その生音に触れるのは、2004年以来。
今宵は、二大巨匠の この上なく気品に溢れ寛いだコンビネーションに乗って、鈴木氏が吹いた苦味を含んだふくよかな一音一音が、私の身に起きたこの15年間の色々な事柄を走馬灯のように呼び起こした。ジャズに生かされている充実したこの人生、幸せだ。嗚呼、今年ももうすぐ暮れて行く。今夜は、少し感傷的になったな。
しかし、当夜は、ほぼ全曲、ヘッドアレンジの大スタンダード大会。ジャズの醍醐味をたっぷりと堪能させて頂きました。中でも、市川、古野両氏の “愛のduo” による、意外なセレクト、〈恋はフェニックス〉は、満場が引き込まれる哀切のサウダージの趣。終始、スリリングな現在進行形のジャズが溢れた宵。アンコールは、まさかの〈ハッシャバイ〉。小田切一巳氏、井上淑彦氏にも比肩する鈴木氏の説得力のある節回しに私は大満足。

#041 11月17日(日)
六本木「はん居」

杵屋三七郎「第四回三七郎の会」スペシャル・ゲスト:張理香(伽耶琴)

今日のライブは、長唄。
日曜日の昼下がり、杵屋三七郎さんの「第四回三七郎の会」へ。
今日は、その会のスペシャル・ゲストとして、朝鮮半島の伝統的な撥弦楽器、伽耶琴の名手 張理香氏が招かれるとあって、六本木「はん居」まで駆けつけた。「はん居」は、かの日本舞踊の武原はん氏が開業した料亭を改装して造られた氏の元お稽古場とのこと。何とも寸法の良い空間だ。

私は、三七郎さんとは初対面であったが、意外な共通の原体験があり、ビックリ。氏が、御母上に連れられて、歌舞伎を観に行き、長唄こそ天職だと衝撃的な出会いを果たしたのも、最近でこそ余り行けていないが、私が、ジャズと共に、学生時代には日参した歌舞伎の世界にのめり込むきっかけになったのも、同じく、昭和61年の先代12世市川団十郎の襲名披露公演。
私は、祖母に連れられての家族総出の観賞であったが....。
その時三七郎さんは、中学生にあがる年頃、対する私は高校生になる年頃。しかし、全く歌舞伎に興味の無かったふたりのガキが、30年強の時を経て会い見えるとは、いったい誰の采配だろうか?
肝心のライブは、理香さんのコーナーを、吾妻八景と松の翁の長唄二題でサンドするという構成。
音場は終始、凛とした空気に包まれた、おごそかな佇まい。匂い立つが如くの叙情性に溢れた古の江戸の風香る調べと、とてつもなく刺激的なテンションで哀切の響きがこちら聴き手の胸に迫り来る半島由来の調べが、暖かな冬の日差しを孕んだ喧騒の街六本木の密やかな異空間で見事に溶け合った何とも贅沢なひとときだった。


#042 11月21日(木)
西荻窪アケタの店
http://www.aketa.org/mise.html

林栄一(as) 宮野裕司(as)

今夜のライブは階段に手すりもついて、快適度が飛躍的にアップした、@西荻窪アケタの店
今宵は、たおやかでチャーミングなピアニスト小太刀のばら氏のトリオが、2人の鬼才アルトサックス奏者を迎え入れた。フロントは、右手に林栄一氏、左手に宮野裕司氏だ。
穏やかに悠々とした丁寧な構えでそのサウンドを下支えするのばらさんトリオと緩急自在の性格の異なるホーン奏者の時々刻々とその色合いを変えゆく掛け合いの妙が、実に見事だった。徒らにはしゃぐことなく、緩やかに流れつつも、沈思黙考し、風雲急をつげながら溶け合うハーモニーがなんとも小粋で趣味の良い音場だったなあ。エンドロールの〈ロータムブラッサム〉は、もう絶品。

#043 11月24日(日)
柏 Jazz Bar Nardis
http://knardis.com/knardis.com/Welcome.html

永武幹子(p) 石川隆一(b) 竹村一哲(ds)

予想外の雨に振り込められて、金曜日以降、週末の当初ライブ予定は大幅に変更を余儀なくされたが、最終日曜日の朝、湘南では、見上げた雲の切れ間から、陽の光が僅かに差し込んでいたので、迷わず大急ぎで着替えをして、自宅を飛び出した。
やって来ました今日のライは、初訪問の@柏Nardis
演ずるは、なんとも活きの良い若手ピアノトリオ。ピアノの永武幹子氏、ベースは石川隆一氏、ドラムは竹村一哲氏だ。意外にも、この組み合わせは、お初とのこと。永武氏曰くは、「ワイルドトリオ」と命名したいとのこと。
各人の卓越した自らの才覚と ウエマツ、マスオ、クルミ、ミネ、サダオ、敬称略お許しを!らの偉大なるバンドマスターの下で積んだ地道な研鑽に裏打ちされたサウンドが見事に溶け合って、説得力十分。ジャズやボサノバの古今のスタンダード曲や、永武氏のオリジナルを とにかく大きなうねりを持って、パワフルに、そうしてしなやかに、奏でて行く。私が個人的に嬉しかったのは、冒頭二曲目でいきなりの大きなクライマックスを作った、スティーブ・スワローの〈レディース・イン・メルセデス〉。この曲を生で聴くのは、ひょっとすると親父と行った15歳の夏の斑尾フェスでの、小曽根真&スティーブ・スワローらを擁したゲイリー・バートンG以来かもしれない。超重量級に仕上げた大層聴き応えのあるナンバーとなった。
精進を怠らずに重ねる若者達は、実に清々しく美しかった。

#044 12月3日(火)
合羽橋 Jazz & Gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/

山崎比呂志 try angle:山崎比呂志(ds) 井野信義(b) 峰厚介(ts)

私にとって今年は、文字通りの山崎比呂志イヤーだった。
2月の神栖ジャズ麺から始まり11/30の鹿嶋ジャズ迄で、ほぼ毎月の合計9回。中でも、今夜のハコでは.その内の6回を数える。
今夜は、山崎比呂志 try angle@合羽橋なってるハウス。
私の、文字通り現在一押しであるこのプロジェクト。ドラムの山崎比呂志氏と盟友のペース井野信義氏が今宵手合わせするのは、何とテナーサックスの峰厚介氏だ。
自らのカルテットや、渋谷毅オーケストラでも聴くことの出来る哀愁感溢れるタフでハードなブローが、どう咆哮し、炸裂するのか?会場に集った全員が、文字通り固唾を呑んで見守った。
えーい、前置きはこの辺でおしまい。
結果的には、圧倒的にハードボイルドな音場が出現した。
井野氏の、どっしりと構えた基礎の上に、峰氏がタテヨコナナメの柱を鮮やかに組んで行く。山崎氏はそこに、絶妙な間で楔を打ち込む。意外にも、洋式は全般的にフリーフォーム調を抑えつつ、各人が堪えきれずに、4ビートに走り込み小品を畳みこんで行く展開も随所に見られた。それは、どこか伝統的な数寄屋造りを想起させる音伽藍。
とにかく、とてつも無いモノを観せて貰ったという印象だ。
そうか、今宵は、稀代の伝統芸能士の豪華競演という趣向だった訳か!
であれば、勝負の行方は?
軍配は、ここ都内でも辺鄙な場所である合羽橋の地で、連夜にわたり数多の表現者を支え続けている席亭の小林ヤスタカ氏にあがった。と、オノ オモフ。
そうして、傘寿を迎えられる来年も引き続き、清廉なるフリージャズを生み出し続けられるであろう山崎氏を追い続けたい。と、オノ ネガフ。

#045 12月7日(土)
越生 ギャラリィ&カフェ 山猫軒
https://www.yamaneko.info/

フランソワ・キャリリール(as) 纐纈雅代(as) 不破大輔(b) 井谷享志(ds,perc)

今日は、少し遠出のライブ行脚。今年、得難い御縁を頂いた本誌編集長の稲岡邦彌氏にお誘いを頂き、カナダから来日中のフランソワ・キャリリール氏のツアー最終日に出かけた。私のハンディキャップを良くご存知の稲岡氏のご厚意により、往路は、途中の駅から演者達の車に同乗させて頂き今夜のハコに向かう。
関越道を降り、名所の梅林の連なりと色付く樹々が点在する山々をみながら、急勾配の細道を昇って行くと、やがて山の懐に抱かれるように目的地の建物が現れた。まるでそこは童話の世界。 砂利道の坂上から、ご亭主の南達雄氏が出迎えに駆け降りて来てくださる。
そう、今日のライブは、@越生 山猫軒。
里山移住の先駆けとしてこの地に移住した南氏が、このハコをスタートさせたのは平成元年とのこと。因みにオープニングライブは、かの高柳昌行氏だったという。
締結部に金属を全く使わない日本の伝統工法に拘った建物は、まさに、宮沢賢治の世界そのもの。ふと見ると、演者達は早速黙々とセッティングに取り掛かっている。ドラムスの井谷享志氏は、カーペットを敷き、下からの反響を確かめる一方で、手を打って、高い天井の 上からの反響を確かめながら、みずからの最良のポジションを測っている。アルトサックスのフランソワ氏と纐纈雅代氏は、その立ち位置を交互に試しながら、互いの絶好の距離感を測っている。稲岡氏は、それらに対して、客観的かつ的確なコメントを次々と発して行く。それは、あくまでミュージシャン・ファーストをベースとした協働者として。そうこうしていると、本日急遽参戦のベース 不破大輔氏が到着した。不破氏は、3回目の当地ということで、その響きを十分熟知しつつも、気温と湿度を慎重に見極めながら、結果的に、アンプは通さずに、生音で行くことに決定。 全員での軽いウォームアップでリハーサルは終了しライブ前の早目の夕食タイムへと移る。全員が南氏特製のピッツァに舌鼓をうちながら開演の時を待つことに。18時の定刻を少し回った頃、今宵のステージが始まった。1stステージ、この4人としては、初顔合わせのユニット故か、互いの間合いと出方をはかりながらの若干抑え目なやりとりで時間が流れて行った。短い休憩の後始まった2ndステージは、各人をフューチャーしながらの構成。阿闍梨?雅代さんによる法螺貝のひと吹きの後、井谷さんが、絶妙のタイミングでその長髪をスネアに向けて振り乱した瞬間、不破さんの背後の開け放たれた扉の隙間から気流が流れ込み、それを巧みに自らの内に取り込んだフランソワが、徐々にユニット全体にドライブをかけて行き、次第にユニット全体が温まって行くのが如実に分かる。気が、大きくうねりながら流れだし、もはや、音場は自発的に動き始める。当夜の宴に、リハーサルから本番を通して参加させて頂き、つくづく音楽は生き物だということを実感させて頂いた。その肥沃な大地を地道に耕して来られた南氏にも感謝の夜。

 

小野 健彦

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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