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小野健彦の Live after LiveNo. 265

小野健彦のLive after Live #073~#081

text & photo by Takehiko Ono 小野健彦

前口上

今日も私のlive after liveは淡々と進んでゆく。何のお構いもできませんが、ひとつ私と一緒に「ライブ・ハウス」の座席に腰かけたおつもりで、我が国が誇る表現者達の演奏に耳を傾けて頂いた気分に少しでもなって頂ければ幸いである。
幸運にもこの連載コーナーを担当させて頂いてから、今回が9回目となり、多くの「ライブ・ハウス」をご紹介することが出来た。
晴れて「その日」が到来した暁に、読者の皆様のハコ選定のお役に立てればこの上なき光栄にて。
では、そろそろ今宵のショーの開幕です。

#073 2月8日(土)
池袋バレルハウス
https://www.barrel-house.net/

西尾賢ソボブキ

今夜のライブは、サックスの早坂紗知さんとベースの永田利樹さんと私とのオフサイト・ミーティング「ぺいぱーむーんの会」忘年会でもお世話になった@池袋バレルハウス。

今宵の演者は、ピアニスト西尾賢氏率いるソボブキだ。私は、昨年夏に行われた、tamamixさん企画の、ウクレレだけじゃないパニック以来のご対面。「素朴でぶきっちょな東京人の音楽」がユニット名の由来との事であるが、その出自の詳細は、西尾さんのHPに詳しいのでここでは割愛したいと思う。メンバーの出入りを経ながらも、平成の徒花になることなく、令和の世も、根強いファンに支えられながら、どっこい、着実にその歩を進めている堂々たる音曲ユニットである。

奇天烈でおかしみに溢れたナンバーの中にあって、突如現れる西尾氏のバップ・フレーズがなんとも新鮮だ。それは、Tモンク、Hニコルズから、Mタイナー、Pブレイなどをもカバーした印象も感じられ、それが音場に得もいわれぬアクセントを生み出して行く。演者各々が、この時を楽しみ尽くしているのが、こちら聴き人にもビンビン伝わって来る。今宵もご機嫌なひとときを過ごさせて頂いた。(このお店料理も抜群、特にマスター特性燻製は美味)

#074 2月9日(日)

吉祥寺 piano hall サムタイム
https://www.sometime.co.jp/sometime/

早坂紗知 (sax) 永田利樹 (b) 田中信正 (p) 定村史朗 (vn)

ライブのハコ通いは面白いもので、その参詣頻度にえらくばらつきがでることがある。
ということで、この日のライブは、久々の@吉祥寺サムタイム。
入店するなり、マネージャーのゆうこさんから、「今年も宜しくお願いします」と言われて、思わず苦笑いの私。
さて、今日のライブは昼の部。昵懇のサックス早坂紗知さんとベースの永田利樹さんが、ピアノの田中信正さんと、ご夫妻とは旧友のバイオリン定村史朗さんを迎え入れたステージ。管楽器と鍵盤楽器に弦楽器がブレンドされた厚いハーモニーがなんとも心地よい。響き響かせ響き合う輪郭のクッキリとした、鮮やかな色彩感を持つ万華鏡のようなリズムとメロディが多くの聴き人で埋まった店内を駆け巡った冬の午後のひととき。

#075 2月14日(金)
新宿ピットイン
http://www.pit-inn.com/sche_j.html

TRY -ANGLE:山崎比呂志 (ds) 井野信義 (b) 纐纈雅代 (sax) + 林栄一 (sax)

今宵は、目下、公私共に急接近中のドラマー山崎比呂志氏が、盟友のベーシスト井野信義氏と共に現在進行形の刺激的な表現者を迎えて贈る要注目プロジェクト「TRY -ANGLE」が聖地新宿ピットインに舞い降りた夜。

今夜、お二人が招きいれたのは、近年、その心境著しいアルトサックスの纐纈雅代さんである。この御三方の組み合わせは、同所では2回目。他所でのgigを入れると3度目の手合わせとなる。私の日記を読み返してみると、2019年間で、纐纈さんは7回。山崎さんに至っては、実に全12回!その生に触れたことになるが、今夜は、そのいずれとも異なるスリリングでしなやかな展開を通して、斬新なフォルムが立ち上がる音伽藍。各々の演者から発せられる渾身の音達は、鮮烈に粒立ちながら、次第に嬉嬉として縺れ会う。そこには、ビットインという空間が持つ歴史の重みが影響したことは確かであると思う。
3/28には、めでたく傘寿を迎えられたこのドラムの神様が見据えている今後のstepにも注目したい。 この日2/14は、暦では大明日。「天地が開通し、隅々まで太陽の光に照らされる日」。今宵のgigと対置させ、なんとも意味深なる意と言わざるを得ない心持ちとなった。
今宵は、2ndステージの終盤に、近くのハコでライブがあり、その打ち上げ終わりの林栄一さんの飛び入りもあり、なんだか賑わいの夜となった。しかし、客席最後列でご一緒に酒をのんでいた林さんがやおら楽器を組み立てて、客席中央の通路をサックスを吹きながらステージに向かう後ろ姿の恰好良かったこと!因みに曲はwhat is this thing called loveだった。

#076 2月15日(土)
横濱エアジン
https://airegin.yokohama/

エアジン・スペシャル・プロジェクト:小林洋子 (p) NORICO (vo) 類家心平 (tp)

2020年も、ピアニスト小林洋子さんは元気だ。ドラマー池長一美氏との天衣無縫なduoチーム TTT「the third tribe」の活動に加えて、様々な表現者とのduoも積極的にやって行くつもりだと語ってくれるその横顔に触れ、なんとも頼もしい限りである。

さて、私の今日のライブは、今年創業51年を迎える老舗、横濱エアジンだ。

今宵は、ご亭主うめもとさんの慧眼によるエアジン・スペシャル・プロジェクト。今宵初顔合わせの面子は、洋子さんとボーカルのNORICO.sさんにトランペットの類家心平氏が加わるというトライアングル。「クンデラユニット」の曲や、もう絶品のfirst song、moon river、my foolish heartなどを織り交ぜながら、伸びやかにたゆたうnoricoさんの唄声と、今宵はなんだかいつにも増してスケールが大きく芯の強いタッチと叙情性に溢れた音運びの洋子さんのピアノに、ハスキーで、スモーキーでいて、圧倒的に夜の匂いを感じるさせる類家さんのペットが絡む。実に絶妙にブレンドされた味わい深いひとときが、悠々と流れて行った。

こういうハッとさせられるような化学反応を我々聴き人に提供してくれる。それが、エアジンの真骨頂である。乞再演❗

#077 2月23日(日)
茅ヶ崎 Jam in the box
http://jitb-chigasaki.com/

カルメン マキ&グー・チョキ・パー featuring 清水一登 (p)

この日から遡る週末は、急な所用と悪天候に阻まれて、珍しく全てのライブ予定をキャンセルせざるを得なかったため、この日は、うららかな冬の日差しに導かれて堪らず家を飛び出した。今夜のハコは、我が家藤沢から近距離の茅ヶ崎@Jam in the box.

オーナーで当地在の税理士菅原一則氏は、そのオープンマインドな性格と、ミュージシャン・ファーストのライブ運営で、様々なジャンルの表現者からの信頼も厚い。

さて、今夜のライブである。 今夜の演者は、カルメン マキ&グー・チョキ・パーだ。マキさんの同所でのライブは、約1年振り。
冒頭、主催者から、「今夜は、撮影、録音録画は厳禁、破ったら連帯責任で即ライブ中止」のコメントあるも、まあ、それが普通なんだよなあ。こちらはひとりの聴き人としてこの場所に居るのだからと、スッキリとした心持ちでそのショーの開始を待つことができた。マキさん曰く、「このバンドでは、私の好きな曲しか歌わない。それは、新旧のオリジナルからカバー曲まで含めて」と。その通り、多彩なナンバーが披露された。私は、マキさんのヘビーリスナーではないので、数曲でオリジナル曲か否かの判断は難しかったけれども、印象に残った曲で言えば、キャロル・キングの Will you still love me tomorrow? やジャズ・スタンダード the man i love などに加えて、浅川マキさんの唄でもお馴染みの、かもめ、それはスポットライトではない、ふしあわせという名の猫、更には、西岡恭蔵さん作曲のアフリカの月やジプシーソング、そうして、本編最終のリクオさん作曲ソウル等の佳曲達。

ギター丹波博幸氏、ペース吉田達二氏、カホーン&ドラムの上原ユカリ裕氏のタイトなリズムに導かれてゆるやかに大きな世界観を表現するマキさん。時代を創った表現者だけが纏う独特の余裕あるステージングに、知らず知らずのうちに引き込まれてしまう。ボブ・ディランのライブハウス公演が「世界が羨む」のなら、マキさんが、都心からは辺境の地ここ湘南村の小さなライブスペースで唄うのを目撃出来るのも充分に羨まれる「事件」だったと言えよう。このレポの最後に、昨夜は、フューチャリング・ミュージシャンとして、ピアニストの清水一登氏が登場した。実は、当夜の私のお目当てのひとつは、この清水氏の生演奏にふれることでもあった。清水氏は、期待に違わず、とてつもなくスケールの大きいヴォイシングという名の爆弾を度々そのバンドサウンドの中にさらりと放り込んでくれた。このハコに鎮座する銘機ハンブルグ・スタインウェイをここまで鳴らし切った表現者は、私の知る限り、辛島文雄氏と、菅野邦彦氏しかいない。

とにかく、柔らかで極上のバンドサウンド・ショーであった。日常の直ぐ先にあった刺激的な非日常を味わい尽くした宵だった。

#078 2月28日(金)
横濱エアジン
https://airegin.yokohama/

エアジンduo スペシャル#2「TAKA&MICKY」渡辺隆雄 (tp) 石田幹雄 (p)

身体の免疫力を高めるためには、ご機嫌な音を浴びるのが最適と確信して向かった当夜のライブは、@横浜エアジン。

演ずるは、トランペットの渡辺隆雄氏とピアノの石田幹雄氏だ。サブタイトルは、おふたりのニックネームから、「TAKA&MICKY」@エアジンduo スペシャル#2。

卓越したインブロバイザーのおふたりは、各々のオリジナル曲や、M.ナシメント、A.C..ジョビンらの南米物に加えて、C.ミンガスのカバー等を素材に、騒つく世情を綺麗に洗い流すような、清浄な川の流れの如き音場を表出してくれた。石田さんは、そのごつごつとした打音で、時に曲の構造を解体しにかかるような強靭な印象を産み出し、一方の渡辺さんは、柔らかに伸びるトーンで飛翔と降下を繰り返しながら、随所で清廉なるファンファーレを瞬時に奏でていった。緩流と奔流とが目まぐるしく現れたおふたりの、エッジの効いたハイブリッドな語らいは、曲の中に位相の異なる音伽藍を組み立てて行くような何とも立体的なものであった。

#079 2月29日(土)

横浜 ・上町63
http://kanmachi63.blog.fc2.com/

「月の鳥」渋谷 毅 (p) 石渡明廣 (g)

今夜のライブは、昨夜と同じ港町横浜関内馬車道辺り。
希代のduoチーム「月の鳥」@上町63である。

お客様の入りを待ち構えつつ、少し遅めに開始されたステージ。静かにその時を待っていた当夜の表現者のおふたりも、佐々木オーナーの「そろそろ行きますか?」の声にうながされて、ステージへ。瞬時に、その表情は超集中モードに。まさに、プロの横顔に、こちら聴き人も居住まいを正さずにはいられない。

「月の鳥」。なんとも想像力を掻き立てられる魅力的なユニット名。日本音楽界の至宝ピアニスト渋谷毅氏と、当代随一と私が信じて疑わない卓越した作曲家でありギターリスト石渡明廣氏のDUOユニットである。

ステージ左手アップライトピアノに、脇に芋焼酎のお湯割を置いて静かに座る渋谷さん。その後方、僅か1m程の所で構える石渡さん。この小さな空間から、とてつもなく大きな宇宙が極く密やかに紡ぎ出される。このハコだからこその極めて尺の良い程良い距離感。渋谷さんは、その背中で石渡さんをしっかりと感じ取り、一方の石渡さんも、渋谷さんの背中から渋谷さんを余す事なく感じ取る。永年のコンビネーションをベースとした暗黙知に裏づけられたふたりの語らいは、どこまでもしなやかで広く深い。それは、ごく限られた人数だけで共有するには、余りにも贅沢な、柔らかくも刺激的なひとときであった。

#080 3月06日(金)
西荻窪アケタの店
http://www.aketa.org/

原田依幸 (p) 時岡秀雄 (t-sax) 望月英明 (b)

冬眠から目覚めた虫達も、地上の尋常ならぬ騒つきにはさぞや驚いたことであろう。啓蟄明けの今日のライブは、@西荻窪アケタの店。

ライブの記録の前に、「その後」初のアケタ訪問である。
これまで何度か触れてきたが、昨年から年を跨いで進行した、心と身体の超バリアフリー・プロジェクトが、遂に2月上旬にその完成を見てから、私にとっては念願の初訪問となった。
今回の改装のポイントを簡単にまとめれば、(詳細は下記写真をご参照頂くとして)
①  手摺編。階段上→踊り場→待合スペースへの右手側腰高斜め手摺及び踊り場に縦手摺。
さらに会場入り口⇆座席面間の段差に縦手摺
②  鍵編。待合スペースとトイレ前化粧室との間のドアに、内鍵取り付け
③  トイレ編。和式→様式ウォシュレット仕様へ+壁面にL字手摺
以上、どうでしょう!障害者にやさしく、多様化するジェンダーに優しい、まさに、心と身体両面に十二分な配慮をした前代未聞の改良プロジェクトであったと評価したい。
それは、このプロジェクト・チームの中核に、介護及び介助の知識に明るい、このハコの申し子のような表現者と、極めて奥ゆかしいひとりの聴き人が居て、その彼女達が、自発的で、さっぱりとした呼びかけを地道に行い、それに浄財を以って応えた数多のお客様、表現者の皆さんの善意があったればこそ実現出来たものであり、その偉業の前では、特に身体に障害を持つ身であり、その恩恵を大いに感じることが出来る私は、ただただ、感謝の気持ちで胸が一杯になった。

さて、前置きが長くなったが、今夜のライブである。
今宵は、ピアニスト原田依幸氏のグループである。私にとっては3度目の体験。
相変わらずの、スリリングで、ハードボイルドで、センチメンタルな音場に大いなるカタルシスを味わうことに。
中でも、2ndセットでは、かのハッシャバイかと聴きまごう旋律が飛び出しびっくりするも、後から島田マネージャーと望月さんにお聞きすると、R.Kirkの≪theme for the enlipions≫とわかる一幕もあり。しかし、4人の荒武者による、騒つく世情を斬り捨てるかのような殺陣捌きに、こちら聴き人の鬱屈した気分も晴れ晴れ。

ライブの終わった道すがら、酒酔音酔あいまって、私は以下の替え歌を口ずさまずにはいられなかった。

(敬称略、童謡チューリップの節で)
浴びた、浴びた、依さんの音を ♪
並んだ、並んだ、トシ、グズラ、ビデオー ♪
♬ どの音聴いても、気持ちいなあ ♪

字余り、お粗末。とほほ。

≪写真注≫左より上段:①手摺編(順番は本文と同じ)
中段左:②鍵編中&右:③トイレ編

#081 3月07日(土)
南青山  live space ZIMAZINE
http://zimagine.genonsha.co.jp/

TTT: 小林洋子 (p) 池長一美 (ds)

今夜のライブは、私にとっては昨年来要注目のユニットを初めてのハコで。
河岸は@南青山zimazine。
演ずるは、ピアニスト小林洋子氏とドラマー池長一美氏による天衣無縫なduoチームT TTT「 The Third Tribe」である。今年の洋子さんは、この TTT の他、各種DUOプロジェクトに加えて、新たにソロ・レコーディングの予定も決定したようで、その動向には当分眼が離せそうにない。

さて話は全く変わるが、実生活では、超方向音痴の洋子さんであるが、 TTT の音の交歓の中で、知らず知らずの内に迷子になっていて、それを池長さんが巧くナビゲートされているか否かは、こちら聴き人は勿論知る由もない。

昨夜のMCでも話をされていたが、驚異的なことに、出来る限りマンスリーにてライブを実施することを自らに課しているこのユニットに私がお逢いするのは、実に昨年9月以来半年振りであったが、その深化の度合は目覚ましく、おふたりの親和性はさらに進化をみせており、また、曲全体の流れの中でのダイナミクス・レンジに慎重な配慮を配られているのを強く感じ取ることができた。求道者然たる印象を受けるおふたりであるが、昨夜は、閉塞感のさらに強まっていた世情の中でも、「ライブ・ハウス」に足を運んだ聴き人との協働により、より充実した音場を生み出そうとする喜びに満ち溢れ、いま、自らの前にある音を果敢に掴み取りに行こうとする有り様が、随所に見て取れた。中でも印象的だったのは、洋子さんの左手のキレ。それは強音でも、弱音でも。思えば、洋子さんの師匠は亡き辛島文雄氏。私は今夜の演奏を聴きながらその辛島さんから昔、ご自身と同じくE.ジョーンズ氏と活動を共にしたM.タイナー氏を引き合いに、「マッコイのことは、嫌でも意識せざるを得ないんだよねえ」とお聞きしたのを思いだした。前日に、その巨星マッコイ逝去の報に触れ、いささか神経過敏になっていた訳ではないが、当夜は洋子さんの左手と、それに表情豊なニュアンスで瞬時に応える池長さんのやりとりを中心に追いかけるひとときとなった。

レンガと木を基調とした程良い尺の空間を持つ、パリのカーブを思わせるこのハコは、音響も極めて素朴かつクリアで好感が持て、上質のヌーヴェル・キュイジーヌの如きおふたりの音楽を味わうには絶好の場であったと言える。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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