小野健彦の Live after Live #82~#84

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text by Takehiko Ono 小野健彦

前口上

数奇な御縁で、このコラム『Live after Live』の連載を昨夏257号より担当させて頂くことになり、本号が丁度10回目となった。
今月号も含めて合計84本のライブレポート連載を通してご紹介した表現者は155人(重複除く) にのぼり、同じくライヴハウスの数は44か所を数えた。
昨年8月の連載開始時に私は「日本のライブ(とりわけジャズ) シーンの裾野を広げる一助になれば幸尽」と書いた。しかし、それが実現したのかを私自身は到底知ることは叶わない。
本号では、現在の新型コロナウイルス禍の状況下での表現者及びライブハウス並びに行動力ある聴き人等の様々な意欲的かつ地道な取組み及び今後のライブシーンの有り様についての考察を、とも考えない訳ではなかったが、正直、私自身自らの心の整理が未だ全くついていないということもあり、上記のように、これまでの本誌での連載の振り返りをしつつ、非常事態宣言が全国に発令される前夜までに行ったライブの中から、例月の如く印象に残ったセットを幾つかレポートさせて頂くことにする
但し、これまで図ったかのように毎月9本ずつお届けできていたレポートの本数を大幅に縮小ぜざるを得ない状況になったことは、誠に残念至極と言わざるを得ない。

#082 3月13日(金)
横浜 jazz first
http://jazz-yama-first.sakura.ne.jp/

田中信正 (p) 守谷美由貴 (as)

諸事、本当に悩みながら、当夜は、お初のハコへ。 @横浜jazz first。
京急線日の出町から程近い路地裏にある何とも雰囲気のあるごじんまりとしたお店である。創業は、1968年とのことであるから、今宵のピアニストや、私とほぼ同じ時を刻んでいることになる。当夜の演者は、ピアノの田中信正氏と、自身のトリオやYAMYAMズ、本田竹広トリビュートバンド、TAPOTAPO等の幅広いスタイルのバンド活動を通じて進境著しいアルトサックスの守谷美由貴氏である。

閑話休題。温故知新ではないが、ここ数年、先達の偉大なるイノベーターに捧げた企画モノが目に付くのは、大変好感が持てる状況だ。思い浮かべただけでも、吉田隆一氏のガトー・バルビエリ。かみむら泰一氏&落合康介氏らのオーネット・コールマンなどなど。そうだ、スガダイロー氏は、セロニアス・モンクとハービー・ニコルズを研究する部活をやっているっけ。

さて、いよいよ今夜のおふたりである。このduoは当夜が6回目の手合わせを数えるという。それも、同所限定だと言う。そのお題が、「ハービー・ニコルズ特集」とうたわれていたので、信正さんのニコルズ解釈を聴きたくて、勇んで行った次第である。

この、ハービー・ニコルズというピアニスト、人名辞典によれば、ブルーノート・レーベルに数枚の吹き込みがあるだけの寡作のヒト。モンクとも親交があった孤高の天才と評されることになる訳だが、私は、不勉強ながら、ブルーノート盤、ハービー・ニコルズ・トリオでしか馴染みがなかった。しかしそれでも私にとっては、濃密な全10曲であったことは確か。

さて、肝心のライブであるが、蓋を開けてみると、ニコルズ曲は、ビリー・ホリデイが作詞したことでも知られるthe lady sings the the bluesとwildflowerとの2曲ながら、他には、モンクの13日の金曜日や、ugly beauty、美由貴さんのオリジナル。更には、私としては大いに嬉しかった、3/25に没後5年を迎えた井上淑彦さんの作品などを取り混ぜた大変バラエティに富んだものであった。 各セットに1曲ずつ配されたニコルズ曲がアクセントになり、全体にニコルズ臭が漂う。残りの佳曲達も、そのリズムは信正さんによって絶妙に解体され、美由貴さんの奏でるメロディラインは微妙な揺らぎとズレをみせながら伸びやかに進行して行く。その掛け合いが見事だった。間口の広い信正さんの音場の中で、大層気持ち良さそうに自分を表現して行く美由貴さんの姿が強く印象に残ったハマの宵であった。また行きたいと思えるご機嫌なユニットとハコだった。しかしごく限られた人数の人々とだけしかこのひとときを共有できないのは、何ともやるせなく、もどかしかった。

#083 3月20日(金)
jazz & gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/

栗田妙子 (p) 川下直弘 (sax)

この日のライブは、少しく久しぶりに、私の大好きなハコへ。 @合羽橋なってるハウス。穏やかな冬の午後の日差しを背に薄暗い店内へと入って行く。これだけなんども通っているハコなのに、昼のライブは初めて。それだけで、新鮮な心持ちで演者の登場を待つ。

今日の表現者は、ピアノの栗田妙子さんと、私としては、やっと念願が叶いそのナマに触れられることになった川下直広氏である。川下さんは、今日は、ソプラノサックス(カーブドソプラノ)をメインに、自らのジャズとの付き合いの日々などを洒脱な語り部としての顔も垣間見見せながらそのステージが進んで行った。川下さんといえば、不破大輔さん、大沼志朗らとのグループ・フェダインや、沖至さん、原田依幸さんらとの共演歴等から、私としては、フリーフォームの系譜のど真ん中に居る方という印象があり、その川下さんが、叙情派の栗田さんとのduoでどんな音場を創出されるのか非常に興味があった上に、お店の告知にも、「定番のバラード集」とあったので、おおいなる期待をもって、駆けつけた訳である。

さあいよいよ開幕。冒頭川下さんから、今日のテーマは、「黄昏」とのコメントがある。

C .ヘイデンのfirst songで幕開けしたステージは、間に短いブレイクを挟みながらの約2時間、たっぷりと、所謂ジャズのスタンダード曲で占められる充実の構成だった。それらは、私が曲名を思い出し、今記憶している範囲だけても、old folks,l loves you porgy, willow weep for me,moonlight in vermont,in a sentimental mood,like someon in love, lover man,someone to watch over me,tenderlyなどの佳曲達。

これらの上質の素材の前で、ふたりの演者は、決して徒らに破綻することなく、川下さんは、極度に抑制された哀切の響きを内に秘めつつ淡々と吹き込んでゆく。一方で栗田さんは、淀みなく滔々と流れる川の流れのような優雅さを持って力強く弾き込んでゆく。至極端正で丁寧かつ緻密な音創りがなんとも印象的な風合いを持つduoチームとのひとときであった。

#084 3月22日(日)
本八幡 cool jojo jazz+art
https://www.cooljojo.tokyo/

蜂谷真紀 (p&vo)

今日のライブは、@本八幡 cooljojo jazz+art。

昼ライブの演者・蜂谷真紀さんの前口上、「超マイウェイな弾き語りします」の言葉の通り、騒つく世情の中にあって、唄う悦びに満ち溢れたひとりの奔放でストレートな唄歌いと、その表現を聴き、目撃する悦びに満ち溢れた聴き人達が、極めて衛生的な配慮の行き届いた空間で出会えた稀有な時間。真紀さんのオリジナルもA. リンカーン作品も、ジャズ・スタンダードも至極ご機嫌であったが、私には、事前に真紀さんにリクエストせて頂いていた 真紀さんと古澤良治郎さんとの想い出の曲、tha’t all I want from you をやってくださったことが何よりの贈り物。(勿論、それは今日彼女が、歌いたかっただけで、私とのそんな前置きなどおくびにも出さなかったのが更にイカシテいたけれども)それはもう、圧巻にして絶品の味わい。
翌日から始まる1週間に向けての元気を頂けた午後のひとときだった。
本編最後は、きっと彼女が今後も長く歌い続けていかれるであろう what a wonderful world を心を込めて、ささやかに、密やかに。真紀さん、滲みたよ、これは。

ライブ後は、ご亭主の長谷川さんと濃ゆい聴き人の面々と共に夜の帳の降りた巷に繰り出したのはいうまでもない。

結果的には、これが非常事態宣言前の最後のライブとなってしまった。

小野 健彦

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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