小野健彦の Live after Live #124~#128

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text & photos by Takehiko Ono 小野健彦

#124 10月30日(金)
町田 Jazz Coffee & Whisky Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/

大野えり(vo)  米木康志(b) David Bryant(p)

今宵は、丁度1週間振りの町田ニカズ。
そのステージには、ボーカリスト大野えりさんのリーダートリオ。
今宵のお供は、国内屈指の売れっ子ベーシスト米木康志氏と新進気鋭のニューヨーカーピアニストDavid Bryant氏である。
しかし、この神無月の私のLAL〈Live After Live〉もコロナ禍罹災を慎重に避けながらの実に充実したものだった。
月間合計で11本。始まりは、10/1の横浜エアジンにて、お客様としていらしていた当ニカズ・マスタでピアニストの元岡一英氏とご一緒に、名匠・市川秀男氏のトリオと共に快唄するえりさんで。そうしてしんがりは、その元岡氏がカウンターの中にいらっしゃるのを眺めながらえりさんリーダーのピアノトリオの力演を堪能するというもの。
この10月の計11本のライヴの内、ピアノトリオが計3本。それらが全てニカズでのセット!それらは、蜂谷真紀3〜山本剛3、そうして今宵の大野えり3と、終わってみれば、元岡氏の言葉を借りれば、ほぼ「宇宙的距離」の充実した旅行きの趣向と相成った。

さて、今宵のライブである。
ステージは、2018/8新宿ピットインライブ盤にも収められ、最近のえりさんライブでも度々オープナーとして採り上げられる〈Just In Time〉から快調な滑り出しを見せた後、古今東西の、成る程趣味の良い佳曲が次々と繰り出された。それらは、(ほろ酔いの記憶を辿れば)例えば、D.エリントン関連では、〈The Star Crossed Lovers〉や〈Prelude To A Kiss〉、C.パーカーの〈Confirmation〉、B.エバンスの〈How My Heart Sings〉等々。そうして勿論、入魂のA.リンカーン〈Throw It Away〉も交えながら、えりさんのオリジナル〈We Were Meant To Be〉や〈Jelly Fish Blues〉に加えてえりさん自身「珠玉の小品」と評したこれまたオリジナル〈La La La You Are Mine〉迄、兎に角バラエティに富んだ色調の曲達がずらりと並べられた。そんな中で、私が特に嬉しかったのは、C.マクレイの’シングズ・モンク’盤にも含まれているT.モンクの〈Reflections〉→歌詞が付いて〈Looking Back〉や〈Ask Me Now〉→同〈How I wish〉など、普段、ボーカル物としては余り聴くことの出来る機会の少ない楽曲にまで果敢に挑戦するチャレンジングなえりさんの姿勢に触れられたこと。

支える共演者にしても、質実剛健な米木さんのプレイは、場に十分なスペースを確保させながら相変わらずの安定感抜群の佇まいを見せ、David君は、そのこれまでの共演者に、L.ヘイズ、 R.ヘインズ、D.ホランド、J.ヒース、K.ウィーラー等の巨星が列挙されることを挙げ連ねるまでもなく、そのアイデアの引き出しの多さにはっとさせられる場面が数多くあり、総じてその決して奇を衒うことなく、無駄話が少ない実直なプレイ振りはおおいに好感が持てた。そんなふたりに支えられては唄の虫・えりさんが疼かない訳がない。如何にも気持ち良さそうにグルーヴするその様にはこちら聴き人も心地よいカタルシスを味うことに。本編最終曲はお馴染みの〈Love You Madly〉で締めて、その後満場のアンコールに応えての〈Feeling Good〉にて大円団。

外気の肌寒さを吹き飛ばしてくれるパッションに満ち溢れた充実の夜だった。

最後の一音が消えた後、演者も、聴き人も、皆が笑顔に包まれたのは言うまでもない。


#125 11月01日(日)
「韓絃樂 滅紫月(けしむらさきのつき)vol.32」@豊島区立目白庭園・赤鳥庵和室
https://mejiro-garden.com/about

張理香:伽倻琴(カヤグム)玄琴(コムンゴ) 趙寿玉:舞踊

湘南の自宅から、薄雲たなびく霊峰富士を遥か遠くに仰ぎ見て向かった霜月一日。

本日のライブは、「韓絃樂 滅紫月(けしむらさきのつき)vol.32」@豊島区立目白庭園・赤鳥庵和室である。この公演は、当年3/20大塚・月白亭での開催予定がコロナ禍影響により苦渋の中止判断を余儀なくされたために、私としては、昨年12/21の同所でのvol.31公演以来の再訪となった。今日はサブタイトルに「韓国伝統音楽と舞踊」とクレジットされたように、朝鮮半島の伝統的な撥弦楽器である、伽倻琴(カヤグム)と玄琴(コムンゴ)の名手・張理香氏と、氏とは約35年以上前の同門の徒である舞踊家の趙寿玉氏が登場した。主催・実行委員会メンバーには、舞台監督・村重勇史氏、舞台照明・池内文平氏と共にジャズピアニストの原田依幸氏の名前も列挙されていた。

17時定刻に開始された本公演は、まず、張氏による伽倻琴散調で幕が開いた。「散調」は、韓国伝統音楽を代表する有名な器楽独奏曲であり、今でこそ譜面化されているものもあるものの、基本的には、いくつかの流派毎に口承伝承により受け継がれてきたものだという。と同時に、即興部分は基本的に無いという構造から成り立っていることを、理香さんご本人から伺って今日改めてその理解を深めた次第である。楽器本体の片方を右膝の上に置き、右手側は素手で絃を弾き、左手は絃を押さえる。この左手によるノヒョン(独特なビブラート)がまさにこの伽倻琴演奏における(演者の真価が問われる)真骨頂とでもいうべき部分であり、右手と呼応した効果的な左手の「ノヒョン」により演者は凡ゆる感情をこちら聴き手に伝えることになる訳である。今夜の演奏でも、最弱音から開始された一編の物語りが次第に興味深い起承転結を経ながら高い緊張感の持続するパートに至る約1時間をぶっ通しで弾き切る流れは、いつもながら毅然としてスリルに満ち溢れたものであった。深い「ノヒョン」に導かれた各場面は、こちら聴き人に妖艶と幽幻の表情を実に効果的に提示してくれたと言えよう。

約15分の休憩の後開始された第二部は、引き続き張氏の、今度は、玄琴の独奏。現地で配布されたリーフレット中の理香さん自身の解説によると、「呼吸の部分から律動するテンポまで、奏者が自分の呼吸で自由に演奏するスタイル」とのことであったが、実際の演奏もまさにそれを地で行くものであった。玄琴は、伽倻琴と異なり右手はスルテという棒を持ち、それで絃を弾く。この右手の奏法の違いが何とも野趣味を帯びた感情の表出に巧に繋がっていたと感じた。

さて、続いていよいよ最後のパートは、張氏と趙氏の共演。始めに張氏がひとりで現れステージスペース下手に座す。程なくして、眼にも眩しい純白のチョゴリを纏った趙氏が上手より登場する。お二人の共演は「ミンサルプリ舞」。それは永年の友同志による協働作品で、「内在する厄を舞によって昇華させる」ことを狙ったものであるとのこと。お二人の掛け合いは、心を寄せ合わせつつ、寄り添い過ぎずの極めて快適な距離感を保ちながら進んで行く。その、互いの気が畝った交歓の様は極めて緊密であったが、途中、もう少し互いに仕掛け合えば良いのにという一抹の物足りなさをも感じる部分が少しくあった。しかし、帰宅してリーフレットをしげしげと眺めてハッとした。張氏が趙氏の舞を評して、「現在のように舞台化される以前の形を残しており、韓国舞踊の本質である簡易朴略(飾り過ぎず自然な点)にその特徴がある」と述べられていた。

私にとっては、その簡易朴略の心得と、兎角肩に力の入ってしまう現在の日常生活の中で「素直なこころ」を忘れがちになっている自らを対比させ顧みておおいに反省させられた次第である。

今夜は、全ての演目が終わったその後で、張氏からショートピースの「アリラン」の贈り物があった。その哀切と慈しみに溢れた演奏に満場からは大きなため息が漏れ、惜しみない拍手が湧き起こった。


#126 11月06日(金)

横浜・関内馬車道・上町63
http://kanmachi63.blog.fc2.com/

月の鳥:渋谷毅 (p) 石渡明廣 (g)

今宵、私のライブの現場は約1ヶ月ぶりの@横浜・関内・馬車道・上町63。
今夜のステージには、ご存知の「月の鳥」。ピアニスト渋谷毅氏とギターリスト石渡明廣氏による至高のDUOチームである。

ここで唐突に、映画「男はつらいよ」のことなど。
言うまでもなく、昨年50作目を数えた映画史に燦然と耀く国民的人気シリーズである。主人公寅さんのマドンナとの悲喜交々のやりとり、全国の景勝地の風情を織り込みながらの寅さんの啖呵売の切れ味等など、観る者夫々にその魅力のポイントは数多あろうが、こと私はというと、ほぼ不変のお馴染みの役者陣が織りなす人間模様の機微にあると言って良い。

さて、ここで、本題の「月の鳥」に話を戻そう。
何を隠そう、私は、このチームをここ上町でしか聴いたことがない。だから、他のハコで演奏する時、どんな風なのかを知らない前提での印象である。
ここ上町での「月の鳥」は、同名義のデビュー作(にして唯一の公式)アルバムからの楽曲を中心に、永年の交歓の道程で生まれたレパートリーで構成されたステージが進行される場合が多い。渋谷さんが手持ちの譜面をパラパラとめくり、あるいは、何げない所作の中から、やおら「◯◯やろうか?」と呟き、それに石渡さんが無言で頷き、途端演奏が始まる。繰り出されるのは、前述のように毎回お馴染みの楽曲が多いが、しかし、これが毎回違った新鮮な印象を纏って立ち現れて来るのだから、実に不思議なものである。そこには、素人の私などには到底分からない、演者にとって余程自由度の余地のある仕掛けが数々仕込まれているのだろう。そんな得も言われぬ魅力を持った機微が横溢する楽曲群で埋め尽くされたひとときを毎回届けてくれるのだから、今宵も私の脚は「月の鳥」に向いてしまう。
それはどこか毎回の封切りを待ち侘び映画館に向かった「男はつらいよ」に対する想いと似ている気がする。


#127 11月07日(土)
本八幡 jazz+art cool jojo
https://www.cooljojo.tokyo/

TEAM TUCKS:小林洋子 (p) 多田誠司 (soprano & alto-sax, flute) 加藤真一 (b) 角田健 (ds)

「本八幡cool jojo+art」 。創業5年ながら既に首都圏を代表するハコのひとつになっている感のするこちらのハコが、今日の私のライブの現場である。

今日のステージは、TEAM TUCKS。その聞き慣れないバンド名。いよいよ今日から活動開始となる、ピアニスト小林洋子氏が旧くからの友を召集して結成した新ユニットだ。洋子さん以下の布陣は、各種木管楽器 (ソプラノ&アルト・サックス+フルート)・多田誠司氏、べース・加藤真一氏、ドラムス・角田健氏という、如何にも一筋縄ではいかない面子揃い。

先日、自身初のピアノソロ・アルバム『Beyond The Forest』を発表し、それが、Amazonでは即完になる程の好調な滑り出しを見せた、目下乗りに乗っている洋子さんの新機軸をいち早く目撃したくて越境に越境を重ねて千葉県に乗り込んだ。

約2年半前のシーン復帰以来、トリオ、デュオ、ソロと比較的コンパクトな編成で洋子さんの音楽観を体験してきただけに、カルテット編成をどう成立させ、そこでどんな彼女らしい表現をして行くのかが大変興味深かった。

ライブ・レポに入る前に先ずは、このユニット名の由来を、洋子さん自身のFacebook から引用すると、
TUCKS:「布地を摘んで作るヒダは、よりデザイン性を高め何より立体感をもたらします」 と。ステージは、序盤にカンフル剤よろしく繰り出したハードコア仕立ての<The Shadow Of Your Smile>を除いて洋子さんのオリジナルを中心に展開して行ったが、そのメロディ・リズム・ハーモニー・アレンジ共にグッと惹きこまれるものばかり。各楽曲でメンバー其々がそっと巧みにフューチャーされるが、流石にそこは百戦錬磨の強者達、自分の世界に引きずり込んで存分に主張をしながらも徐々に洋子さんから託された世界観に昇華させて行くその様は緊張感に溢れ実にスリリングなものであった。策士洋子さんによる各演者が自由に遊び回ることの出来る余白をふんだんに織り込んだアンサンブルが大層心地良い。
このユニットに潜在化する、〈ゆらぎ・にじみ・ゆがみ〉等のコントラストとダイナミクスの振れ幅は、今後、更にユニットの協働作業の場数を踏むことで益々興味深い形で顕著に顕在化して来るに違いない。その意味では今後何度も出逢いたいユニットだと強く感じた。其々に紳士的な面も多々ある先輩男衆諸氏を前にこういう言い方をするのは大変失礼ながら、皆さん、ステージに上がると猛獣の如く突如牙を剥く瞬間がある。それは時に静かに、時に猛々しく。そこに、猛獣使いのアマゾネス?よろしく洋子さんの絶妙な手綱捌き〈アレンジ〉が冴え渡る。兎に角、終始一貫して、ジャズの根っこを互いに共有しあえる面々が描いた洋子さんのリリシズム溢れる世界観が弾け散った午後のひととき。堪能させて頂きました。
これまで艱難辛苦の道のりを乗り越えて、今、ご本人も予想だにしなかったであろうこんな充実した再会の地点に立った洋子さんには改めて「おめでとうございます」の言葉をお送りしたいと思う。

#128 11月08日(日)
町田 Jazz Coffee & Whisky Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/

清水くるみ (p) 米木康志 (b) 原大力 (ds)

かくして、私のLALは今日も快調に進んでゆく。今日のライブの現場は引き続き感染予防対策万全の@町田ニカズ。

今日、日曜昼恒例の「光の中のジャズ」のステージは、ピアニスト清水くるみ氏のトリオによる〈Plays Porgy & Bess〉。
私自身にとっては、先月来3回を数えた「ピアノトリオの探究@ニカズ」に続く趣向となった。「ポーギー&ベス」は言わずと知れたG.ガーシュイン作曲のオペラ。くるみさんにとって兼ねてから追究中のこの作品の世界観を共有できるのはこの面子しかないと見込んで召集してきたのはベース・米木康志氏とドラムス・原大力氏。
私自身は不勉強ながら、3幕9場に渡るそのオペラに接したことはなかったので、勿論その楽曲全てを言い当てることも、原曲と比してそのセットリストに施された工夫を味わい尽くすことも十分には叶わないのだろうなあと思いつつ臨んだが、どっこいそこは聴き人想いのくるみさん、今日披露頂いた全10曲(中には、G. エバンス作の〈Gone〉も含む)のほぼ全てについて、オペラの場面解説を交えその楽曲の背景についてマイクを使いながら丁寧なMCをして下さったのは大変ありがたかった。
ステージは、終始くるみさんの極めて強靭なタッチとキレのある明快な主張、更には米木・原両氏の確かな技巧等に依る間口・奥行き共に広く大きな世界観を感じさせる立体感のあるものであった。
〈Bess, You Is My Woman Now〉で快調な滑り出しを見せた1stセット、続く後述の2曲で始まった2ndセット共に5曲ずつの内容は、曲調・編曲共にバラエティーに富んでいて片時もダレることがない圧巻の構成。特に私としては、2ndセットの冒頭に披露された、ゴスペルタッチの〈Fishermen, Strawberry And Devil Club〉から、急速調の〈It A’int Necessarily So〉に繋げたくだりに、ココロを鷲掴みにされた。
このオペラの楽曲の核心にあるのであろうアメリカ南部のフォーキーでブルージーなエッセンスが、ここ日本に長く暮らしその温度と湿度を纏ったくるみさんの秀逸なアレンジとそれを十二分に共有できる芸達者の共演者を得て、見事に発露していたと言えよう。
本日の最終は、くるみさん曰く「全編暗い内容のオペラの中から、これは敢えて明るく」と前置きして名曲〈I Loves You Porgy〉を光明さすが如くの楽しさと更に抜群のキレをみせながら快活にスイングさせての大円団となった。
今日は清々しい「公園のピクニック感覚」の中でなんだかとてつもないモノを目撃した気分。この企画、早々に’21年3月の同所での再演も決定した模様。お見逃しなく!

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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