小野健彦のLive after Live #169~#174

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text and photos by Takehiko Ono 小野健彦

#169 7月23日(金)
高円寺グッドマン
http://koenjigoodman.web.fc2.com/
小太刀のばら (p)+倉地恵子 (vo) DUO

さて今宵は、小太刀のばら氏 (p)と倉地恵子氏 (vo) のDUO@高円寺グッドマン。

実は、過日拙宅方面までわざわざ出向いてくれた倉地さんと湘南の寿司屋の止まり木に止まりながら、この企画を聞いた時、伺うことを即答したのはいうまでもなかった。それは言うなれば「慎ましさと悪戯っ子風情の化学反応の妙」を見たさにであったと言える。だからその後、その夜が丁度東京オリンピックの開会式に当たっていると知った時にもその決心は全く変わることはなかった。しかし、この意外とも思えたおふたりの関係性。お聞きすると、ピアニスト・寺下誠氏を介したご縁とのこと。寺下氏のNYC 修行時代の師である B.ハリス氏の教育メソッドを帰国後受け継いだコーラス隊に倉地さんが居て、その指揮をしていたのがのばらさんだったとのこと。その意味では付き合いの古いおふたりが過日、町田ニカズにて倉地さんのシットインで再会を果たし、7月初旬他所での再共演を経たのが当夜であった。

果たして、20時開演からの2セットを通して、お二人は実に16曲にのぼる(そこには、事前の入念な準備が感じられたが)バラエティ豊かな曲想を持つ佳曲の数々を次々と届けてくれた。

〈Body&Soul〉〈Lotus Blossom〉〈Star-Crossed Lovers〉〈Tempo Feliz〉等で聴かれたのばらさんのピアノソロは、「つつましさ」の極みを描き、全体構成の中で地味ながら、その独創性の点で大きなインパクトを呼び込む仕掛けとして効果的に響いた。一方で、〈Taking A Chance On Love〉〈Moanin’〉〈Wrap Your Troubles In Dreams〉等で見せた倉地さんの無邪気な遊び心満載のステージングが持つ推進力の巧さは快心そのものであった。そんな慎ましい姉と悪戯っ子の妹のようなこの強女子力コンビは、所謂スタンダードナンバー、それらは、〈Moon River〉〈I Didn’t Know What Time It Was〉〈Day By Day〉〈Crazy He Calles Me〉〈Bluesette〉〈If You Could See Me Now〉〈Our Love Is Here To Stay〉等をじっくりと聴かせてくれたことに加えて、私自身、この編成では少し意表を突かれた感のある〈Monk’s Mood〉や〈Up Jumped Spring〉等を取り上げてくれたのも興味深かった。

兎に角、終始バランス感覚の良いおふたりのコンビネーションと、スムーズに趣味良く流れるステージ構成の妙を存分に味うことの出来た夜だった。

#170 7月25日(日)
ミューザ川崎シンフォニーホール
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢

今日は昼下がりのクラシック。そのライブの現場は、ミューザ川崎シンフォニーホール。

国内の著名なオーケストラが日替わりで登場するこちらの夏の名物企画「フェスタサマーミューザ」の四日目となる公演で、タイトルはズバリ、「あの男とともにアンサンブル金沢が帰ってくる!」それは、私にとってはかねてより一度はナマでお聴きしたかった待望の組み合わせ。そう、井上道義氏指揮オーケストラ・アンサンブル金沢との出会いのマチネーだった。

プログラムは、開演前のマエストロ自身による簡単なプレトークに続いて、

①シューベルト:交響曲第四番「悲劇的」
②プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第一番【ヴァイオリン・神尾真由子氏】
③プロコフィエフ:古典交響曲

いずれも、私にとっては、全く初めて聴く曲だけに未知との遭遇への期待も高まっての着席 (なんとこの日は二列目ながら、舞台の低さで視界は良好)。

以下、各々の印象を点描すると、

まず ①、これが実に興味深かった。そのタイトルに反して、深刻で重苦しいムードは一切感じられなかった。それがマエストロの手腕なのかオケの技量によるものかは不明であるが、約40名という間尺の程よいオケの余裕さへも感じさせるたっぷりとした音の響きからは随所に朗らかさと可笑しみの表情さへも感じ取ることが出来た。(作曲時19歳のシューベルトの真意や如何に?)

続く② 約20分の休憩時間に部隊中央にハープも配され、若干名編成を小さくして神尾さんを迎える。

神妙な冒頭部分から神尾さんのヴァイオリンがしずしずと重なり従って行く。その様子から受けた「線が細い美形が売りの表現者か?」という私の邪推はすぐに杞憂に終わった。不穏→暗澹→希求とその表情を鮮やかに変容させたオケをバックに次第に熱を帯びながら弾き込んで行く神尾さんの気迫のある演奏は、隣り合った音同士は互いに意味を持ってそこにあるとでも言いたげな強い説得力を持ってこちら聴き人の胸に迫り来た。

オーケストラと独奏者が互いを尊重し合うバランスの良さも至極快適なマリアージュを堪能した。

さて、本日最後の ③ 開演から凡そ1時間を経過して完全にエンジンのかかったオーケストラがその真髄を見せてくれた。古都金沢に生きる団員の皆さんの生活感を纏った落ち着きのある優雅な響きが約100年前に作曲された旋律に乗って場内に弾け散った。その一挙手一投足から嬉しさが滲み出てくるマエストロの棒捌きも俄然冴え渡る。瑞々しく豊かな弦、慎ましやかな管のニュアンスの配合も申し分なく、そんな天上の心地にしばし浸っていると、一転、スピード感溢れる豪快なフィナーレが訪れた。場内に、この時期故の「Bravo」の横断幕が多数あがったのは納得の光景だった。しかし、これで終わらせないのが、「桂冠指揮者・ミッキー(マエストロの愛称)マジック」。マエストロ自身が地声で「これ、もう弦の真骨頂」と語った後で演奏されたアンコールは、武満徹:ワルツ「他人の顔」。

ここに至って、我々はこのオーケストラの更なる深淵をまざまざと見せつけられることとなった。目配り充分のマエストロの華麗な手綱捌きにがっぷり四つで応えたオーケストラの緻密さも随所で光った全四曲のバリエーションも申し分のない、

いやはや暑い夏の昼下りの飛び切り上等なひとときだった。

#171 8月8日(日)
町田 Jazz Coffee & Whisky Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/
渋谷毅氏(p) +秋山一将 (g) DUO

3日前のコロナワクチン(武田モデルナ製)摂取2回目の副反応による発熱の乱高下も落ち着き、一方でトリプル台風の影響も奇跡的にかわした今日の昼下がり、四囲の状況も勘案して、暫し自制を続けた末に臨んだ本日のライブ。
今日は、渋谷毅氏 (p) 秋山一将氏 (g) のDUO@町田ニカズ(約4ヶ月振りの念願の同所)。
しかし、ここに来て再び鈍化を余儀なくさせられている私のLaLにとっては、いざ伺えるとなったライブ(とその現場)は大層愛おしいものとなる。
中でも、今日の組み合わせは格別で、昨年の春頃からカレンダーに何度書き込み、それを二重線で消すという憂き目に会って来たことか!
その実、度重なるコロナ禍の波や、自らの業務繁忙等とのタイミング合わずが続き、ついぞこれまで出会いが叶わずに時間ばかりが過ぎ去って行った。
思い返してみれば、それは’19-’20大晦日アケタの店オールナイト公演にまで遡る。
その夜の何回目かの休憩時に、アケタの階段下待合で、渋谷さんと秋山さんが顔を合わせ、どちらからともなく「久しぶりですね、またふたりでやりたいなあ」と交わされた会話を間近で聞いていて、「これが実現したら、えらいこっちゃ」と思ってから程なくして、下町・浅草のハコを中心に、それが次第に本八幡に、西荻窪に、そうして更に他所に迄派生して、このDUOのクレジットが登場して来るのを文字通り垂涎の思いで手帳に書き込み続けたが、結局、これまでそのライブの現場に身を置くには至らなかった。

そうして、いよいよ今日の昼下りである。

当代きってのウタゴコロを持つこのふたりの表現者の手合わせの、その語り口の溶け合う様は、軽妙洒脱にして当意即妙としか言いようがなく、更にはそこには佳き塩梅の、互いに対する尊重と配慮が色濃く見てとれた。
それは、言い換えれば、肩の力を抜いた適度な距離感の推し測り方にその芸の真髄を見た、とでも言う感じだろうか。
幕開けのかろみ溢るるブルースナンバーに導かれて2セットに極めてバランス良く構成された曲群は即ち所謂スタンダード曲〈All The Things You Are〉〈Body And Soul〉〈Long Ago And Far A Way〉に加えて、秋山さんのオリジナル〈かえるカエルかえる〉〈Themselves〉更には秋山さんの味わい深いニヒルなボーカルをフューチャーした〈Wailing Wall〉〈In The Wee Small Hours Of The Morning〉などバラエティーに富んだが、そのいずれもテンポの設定が申し分無い。
個々の楽曲が最適なテンポで仕立て上げられた結果、出た音には一層説得力が増し、行間の間合いにはこの上なく深い含蓄が宿る。まさに、極上の「中庸の美」ここに穏やかに極まれり、という感さへする。
そうして組み上げられた音像が我々聴き人の前に緩やかに浮き上がって来るという仕掛けには随所でおおいに唸らされた。
エンドロールとして、秋山さんが渋谷さんにリクエストされたという〈Danny Boy〉がこの時空の全てを優しく包みながら名残り惜しさを帯びつつその終わりを迎えて…..、

私はこのDUOとの再会を切に念じつつ、いつものように元岡マスターに介助頂きながら3Fのニカズ山から良い心持ちで下山した頃には、街にはうっすらと夜の匂いが漂い始めていた。
帰路の電車に揺られながら、最近揺らぎかけていた「自分の耳を信じたい」という感覚を再び取り戻せそうな気を強くすることができたライブだったと改めて感じ直し、救われる思いがした。

#172 8月13日(金)
町田 Jazz Coffee & Whisky Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/
亀山賢一 (ds) 小太刀のばら(p) 山崎弘一 (b) 伊勢秀一郎 (tp)+さがゆき (vo)

今にも大泣きしそうな天を仰ぎ見て自宅を後にした本日の夕刻。
今日のライブの現場は8/8に続く町田ニカズ。
何せこちらのハコは、最寄りの私鉄沿線のターミナル駅から快速急行に乗れば、乗換無しの25分で着いてしまうのだから、なんとも有難い。
今宵は、このハコならではの元岡マスター慧眼の組み合わせ。
しかし、その他所ではなかなかお目にかかれないスターティングメンバーのパズルのピースをどこから発意し、展開して行かれるのかと考え出すと毎度唸らされることしきりだ。
今日のバンドスタンドに登場したのは、このハコのサブマスターでもある亀山賢一氏 (DS) のカルテット。

まず、バンドの屋台骨になるベースには、亀山氏とは小田切一巳G、板橋文夫3、明田川荘之3等の時代からの盟友・山崎弘一氏がすっくと立ち、ピアノの椅子には小太刀のばら氏が座る。(こちらは、同所での5月の亀山氏との共演の好評・充実感を受けての人選か?)更にこの強力なトリオに亀山氏とは同郷(石巻)であり、のばらさんとは現在、宮野裕司Gでも共に活動中の伊勢秀一郎氏 (TP)が加わるというなんとも贅沢な布陣。まさに、昭和・平成・令和の日本のジャズシーンを、地味ながらも、恐らく各自ご自身の極めて心地良いポジションにあってそれぞれのペースで力強く下支えをして来られた玄人好みの役者達が居並ぶ壮観な絵面となった。

それはそうとして、肝心の「音」である。

ミディアムテンポの S.リバース〈Beatrice〉で幕開けしたステージは、そのどこを切り取っても、一切外連味の無い、如何にも程よく肩の力の抜けた、ジャズの醍醐味を味合わせてくれる屈託の無い実直さに溢れたストレートボール中心の配球勝負だったといえる。(ひとり、のばらさんは、時々持ち前のトリッキーな変化球を投げ込み、全体のサウンドを巧みに攪拌させていたが)

他の皆さんも、別に控えめな訳ではない。点描すれば、バンマスの亀山さんは、サウンドが停滞しないようブラシを効果的に多用しながらリズムに畳みかけるような推進力をもたらし、山﨑さんは、けっしてブレない重心の低いウォーキングラインでサウンド全体の羅針盤の役目を果たす。伊勢さんは如何にも素直でおおらかなアドリブフレーズを発っしながらバンド全体で唄える素地を固めていった。皆さん、きっちりと自己主張した上で、でもそこにこの四人だからこそ描けるアンサンブルをこの一夜に見いだそうとしている姿を強く感じ取ることが出来た。私はこの点におおいに感銘を受けたが、何よりも皆さんの表情が明るく楽しそうだったことが印象的だった。今夜はそれが何よりも嬉しかった。えっ、何故かって?それはだって、ここはジャズの現場なのだから。

最後に、今宵2ステージ目で起きた思いがけないハプニングをご披露しよう。1曲目の〈Softry…〉が終わった後で、亀山さんから本日のシットインゲストが紹介された。さがゆき氏 (VO) だった。(私は生歌はお初)初めに〈Nearness Of You〉をまさにのばらさんへの愛を全身から強烈に放ちながらも、決してべたつかずに、さらりと寄り添いながら唄いきった後で続けて、今後「Quiet Now」のコンビ名を冠して積極活動が期待される伊勢氏との掛け合いで〈Four〉をビターにまとめあげた。そのひとときは、シットインながら、今宵のショーケースの中でのポジショニングを十分心得た、流石のエンターテイナー振りを見せてくれた点で嬉しいハプニングだった。こうして得難いご縁は産まれ繋がって行くのだろう。幸い、帰路もなんとか雨は避けられて...今宵も佳き宵だった。

#173 8月14日(土)
町田 Jazz Coffee & Whisky Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/
元岡一英 (p) 亀山賢一 (ds) 米木康志 (b) 秋山一将 (g)

災害級の大雨に見舞われ、不安な時を過ごしているであろう西方の友の安寧を切に祈りつつ、向かった私のライブの現場は、昨夜と同じ町田ニカズ。

今宵の当初告知のメンバーは、このハコのマスター・元岡一英氏 (p) とサブマスター・亀山賢一氏 (DS) に加えて米木康志氏 (B)というなんともそそられるピアノトリオに更にチコ本田氏 (VO) が加わるというものであったが、チコさんの入院治療による欠席につき、代役のゲストとしてこれまたスペシャルな表現者・秋山一将氏 (G)が招集された。私にとっては、同時間帯の同じハコでの昨夜に引き続くピアノトリオ+1の編成ということで、演奏前からおおいに期待が高まった。

果たして、秋山氏の参加を得てハコ内には摩訶不思議な浮遊感溢れるバンドサウンドが横溢した。思い返せば、これまで数多く接して来た秋山氏のステージの中で、このようなオーソドックスな編成の中にあってプレイする「ギター少年」秋山氏に触れたのはほぼ初めてであったという新鮮さもあるが、1stステージで演奏された聴き慣れた所謂スタンダード曲〈The Night Has A Thousand Eyes〉〈Long Ago & Far A way〉や元岡氏のオリジナル〈合流注意〉〈A Faintest Thought Of The Sunset〉(←後者は大傑作!)等で聴かれたバンド全体の音の流れの隅々に迄神経を行き届かせながら、ここぞという所で繰り出されたこの方ならではのこれ見よがしでない、ハッとさせられるような機知に富む斬り込み方にはトリオ側もおおいに触発されたと見えてそれが大きな見せ場を作って行ったと言える。そんな秋山氏の絶品のタイム感に呼応して匠トリオが面白い動きを描く構造の変容は、2ndステージになり、更に強く推し進められたように思う。2ndは、まるで秋山一将カルテットの趣。秋山氏の目下入魂のパーマネントバンド「Trial Trip」の最新作「Move It On」からのオリジナル曲が続くが、オーソドックスなピアノトリオの盤石のバッキングを得て、秋山氏の浮遊感の振れ幅は、当然のことながら(私にとっては比較的馴染みのある)trial tripとは違う予想を越えるレンジに展開して行くのがなんともスリリングで興味深い。

曲が良いと、自然とサウンドは佳き方向に動いてゆくものだということを痛感した次第。

そうして今宵のステージも最終盤を迎え、元岡氏→秋山氏「特技の一節〈ひとふし〉を」秋山氏→トリオ「では伴奏をお願いします」の微笑ましいやり取りの後で登場した

味わい深き〈In The Wee Small Hours Of The Morning〉を呼び水に、それはまるで夜の散歩に出かけたくなるような秋山氏のオリジナル佳曲〈Themselves〉を以って今宵の幕が静かに閉じて行った。

いやあ、しかし、この二日間(拡げれば8/8・13・14の三日間)の独りニカズ・サマー・ジャズ・フェスティバルおおいに堪能させて頂きました。

兎にも角にも、ご出演の表現者の皆様に感謝、感謝です

#174 8月15日(日)
調布 Jazz & Soul Live GINZ
http://www.sam.hi-ho.ne.jp/ginz/
倉地恵子 (vo) 板橋文夫 (p) 山崎弘 一 (b) 亀山賢一 (ds)

長期休暇明けに向け恒例となった会社指示によるPCR検査の陰性判定を受けても、決して気を緩ませることなく、感染対策ゆめゆめ怠らず空いた時間帯と経路を選択して臨んだ今日のお昼のライブは、LaLとしては初めてのご紹介となるハコ、調布GINZ。

そのステージには、倉地恵子氏 (vo) のご自身にとっても待望のスペシャルグループが登場した。本日の氏を支える心強い男衆は、(私は2日前に久しぶりにお逢いした)山崎弘一氏 (B) と(なんと今日で3日間連続の)亀山賢一氏 (DS) に加えて激動の70年代にはその両氏とトリオでも活動していた長い付き合いの板橋文夫氏 (P)という なんとも強力な布陣。

果たして2ステージの構成は共に、倉地氏が持ち前の天真爛漫で伸びやかなステージングでこの豪腕トリオを最初にリードした後でトリオの時間をじっくりと聴かせるという新鮮な(歌が前で演奏が後というのは私はお初)ものだった。そうして、この篠突く雨の日に集まった聴き人達を楽しませようと倉地さんが熟慮の末に持ち込んだ楽曲達がこれまたなんともバラエティーに富んでいた。例えば、各ステージの1曲目に配されたゴスペル/R&Bフレイバーの〈High Wire〉〈Gold Mine〉はバンドにとっての各セットの格好のスターターの役割りを果たしていたし、効果的なテンポ設定が施された〈Wave〉(意外な4ビート)〈Antonio’s Song〉(定番のスローボサ)は巧みに其々で場面展開に功を奏した。その他では、ジャズシンガーの面目躍如たる〈Summertime〉〈Detaour Ahead〉〈Pennies From Heaven〉〈Our Love Is Here To Stay〉〈Georgia On My Mind〉等を、一言一言丁寧に唄い込んでくれた。ジャズの道を楽しく進んで行くためには、こうして歌詞付きで佳曲に親しみ触れるのが近道のひとつだと信じている私にとっては、それらの著名曲を曲名の丁寧な紹介付きで披露して頂けるステージマナーは、大変好感の持てるものだった。

さて、話を前に進めよう。以上の倉地さん入魂のショータイムを受けて、いよいよトリオの出番である。こちらの同窓会トリオ、実は今年に入ってから他所での「ごぶさた」企画で既に久しぶりの再会を果たしているとあってか、そのまとまりは申し分無く、こちらも何だかおおいに安心して聴いていられる。中でも板橋氏は、自らの哀愁と破壊力の特性を巧みに引き出し受け止めてくれる共演者を得て、なんとも充足感に溢れた表情を度々見せてくれていたのが印象的だった。因みにトリオでの演奏曲は、〈Rise And Shine〉〈Good-Bye〉〈Alligater Dance〉他に、板橋・倉地DUOで〈Come Sunday〉。

しかし、板橋氏の極めて大きな畝りのあるサウンドには改めて圧倒されることしきりだった。その独特の粘り気のあるタイム感に導かれて、山崎氏も、亀山氏も、そうして倉地氏も呼吸を深くしていかにも自然に気持ち良くその大波に乗って行くことが出来る。終始そんな印象を強く受けた。しかし、コロナ禍に荒天と極めて窮屈なこの盆休みの中にあっても、ここの三日間で自分なりのストーリーを持ったLaLを組めたことは八尾萬のジャズの神様に感謝するしかないのだろう。

 

 

#番外編 ≪中山ラビ氏追悼≫

今日8/8、大変遅まきながら、稀代のシンガーソングライター中山ラビ氏が 7/4 に逝去(享年72歳)されていたことを知り、かなりショックを受けている。

私とラビさんとのお付き合いは、表現者と聴き人との関係ではなく、氏がオーナーママのカフェバー国分寺ほんやら洞での御亭主と客との関係から始まった。中央線沿線のハコでジャズを聴き、「国分寺の叔母」宅に泊まる道すがら、ほんやら洞の毎度常連客で一杯の止まり木に度々止まって静かに流るる深夜をゆるゆると楽しんだものだ。しかしご亭主としてのラビさんは、お世辞にも人当たりの良い対応は微塵も見せず、なんだかいつもこちらに向けて突っかかってこられた印象が強く残っている。それでもほんやら洞で最後にお逢いした’19/9には、散々な口撃を浴びた後の帰りがけに「たまには、記念に2ショットでも撮るかね?」と彼女の方から声を掛けられおおいに驚いたことを今でも鮮明に覚えている。

最後にお逢いしたのはその後、その年の冬の吉祥寺スターパインズカフェでの「ラビ組」ライブ (本誌No261に掲載)で、この夜が後にも先にも氏の表現活動にナマで触れた唯一の機会となってしまった。それはそれは圧倒的なステージだった。眼の前の時空をすべて掌握しながら全速力で駆け抜けて行ったひとときだった。出会いから別れに至るまで、思い返せば本当に勝手なひとだった。

でも、その気儘さが、今は妙に懐かしい。

ラビさん、今は清浄なる世界にて安らかにお休み下さい。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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