小野健彦の Live after Live #219-#224

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text and photos by Takehiko Ono 小野健彦

#219 1月8日(土)
合羽橋   jazz & gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/

原田依幸 (p) 林栄一 (as)

記念すべき2022年・新年の聴き始めは、@合羽橋・なってるハウス。

今日のステージは、私にとっては’20/10月の下北沢l ady jane以来2度目となる原田依幸氏 (P)と林栄一氏(AS)のDUOである。
共に稀代の美の錬金術師である両者のことだ、奏でる音のすぐ先になんとも印象的なメロディと鼓動が止めどもなく生み出されて来る。ゆるやかに疾走し、静かにうずくまり、淀みなく収斂し、拘る事なく解体して行く刹那に咲いた鮮烈な音の連なり。
いついかなる時も世の中の所謂評価等に対して決して徒らに共振することのない淡々とした風情を醸し出しながらも劇的な音創りをして行くその往き方に最早こちら聴き人の耳目は完全に惹き込まれてしまい、息つく瞬間も訪れない。そこには今宵も相変わらず驚異的な表現者ふたりが厳然として在った。しかし、なんとも幸先の良い刺激的な音始めになった。

 

#220 1月9日(日)
国立  音楽茶屋 奏
https://kunitachi-music-sou.hateblo.jp/

Poeta Fliz4:宮野裕司 (as/cl/fl) 伊勢秀一郎 (tp)さがゆき (vo) 小太刀のばら (p)

今夜のライブの現場は、初訪問の国立・音楽茶屋奏。

この地で実に創業35年を数える老舗のハコである。
大入り満員の客席が迎えたそのステージには、「Poeta Fliz4」なる楽団が登場した。
スペイン語で「幸せな詩人たち」を意味するそのメンバーは、宮野裕司氏(AS/CL/FL)伊勢秀一郎氏(TP)さがゆき氏(VO)小太刀のばら氏(P)の面々であり、全員がステージに居並ぶ姿からは当夜のフライヤーに踊った「この冬いちばんの温もりをあなたに・・・」のフレーズが如何にもしっくりと来る玄人好みの音創りが想像された。
果たして、メンバー各人が持ち寄ったジャズフィールドに限らない広く古今東西の佳曲を題に採り、場の空気感を巧みに掌握しながら順番に選曲し進められた(それは演者自身も次に何が出て来るか分からないという心憎い仕掛けであったが)そのステージでは、4人全員が同時に音を出すといった言うなればカチッとした体裁のアンサンブルからは離れて、其々の曲の真相を見事に掬い取りながら、各演者がその持ち味を存分に発揮できるようなフューチャーリング・ショーケースが次々と展開される構成が採られた。
そうして我々の眼前にゆるやかに立ち現れたその音像の風合いは全体として、単なる穏やかさ、心地良さにとどまらず、互いに対する細やかな仕掛け合いが交錯する、それは謂わば主導権が時々刻々と移り変わりながらのピリリとスパイスの効いた攻防戦を随所に孕んだ静かな火花散る緊張感の筋が一本通って…。おおいに聴き応えのあるなんとも趣味の良い充実した音創りのひとときだったと言える。



#221 2月19日(土)

市川 cool jojo jazz+art
https://www.cooljojo.tokyo/

山崎比呂志 (ds)  レイモンド・マクモーリン (ts) 永塚博之 (b)

二十四節気では雨水、「降る雪が雨に変わり、雪解けが始まる時期」を指す本日、新しい年が明け1/8-9と快調にスタートしながらも、足元の世情等を考慮して暫しの足踏み状態が続いた私のLALがいよいよその第二幕を開けることとなった。

それは「山崎比呂志氏が遂に本八幡 cool jojo に舞い降りることになった」からに他ならない。
ここで、時計の針を少し前に戻してみたい。

ここに1枚のフライヤーがある。(添付冒頭写真)
その中の文言案を携えて私が茨城県鹿島市の山崎邸を訪問したのは、2019年の暮れも押し迫った頃であった。山崎邸のダイニングテーブルを、山崎さんと所々で瑞江夫人も交え囲みながら、様々な赤ペンが入り最終稿が完成。それが後日 cool jojo オーナー・長谷川さんの手にわたり相当数のフライヤーが準備され、あとは当日を迎えるだけとなったが、結果的には本番直前の2020年4月、コロナ禍に対する我が国初の緊急事態宣言発令を受けて、延期止む無しとの苦渋の判断となったのである。しかし、山﨑さんの cool jojoに対する想いは強く、本日遂に同所のステージを踏むに至った訳である。
因みに言うまでもなく、ギターリスト・高柳 ‘jojo’ 昌行氏が遺した数多の意欲作の中でもセカンドコンセプト名義の「クールジョジョ」盤は画期的な一枚であり、弘勢憲二氏、井野信義氏と共にセカンドコンセプトの一翼を担ったのが当時39歳(今から42年前)の山崎(当時は)泰弘氏である。
そんな背景と経緯を持つ当夜であったが、前述の当初企画時のコンセプトは、ピアノレスのテナーサックス入りトリオでフリーフォームに拘らない音創りを未知のハコでトライしてみたい、という山崎さんの(あくまで)当時の意向に沿ったものであり、その意味では、あれから時間が経過し、同じ編成(ベースマンは変更)とは言え、今宵がどのような展開になるのかは文字通り音が出るまで分からない、というのが正直なところであった。

果たして、山崎さんとは共演歴の長いおふたり、
レイモンド・マクモーリン氏(TS)と永塚博之氏(B)とともにトリオが刻んだ音像は、偉大なるジャズの先達に敬意を払いつつ、多岐にわたる山崎さんの音楽イディオムが多彩に披露された一夜になったと言える。随所に顔を出した4ビートでは、しなやかなタッチのブラシ捌きに加え、深く大きな畝りを生み出す的確な打点でのシンバルレガート、更にはタンバリンと和太鼓のコントラストを効果的に使い分けたタムタムワークでその至芸が抜群の冴えを見せた。
そんな山崎さんの往き方に感応して、メンバーふたりもその持ち味を存分に発揮しながら、自らの主張を充分に言い切っていった。そんな緊密なチームワークの交歓の中から届けられたのは、意表をつく程に多くの著名曲の数々であった。以下、記憶の限り羅列すると、前半では、〈Softly as in a Morning Sunrise〉〜〈My One and Only Love〉後半では、頭の〈Lonely Woman〉〜〈In a Sentimental Mood〉から極め付け最終盤の圧巻の3曲並び、即ち〈Billie’s Bounce〉〜〈ANight in Tunisia〉〜〈Mr.PC〉に至る迄の充実過ぎる佳曲達。

兎に角、振り返って当夜は私が山崎さんと直接のご縁を頂いてからの約3年半、凡そ30回にのぼる現場の中でも、異色の展開を見せた点でかなり強く印象に残るものであったと言える。そこには約60年の芸歴の全てを投入して現在に賭ける稀代のインプロヴァイザーの姿があった。まさに生一本のスタイリストの真相に触れた感が強く、実に清々しい気分にさせて頂けた夜だった。


 

#222 2月23日(水)
茅ヶ崎  ハスキーズギャラリー
https://www.huskys-g.com/

田村陽介 (ds) 粟谷巧 (b) 宮本裕史 (vtb/tp) 江澤茜 (as/ts)

ドラムスの好漢・田村陽介氏がコードレス二管編成+ボーカルにより録音した記念すべき1stリーダーアルバム『Love Calls』を引っ提げてのレコ発ライブの第一弾が隣町茅ヶ崎の「ハスキーズギャラリー」で開催されると知り、勇んでやって来た。今日のステージには、同盤参加のボーカル・西村知恵さんを除くコードレス・カルテットのメンバーが集結した。田村陽介氏(DS)粟谷巧氏(B)宮本裕史氏(VTB/TP)江澤茜氏(AS/TS)といずれも首都圏を中心とした現在のジャズシーンを彩る人気者の表現者達であるが、中でも思い起こすと、私とリーダー田村さんとのご対面は、私が脳梗塞の後遺症から社会復帰した2016年以降2017年にかけて紙上理さんの「ellingtonian7」での演奏を町田ニカズで度々お聴きして以来実に約5年振りであり、個人的には感慨深い再会のひとときとなった。

ステージは押し付けがましさのない小粋なアレンジが施された新譜収録のナンバー数品に彼らの敬愛するG.マリガンの佳曲群等を交えて軽快に展開されたが、共にこれまでにご縁を頂いた田村氏と粟谷氏の相変わらずの派手さはないものの堅実で推進力のあるリズム・マネジメントは安心して身を任せていられるものであった。
一方で今日がお初となったフロントのホーン奏者おふたりの音創りは、スッキリとした味わいを感じさせてくれた点で実に魅力的なものだった。
流麗快活なサウンドを繰り出す宮本氏に対して、アルトではややくすんだ、テナーではおおらかでふくよかなトーンで予想外に蛇行するフレーズを畳みかけながら堂々と吹き込み果敢に絡んで行く江澤氏のその両者のコントラストが実に小気味良く、リズム隊の築く十分なスペースとの対位構造の立体感からはなんとも趣味の良いアンサンブルが聴いてとれた。

今日は昼下がりのライブであったが、冬晴れの休日の湘南の空の下に流れた新たなる船出のサウンドが私の身も心も温かくしてくれた。

 

 

#223 2月26日(土)
狛江 Blues, Jazz & Liquer  add9th
http://www2.u-netsurf.ne.jp/~add9th/

「カルメン・マキのデラシネ・ライブ・シリーズ2022〜新年事始め@「狛江 add9th」
カルメン・マキ (vo) 丹波博幸 (g) ファルコン (g)

一週間前に今年の第二幕が幕開けして以降、快調に進む私のLAL。

今日のライブの現場は、1年半振り2度目の狛江add9th。
小田急線狛江駅から徒歩圏内の、商業エリアが住宅街に入る境界線に位置するビル地階に創業して今年6月で25年。
ブルースにジャズにと造詣の深いご亭主のこすみさんとも嬉しい再会を果たせた今宵、そのステージは、こちらは丁度丸2年振り2度目のご対面となるカルメン・マキさんだ。
題して、「カルメン・マキのデラシネ・ライブシリーズ2022〜新年事始め@「狛江 add9th」〜」

まん防延長の影響からやや早目のスタートとなった定刻17時過ぎ。私の背後の楽屋からは、「ファルコン、先に出て好きなように演ってよ」「丹波さんも一緒に行ってうまいこと絡んでよ」とのマキさんの声が漏れ聞こえて来て、その声に促されるように、今宵マキさんの脇を固める頼れる相棒のギターリストおふたり、丹波博幸氏とファルコン氏が揃って姿を現した。そうしてそのおふたりによるなんともスペイシーなイントロがひとしきり流れる中、やや間を置いてフワリと風のように客席の間を縫ってマキさんがステージに登場した。
そうして開幕した、途中短いインターバルを挟んだ約2時間のステージを通して、マキさんは各種鳴り物を効果的に使いながら、歌に語りにとその音創りを進めて行った。私が前回体験した茅ヶ崎でのライブでは5人編成のバンド仕立てだったということもあってか唄物が中心であったため、マキさんの語りにじっくりと触れるのは今日が初めて。
全体のステージを通して感じたのは、語りと歌の繋がりの巧妙さ。そこでは、謂わば全体として整った流れを持つ練り上げられた一筋の戯曲に触れた感を強くした。語りと唄物が良い塩梅で配置されたセット構成の中にあって、特に語りのくだりではマキさんから発っせられるひとつひとつの言葉(とその連なり)からそれ自体で力強いリズムが生み出され、自然と移行する唄物パートにあっては語りのその響きの残り香が卓越したハーモニー感覚を持つギターリストおふたりの、時に柔らかく時に鋭く切り込む音の流れと絡み合い、次第にそれが大きな畝りを持つグルーヴへと昇華する様が、あたかも厳かな聖務を司るにも相応しいと思える三声の室内楽の趣きを纏って私の耳目を随所で捕らえた。決して大仰でない、どこまでも淡々と進められた音創りがなんとも清々しくこちら聴き人の胸に迫り来るひとときだった。
最後に、既に記憶が曖昧になっている部分がある点はお恥ずかしい限りであるが、今宵披露された「音」のごく一部をご紹介すると、語りでは、寺山修司氏や萩原朔太郎氏の詩作。一方の唄物では、1stセットでは〈Water Is Wide〉、D. ホランド作〈Quiet Fire〉等々。

2ndセットでは冒頭の〈戦争は知らない〉〈悲しくてやりきれない〉や中盤から後半にかけての宮沢賢治〈星めぐりの歌〉〜浅川マキ〈少年〉そうして本編最後をG. ゴフィン〈It’s Not The Spotlight〉で締めて、満場の拍手に応えて間髪入れずに繰り出した〈Tennessee Waltz〉迄の充実過ぎる内容であったことを記して(かなりまとまりなくなってしまった)本稿を閉じたいと思う。

#224 2月27日(日)
西荻窪  アケタの店
http://www.aketa.org/

Forgettable:元岡一英 (p) 望月英明 (b) 楠本卓司 (ds)

文字通りのLAL。

昨夜に続く今宵のライブの現場は、西荻窪・アケタの店。これまでなかなかタイミング合わずでついぞ目撃が叶わなかったピアノトリオとのご対面だ。元岡一英氏(P)率いる「Forgettable」なるこのトリオ。同行人は、元岡氏とは同年代の望月英明氏(B)と楠本卓司氏(DS)だ。

70年代〜80年代を共に切磋琢磨し演っていた曲群を思い起こして「あの時俺たちは何を夢見ていたのだろう?」(元岡氏談)を旅程のコンセプトに丁度1年前の2/23に同所から船出して以来、同氏曰く「今日を一応の集大成にと思って臨みます。」とコメントされて幕開きした今宵、往年の著名曲が並ぶのでは?との私の事前予想は1stセットからあっさりとはずれることとなった。軽快なスタンダード曲〈The End of Beautiful Friendship〉でスタートしたステージでは元岡さんの近作オリジナルに加え、氏が最近覚えたという(何たる旺盛な探求精神!)〈WeCould Make Such a Beautiful Music〉を経由して氏のアイドルであるT .ジョーンズ作〈Thad Luck〉等々迄その隅々に圧巻の元岡さんワールドが炸裂した。
しかし思うに、ピアニストがリーダーのトリオミュージックの場合、当然不可欠なのはバンマスたるピアニストの自らの想いを明確にメンバーに伝えられる強固なリーダーシップだと考えられ、その意味では阿吽の呼吸が通じる旧知の中とは言え、このトリオが辿ったこの1年の試行錯誤の道程の改めての帰結点がまさにそれであり、それこそが今宵繰り広げられたような極めて緊密な音創りを可能にした原動力なのだろうと強く感じた。
特に1stセットではそんな往き方が際立った今宵のトリオミュージックであるが、2ndセットに入るとやや趣きの違う展開に転じた。そこではT.モンク作〈Boo Boo’s Birthday〉やB.ストレイホーン作〈A Flower is a Lovesome Thing〉に加えてD.エリントン作でJ.コルトレーンとの共演盤にも収録されている〈Angelica〉等々を題に採り、謂わばより踏み込んだ三者三様の解釈による温故知新の真骨頂を見せつけてくれた。

しかし振り返り、全体のステージを通して三者それぞれが徒に眉間に皺寄せることなく程良い塩梅の冒険心をも見え隠れさせながら飄々と眼前の曲に挑み捌いて行くその手際の良い所作の数々からは、長年の地道な表現活動により獲得した磐石の境地を色濃く感じ取ることが出来、その各々の確たる気概をベースにこの21世紀のジャズシーンに向けて自分達の音創りの真価を気負わず衒わずに問うた姿は私にはなんとも新鮮に映った。

 

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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