小野健彦の Live after Live #231~#235

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text and photos by Takehiko Ono 小野健彦

 

#231 4月3日(日)
成城学園前 カフェ・ブールマン  cafe Beulmans
http://cafebeulmans.com/
高田ひろ子 (p)  小美濃悠太 (b) 岩瀬立飛 (ds)

生憎の雨に煙る桜を眺めながら向かった今日の昼ライブの現場は、成城学園前 カフェブールマン。

ご亭主の吉岡さんをして「毎回何が起こるかわからない。最高峰TRIOのひとつです 」と迄言わしめた高田ひろ子氏(P)のトリオ[小美濃悠太氏(B)岩瀬立飛氏(DS)〈私はお初〉]を聴いた。多くの時空における協働作業を経て、更には今週4/6&7にはライヴレコーディング@本八幡cool jojoを控え、その親和性の充実振りが最高潮に達していると思しきこのトリオの音創りは、冒頭から文字通りの高い緊密度を描いて行った。

互いに互いの往き方を耳と目で慎重に押し図りながら、決して個として埋没することなく、そこに自己の主張を明確に表現しつつこのトリオだからこそ実現出来得るユニットとしての美の追究に向けた各々のきめ細やかな配慮がそこここに強く感じられた。

人生の様々な機微を想起させる詩情豊かな旋律(それらはD・ザイトリン作〈Quiet Now〉を除き全てひろ子さんのオリジナル曲であったが)の数々に、極めて柔軟でしなやかな

リズムを掛け合わせることで立ち上がって来る各々に説得力ある音の粒により、輪郭も際立つ音像を鮮やかに仕立て上げたこのトリオがライヴレコーディングという刹那に紡ぐ空気感を円盤の中にどうパッケージさせるのかが今から楽しみでならない。

#232 4月9日(土)

甲府・桜座 SAKURAZA
http://www.sakuraza.jp/
スチャラカ:秋山一将 (g/vo) 石渡明廣 (g) 大西真 (ds) 金子マリ(vo)

今日の現場は、11/27以来2度目の訪問となった甲府・桜座。
再訪とあって動線に不安は無い。

前回同様に最寄りの小田急線本鵠沼駅から新宿を経由してJR中央線特急あずさ号で乗り込む全行程約4時間の小旅行であるが、ユニットとしては待望の初対面となる表現者達から届けられるサウンドを心待ちにしつつのどかな春晴れの車窓を眺めているうちにあっという間に甲府に到着した。

今夜の旅籠で小休止した後、夜の帳が降りる頃歩いて数分の桜座へと出向いた。快く出迎えてくれたご亭主の龍野治徳さんとの再会も嬉しいところだ。
定刻の19時を少し回った頃、メンバーが順にステージに登場した。
今日で東海地区3daysミニツアー最終日を迎える「スチャラカ」である。
歌舞伎演目の中で比較的おかしみのある場面の効果音として用いられる下座音楽の名を借りたこのバンド。バンマスの秋山一将氏(G/VO)を筆頭に石渡明廣氏(G)大西真氏(B)松本照夫氏(DS)に歌姫金子マリ氏(VO)が加わるという、敢えてカテゴリー分けするとすれば、R&B、R&R、SOUL、JAZZ等我が国の音楽界の屋台骨を支え続けている名うての表現者の集合体である。

ステージは、男衆のみによる石渡氏の佳作「凪」を挟んだ三曲で幕が開いたが、冒頭から大西氏・松本両氏のタイトなリズムに秋山・石渡両氏のエッジの効いたツインギターが鮮やかに絡むなんとも重心の低いぶ厚く硬質なバンドサウンドに場内は一瞬にして心鷲掴みにされてしまう展開。そうして場が程よくあたたまったところでマリさんを迎えるという演出も心憎い限り。

そのマリさん、〈GoldenLady〉をソウルフルに〈Easy Living〉をしっとりと、更には〈ゴロワーズを吸ったことがあるかい〉を気怠く唄い込みながら其々の曲想を見事に掬いとってゆく様は流石の貫禄と言えた。バンマスの秋山氏も石渡氏のギターサウンドとの棲み分けを慎重に見極めつつ、ギタープレイのみならず、Tラングレン作〈wailing Wall〉で相変わらずの味わい深い喉を聴かせてくれるなど、このバンドが唄心を何よりも大事にしていることが随所に見てとれて嬉しい構成だった。そうこうしているいるうちに開演から約1時間を経過した頃、マリさんMCで「私達、あんまりレパートリーがないもので」に続けて供された最終曲は、この時期にはなんとも胸に迫り来る〈What AWonderful World〉。いやあ、これはもう絶品でした。

グループ名を体して遊び心を根っこにしかと持つイカしたおとな達による周囲を活かしつつ自らが活きる仕事降りも冴え渡った弩級のバンドサウンドを堪能した充実の夜だった。

#233 4月22日(金)
町田 ニカズ Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/
元岡一英 (p) 小牧良平 (b) 利光玲奈 (ds) / 釜谷明 (vo)

今日は、元岡一英氏(P)がニュートリオを結成して新たな音創りを開始すると知り勇んで町田ニカズにやって来た。

同行人は、元岡氏とはカルテットでも一緒の中堅実力者小牧良平氏(B)と昇り竜的若手注目株のドラマー利光玲奈氏〈私はお初〉というなかなかに興味惹かれる組み合わせ。

この新しいトリオの船出に元岡氏が選択したのは、近年のオリジナル2曲〈星と語ろう〉〈うさぎ〉を除くといずれもジャズの先達に敬意を表しての佳作群。因みにその一部をご紹介すると、H. カーマイケル〈little old lady〉B. ストレイホーン〈passion flower〉G. ガーシュイン〈who cares〉T. モンク〈off minor〉D. ピアソン〈is that so?〉等に加えてスタンダード〈we could make such beautiful music together〉そうして最終曲に配した絶品の大曲 J.ルイス作〈django〉等々。

トリオはこれらのいかにもこの船出の時に相応しく考え抜かれ用意された素材を手際よく料理して行ったが、推進力あるリズム隊に支えられバンマス元岡氏の嬉しそうな表情がステージ全般で見受けられたのがなんとも印象的であった。時に思索の杜に彷徨う印象を受ける氏のピアノが今夜は何だか終始笑っているように感じられたのは私だけではなかったと思う。その主要因として、私は特に随所で光った利光氏の当意即妙な仕事振りがあったのではないかと感じでいる。小気味良くキレのあるしなやかなシンバルレガート、打点も正確なタムタムワーク、やわらかなタッチのブラシ捌き、タイミングも申し分のないバスドラムへのキックとハイハットのコンビネーション等ドラムセットを鳴らし切るその高い技術には度々目を見張らされるものがあった。しかし、この鳴らし切るという部分についても利光氏はどんな局面でも決して鳴らし過ぎるという風には至らず、常に曲想の世界観とトリオ全体の動きの中で自らの居るべき位置取りを慎重に推し測っている様が観てとれてその姿勢はなんとも好感の持てるものであった。全体のステージを通して(どちらかと言うと地味な)決して派手な料理の数々が並んだテーブルではなかった今宵であるが、各々の料理人の手尽くしも冴えたおおいに食べ応えのある単品のフルコースであった。そんなコースの中程では、なんと利光氏のキュートな喉による〈almost like being love〉や町田の誇る実力派ボーカル釜谷明氏のシットインによる〈i’ll remember april〉も披露されるなど思いがけずの美味なる珍味〈失敬!〉にありつくことも出来充実の卓に華が添えられた。智将・元岡氏のことだ、これからも毎回手の込んだメニューを用意して我々を迎えてくれるに違いない。終演後如何にも美味そうにビールを呑んでいる氏の横顔に手応えのある時を過ごせた充実感が溢れていたのがなんとも嬉しかった。先ずはまた逢いたくなるユニットの船出に乾杯、と言ったところだろうか。

#234 4月23日(土)
茅ヶ崎 ストーリービル Storyville
http://www.jazz-storyville.com/
小林洋子 (p) 東海林由孝 (g)

今宵の現場は9/24以来実に7ヶ月振りの茅ヶ崎・ストリービル。いつものようにハコ近くの居酒屋 金栄にて喉を潤し現地に向かうと、ハコのご亭主菅原さんに加えて今宵の演者である小林洋子氏(P)と東海林由孝氏(G)が出迎えて下さった。菅原さんをして、「音楽の可能性を追及する小林洋子、孤独を貫きジャズの研究者たらんとして生きる東海林由孝、このふたりはどうも良く似ている気がする」と言わしめた両者。
聞けば既に遠い昔、様々なフォーマットで共演を重ねた間柄とのこと。それから約30年の月日が経過して邂逅した今宵。2018年のシーン復帰以降、その道程で聞き知った開高健氏の名言「悠々として急げ」を心の拠り所としてその旺盛な活動が極めて多方面化ししている洋子さんの新たなる音創りに大いなる期待を持ってその幕開きを待った。

果たして、J. ザヴィヌル作〈midnight mood〉で幕開けした今宵のステージでは各々のオリジナル曲に加えて海外著名ミュージシャンの作品、それらは即ち J. ホール〈all up this tee〉〈careful〉や M.デイビス〈solar〉等々であったが、それらの佳作群のいずれにあっても一見それとは悟らせないながら強烈な情熱を内に感じさせる東海林氏の柔らかなタッチのギターワークに対してこちらは十指の先々に迄強靭な意志の強さを色濃く宿らせた洋子さんのまるで煌めく杭を果敢に打ち込んで行くかのようなピアノプレイのその見事に溶け合う様に唸らされることしきりであった。そんな融和性に溢れたふたりの音創りの真骨頂は本編最終曲に現れた。それはなんとも意表をつかれた J. コルトレーンの名作 soultrane盤でも聴かれるF.レイシー作〈theme for ernie〉。この曲で見せたふたりの醸し出す深淵なる交歓の響きはまさに今宵の白眉だったと思う。ひとしきりの静なるインタープレイの後この曲が終わりを迎えると客席からは感嘆の声と共に「これはアンコールだね」の声が即座にあがった。そうしてその声に応じてふたりが繰り出したのは軽快な(今宵唯一の)4ビートのスタンダード〈i should care〉。
この展開については、無論好みの違いはあろうが、私自身としてはおふたりの多面性を披露したという点では良かったと思うが、何せ前曲迄の充実過ぎるストーリー仕立ての中にあっては正直なところ一抹の座りの悪さも感じられ、出来ればこの夜のために考え抜かれた構成の本編内容までで締めて欲しかったというのが正直なところだった。

それはそうとして、いずれにせよ、今宵のステージ全般からはこの一夜を単なる懐かしの同窓会的セットに終わらせることなく新たなる創造のステージに向けてのスタートにしようとするふたりの強い意志が感じられ、それが何より嬉しかった。

#235 4月24日(日)
所沢・音楽喫茶モジョ〈MOJO〉
http://mojo-m.com/
カルメンマキ(vo/語り/鳴り物)&「デラシネバンド」:丹波博幸 (g) 上原ユカリ裕 (ds) 河合徹三 (b) 中村哲 (as,ss, ピアニカ)

今宵の現場は待望の初訪問となった所沢・音楽喫茶・モジョ〈MOJO〉。
そのステージには、今日から遡ること約10日前、氏にとっては自身の音楽人生曼荼羅とも言える意欲的かつ多彩な全5ユニットと共に約4時間に亘るステージを唄い上げた古希記念の一夜:「生かしておいてくださってありがとう」@川崎クラブチッタに対して各方面から実に多くの絶賛の声が上がっているカルメンマキさん(VO/語り/鳴り物)と氏入魂の「デラシネバンド」:丹波博幸氏(G)上原ユカリ裕氏(DS)河合徹三氏(B)中村哲氏(AS/SS/ピアニカ)の面々が登場した。
私は残念ながら、前述の古希記念ライブに伺うことは叶わなかったが、今宵のライブに対してある強い期待感を持って臨んだ。

果たして、オープニングアクトのSUEMARR氏の後を受けてやや早目の18時半過ぎに幕開きしたステージでは、傍から拝見するに、良い感じで肩の力を抜いて、異なる地平を巧妙に連鎖させるマキさんマジックが冴え渡った。
唄物と語りを、ロック調の8ビート・レゲエリズム・更にはスローシャッフルを。そうして何よりも日本語と英語を実に塩梅良く散りばめ展開させるショーケースにあっていずれもイカしたバンドマンの男衆が繰り出す緩急自在で表情豊かなバイヴレーションとダイナミクスレンジも際立つタイトなサウンドの畝りの中を、いかにも気持ち良さそうに揺蕩いコトノハを紡いで行ったマキさんのまるで何物かから解き放たれたかのような伸びやかな唄声と表情からは、私の期待通り、謂わば「ロード」とも言えるこうした地味な「現場」での地道な音創りの積み上げこそが自身の表現活動の根っこにあるのだと言わんばかりの(無論ご本人はそんな素振りなどおくびにも見せはしないが)強い気概のようなものが色濃く感じられた。

激しい怒りを自身の内に秘めつつも声高に世情や時代に対して詰め寄らない、そのどこか冷めた視線を湛えたステージングの中に気高い表現者としての確たる矜持を感じ取ったのは決して私だけではなかったと思う。

途中マキさんとバンドとの間に痛恨のズレが生じた部分はあったものの、総じてひとりの普段着の唄歌いと得難きご縁で結ばれしバンドが刺激的に鼓舞しあった充実の舞台だったと言える。

 

 

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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