小野健彦のLive after Live #236~#242

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text and photos by Takehiko Ono 小野健彦

#236 4月29日(土)
横濱エアジン
http://www.airegin.yokohama/
「横浜国際なんでも音楽祭」2022〈春〉オープニング:橋本一子 (p/vo) ソロ

生憎の冷たい雨風に見舞われながら向かった今宵の現場は、大変遅まきながら今年初訪問となった横濱エアジン。

今日から始まるGWにおける私のLALのテーマは「未知との遭遇」としたが、その第一弾となるステージは、このハコの名物企画「横浜国際なんでも音楽祭」2022〈春〉のオープニング・コンサートとなった橋本一子氏(P/VO)のソロ公演。

長らくジャズの聴き人としてステージのこちら側に在った私にとって、待望の初対面となった表現者である。
ピアニスト、ヴォイス・パフォーマー、コンポーザーであり且つ文筆業、俳優、声優迄もこなすマルチな才媛との評価も高い氏はかねてよりおおいに気になる存在であったが、その音創りに関する詳細な予備知識は皆無であった。
それだけに真っ新の心でその実体と対峙出来る幸せを噛み締めながら、はやる気持ちを抑えその幕開けの時を待った。定刻18時に客席の間をフワリ風の様に現れピアノの椅子に座した氏はおもむろにマイクを手にとり、近年重ねたピアノソロ活動による試行の到達点とも言える近作『view』盤で自身の心の内に一区切りがついたことや、過日行われた藤本敦夫氏とのDUO公演の達成感等自身の昨今のトピックスを短く語りつつ、用意された譜面をパラパラとめくった後、やおら演奏に入って行った。

透徹な中音域の微弱和音で開始された途中短いインターバルを挟んだ約2時間。共演者を伴わず独りピアノと真っ向向き合った今宵のステージを通して、なにものへの気兼ねもなくこの日この時に巡りあった場に漂う空気感を慎重に推しはかりながら自らの内にある心象風景を気負わず衒わず余すことなく顕在化させようとしたその一貫して思索的なトーンに支配された音創りからなんとも説得力のある音の連なりが芳しく立ち上がってきた様には唸らされることしきりであった。

今宵のステージは前後半共に『view』盤収録のオリジナル曲並びに(いずれも同盤収録の)〈all the things you are〉〈danny boy〉〈black bird〉等の著名曲に加えて自身の旧作を大凡10分程度の小品に仕立てピアノソロとヴォイスを交互に駆使して供するという構成が採られたが、全体を通して個人的印象として際立って感じられたのは相対する二極の境界線を軽々と往き来する鮮やかで優雅な所作の数々。静謐と喧騒。透明感とくすみ。そうして安穏と激烈。更にはうずくまりと疾走といった印象的な場面が次々と私の耳目を捕らえてゆく。

それらが氏の内にあった心象であるのか、それとも今宵氏が遭遇した場に感応してそこに観た景色なのかは当然知る由もないが、いずれにせよ、そうした豊かな詩情の数々をしなやかでクリアーなピアノのタッチと小悪魔的でチャーミングな声の可能性を最大限に活かし切りながら刹那の内に整然とした音像に結んだその高い創造性が得も言われぬ確たる存在感をもって私の心の中に瑞々しく響き渡った。

ライブが終わり多くの共演者と協働して創り上げた『view』盤の世界観を今宵は我が身ひとつで聴き人達と共鳴させ変容させた氏の顔になんとも清々しい表情が浮かんでいたのも印象的だった。

最後に、今宵は店内に向かう急な階段の乗降を、行きはこのハコのサポーターTさんの、帰りは急遽聴き人仲間の獣医師Sさんに介助頂いた。演者とハコのスタッフ、加えて聴き人仲間のご厚情がなくては成り立たない私のLAL。改めてその有り難みを強く感じさせられた夜となったことも書き記しておきたい。

      

#237 4月30日(日)
下北沢・jazz bar LADY JANE
https://bigtory.jp/
八木美知依(エレクトリック17弦箏/唄)小森慶子(cl/b-cl)

GW版LALのテーマ:「未知との遭遇」の第二弾。今宵の現場は、実に’20/10以来の訪問となった下北沢・LADY JANE。そのステージにはまさに待望の初対面となった八木美知依氏(エレクトリック17弦箏/唄)と一方こちらは今日が3度目の小森慶子氏(cl/b-cl)というなんとも興味深い組み合わせが登場した。テーマは題して「音の肌触り、肌の音触り」。

ハコのHPに掲載された公演紹介には、いつものようにご亭主・大木雄高氏の含蓄ある言葉が寄せられていたので、まずは以下に紹介させて頂くことにしよう。

曰く、「春の夕」は「春の宵」になり、それが更けると「春の夜」、深更なれば「夜半の春」朧夜なれば艶めいて牡丹華咲く。と。

しかし、この言葉を受けたからではないが、決して広いとは言えないステージに設られた17弦箏からはただならぬ妖気が漂っているかのように感じられたのが偽らざるところ。

ところで、この箏という楽器について、私自身は幼少期から親しんだ歌舞伎の中の有名演目で、かの坂東玉三郎の至芸でも知られる「壇ノ浦兜軍記阿古屋」を映像で観た以外は所有する八木氏の既発盤でしか接して来なかっただけに、八木氏ご自身に加えその楽器との出会いも含めてダブルでの「未知との遭遇」の趣向となった訳である。

それはそうとして、話を前に進めよう。

今宵のステージは、その卓越した演奏技術と音楽観を持つふたりの表現者によるインプロヴィゼーションの狭間に各々のオリジナル曲を巧妙に配置することで場に程よい起伏のある流れを創り出すことに功を奏したと言える。

そんな中、前後半のセットを通して、其々異なるアプローチがなされたことで、全体として筆致も力強い二帖=一双の屏風絵を目の当たりにさせられた感を強く受けた。以下では私自身「春の海辺」を想起させられた各々のセットをそれになぞらえ点描してみたい。

1stセットは小森氏作〈臥遊〉と八木氏作〈通り過ぎた道(ここでは八木氏は地唄の発声も披露された)〉の二品。まずは先発の八木氏が全音域を使った撥音から大らかなバイブレーションを生み出すとその間に間に小森氏のクラリネットが印象的なメロディを紡いで行く。今宵が初の完全DUOだったということもあってか互いに互いの出方を慎重に見極めている印象を受けたこのセットは、全般的に穏やかな音創りが展開されたことから、例えて言うならば揺蕩うごとくの「春の海」の情景を感じさせられた。

続く短いインターバルを受けた2ndセット、冒頭の小森氏作〈きさらぎのふたり〉に続けた八木氏作〈Rouge〉で音場の印象は劇的な変容を遂げた。それはこの夜の八木氏の往き方に際立って見られたリズムの提示の仕方の冴えに依るものが大きかったと感じられたが、氏は琴爪で弦をこすり、十指で弦を押さえ、短い木の棒で弦を叩き、更には足下のエフェクターを駆使してハモンドオルガンのような響きを宿しながら千変万化のパルスを小森氏に向かって投げかけそれらがいつのまにか渾然一体となってアヴァンギャルドなフリーフォームに転じて行ったのだが、そうなると小森氏も待ってましたとばかりにバスクラリネットにスイッチし、そのカオスの攪拌を縦横無尽に押し進めたくだりは何とも圧巻でありスリリングなものであった。それらは例えて言うなら雪解けの水が奔流となって春の海に注ぎ込まれる情景といったところであったろうか。

      

今宵のテーマと前述の大木氏の文章に呼応するかのように、この春の晩に咲かせたふたりの音創りからは、天平のいにしえより同じ温度と湿度を体感しつつ現代を生きるこちら人間の肌感覚と極めて馴染むこの箏という楽器を更にエレキ化したことで不思議とその空間掌握能力が高まっている感を強くさせられたことに加えて、そこに西洋楽器の馥郁たる響きが色彩感も豊かに絡み合いながら各々の楽器の特性を如何無く発揮しつつ其々が依って立つ異なる地勢と時間の様々な織り成しを鮮やかな音像に結んだ妙味が色濃く感じられて…。両者の駆け引きに強く惹かれた刺激的な時間のその先には実に妖艶なる「春の宵」の情景が出現したと言える。

互いに互いに対する適度な距離感を保ちながら付き過ぎず離れ過ぎずに在ったこの創造性も高き絵画的和洋折衷型DUOが今後も共演を重ねられ更なる熟成を経た後の再会が今から待ち遠しい。

#238 5月3日(水)
新宿ピットイン
http://pit-inn.com/
板垣光弘 (p/key) 6tet:吉木稔 (b) 三科律子 (ds) 米田裕也 (as/ss/fl) 松井秀太郎 (tp/flgh) 河野広明 (tb)

皐月晴れがなんとも嬉しい今日は昼夜のダブルヘッダーだったため、まずは昼公演のレポートから。

生憎の荒天と休養日で予定変更し中2日を空けたLAL。このGWのテーマ:「未知との遭遇」その第3弾の現場は新宿ピットイン(昼の部)。今日の「未知」は板垣光弘氏(P/Key)の複数管編成による音創りの初体験である。

代表作『Love Is Blue』(以下 LIB)盤を共に創り上げた頼れる面々:吉木稔氏(B)三科律子氏(DS)米田裕也氏(AS/SS/FL)に今日はGWスペシャル・バージョンとして松井秀太郎氏(TP/FLH)と河野広明氏(TB)(共に私はお初)が加わるというなんとも賑々しい6tet 編成。

客席はこのGWど真ん中の昼下がりにもかかわらず50人超えの大入りを見せ、改めてこのバンドの集客力の高さに驚かされる中での幕開きとなったが、この複数管を揃えたバンドを介してリーダー板垣氏の音楽観がどの様に披露されるかに期待も高まる。旧くは私自身浅からぬご縁を頂いた故臼庭潤氏を擁した本田珠也氏のバンドから後年のLIB4で接した板垣氏の音創りの中に叙情性と激情性の両面を聴いて来たこともあり、この多管編成をしてBNレーベルの諸作品に聴かれるような熱量溢れるアンサンブルを予想する一方で、板垣氏の師である故辛島文雄氏が『Transparent』盤(こちらはTS/FLH/TB/FL入り)に刻んだ抒情性豊かでスペイシーな往き方が私の頭の片隅に在ったことも確か。

果たして、LIB盤収録も含め板垣氏オリジナルを中心に板垣三科両氏のかつてのバンマス故鈴木勲氏に捧げた〈in a sentimental mood〉(ここでは吉木氏が大々的にフューチャーされた)や〈charade〉などの耳慣れたナンバーを巧みに混在させたセットリストにあって、全編に板垣氏の物語性を重視したペンが冴える展開となった。いずれの曲においてもその曲想を際立たせる多彩なテンポ設定(それらはシャッフル、ファンキー、4ビート、急速ビート、スローボサ、サンバ、ワルツ等々)が施された上で、テーマ部を単なるお飾りにすることなく各々の物語への導入部分として十分に描き切った後、ホーン陣のソロパートへの受け渡しがスムーズに行われる。それを引き取ったホーン陣も何れも実力派の表現者だけに短く完結に自らの主張を披露して行くが、ここで見逃せないのが板垣氏に加え吉木氏と三科氏の動きだった。

多人数故にともするとバンド全体のサウンドが拡散してしまうリスクを敏感に察知するかのようにその力強い推進力は維持しつつもかなり抑えたリズム・マネジメントに徹した三者の仕事振りはおおいに好感の持てるものであった。全編を通して各人が曲全体をひとつの物語として的確に捉えた上でテーマ部とアドリブ部の其々でそのストーリーに沿ったバンドサウンドを展開させたその様は大いに聴き応えのあるものであった。

今日に賭けた板垣氏の真意がどこにあったかは知る由もないが、私には、今日のメンバーを念頭に自身の持ち味である抒情性と激情性が効果的に投影されるよう配慮しつつテーマ部からアドリブ部への流れを有機的に繋げることで曲全体に巧妙なコントラストが自ずと生まれ出るようなアレンジからは、LIB4+2ではなく、LIB3+3を狙っていたように強く感じられた。それはピアノトリオを核にホーン奏者を複数加えていった辛島師の往き方をも色濃く想起させられるものであった。日本ジャズ界の忘れ難き偉大なるスタイリスト・辛島氏が’17/2に逝ってから既に5年。その強靭なタッチと大きな世界観を誇った氏のDNAを今日の板垣氏の音創りの中に垣間見て、少し感傷に浸ってしまった昼下がりの充実の一幕であった。

尚、演奏中の写真はピットイン・スタッフのご厚意により撮影頂いたものを掲載させて頂きました。

 

#239 5月3日(水)
高田馬場GATEONEゲートワン
https://jazzgateone.com/
梶原まりこ (vo) 秋田慎治 (p) 吉木稔 (b)

前稿の通り、この日5/3は昼夜のダブルヘッダー。

昼の板垣光弘6tet@新宿ピットインから向かった夜の現場は’20/11以来の高田馬場GATEONE。

いつものように看板スタッフの舞さんに介助頂き急な階段を降りて行くとこのハコのオーナーであり、今宵の実質的リーダーでもある梶原まりこさん(VO)が笑顔で迎えて下さったのは嬉しい限り。

当夜はGW版「未知との遭遇」の第四弾となった訳であるが、中でも一つ目の「未知」は、とかくピアニストにはうるさいこのハコにおよそ月一回は出演されているだけに以前からおおいに気になっていた秋田慎治氏との待望の初対面であり、二つ目は、私自身初めての試みであるが、ある一日を「この人を聴き込む日」と焦点を当てた表現者の音創りに触れるという趣向である。

そんな今日のお目当ては、昼の板垣Gでも手堅い仕事振りを披露してくれた吉木稔氏(B)である。しかし思い返せば氏との出会いは’17/11迄遡り、出会いからすっかりと意気投合したもののその後’18/2にお逢いしたきりで再会の時を待ち侘びていた。その意味では念願の再会のタイミングはじっくり聴ける機会が最良と思い、この日に狙いを定めたという訳である。実はこの夜は、当初村上寛氏(DS)の出演が予定されていたが、残念ながら御欠席となったため、秋田氏と吉木氏のコンビがまり子さんを支えるという編成になった訳であるが、そこは実力派の表現者である御三方。

そこに派手さはないもののじっくりと聴き応えのあるステージを届けてくれた。先ずはお初の秋田氏、その粒立ちの良いしなやかなタッチと優しく流麗なフレージング、更にはそこはかとなく感じさせられる苦味等そのトータル・ニュアンスで大きな世界観の拡がりを生み出して行く。そこに吉木氏の野太いベースワークが絡んで行くが、驚くべきことに当夜が2回目の共演とのことであったこのふたりから生み出されるアンサンブルがなんとも骨太の様相を呈して行くのだからもはやこちら聴き人は安心してその大きなヴァイブレーションに身を委ねていられるという塩梅になった。

そんなふたりの磐石な基礎固めが落ち着いた頃、いよいよまり子さんの登場となった。

私自身、久しぶりにナマで聴く氏の歌声であるが、T.モンク作〈ask me now〉等初挑戦の曲も交えながら繰り出した相変わらずの表現力の豊かさからは当代随一の説得力を感じさせられて、日々同所を中心に地道に唄い続けることで自ずとその創造性のレベルをより高みへと昇華させている姿を見せつけられた感を強くした。総じて三者三様に自らの描く美を描き切ったひとときだったと思う。繰り返しになるが敢えて言おう。派手さはないもののじっくりと聴き応えのある佳きステージだった。そうだ、今日の2ndセットでは、客席に遊びにこられていた村田憲一郎氏(DS)がシットインされ、小気味良いスティック捌きで場を盛り上げてくれたのも忘れ難い嬉しい一コマとなった。

終演後にはその村田氏が、自らの音楽観を秋田氏と吉木氏に静かに熱く語り、秋田・吉木両氏もそれに熱心に聞き入る姿が印象的だった。

最後に、この日臨んだ昼夜のライブ全体を振り返り、若き逸材を含んだ編成で臨んだ昼の板垣氏にしても、夜の秋田・吉木両氏にしても、現在各々のキャリアを通してその円熟期を迎える中、日本のジャズ史の中で受け継ぐ立場から引き継ぐ立場の岐路に立たされていることを認識しつつ強い使命感を持って弛まぬ前進を続けようとする誇り高き実像が如何無く発揮されて….。その意味では、住む世界は異れども同世代の私としては自らの今後進むべき方向性をも示唆された点でおおいに触発された意義深い一日となった。

因みに、私:’69生、板垣氏:’71生、秋田氏:’72生、吉木氏:’73生。この得難きご縁は永きに亘り大切に繋いで行きたいものである。


#240 5月5日(金)

合羽橋・jazz&gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/
TReS:永田利樹 (b) Rio (bs) 早坂紗知 (ss/as)

スマホにかじりつき集中して一気にその夜中かつ一切の下書き無しの一発録りで臨むことを信条としている私のライブ・レポ。本稿はいつも以上に明らかな気持ちの昂ぶりと共に作文する次第。

今宵のライブの現場はお馴染みの合羽橋・なってるハウス。

ステージには、強力R&Mユニット(←私の造語で、リズム&ブルースならぬ、リズム&メロディの意)TReSが登場した。ご家族という固い絆で結ばれし鉄壁のコンビネーションを誇るメンバーは、T:永田利樹氏(B)R:Rio氏(BS)S:早坂紗知氏(SS/ AS)である。今宵は私のGW版LALのテーマ「未知との遭遇」の第五弾となったが、ひとつ目の「未知」は、メンバー各々個別には出演機会があったものの、ユニットとしては「なってる」初登場となったことであり、二つ目は、私自身待望のガーナ出身のパーカッション奏者 Nii Tete Boye氏との初対面であったこと。

それらはそうとして、肝心の音、である。

「まん防」も開けて久しく、最早完全に従来の時間軸に戻った定刻19時を少し回った頃開始されたトータル約2時間のステージでは、「リズムが伸び縮みし、メロディが弾け散る」このユニットの真骨頂が遺憾なく発揮されるとともに、コンガの原型であるパンロゴ等を駆使して強力な推進力を場に呼び込んだテテ氏のサウンドが更に強烈なスパイスとなり、いつも以上に百花繚乱立体感満点のグルーヴに満ち溢れた音創りが展開されることとなった。そんなステージを実現させた更なるポイントのひとつとして素材とした選曲の妙があったことがあげられるが、そこでは永田氏のオリジナル曲やA.イブラヒム作〈water from an ancient well〉といったこのユニットにはお馴染みのナンバーに加えてT.モンク作〈epistrophy〉や〈we see〉等の選曲が採られたことからはこのユニットがその根っこの部分でジャズの先達に敬意を評している一面が垣間見られて嬉しい構成だったと言える。その他には、「’83ライブ・アンダー・ザ・スカイ」におけるP.メセニー、J.ディジョネットらを擁したS.ロリンズ4で聴いた〈the meeting〉や’85新宿ピットイン20周年ライブにおける渡部貞夫、武田和命、辛島文雄、井野信義らの諸氏を擁したE.ジョーンズ7で聴いた〈anti-calypso〉更には The Doorsの〈light my fire〉といった個人的には垂涎のナンバー迄飛び出して、おおいに高揚させられ通しの夜となった。昨年4月にお逢いして以来1年振りの再会となったTReSであるが、熱情と躍動感を悠久という情感で結ぶその特徴的な音創りに触れて、このコロナ禍とはいえ年中行事には決してしたくないという気持ちを強くしながら昂る気持ちを胸に涼風吹く下町の夜に別れを告げた。

#241 5月6日(土)
国立・Music Dining Bar NO TRUNKS

https://notrunks.jp/
渡辺隆雄 (tp) Uundercurrent 4:加藤一平 (g) 瀬尾高志 (b) 芳垣安洋 (ds)

自身10日間に亘る大型連休中に8本のライブを予定した(結果的には7本の見込)私の LALも残すところあと2本となった今宵。

現場は、国立・NO TRUNKS。GW版 LALのテーマ「未知との遭遇」第6弾は待望の初対面となるユニット渡辺隆雄(TP)UNDERCURRENT4 w加藤一平氏(G)瀬尾高志氏(B)芳垣安洋氏(DS)である。

これまで個別に接して来たステージから、各人共に求道者然とした印象を受けて来たこの四人の表現者が居並ぶ姿はまさに壮観であり、音の出がなんとも待ち遠しい。

果たして、リーダー渡辺氏のリズムに対する拘りの強さを色濃く反映させて、1stセットは氏のオリジナル曲に加えてR.カーク、W.ショー等の巨星のナンバーを交えた(敢えて言えば)ジャズ・テイストで、一方の2ndセットは3.11直後に作曲された同氏の〈帰れない夜〉を筆頭に全編氏のオリジナル曲をラテン、4ビート、ロック・テイストで鮮やかに纏めあげたステージは、そのどこを切り取ってもスピード感に溢れたハードボイルドで贅肉の削ぎ落とされたソリッドなサウンドに支配され、表面的な「動性」に通底する「静の脈動」がもたらす強い説得力がこちら聴き人の耳目をダイレクトに捕らえて終始溜飲の下がることこの上なかった。

一見すると強面の印象も受けるこの集合体は、よくよく考えてみればいずれも創造の引き出しの多い表現者4人のことだ、当夜のステージ全般を通して展開された重量級のバンドサウンドが結んだ音像のニュアンスの核には意外な程に繊細な部分が内在していると感じさせられる場面も散見され、そこには自らが活きつつ他者をも活かしながらそれでいてバンド全体が自発的に動き出すことが出来る。そんな個と総体の幸せな関係性を構築する仕掛けが随所に潜んでいると感じさせるユニットとしての凄みも浮かび上がり、且つその日その時の空気感を巧みに取り込み千変万化する潜在能力も想像されて…。またの再会がおおいに楽しみなバンドとの嬉しいファースト・コンタクトとなった宵だったと言える。

そんな当夜のアンコールでは、渡辺氏がその人の生前最後のバンド:The Nice Middle with New Blue Day Hornsで共に活動された忌野清志郎氏の名盤:『MENPHIS』にも収録されている名曲〈彼女の笑顔〉が繰り出されR&Bの世界へとひとっ飛びしてこの充実に過ぎた宵が幕を閉じた。いやあ、しかしなんとも痛快な夜だった。

#242 5月8日(月)
町田ニカズ jazz, coffee & whisky Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/
「光の中のジャズ」元岡・米木プロジェクト:纐纈雅代 (as) 治田七海 (tb) 利光玲奈 (ds) 元岡一英  (p) 米木康志 (b)

自身10日間に亘る大型連休の最後(期間中は文字通りのLALとなった通算7本目)は、町田ニカズ日曜昼の好評プログラム「光の中のジャズ」。

過半数が北海道出身者であり、「裏北海道バンド」とでも形容出来る今日のステージは、題して「元岡・米木プロジェクト」。いずれも才媛の纐纈雅代氏(AS)治田七海氏(TB)利光玲奈氏(DS)に熟練の元岡一英氏(P)と米木康志氏(B)が絡むという予測困難ながら、いかにも策士元岡マスターらしい慧眼の光る興味深い組み合わせ。

果たして、そのステージは後述のセットリストの通り、ジャズ/ミュージカル界の巨星の佳曲が次々と繰り出される展開を見せたが、演者からは「普段はあり得ない程の譜面縛り」の声も聞かれ、更には演奏中でも元岡氏のヘッド・アレンジが連発される展開に女子達が目を白黒させる微笑ましい場面も散見される中、そこはいずれも実力派の表現者達だけに、そのアレンジに込められた元岡氏の意図した物語の実相を瞬時的確に捉えつつ、アレンジの枠には決して絡め取られることなく自らの持ち味を存分に発揮して行く音創りはなんとも噛み応えのあるものだった。各々が依って立つ音楽的背景をベースにジャズの歴史を踏まえつつ次代を窺った往き方からはジャズの面白味がひしひしと伝わって来て、なんとも充実感に溢れたひとときであったと言える。2ndセットでは、過日ここ「ニカズ」で「復活」を遂げたミヤマカヨコ氏(vo)が飛び入りされ伸びのある唄声と共に単なる耳当たりの良さに止まらない独自の世界観でジャズの旨味の体現化を試みた印象的な場面があったことも記しておかねばなるまい。

[今日のセットリスト]
※何れも興味が尽きない流れだったため以下に一挙掲載しよう。

▮1stセット
M1:T .ジョーンズ〈minor on top〉
M2:B.パウエル〈strictly confidential〉
M3:B.ストレイホーン〈blood count〉
M4:元岡一英〈mino-majo〉minor majorの文字り
M5:G.ガーシュイン〈who cares?〉

▮2ndセット
M1:L.バーンスタイン〈lonely town〉
M2:F.ブラハム〈limehouse blues〉

以下はフロント入りのカルテット編成
M3:J.W.グリーン〈body and soul〉治田氏フューチャー
M4:A.C.ジョビン〈how insensitive〉纐纈氏フューチャー
M5:H.アーレン〈over the rainbow〉ミヤマ氏フューチャー
M6:T.フラナガン〈minor mishap〉

▮アンコール:
D.エリントン〈melancholia〉

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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