小野健彦のLive after Live #270~#277

閲覧回数 4,932 回

text & photo by Takehiko Ono 小野健彦

#270 9月3日(土)
町田  Jazz Coffee & Whisky Nica’s ニカズ
http://nicas.html.xdomain.jp/
「Tribute To Elvin Jones」:Gene Jackson (ds) 片倉真由子 (p) Pat Glynn (b)

コロナワクチン接種の副反応影響等もあり、8/20以降足踏みしていたLALを再開出来る嬉しさに自分自身心躍らせながら向かった町田ニカズにて、Gene Jackson氏(DS)のトリオを聴いた。同行人の片倉真由子氏(P/通訳)Pat Glynn氏(B)と共に掲げた今日のテーマは、ズバリ「Tribute To Elvin Jones」。存命であれば来週9/9に生誕95年を迎えるジャズ史に残る不世出のドラマーに捧げる夜の行方に満場の期待感も大きく高まる中、定刻19:30に音が出た。

そこからの短めのブレイクを挟んだ2セット。
約2時間強を使い、冒頭のM.タイナー作〈passion dance〉から本編最後のタイナー作〈inception〉に至り、更に満場の盛大なアンコールに応えた〈my favorite things〉迄、ジーンさんの思い入れもあるエルヴィン所縁のナンバー全11曲(それは前述を含めB.ストレイホーン、T.ジョーンズ、J.コルトレーン、F.ハバード、W.ショーターらの作品群)を緩に急にと疾走の極みを辿り、我々聴き人の耳目を片時も離すことがなかった。

雄弁に過ぎないこのメンツだからこその抜群のまとまりから生み出されるサウンド・マネジメントのしなやかな柔軟性と強固な駆動力からはかつて私が中学〜高校生の頃 ’80新宿ピットイン正月公演で欠かさず聴いたあのエルヴィンの音創りに果敢に迫る意気をおおいに感じさせられた。中でも私が今宵特に感心させられたのはダイナミクスへの丁寧な配慮とでもいうもの。今夜のトリオは徒にパワーで押し切ることなく、エルヴィンの音創りの極意とでも言うべきサウンドの随所で粒立ちの良い繊細さをバランス良くクローズアップさせた点で 痒いところに手の届く手捌きに抜群の冴えを見せたと言える。

各人がシンガーでありダンサーであり、その熱源の頂きを巧妙に変容させながら変幻自在の質感と重量感を感じさせたトリオ・ミュージックからはドラムの先達に敬意を表しつつも既存のピアノトリオの在り方に重要な示唆を投げかけていると感ぜられる瞬間も所々に訪れて….。それはなんとも噛み応えのあるひとときだった。

まるで生き馬の目を抜く如くの疾走感に満ち溢れたこのトリオは、冒頭のジーンさんMCによれば、同一メンバーにて当面このプロジェクトを追究するとのことであり、これはまたなんとも楽しみな展開だ。

#271 9月9日(金)
稲毛 Jazz Spot CANDY
http://blog.livedoor.jp/jazzspotcandy/
山崎比呂志 (ds) 大友良英 (g)

私自身久しぶりの訪問となった稲毛 CANDYにて、最早このハコの名物企画となりつつある山崎比呂志氏(DS)のDUOシリーズを聴く。

今井和雄氏、魚返明未氏に続くシリーズ第三弾となった今宵、共演は今宵がこのハコ初登場となった大友良英氏(G)である。国の内外を分かたず既に数多の時空における協働作業を経た両者から強く感ぜられる互いに対する深い理解と敬意が一貫して音場を支配し、そこに刻々と生まれ行く鮮烈な音の連なりから湧き上がる思索的なメロディと贅肉の削ぎ落とされた繊細かつ直観的なリズムの交錯が極度に抑制された美を刹那の内に結ばせながらその音像は我々の眼前で鮮やかに収斂し、解れ、そうして完結した。私自身これまでに何度となく触れて来た両者の共演であるが、今宵の音創りの中でこれまでに体験したことの無い流れとして特に印象的な瞬間をいくつか点描すると、1stセット-1stムーブメント、大友氏がインタールードとして緩やかに繰り出したA.アイラー〈ghost〉のメロディをしなやかなスティック捌きでサウンド全体に沈殿させた山崎氏。続く2ndムーブメントで大友氏がスロー・ブルースを繰り出し山崎氏のブラシがそのグルーヴを際立たせるといつしか大友氏の指先からT.モンク〈blue monk〉が溢れ落ちたくだり。更には2ndセットでその大半約30分を使う大仕立てとなったO.コールマン〈lonely woman〉では大友氏は弓と指を効果的に使い妖しげな曲想を静かに立ち上げると山崎氏はそれをマレット・スティックを使い土俗的なフィーリングで拡張させて行った。というように。そこにはある程度まで互いの手の内を知り尽くした間柄から来る予定調和の感じられる瞬間は片時も無く、張り詰めた緊張感の中に攻めと守りのコントラストも際立つ、まさにここ現場にしか存在し得ない音達の圧倒的な居住まいが感じられた。総じて肩の力の程よく抜けた一級品のフリーフォーム・ミュージックが横溢した充実の夜だったと言える。

#272 9月10日(土)
新宿 Jazz PolkaDots
https://polkajazz.exblog.jp/i2/
吾妻光良 (g/vo) 早崎詩生 (p/pianica) 牧裕 (b)

それは過日のこと、新宿三丁目の隠れ家的なジャズスポットのスケジュール表をチェックしていて文字通り驚愕した。

中秋の名月に当たる今宵、なんと同所に日本を代表するブルース界の大物が登場するというではないか。聞けばこのハコのお客様と今宵のバンマスの学生時代のご縁がこのスペシャルな夜に繋がったという。
そう、今宵のステージは既に40年超の歴史を誇る我が国を代表するジャンプ&ジャイブバンド:The Swinging Boppersのリーダー吾妻光良氏(G/VO)率いるトリオだ。
共演:早崎詩生氏(P/ピアニカ)牧裕氏(B)。
私自身、吾妻さんのナマにこれだけの至近距離で触れるのは ’18/10三鷹バイユーゲイト以来2度目。超人気者の登場とあって、予約時点で満員札止めの客席が固唾を呑んで見守る中、定刻19時に音が出た。

軽快な4ビートのインストルメンタル曲をご機嫌伺いに各人のソロを回しながら快調にスタートさせた幕開けからの約2時間、演者達はこのハコにお似合いのジャジーなナンバー(と一言では凡そくくれない、それらはJ.パリス、N.K.コール、F.ウォーラー、C.キャロウェイらに跨るバラエティに富んだ作品群)を自家薬籠中のブルース、ジャイブ、カリプソチューンにバランス良く織り交ぜながら英語/日本語を駆使してそのステージをテンポ良く進めて行った。

その如何にも小粋なサウンドと曲間に繰り広げられた吾妻氏持ち前のウィットに富んだ抱腹絶倒のMC及びメンバー同志の微笑ましい掛け合いのオンパレード。
特に吾妻氏の「ふら」は相変わらず軽妙でありそれはまるで往年の噺家がこの令和の時代に迷い込んだ、そんな感覚さへ覚える味わい深き一席の高座のやうなひとときだった。

#273 9月15日(木)
学芸大学 Live House APIA40
http://apia-net.com/
友川カズキ (vo/g) 石塚俊明 (ds) 永畑雅人=ロケット・マツ(p/accordion/pianica/mandolin)

まさに待望の宵、初訪問の(東急東横線)学芸大学APIA40にて友川カズキ氏(VO/G)のトリオを聴く。共演:石塚俊明氏(DS)永畑雅人(=ロケット・マツ)氏(P/アコーディオン/ピアニカ/マンドリン)。

コロナ禍に加えご自身の体調不良等により長らくのリアルでのライブ活動休止を経てここ最近その活動を順次再開させている友川氏とは、氏のとある夏の日常を追いかけたドキュメンタリー映画「どこへ出しても恥ずかしい人」公開初日舞台挨拶後、佐々木育野監督らスタッフの皆さんとご一緒に新宿歌舞伎町で飲み明かし、明け方にJR新宿駅東口改札でお別れをして以来約2年半振りの再会であり、加えてこれまで触れて来た友川氏のソロ編成の音創りと異なり、そこには私にとっては原田依幸氏(P)のグループでもお馴染みの石塚氏を含む言わばレギュラートリオを初めてお聴き出来るとあって、逸る気持ちを抑えつつハコに急行した。

「散漫になるが申し訳ない」と言いながら、短い換気休憩を挟み1ステージを3〜4曲の約20分に纏めたなんと全4ステージ!約2時間、こと友川さんについて言えば、時代に物言う相変わらずの時にユーモアをも交えた鋭く歯切れの良いMCを挟みながら、3年振りに作ったという未だ1番しかない楽曲やファンのリクエストに応えてそれこそ30年振りに舞台にかけたナンバー等に代表曲数点を効果的に織り込むそのステージングを通して、こちらの心の臓に向けダイレクトに投げつけられる感覚を持つコトノハで強い説得力を見せつけてくれた。

一方でトリオについて言えば、その静かに叫びを発する声を内包しながら個々人の技も冴え渡りハーモニーとダイナミクスの両面で重量感のありつつ端正な揺らぎとキレを見せた点で圧巻のバンドサウンドが私の眼前で繰り広げられたと言える。

#274 9月17日(土)
千葉・鎌ヶ谷市 MT MILLY’S
http://www.mumill.com/mtmillys/
吉田美奈子 with 譚歌DUO:吉田美奈子 (vo) 金澤英明 (b) 

待望の現場が続くLAL。
今宵は初訪問の千葉県鎌ヶ谷市 MT MILLY’S で「吉田美奈子 with 譚歌 DUO」を聴いた。

このコロナ禍時代にあって、分け隔てなく音楽の在り方を毎週日曜日夕方のYouTube配信「譚歌チャンネル」にて問い続けている当代きってのDUOチーム:金澤英明氏(B) & 石井彰氏(P)と吉田氏(VO/鳴り物)の共演はこれまでも都下各所にて行われては来たが、私はなかなかタイミング合わず(と、かなりのチケット入手困難状況多々有り)にて今宵初めてその実像に触れられる機会を得たという訳である。さて、ここで最初にかなり極私的な想い出話を書き連ねることをご容赦願いたい。私にとって美奈子さんの音は私の人生の印象深い現場に厳然と存在して来たと言える。

先ずは ’15/11のこと。当時所謂 ‘レストラン・ウェディング’ 隆盛の頃、ホテル等の式場から離れて結婚披露宴を自らアレンジするのが流行った時代、私が新郎新婦入場時のテーマに選ばせて頂いたのが、美奈子さんの大名盤『EXTREME BEAUTY』の冒頭曲〈voices〉であった。

更に時代は下り、ジャカルタでの脳梗塞罹患(’13/3)から徐々に立ち直りようやく社会復帰が叶い独力で初めて行ったライブが ’15/12 新宿PITINN50周年ライブ@新宿文化 C。当夜渋谷毅氏のオーケストラにゲスト出演された美奈子さんが唄って下さった〈星の海〉(前述盤最終曲)を聴いて、文字通り心震え「生きていて良かった」と独り言ちたことは今でも決して忘れ得ない。

ことほど左様に美奈子さんの音は我が人生に楔打つ存在として在り続けてきたのである。
しかし、だ。それらは私にとっても、恐らく当のご本人にとっても全て過去のお話。問題は、ナマモノである表現活動のイマがどう存在し、それが私にどう響いてくるかに当然あった。
果たして、フルキャバに近い約100名の聴衆が固唾を飲んで見守る中登場した御三方。青いロングドレスを纏った美奈子さんが開口一番「松任谷由美です」とおどけて自己紹介をした後、「今日は作曲者の名前は良く知らないものもあるけれど、外国の作曲家の良い曲を演ります」と繋ぎ、続けて「唯一知っているガーシュインの」と前置きした〈i loves you porgy〉(その “s”の処理のなんと見事なこと!)で幕開きしてから本編最終曲に配置した〈waltz for debby〉に至る迄の約2時間のステージを通して(今宵の如何にも練り上げられたストーリーの仕立てに思いを馳せて頂くためにもメモと記憶を頼りに敢えて味も素っ気も無く羅列して書かせていただくと)1stセットでは、アイルランド民謡〈庭の千草:the last rose of summer〉〈so in love〉〈over the rainbow 〉〈goodbye pork pie hat〉を。続く2ndセットでは〈moon river〉〈you’ve changed〉J.ミッチェル作〈blue〉〈the good life〉〈my foolish heart〉などなど多面体でバラエティに過ぎる佳曲の数々が供されて行った。

青と紫のスポットライトに照らされた舞台には男衆ふたりとピアノとベースの視線交わるやや後方に美奈子さんという稀代の表現者が佇むのみ。そこに派手な仕掛けは何もない、しかしその御三方から立ち上がる音像はさながら屹立する伽藍のような荘厳さを見せた。一切の外連味も感じられないただ目の前にある剥き出しのメロディを慈しみ深く実体化した気高い表現者の居住まいがこちら聴き人の胸に迫り来た。
メロディは、はかなさとせつなさとをテンポはベリースローからミディアムを取り混ぜて、決してはしゃぐこと無く、落ち着きを湛えて刹那に花咲く創造性の深淵を見せつけられたという感が強い。
総じて、吉田美奈子 ‘with’ 譚歌 DUOというよりは稀代の歌唄いである吉田美奈子を懐に抱いたとてつもなく深く大きな世界観を色彩感も豊かに描き込む譚歌 ‘トリオ’ を目撃したという印象が強く私の心に残った。

 

#275 9月23日(金)
町田 Jazz Club INTO THE BLUE
http://intotheblue.info/
鈴木’チン’良雄 (b) 山本剛 (p)

嵐(台風15号)の前の静けさ。荒天ギリギリの弱雨状態を縫い初訪問した町田 INTO THE BLUEにて、至高のDUOミュージックを聴いた。
(出演)鈴木’チン’良雄氏(B)山本剛氏 (p)。
好評盤『loving touch』の吹き込みもあり、既に数多の時空での協働を重ねてきたおふたりの呼吸感は終始落ち着きのある融和性を見せながらキレのある重量感を纏った音創りを展開して行った。
チンさんのオリジナル二曲を皮切りに、選曲の多くでチンさんがイニシアチブをとりつつ頭に過ったメロディの断片を手繰り寄せながら進められた今宵のステージでは、その後も、1stセットでは〈besame mucho〉〈dark eyes〉〈moonlight in vermont〉等を。転じた2ndセットでは(これは私には嬉しい選曲であった)〈poinciana〉〈all of me〉〈caravan〉と更には剛さん伝家の宝刀の〈misty〉に至る迄のバラエティ豊かな曲想を持つ佳曲の数々が次々と繰り出された。
「レジェンド」という表現にどうにも座りの悪さを感じる私にとって、今宵私の眼前に立ち現れたのは、十二分に熟成された「ヴィルトゥオーソ」の手際であり、聴き慣れたメロディを瞬時に今日のこの時この場所における自分達色に染め上げ昇華させてゆく様からは片時もブレることのない体幹の良さも際立つ間口の広い「粋」を強く感じさせられた。

#276 9月24日(土)
代々木八幡 Hakuju  Hall
https://hakujuhall.jp/
青柳いづみこ (pf) 高橋悠治 (pf)

今日も快調に進むかに見えた私のLAL。
台風(15号)一過にて薄陽差す空を仰ぎ見て湘南の自宅を出発するも、都心部に近づき車窓は見る間に暗雲立ち込めて、今宵の現場に近づく頃には叩きつけるような風雨に見舞われた。しからばとやむなく途中駅で下車し、無線タクシーをなんとか捕まえ会場入りしたのは、開場ギリギリ10分前。

今宵は初訪問の代々木八幡HAKUJU HALLにて、クラシック・ピアニストで文筆家としても知られる青柳いづみこ氏の CD・書籍刊行記念コンサートを聴いた。
CD:『昔の歌 安川加壽子門下生発表会より』
書籍:『蘇る、安川加壽子の「ことば」』『ヴィンテージ・ピアニストの魅力』

今日のプログラムは別添の写真をご覧頂くとして、私のお目当ては特に夜の部:遊び〜高橋悠治を迎えて〜。
当代を代表する作曲家・ピアニスト(ジャズに馴染みのある方には富樫雅彦氏との数々の協働でも知られる表現者)である高橋氏が 9/21 で御歳 84才を迎えられるこの10月を機に暫くの活動休止に入られるとの報を受け、勇んで馳せ参じたという訳である。青柳・高橋両氏の共演に触れるのは ’19/10@代官山ヒルサイドギャラリーのレクチャーコンサート以来であり、その時に受けた「柔らかな衝撃」が今日この日この刻に狙いを定めさせたのは確かであり、今日の現場においてもおふたりはその期待を裏切らない創造性に満ち溢れた音創りを展開してくれた。

その印象を以下に点描すると、先ずは各々のソロパート。冒頭に配置されたピエルネ作品で青柳氏は、可憐さと無邪気な表情を遺憾無く発揮して夜の部のテーマ:遊び、へのオープナーを華やかに演出してくれた。一方の高橋氏のソロパートはクルターグとピアソラ。氏はこの二品を共に強い説得力を持った思索的ムードを基調に簡潔にまとめあげたが、特に後者では、この楽曲の持つ不穏なムードから曲想の核にあるエレガンスとセクシーさを見事に炙り出した点で流石の手際と言えた。
以上のソロパートの間に配置された連弾パート、これがまた実に興味深い往き方を見せた。鍵盤を分け合う両者にはありきたりの和合は見られず、そこでは静かに火花散る陣取り合戰の趣きが際立った。
様々なテンポを自在に掌中に収めながら緩に急に鮮やかなスリルを呼び込んだ音創りに大満足の夜となった。

※尚、演奏中の写真は「稲木紫織さんが撮影されたものを青柳いづみこ氏のご厚意により拝借し、掲載」させて頂いております。

#277 9月28日(水)
渋谷 BODY & SOUL
https://www.bodyandsoul.co.jp/
LOVE to Brasil Project:ヒロ・ホンシュク (fl) 城戸夕果 (fl) 中島徹 (p) コモブチキイチロウ (el-b) ダニエル・バエデール (ds)

待望の現場が続く長月のLAL。M.デイビス氏御命日にあたる今日、初訪問の「渋谷公園通りのBODY & SOUL」にて、凡そ一年振りの再会となるヒロ・ホンシュク氏(ボストン在)と城戸夕果氏(グローバルな活動を経て現在は東京在)という逸材フルーティストおふたりによる「LOVE to Brasil Project」を聴いた。〈共演〉中島徹氏(P)コモブチキイチロウ氏(e-B)ダニエル・バエデール氏(DS)。

さて、私は冒頭で「初訪問の」と書いたが、正確に言えばそれはこの渋谷公園通り店のことで、思い返せば、このハコ(そもそもの創業のルーツは ’74)とのお付き合いはかれこれ35年強になろうか。旧くは六本木店時代、本田竹広氏を初めて聴いた時の衝撃は今でも決して忘れられない。その後移転した北青山店では、大学が近かったこともあり、名盤『follow me』盤を発表された時期の伊藤君子氏や、山本剛氏らをバックに小粋なジャズを聴かせてくれたミッキー・カーティス氏等をマンスリーで追いかけていたことが懐かしく思い出される。そうして続く南青山店(現在の移転前地)での想い出はなんと言っても菊地雅章氏だ。帰日時毎のお付き合いが始まったのは同所でのライブ盤『after hours』録音の頃、ライブ以外にも思いがけずの現場への同伴出勤や当時の氏のマネージャーであった故川田恒信氏らと共にアフターの夜食にくり出したのも今となっては佳き想い出だ。その他、最強ユニット「Tethered Moon」来日公演や、日野皓正氏との双頭クインテット等衝撃を受けたライブを挙げればキリがない。今宵はそんな数々の想い出深き宵をご一緒した同所オーナーの関京子ママとの久しぶりの再会も嬉しいところ。

まあそれら過去の極私的な想い出話はさて置き、肝心の音、だ。
昨年の公演ではダブル・フルートにG、PERCを加えたカルテット編成であったのに対して、今回は駆動力も高い表現者達で構成されたピアノトリオを交えての音創りとなったせいもあろうか、ハーモニーとリズムの厚味が更に際立ったように思う。同じフルートという楽器を手にしたフロントのおふたりは、各々の個性を十二分に発揮しながら共に独自の色彩感覚豊かな音の連なりを描いて行った。フルートという楽器が元来持つ柔らかで優しい表情に加えて、おふたりが所々で繰り出した強い吹き込み(アタック?)が嫌味の無い辛味を効果的に差し込んで、全体として立体感のある景色と躍動感のある叙情を生み出していった点がなんとも好ましく映った。

 

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。