小野健彦の Live after Live #278~#287

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text & photo by Takehiko Ono 小野健彦

#278 10月4日(火)
白楽 Bitches Brew
http://www.ujr.jp/bb/
MMBトリオ

薄雲棚びく秋晴の下、白楽Bitches Brewにて9/30〜10/7:8日間連続の関東圏内弾丸ツアーを敢行中のMMBトリオを聴いた。
リューダス・モツクーナス(ts.ss.sn.cl)〈リトアニア〉
アルナス・ミカルケナス(p)〈リトアニア〉
ホーコン・ベレ(ds)〈ノルウェー〉

今回のツアーでは、その多くで当代我が国を代表するインプロヴァイザーとの共演が組まれたが、今宵は、’18 リューダス氏が単身来日し、同所で開催された4夜に亘るギグ(その時の模様は一部を除き「in Residency of Bithes Brew」盤として既発)の中でも合間見えた梅津和時氏(as/bcl)がゲストとして迎えられた。
ステージは1stセットはMMB3、2ndセットで梅津氏を迎えるという構成が採られたが、先ずは1stセット。三つ巴の激烈フリーフォームを予想した筆者の予想は早々に外れることに。先ずはアルナス氏が如何にも思索的な単音を重ねながら静かに入った。それを受け、リューダス氏はソプラニーノ、ソプラノ、テナー、クラリネットを順に手に取り、幽玄なフレーズを重ねて行った。そんな二人の静かな揺らぎの合間を縫う様に、ホーコン氏は手、木の棒、空き缶の切れ端、アルミの蓋、木片、竹串、金鎖等々と様々な素材を駆使しながら千変万化のリズムを繰り出して行った。
そんな三者のアンサンブルが凡そ1時間程続いたであろうか、そこに大仰なドラマが訪れることは無かった。しかし自己破綻に陥る完全燃焼一歩手前のマグマの断片が透かし見えたことは確かだった。そうして静かに三者の息と手が止まった時、そこに残されたのは実に穏やかな散文詩的抒情だった。
続く短いブレイクの後の2ndセット。このセットで音場は劇的な変容を遂げた。
梅津氏のバスクラによる最弱音のロングトーンに導かれて、トリオも最初は静かに従ったが、リューダス氏のクラの一吹きで潮目が大きく変わった。
果たして、ツアー初日以来5日目を迎えたトリオは抜群のまとまりを見せ始め、圧倒的な疾走の途についた。ホーコン氏は、スティックにブラシにと時機を捉えた所作を以って絶妙なニュアンスでサウンドの基調となる色彩感豊かなリズムの拡張を図り、アルナス氏はその粒立ちの良さも印象的な強靭なタッチでバンドサウンドの流れの中に効果的な句読点を打った。するとすかさずリューダス氏はそれら同行人の音創りを一手に手際良く収束させながら、各種リード楽器の可能性の極限を押し測るかのように、循環呼吸や独特のタンギングを駆使しながらサウンド全体に大きな畝りを呼び込んで行った。
そんな縦横無尽に変貌を遂げるトリオに対してゲスト格の梅津氏の往き方がこれまた実に興味深いものがあった。時にトリオの核心に鮮やかに斬り込んだかと思うと、ややあってトリオ・サウンドの渦に絡めとられる寸前に翻りサウンドの外周を暫し漂い舞い踊るその様からは、相手の懐に入り、且つ離れて技を繰り出し続けるそれはまるで日本古来の柔/剣術の在り様をも想起させられて、流石の芸達者故の「匠の仕業」と感ぜられた。
今宵は、これまで数多の卓越した表現者が去来したこのハコに漂う目に見えぬ気のせいもあったのではなかろうか、一夜限りのセッションの枠を遥かに超えたユニットとしての整然とした音の連なりが際立った。今振り返り、やんちゃではあるが、どこか粛然としていて思わずこちらも居住いを正したくなる様な清々しいサウンドに出会えたという感が強い。


#279 10月6日(木)

茅ヶ崎・Jazz&Boozeストーリービル
http://www.jazz-storyville.com/
松井宏樹(as)魚返明未(p)

ここに1枚のCDがある。その名も『LIMITED』。
松井宏樹氏(AS)と魚返明未氏(P)による’17録音の自主制作盤だ。
これを購入したのは確か’18/7。’19/5に惜しまれつつ閉店したジャズ喫茶・町田NOISEにて松井氏を迎えた南博氏のカルテットを聴いた時のことだ。当時は松井、魚返両氏共に徐々に各所のブッキング・リストにお名前を見つけられる状況になって来た頃だったように記憶している。それがどうだろう、今やシーンのど真中に在って、世代/スタイルを軽々と超えた数々の創造的な音創りの現場で揉まれ目覚ましい深化を遂げ行く途上にあることは多くの聴き人の認めるところであろう。
そんな今が「旬」のおふたりが揃って隣り街茅ヶ崎にやって来ると知り、そぼ降る秋雨の中馴染みのハコ「ストリービル」に駆けつけた。
果たして、DUOというある意味自らの全てを曝け出さねば成立し得ない編成にあって、ふたりは終始真っ向から相対峙して落ち着きのある中にも力のこもったステージを展開してくれた。
各々のオリジナル数曲も、所謂スタンダード曲(C.ポーター〈everything i love〉)や先達に敬意を評した著名ジャズメン作の楽曲(T.モンク〈ask me now〉、H.モブレー〈this i dig of you〉、S.スワロー〈falling grace〉、D.エリントン〈warm valley〉)等々も、いずれも出される音の一粒一粒はヒリヒリする程熱っぽいのに、表現される全体の曲想は意外な程にクールで瑞々しい。そう、その刺激的なまでに溌溂と露出される温度差の妙味に圧倒され通した充実の夜だったと言える。


#280 10月7日(金)

稲毛Jazz喫茶 CANDY
http://blog.livedoor.jp/jazzspotcandy/
山崎比呂志DUOシリーズ:山崎比呂志(ds)安田芙充央(p)

生憎の本降りとなった今宵、それでもどうしても聴きたい音を探しに稲毛CANDYを目指した。ステージは、最早同所の名物企画となりつつある山崎比呂志氏(DS)のDUOシリーズ、その第四弾。当夜は、当初松丸契氏(SAX)との共演がクレジットされていたが、氏の流行病罹患により、急遽代役が立てられた。その代役が驚きの安田芙充央氏(p)になったとの報を受け脳梗塞の後遺症で杖付き故に傘のさせない私としてもリスクを取って一都二県を跨いだという訳である。
さて、実は今宵の初の共演には前段があったのであるが、それは本年8/12のこと、故高柳昌行氏が’82〜’85に主宰したユニット「angry waves(高柳+山崎+井野信義)において、ごく限定的に井野氏が安田氏にスイッチしたセットがあり、それから約30年の時を経て、現在の山崎井野コンビ入魂のプロジェクト「TRYANGLE」に安田氏がゲストとして招かれた夜があった。筆者は幸運にもその場に居合わせたのであるが、その夜の三者の音創りは互いの不在の時間の堆積を感じながら、スタイルとしてのフリーフォームの枠組みを超えて、謂わば精神的なフリーフォームの域にまで昇華させた点で圧巻の手合わせだったと言え、山崎安田両氏の中にもその時の手応えがありそれが今宵への導火線になったことは想像に難くないというのがその伏線たる由縁である。
まあそれはそうとして、肝心の今宵の音である。今宵は、共に約40分弱に簡潔にまとめ上げた2セットが供されたが、総じて印象に残ったのは安田氏はピアノを打楽器的要素として、一方の山崎氏は、ドラムをメロディ楽器として捉えているかのような所作の数々だった。
安田氏は随所でピアノの弦を手で押さえる動作を見せながら、鍵盤を扱う場面では、煌めくようなパッセージの合間に強烈な打音を刻んで行く。
対する山崎氏は、普段の演奏で見られるようなドラムセット全体を鳴らし切るという手法は控えめに、スネアを打つ時は只ひたすらスネアを打ち続けそこに緩やかな畝りが生じ始めるとすかさずシンバルや横置きにしたバスドラとのコンビネーションに移行して(更にそこにパーカッション的な鳴り物も駆使しながら)絶妙なメロディを唄いあげて行った。

そんなふたりの行き着く先には破綻は生まれず、ただひたすらに澄み切った地平が開けて行った。ダイナミクスへの慎重な配慮。撥音と弱音のニュアンスへの執拗な拘り。
山崎氏82歳、安田氏68歳。今宵は、この稀代のインプロヴァイザーおふたりのひょっとすると新たなる創造性のステージに向けたきっかけとなるかもしれない大きな一歩を目撃出来たという感が強い。探していた音に酔った夜が今更けて行く。

#281 10月9日(日)
World Jazz Museum 21
http://www.kirie-ankodo.com/kirie/kirie.htm
 渋谷毅 (p) 仲野麻紀 (as, metal-cl, Fx, vo)

三度目の訪問となった群馬県吉岡町(伊香保温泉近郊)のWorld Jazz Museum 21(切り絵緑の美術館内)にて、渋谷毅氏(P/VO)と仲野麻紀氏(AS/メタル・クラリネット/Fx/VO)の初共演となるDUOを聴いた。これ迄は、バスタ新宿から高速バスでの現地入りであったが、今日は三連休の影響もありバスは予約満席状態につき、早々に作戦を変更して、自宅最寄りの辻堂駅から上野東京ラインを使い赤羽駅経由の特急にて最寄駅の渋川を目指した。
早目に会場入りし、まずは現在開催中のK.ジャレット氏の新作ソロ『ボルドー・コンサート』リリースを記念した「ECM &キース・ジャレット写真・資料展」をじっくりと観賞しつつその時を待った。
果たして、予定時刻の15時やや過ぎに音が出た。それからの休憩無しのあっという間の約二時間・3セットでは、当公演のフライヤーに躍った「エリントンから民謡まで日本のエスプリとパリのエスプリが出会うひととき」のキャッチコピーに違わない極めて創造的な音創りが展開された。
先ずは1stセット、麻紀さんのソロパートだ。
牧歌的な大きな世界観を持つ力強くおおらかなアルトの響きを活かしたインプロヴィゼイションとE.サティ〈ジムノペティ第一番〉でミニマルなモチーフをループさせつつその上でインプロヴィゼイションを重ねていった。
ここ迄で唸らされたのが麻紀さんの足捌きだ。足元にあるルーパー・エフェクターを実に効果的に使い自らの影武者を次々と登場させることで、音場に圧倒的な迄の拡がりと奥行きを生み出して行く。そのこちら聴き人の記憶の時間軸と体験の空間軸を巧妙に刺激しつつ掌中に収めたステージにはその後も毎曲後に客席からは深いため息が洩れる程であった。途中どこか中東の香り漂うメタル・クラリネットを駆使しながらのアラビア語 VOによる〈ビンテルシャラビーア〉を経由して、最後は宮城県民謡〈斎太郎節〉で締め、ご挨拶代わりには充実に過ぎた約50分間でこのセットに幕が降りた。
続けての2ndセット、渋谷さんのソロだ。
開演前の立ち話で「随分と贅沢な場所だね」と語ってくれた渋谷さん、これまでそれこそ幾度と無く氏のソロに接して来た筆者にとってもこの旅の空での再会はなんとも感慨深い。好評発売中の最新作『カーラ・ブレイが好き』でも採りあげられた〈lawns〉で幕開きして以降お馴染みのオリジナル曲〈蝶々〉やT .モンク〈misterioso〉に加えて、お気に入りの〈body&soul〉等のスタンダード曲の小唄端唄が次々と緩やかなテンポで供されたこのステージは次第に静かな熱を帯び、終盤には板橋文夫作〈good bye〉まで飛び出した。
約30分と幾分短めではあったもののグランドピアノの馥郁とした響きから立ち昇る芳しき渋谷節に会場が一気に染め上げられた豊潤なひとときだった。
さて、続いての3rdセットは、いよいよDUOパートだ。麻紀さんをして、「奇跡の瞬間」と言わしめたこの共演のクライマックスは麻紀さん曰く「私が一方的に持ち込んだ選曲」で構成された。それらは、D.エリントン〈isfahan〉、T.モンク〈monk’s mood〉、M.ルグラン〈ロシュフォールの恋人たち〉(麻紀さん魅惑の仏語VOによる)に加えて、トルコ民謡〈ウスクダラ〉(麻紀さんトルコ語VO)や(麻紀さんのユニット「Ky」のパートナーでもある)ヤン・ピタール〈危機的時代の恋愛作法〉から西尾賢〈アマドコロ摘んだ春〉(両氏柔らかハーモニーの日本語VOによる)迄実に多岐に及んだが、いずれも各々の音楽的変遷の道程を背景にしつつ其々の楽曲の中を自由に旅しながら米・仏・中東・日の風合いを見事に描き切った圧巻の解釈の冴えを見せた。
まさに、普段着の行動する音旅人が旅の空の下で出逢ったなんとも幸福過ぎるひととき。
アンコールに応えたD.エリントン〈prelude to a kiss〉を演じ終えた後のおふたりの(幾分はにかみながらも)満足そうな笑顔が今日の全てを物語っていたと言えよう。


#282 10月14日(金)

横濱エアジン
http://www.airegin.yokohama/
カルメン・マキ(歌/朗読/鳴り物)中村哲(kep/p/ピアニカ/ss/as)

横濱エアジンにて、同所恒例の好評シリーズ「横浜国際なんでも音楽祭」2022秋の第9日目に登場した、カルメン・マキ氏(歌/朗読/鳴り物)と中村哲氏(KEY/P/ピアニカ/SS/AS)のDUOを聴いた。
思い返せば、’22/3/12。私は他所にて、(敬愛する先輩諸氏とご一緒に)このユニットの船出の夜に幸運にも立ち会うことが出来たということもあって、約半年の歳月を経ておふたりの音創りがどう変容しているかに大きな期待感を持ちながら開幕の時を待った。
果たして、哲さんの思索的なキーボードに乗せたマキさんの朗読による寺山修司詩作〈男の嫉妬について-エコー〉で幕開きし、満場の拍手に応えたガーシュイン兄弟作〈the man i love〉にて今宵の幕が降りる迄の約二時間を通して、この半年に生まれた数多の時空での協働作業を経て、船出の夜とは全く異なる印象に支配された風合いの舞台が展開された。そこでは旅立ちの夜に感じられた、互いの距離感を慎重に推し量る場面やサウンドの中で自らのスペースをどう確保するかを模索しているかに見えた瞬間は皆無であり、唯、互いのヴァイヴレーションに静かに身を委ねながら伸びやかな表情で自らの主張を聴き人に伝えようとする姿が特に際立ったように思う。
マキさんは、同じ地平に位置付けられた詩作品(寺山修司作、萩原朔太郎作等)と唄物(M.アーモンド作、D.ホランド作、浅川マキ作等)との間を解き放たれた自由な身軽さで繋いで行き、哲さんは所々であらかじめ周到に準備された打ち込みのPC音源に各種楽器の生々しく且つニヒルな響きを効果的に差し込んで行く。そこでは、時に目の前の言葉達からは暫し遊離しておふたりのリアルな感情の交錯から未だ見ぬ新たな物語をどう紡いで行くかに主眼が置かれているかのように感じられる部分が少なからずあった。それは謂わば即興音楽ならぬ、二人芝居による即興戯曲とでも言えようか。
今後のスケジュールを見るとこのおふたりでの旅路はまだまだ続くようだ。表現者自身が旅をし、それに応じて詩や曲達も旅をする。
移ろい行く季節を敏感に感じつつその日その場の空気感をも巧みに取り込みながら新たなる物語を紡ぎ深化して行く、
そんな更なる大きな伸びしろを感じさせるユニットとの充実の再会のひとときだった。

#283 10月15日(土)
丸の内 COTTON CLUB
前川清「RENCONTRE  FAN 2022〜Sai Kai〜」

待望のライブが続き、快調に実りの秋を迎えつつあるLAL。
今宵は初訪問のCOTTON CLUB(東京駅丸の内南口近く東京ビル内)にて、前川清氏の「RENCONTRE FAN2022〜Sai Kai〜」を聴いた。
[共演]大嶋吾郎(g/cho)SAKI(cho)伊丹雅博(g)栗山梢(p)沖山優司(b)GRACE(ds/cho)副田整歩(as/ts/fl)

さて、今夜の主役たる前川さんであるが、私が〈長崎は今日も雨だった〉が街に流れた’69の生まれであることとは全く関係なく、歌番組で、バラエティ番組で、更には最近ではNHKの朝ドラの中にその姿を見つけるにつけ長らくおおいに気になって来た存在であり、今回が8回目を迎える同所での公演も毎度伺いたいとは思いつつ、気が付けばソールドアウトの憂き目を見続けてきただけに、今日の訪問は文字通り心躍らされるものがあった。結果的に今年も昼/夜の部共に満員御礼で迎えた今日の夜の部では、会場に入るなりその客層の幅広さに驚かされることに。
事前に予想した前川さんと同時代を過ごしたご婦人達のみならず、ひとり旅の年配男性や、幅広い年齢層のカップルから妙齢の女性達で広い店内は溢れかえっていた。
まあそれはそうとして、肝心の今宵の音、だ。ステージは約70分の一本勝負。

そこではこの公演のコンセプトである、自身のヒット曲から少年時代に熱中したオールデーズナンバーが次々と淀みなく披露され、2023年にキャリア55周年を迎える氏の音楽遍歴を概観する内容になったといえる。

先ずは7人編成の分厚くタイトなバンドサウンドに導かれて登場しメローな曲調を持つ〈明日に〉(梶原茂人詞曲)で幕開きした前半では’87クールファイブ独立以降のソロ活動で出会った意欲的な楽曲、〈ひまわり〉(福山雅治詞曲)〈涙〉(中嶋みゆき詞曲)〈男と女の破片〉(荒木とよひさ作詞)等々を並べた。そこでは前川さん自身が冒頭のMCで語った「今日はお喋りは控え目にして唄に専念します」の言葉通り、どこまでも自然体の瑞々しく艶っぽいヴェルヴェットヴォイスと客席の隅々に迄丁寧に手を振りかえす仕草を含めたステージマナーがなんとも印象的だった。

そうして場もバンド自身も程よく温まった中盤にさしかかると「手拍子は要りません、お気持ちだけ頂きます。」と前置きしつつ〈diana 〉〈i’m gonna knock on your door〉〈day dream believer 〉〈you are my destiny〉と著名洋楽ナンバーメドレーをダンサブルなアレンジにて熱唱し客席のハートを完全に鷲掴みにした後で更に畳み掛けるようにクールファイブ時代の大ヒット作〈東京砂漠〉〈そして神戸〉〈恋唄〉を繰り出しラスト前一曲の〈雪列車〉(糸井重里作詞・坂本龍一作曲)でしっとりと場を鎮めてから最後はロック調の〈せめて今夜だけは〉(伊勢正三作詞)で今宵の充実過ぎるステージに幕が降りた。

「最近は以前に比べ声が出なくなっていることを半ば逃げで味わいが出てきたと言ってもらっているんです」と自嘲気味に語っていた前川さんであるが、今日のステージを通して、どっこい、昭和・平成・令和に亘る時代を背負いつつ感情と情景の機微を見事に描き切りながらショービジネスの荒波を生き抜いて来たひとりの逞しい表現者の志高き意気がこちら聴き人の胸に迫った、そんな感動的な時間であった。


#284 10月21日(金)

西荻窪・Jazz Live ココパーム
http://www.livecocopalm.net/
大井貴司 SUPER VIBRATION:大井貴司(vib)三木成能(p)早川哲也(b)橋詰大智(ds)+高波奈津 (p) 小竹満里 (p)

いつもは独り旅が常の私のLALだが、今宵は得難きご縁により知己を得た長野県飯田市在のジャズフリーク・T.K氏にお誘いを頂き、初訪問の「西荻窪・ココパーム」にて、大井貴司氏(vib)のSUPER VIBRATIONを聴いた。
毎月第三金曜日開催の当公演は国立音大卒以降のプロ生活も半世紀近くを数え、その表現活動の道程で、多くの世界的著名ミュージシャン(J.ルイス、R.ブラウン、G.ハリス、J.マンス等々)との共演を重ねたまさに我が国を代表するスタイリストである大井氏が当代若手〜中堅からなる実力派ピアノトリオをバックに意欲的な取り組みをされている入魂のプログラムとの事前情報を得て大きな期待感を持って現場に向かった。三木成能氏(P)早川哲也氏(B)橋詰大智氏(DS)と今日のトリオにも関東圏を中心に旺盛な活動を繰り広げる表現者が招集されており、長きに亘る大井氏の根強いファンと思しき年配のお客様も含めて場内はほぼ満席の状態で音が出た。
それからの約2時間のステージを通して肩肘の張らないバンドスタンドの快演の連続に客席は終始ジャズの旨味、醍醐味、面白味を味わうこととなった。
そこでは、素材の良さと個々の演者による調理の手際の良さが際立った。
4ビートのスタンダード〈lullaby of birdland〉、L.ハンプトン作〈flying home〉等はしっかりとした芯を残しつつこれ以上ない小粋さで。
大井さんも久々に演じたというMJQ関連からJルイス作〈django〉ではこの鎮魂歌を如何にも荘厳に。
全3曲が供された大井さんオリジナルの内、バブル時代作の〈bubble water〉はなんとも鮮やかな急速調のサンバに仕立てて見せた。
ピアノの三木氏は、中低音域でじっくりとためて、続く高音へ駆け上がるパッセージを効果的に演出する所作と端正なタッチが際立ち、早川氏は音域全体を広く使っての唄うようなベースのライン取りによりバンドサウンド全体に強力な推進力を与え、橋詰氏はステディなシンバルレガートと硬質なスネアショットのバランスの巧みさでバンドサウンドの締まりをキープさせる仕事振りが冴え渡った。
そんなタイトなトリオの往き方におおいに刺激されと見え、大井氏のマレット捌きも抜群の溌溂さを見せ続けた。

そうして更に2ndセットの冒頭では、大井氏のお弟子さんの高波奈津さん、小竹満里さんが相次いで登場し、其々〈it don’t mean a thing if it ain’t got that swing〉と〈you don’t know what love is〉を日頃の精進の成果を発揮して果敢意欲的に表現しこの夜に華を添えつつ、更にはその後師匠と3人で一台の鍵盤を分け合い〈ルパン3世のテーマ〉を賑々しく仕立て上げた圧巻の一幕があったことはこの夜の構成面でも特筆に値しよう。
ご機嫌なピアノトリオにプッシュされ、可愛い愛弟子に囲まれながら、身体全体からメラメラと立ち昇るスイング感を遺憾なく発揮しつつ敢然と自らの主張を繰り広げた現在進行形の偉大なるショーマンたるマエストロに只々圧倒され通しの充実過ぎるひとときだった。聞けばこの企画は2023年も毎月第三金曜日に継続開催されるとのこと。未体験の聴き人の方には是非とも一聴をお薦めしたい。


#285 10月22日(土)

合羽橋 jazz & gallery なってるハウス
http://www.knuttelhouse.com/
原田依幸 (p) 纐纈雅代 (as)

合羽橋なってるハウスにて、原田依幸氏(P)と纐纈雅代氏(AS)のDUOを聴いた。聞けば同所でのこのおふたりの組み合わせはコロナ禍前以来実に約3年振りとのことであったが、当夜はその後の混迷の時代にあっても革新の速度を決して緩めることの無かった稀代の表現者おふたりの創造性の深淵を堪能出来る時間になったと言える。

極く短いブレイクを挟み、清浄なる世界観で幕開きし、最弱音の和音とロングトーンで終盤を締めた約2時間のステージを通して、緩急に亘る深く大きな気の畝りを伴いながら無から有を産み出し続けた音の連なりには度々息を呑まされることとなった。低音の強連打から高音域へと鍵盤全体を駆け抜ける原田氏の煌めき。管全体をまるで身体の一部のようにして自在に操り撥音から濁音混じりの咆哮迄をサウンドの中で効果的に掌中に収めた纐纈氏の凄味。そんな両者のエッセンスが見事に噛み合いながら収斂と解体が繰り返される刹那にあっても、終始スピード感とダイナミクスに対する細かい配慮が途切れることは無く、更に当夜は、その所々に自由に紡いだ印象的なレクイエムの響き迄も顔を出しながら…。
時に互いの内に鮮やかに斬り込み、時に互いに導かれ、「誘い水」を引き取り自らの場に引き寄せ鮮やかに変容させながら、と言うように、一音一音への強い拘りを持つ融通無碍なこの稀代のインプロヴァイザー達の持ち味が幸せな形で溶け合った鮮烈な音曼荼羅から立ち現れたのは、謂わば圧倒的な肉感的抒情とでも言えるものだった。

#286 10月25日(火)
西荻窪アケタの店
http://www.aketa.org/
「幽玄郷+1」:小山彰太 (ds) 市野元彦 (g) 石井彰 (p) 吉野弘志 (b)+津上研太 (as)

余りに長らくの無沙汰を振り返り自分でも驚いたのだが、実に1年振りの訪問となった西荻窪アケタの店にて、「幽玄郷+1」を聴いた。
小山彰太(DS)市野元彦(G)石井彰(P)吉野弘志(B)+津上研太(AS)
そのひと癖もふた癖もあるいずれも個性的な音楽路線を貫く表現者達の中でも、特に現在北海道在の彰太さんとは、’19/6ライブ時に一献を交わした後吉祥寺の街角でお別れして以来久しぶりの且つ待望の再会であり、それが更に氏の75歳のお誕生日当日とあっては感慨も一入の中幕が開いた。
果たして、久方ぶりの「お江戸詣でツアー」の初日とあってか、彰太さんのスティックにブラシにと時機を捉えながらドラムセット全体を巧みに制御しつつ抑制の効いたリズムを刻む溌溂振りに先ずは舌を巻いた。そうしてその勢いには絡めとられまいとしつつも盟友とも言える彰太さんと静かに一体となりながら深く広い世界観に根差したたっぷりとして骨っぽい風合いを醸し出す独特の物語を紡ぐ吉野さんの音運びに心惹かれた。更にはそんなおふたりのやり取りを横目に見つつサウンドの重心を自在に移ろい行かせる市野さんと、随所で余りに美し過ぎる響きを紡いだ石井さんの発する音の連なりにこちらの気持ちも程良い具合にほぐれる中、それら幽玄郷のメンバーの混じり合いの核心に鋭く斬り込み効果的な句読点を刻む研太さんの畝りのあるフレーズに刮目させられた。それらはひょっとすると当のご本人達にとっては全て計算し尽くされた手合なのかもしれないが、こちら聴き人にとっては、常に一寸先は予想も付かないスリルに満ち溢れた(妙な言い回しであるが)緩やかなジェットコースター・ラビリンスの連続であり、終始心躍らされた夜だった。今宵採りあげられた楽曲は実にバラエティに富み、各人のオリジナル曲(中には彰太さんの佳作〈円周率〉も含まれたが)を初めとして、井野信義作品やT.モンク作品、M.タイナー作品に加えてC.ヘイデン作品やO.コールマン作品も、そうして更には2ndセット冒頭では(休憩時間中の津上・石井・市野各氏の会話により画策された)HBソング迄も飛び出したが、そこにフリーフォームの音が顔をもだけたのはごく所々であり、どちらかと言えば全編に亘りフリーフォームの心が横溢したと感じたのは、決して私だけでは無かっただろうと今振り返り強く感じている。聞けば、彰太さんの次回上京は2023年5月と既に決定しているとのこと。まさに「冬来たりなば春遠からじ」であって欲しいものだ。

#287 10月27日(木)
渋谷 La.mama
https://www.lamama.net/
友川カズキ (vo/g) ROLLY (g/vo)

今宵の現場は初訪問の渋谷 la.mama。
その40周年アニバーサリーライブに登場したのは、友川カズキ氏(VO/G)とROLLYさん(G/VO)。題して「晩鐘は黄昏の季(トキ)〜秋深し 隣は何をする人ぞ〜」。因みにこの人口に膾炙した句は俳聖松尾芭蕉が元禄7年(1694年)旧暦9月29日芝柏亭での最後の俳席に向け急遽送付したとされ、その2週間後に死去したことから、「起きて」創作した最後の作品であり(因みに、生前最後の句は病中吟「旅に病で夢は枯野をかけ廻る」らしい)300年超の時空を超えた吟遊詩人の邂逅に想いを馳せながらの幕開けとなった。今宵は人気者の登場とあってかハコ内は超満員。優に100人を超えるお客様が固唾を呑んで見守る中、定刻19時からややあって客電が落ち、先ずはひとりタキシード姿のROLLYさんが舞台に登場した。
そこからの約1時間を通して、この表現者の疾走感溢るるステージに客席は完全にノックアウトされたと言える。先ず印象的だったのはそのギターワークの巧みさ。無駄なMCや客受けを狙ったような派手なパフォーマンス等を一才はさむことなく、自らのボーカルをより際立たせるギター演奏に没入する姿からは清々しささへ感じられた。そうして更に驚かされのが、その幅広い音楽全般に対する造詣の深さとでも言うもの。それは今宵の選曲からも窺い知ることが出来た。自身のオリジナルからは冒頭の〈雨夜の品定め〉(源氏物語から想を得た)やラストの〈恋のマジックポーション〉(32年前のtv番組:ダウンタウンのごっつええ感じのテーマでスマッシュ・ヒット曲)を。更にはバンド小僧の面目躍如たる(スウェーデンのエレキ・インストバンド)ザ・スプートニクスの楽曲や(オランダのプログレ・ロックバンド)フォーカスの楽曲が供されたかと思うと、(AKB48)〈10年桜〉、(岸田今日子作詞)〈パンツのはきかた〉、(寺山修司)〈そら豆の歌〉を並べた後に突然しっとりとした(千賀かほる)〈真夜中のギター〉が飛び出したりもする。それらを静かなギターの弾き語りのみならず、時にカントリー調で時にデルタブルース調で更には激しいロック調で仕立て上げたのだから堪らない。

今振り返り、(実際事前には失礼ながら色物ではとの臆測から訪問するか否かかなり迷ったのだが)今宵友川さんとの2マン・ライブで無ければ恐らく一生そのナマのステージに触れることは無かったであろうROLLYさんに出会えたことは私にとって大きな悦びとなった。
老舗のハコによる慧眼のブッキングはやはり一味違うな、と強く感じさせられた。

さて、超満員のドリンク&トイレ待ちの列が途切れたかなり長め30分のブレイクの後は友川さんのステージだ。目下、首痛・歯痛・腰痛と満身創痍の友川さんであるが、そこは「ライブ」の人、こちらも約1時間、新旧のオリジナル曲10曲超を取り混ぜて、いつも以上に渾身の舞台を披露してくれた。そこには勿論曲として完成されたメロディとリズムがあったが、今日特に強く感じられたのは氏の喉を通して発せられる言葉それ自身の連なりの中に自ずとメロディとリズムが宿るという事実。お恥ずかしながら今更そんなことを感じら れたのが今日 一番の収穫だったかもしれない。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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