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小野健彦の Live after LiveNo. 303

小野健彦のLive after Live #324~#331

text & photos by Takehiko Ono 小野健彦

#324 5月11日(木)
Jazz Cafe Dining Bar Jammin’ 都立大学 ジャミン
http://www.jammin-meguro.sakura.ne.jp/
渋谷毅 (p) 林栄一 (as) 

夕刻前の落雷事故影響にて東横線が止まり、なんと人生初の路線迂回を余儀なくされた当夜、荒天の兆しも気にしつつ途中の自由が丘駅での約1時間のタクシー待ちを経て向かった現場は先週 5/5 以来1週間振りの都立大学ジャミン。先週はさがゆき氏 (VO)と中牟礼貞則氏 (G)とのDUOであったが、今宵のステージもDUO。渋谷毅氏 (P)と林栄一氏 (AS) の手合わせである。おふたりの共演は、同所にてこれまで何度も行われていることは知りつつもなかなかタイミング合わずにて今宵待望の初体験となった次第。
果たして、定刻から遅れること30分。20時過ぎに開幕した今宵のステージは、1st Setは K.ワイル〈lost in the stars〉を幕開けにふたりで4曲。(他は〈let’s cool one〉〈old folks〉〈blue monk〉等)続く2nd Setでは冒頭の林氏ソロによる長いカデンツァからの緩やかなインプロヴィゼイションを皮切りに渋谷氏ソロによる5曲(〈memories of you〉〈i didn’t know about you〉〈skating in central park〉等)を経て最終コーナーは再び DUO による〈body & soul〉と続けて〈perdido〉で締めた。

以上全体を通して、SOLO(独白)とDUO(会話 or お喋り)が混在する構成が採られつつ、中でも特に DUO パートでは一曲毎にぽつりぼつりと会話し互いに頷きながら曲目が決められて行くというある種の和やかさをみせたが、それでも場は終始極く静かに進行するそれはまるで「居合い」のような目に見えぬ張り詰めた緊張感漲る気の畝りに支配された。訥々泰然とした渋谷氏と空間を鮮やかに切り裂く切実な林氏の各々のサウンドが緩やかに混じり合いこの時間と空間を音で繋ぎながらより佳き方向に向かおうとする気負いの無さが極めて印象的であり、ひとつひとつの所作のどこを切り取ってもそこに醸し出される屹立する音達の構えはなんとも腑に落ちるものであり、其々の個から発っせられた瞬間は畢竟ひとつの崇高な創造物として確たる像を結んで行った。


#325 5月13日(土)

行徳 Live Jazz Hot House ホットハウス
http://www.jbs-co.com/hothouse/
中村誠一 (ts) カルテット w:海堀弘太 (p) 沼上励 (b) 利光玲奈 (ds/vo)


今宵は千葉県市川市行徳にある(創業28年を迎えた)ホットハウスにて中村誠一氏(TS)のカルテットを聴いた。w:海堀弘太(P)沼上励(B)利光玲奈(DS/VO)。
同所を訪問するのは ’19/9 以来2度目となるが、前回お元気で可憐なプレイを聴かせてくれたご亭主の松井節子氏 (p) が長期療養中にて不在なのは寂しいが、このハコの灯を消すことなく表現者に大切な活動の場を提供し続けているママの大井さんとの久しぶりの再会はなんとも嬉しいところ。
まあそれらはそうとして、肝心の今宵の音、だ。
リーダーの誠一さんとは ’18/3 のニカズ町田ライブ以来の再会となるが、改めてそのテナーの纏うサウンドの深みと色気(艶)におおいに唸らされてしまう。
滋味深さと煌めきが同居しつつ大きな世界観から味わいのある節回しを展開するその様は説得力満点だ。冒頭の誠一さんオリジナル〈ヒマラヤ〉から満場のアンコールに応えた〈desafinado〉迄いずれも趣味の良いスタンダード・ナンバーの数々(〈just a gigolo〉〈undecided〉〈nearness of you〉〈our delight〉等々)を中心に据えながら誠一さんのファンキーなオリジナル〈隅田川〉や(休憩中の客席内でのザ・ピーナッツの話題の盛り上がりを受けたリクエスト曲)〈恋のバカンス〉迄バラエティに富んだ楽曲が飛び出した充実のステージを通して、バンドサウンド全体に耳をすますと誠一さんと僚友の沼上氏のベテラン勢によるブレのない盤石の縦軸に対して海堀・利光両氏による攻めの姿勢に富んだフレッシュな感覚がしなりの強い横軸となってサウンド全体に推進力を与えながらいついかなる曲想においても効果的な句読点を刻み込んで行く姿が清々しく、実に痛快なひとときだった。
尚、最後に、ステージ最終盤ではそれ迄終始クリアでシャープなドラミングを聴かせてくれていた玲奈さんに誠一さんからマイクが向けられて持ち味のチャーミングな喉で〈sweet pumpkin〉と〈they all laughed〉が披露され小粋な風を呼び込みながら場に華が添えらたことも特筆したい。

#326 5月16日(火)
合羽橋なってるハウス
https://knuttelhouse.com/
山崎比呂志 (ds) 井野信義 (b) TRYANGLE w 吉田隆一 (bs, etc)

今宵は合羽橋なってるハウスにて、山崎比呂志氏 (DS) が盟友の井野信義氏 (B)と共に創る入魂のプロジェクト:TRYANGLEを聴いた。今日のゲストは同所での2月初共演以来の手合わせとなった吉田隆一氏。その吉田氏と言えば年初の「The Third World of Jazz Plays 3 days@新宿PIT INN」を大成功裡に収め、またこの4/25には長年のライフワークとして来た無伴奏バリトンサックス・ソロを「SAKAI-境」盤に結実させるなどその活躍も目覚ましい存在だけに前回公演を見逃した私としては期待も大きく高まる中での開幕となった。
果たして、これまで多種多様な楽器(P、G、各種 SAX、TP、FL、尺八 etc)を迎え入れて来たTRYANGLEのことだ、今宵もその懐の大きさを見せつけながら吉田氏をしなやかに受けとめて行った。
今宵の吉田氏は、バリトンサックスを主楽器としつつも他にフルート、バスフルート、横笛、更には各種鳴り物等を駆使してそのマルチクリエイター振りを如何無く発揮してくれた。因みに1stセットでは、FLからBSを経てB.FLへと繋ぎ、2ndセットではBS、B.FL、横笛、BSの順にと両セット共に場の流れを巧みに捉えて各楽器を繰り出して行った訳であるが、中でも2種のフルートでは共に幽玄で内省的な世界観を静かに描き出し、主戦場のバリトンサックスについては、1stセットでは淀みの無い流れの中に豪放磊落なトーンを前面に押し出し、2ndセットでは、沈泥の趣きから徐々に高まる感情の畝りを激烈な咆吼の刹那の内に鮮やかに収めた。
私の印象としては、総じて今宵の吉田氏はミニマム(必要最小限)な往き方に徹したと言おうか、(この辺りに無伴奏ソロ追究の成果と影響が現れているように私には感じられたが、)抑制されたトーンと選び抜いた音達の流れで自らのアイデアを表現し尽くしたように思う。
そんな吉田氏に対して、山崎・井野両横綱の鉄壁の強靭さもおおいに際立った。互いに感じ合えば畢竟音はより佳き方向に流れる、を絵に描いたように、一夜の物語の中で静寂も鮮烈も各々の場面の輪郭は極めて明快かつ明確であり、終始折り目正しい音創りが印象的なひとときだった。
尚、最後に、今日の2ndセット中盤、三者のボルテージも最高潮に達した頃合いを見て取り、先月山崎氏と他所にて初共演を果たした立花秀樹氏(SS)がシットインして場に彩りを加えた場面があったことも追記したい。

#327 5月20日(土)
用賀「工房花屋」
https://www.koubou-hanaya.com/
「The Third Tribe」(TTT):小林洋子 (p) 池長一美 (ds)

今宵は初訪問となった東京世田谷区用賀にある「工房花屋」にて小林洋子氏 (P)と池長一美氏 (DS) によるDUOユニット「The Third Tribe」(TTT) を聴いた。
先ずは「工房花屋」について。東急田園都市線用賀駅から砧公園に続く石畳の遊歩道「いらか道」沿いに在って平成9年設立のこちらの建物は特に内装についてご亭主の鈴木元氏自らが手掛けた左官壁と木組みの天井に無数の花木と照明が溶け合って得も言われぬ落ち着いた雰囲気を醸し出す印象的なスペースであり、業態としては「五感空間」をコンセプトに生花販売を主体としつつ喫茶、ウェディング、各種撮影の場としての機能提供を行いながら最近ではジャズを中心としたライブを散発的に行なうなど私自身も注目していた空間だった。
次に、小林洋子氏及び TTT について。
’18のライブ復帰以降日増しに創造のマグマ噴き出しの高まりを見せて、最早先月始動の新ユニットOEN Org.を始め6種のユニットを同時主宰する脅威的な活躍を見せている洋子さんであるが、中でも ’18/9発足の TTT は復帰後の初ユニットでもあることからまさに入魂のプロジェクトであるものの、コロナ禍に阻まれマンスリーでの活動を停滞せざるを得ない状況だっただけに久しぶりのこのおふたりだけの邂逅はご本人達は無論のこと、かつて度々その現場に足を運んだ私としても感慨深い想いを持って今日の日を迎えたというのが偽らざるところだった。

果たして、地元在の熱心なリスナーも含め幅広い年齢層が見守った今宵のステージは、冒頭のスタンダード〈you stepped out of a dream〉に始まり、TTT 名義の『Nearly Dusk』盤から洋子さんオリジナルの〈Playground〉と〈Bonne yeah rit…..。〉及びアイルランド民謡〈Danny Boy〉(今宵は池長氏の幼少期の想い出に因んだ焚火Ver)に加え2ndセット冒頭に配置した〈never let me go〉と更におふたりのオリジナル各2曲を加えた全9曲が披露された訳であるが、そのステージ全体を通じて私が強く感じたのは、このユニットに接する時常に感じる「互いの関係性に対する処し方の妙」とでもいうもの。それは池長氏が MC で話をされていたようにベースが居ない分ドラムスがより解放されることに起因するのかは知る由もないが、おふたりの音創りを通して、一方が動いている時には他方は佇み、一方が攻めている場合には他方は抑えているという関係性の妙味が全体としてソロ+ソロ=デュオ以上に想像力の翼を広げさせることに繋がっててゆくと強く感じさせられるのである。
いずれにせよ、今宵久しぶりに対面した TTT は周到に用意された各楽曲の余白の中に揺蕩う叙情とこの日この刻に浮かんだ心象風景を滑らかに描き込んで見せてくれた。総じて皐月の薫風にも似た爽やかな音の連なりに接して、私にとってはコロナ禍を経て再び TTT の季節の到来を強く感じさせてくれるこの上なく嬉しい一夜となったことは確かだ。


#328 5月25日(木)

馬車道 上町63
http://jmsu.web.fc2.com/63/
清水麻八子 (vo) w:田中信正 (p) 西嶋徹 (b)

今宵は、横浜関内馬車道の上町63 にて今日が初対面の清水麻八子氏 (VO) を聴いた。w:田中信正氏 (P) 西嶋徹氏 (B) 。
実は私は最近まで清水氏の存在を全く知らずにいたのだが、過日同所の佐々木マスターが SNS上にて定期的に配信される同所でのライブ映像で馬場孝喜氏 (G)との共演において私の愛聴曲である加藤登紀子作(時には昔の話を)を歌っておられるのを聴きすっかりと魅せられてしまい、そこから清水氏の他の音源をYouTubeで辿ったところ私のアイドルである浅川マキ氏の歌唱曲を多く取り上げられており、中でも <マイ・マン>等の有名曲以外にこれまた私の愛聴曲である<あの人は行った>を歌われていたことからすっかりと清水氏の選曲のセンスに参ってしまい、これは断然現場に行かねばと熱望したのが今宵に至った経緯である。
まあそれらはそうとして、肝心の音、だ。今宵のステージは、清水氏自らが MC で芝居好きと言及されていたその趣味を反映した様な数幕に仕立てられた劇中歌の趣きを見せて行った。
箏奏者吉崎克彦作(風雅四妙)で幕開けした1stセット(=一幕目)では、その後状況劇場や水族館劇場の劇中歌等をインプロ風に調理しつつ、間に休憩を挟んだ二幕目では ’11 欧州留学から帰国後に知己を得た作曲家上野耕路氏の楽曲等を配しながら、それらの合間に(この辺りにはテント芝居の手法を色濃く感じさせられたが)クラシックの佳曲 <アヴェマリア> やシューマン作<美しき五月の唄>を如何にも効果的に差し込んで行った。そうして今日が初共演の三者の呼吸もかなり合って来た頃に訪れた第三幕がこれがなんとも圧巻であった。それらは前述の浅川マキ氏歌唱曲からなんと8曲!の大盤振舞い。以下に清水氏の許諾を得て私の記憶を辿りつつそれらを列挙すると、①今夜オーライ ②都会に雨が降るころ ③マイ・マン ④町の酒場で ⑤あの人は行った ⑥淋しさには名前がない ⑦夕凪のとき ⑧グッド・バイだった。
終わってみれば(清水氏 MC によると)準備した40曲の内全21曲!が披露された充実に過ぎる一大音絵巻だったという感が強い。
清水氏の唄は、各楽曲の世界観に浸りきらずに、少し離れて俯瞰して見せるその距離感が逆に各々の佳曲の旨みを際立たせることに功を奏しているように感じた。時に声を張り過ぎでは無いかと感じさせられる箇所はあったもののひとつひとつのコトノハは明瞭にして訴求力に富むものであり、この辺りにはこれまでに名うての表現者との共演で揉まれた高い実力を見せつけてくれたと言える。
一方で田中氏と西嶋氏である。流石は稀代の表現者のことだ、単なる歌伴に甘んじる瞬間は皆無であり、基本的に手堅くも時にトリッキーに振れながら終始攻めの姿勢を貫いて清水氏を強く刺激しながら物語進行の同行人に徹する姿が印象的だった。
総じて劇的ではあるが劇的に過ぎずに小ざっぱりとして秀逸なるインタープレイへ鮮やかに収斂させた三者の音創りの交歓に大満足の夜だった。
最後に、満場のアンコールに応えたカーテンコールは中川敬・山口洋共作 <満月の夕>だった。

#329 5月27日(土)
茅ヶ崎 JAM IN THE BOX
http://jitb-chigasaki.com/
カルメンマキのデラシネライブシリーズ’23 Phantom Pain vol.17
カルメンマキ(歌と鳴り物)清水一登 (p/vo) 丹波博幸 (g) 澤田浩史 (b) 鎌田清 (ds)

今宵は大変遅まきながら今年初対面となるカルメン・マキさんの声を聴きに隣町茅ヶ崎のJAM IN THE BOXを訪問した。
カルメンマキのデラシネライブシリーズ’23 Phantom Pain vol.17
カルメンマキ(歌と鳴り物)清水一登 (P/VO) 丹波博幸 (G) 澤田浩史 (B) 鎌田清 (DS)。
思い返せば、同所は ’20/3、私が初めてマキさんの音に直接触れた現場であり、一方今日のメンバーでのデラシネバンドは昨年7月荻窪ルースターにおける船出の夜に幸運にも立ち会えたこともあり、それら数々の得難き瞬間に想いを馳せながら開幕の時を待った。
果たして、20時前に開幕し、そこからの約2時間、凡そ20曲を擁した今宵のステージではマキさん自身がSNS上で語った前口上、「新旧オリジナルや 50〜70年代のアメリカンロックなどガンガン行きます」に違わない終始テンションの高さに溢れた音創りが展開された。
匠揃いの現デラシネバンドにあって昨夜特に印象に残ったのは鬼才清水氏のプレイ。同所に鎮座する銘機・ハンブルグスタインウェイを完全に掌中に収めつつラグタイム調の楽曲ではなんと味のある喉まで披露する快調振りを見せてくれた。丹波・澤田・鎌田各氏の生み出すタイトなサウンドが清水氏を鼓舞し、それを受けた清水氏がまさに原子核となりその細い腕と指から早いパッセージと力強い和音を繰り出す時、逆にバンド全体が強固な引き締まりを見せ、サウンド全体にスリルが漲る様は聴いていてゾクゾクさせられること度々であり、そんな男衆の大きな畝りに乗ったマキさんの声の伸びも申し分のないものがあった。常々、曲は旅をする、と語るマキさんであるが、今日のデラシネバンドも昨年7月の船出以来数々の時空を共に旅をし大きく深化を遂げメンバー同士の刺激合いの緊密度も大きな高まりを見せてくれたように思う。メンバー紹介以外のMCを省いたある種の潔ぎ良さもあり、馴染みの楽曲も少なからず含まれていたもののいちいちの詳細の出自までは知る由もなかったが、今私の望むのは、この令和の時代に問うマキさんの音であり、その意味では、ほぼ全編をソリッドなロックで貫いた気高き生涯一ロッカー渾身のステージは極めて清々しくおおいに快活なものだったと言える。

#330 6月3日(土)
成城学園  THE MOMENT JAZZ CLUB
https://themoment.tokyo/
the otherside quartet:古谷淳 (p) 千北祐輔 (b) 服部正嗣 (ds) 西口明宏 (ss/ts)

台風2号の影響による線状降水帯発生の恐れも無くなった今宵、初訪問となった成城学園のTHE MOMENT JAZZ CLUBにて古谷淳氏率いるthe otherside quartet を聴いた。
古谷淳(P) 千北祐輔(B)服部正嗣(DS)西口明宏(SS/TS)。
先ずはMOMENT JAZZ CLUBについて、昨年12月にオープンしたこのハコでは、金/土を中心に意欲的なプログラムが組まれており、私自身注目していたハコ。場所的にも小田急線成城学園前駅南口から至近であり少々の荒天も気にならないのは有難いところ。店内に入り先ず驚くのがその贅沢な内装だ。全てが無垢の木材で作られており、
それだけで今宵待ち受けるドラマの行方にこちらの高揚感も増すことに。
まあ、それらはそうとして、話を前に進めよう。次は本日のバンマス古谷氏のことだ。
氏とは昨年11月村上寛(DS)4に客演された際にご縁を頂いたが、今宵はその折りに感じた強靭さと繊細さが同居するタッチとパッセージから生み出される強い物語性が、聞けば来年結成10周年を迎えられるというこのユニットの同志達との協働により、更に昇華した形となって立ち現れて来ることを期待してこちらも腰を据えて開幕の瞬間を待ったという訳である。果たして、今宵私の眼前で繰り広げられた音創りを通していずれ劣らぬ骨っぽさを持つ表現者四人は特定の枠に囚われない解放感を遺憾無く発揮して、古谷氏の新旧オリジナル曲を中心とした躍動感に溢れスピリチュアルな芯を色濃く感じさせてくれるスケールの大きな楽曲群の世界観を如何にも生々しく具現化してくれた。全体のステージを通して古谷氏は、熱情と幻想と抒情を塩梅良く配置させたメロディの断片に対して抑制と煌めきの度合いを慎重に推し量るかのように音の連なりを重ね、それが畢竟全体としてストーリーテラーとしての卓越さを体現させたように思う。千北氏は終始骨太で説得力のあるそれはまるで地を這うようなベースラインでサウンド全体に明快な句読点を打ち、服部氏の鋭い打点のタッチから生み出される自由なリズムマネジメントはまるで頁をめくるように物語の進行に快適な弾みをつけていった。そんな確たるリズム隊のまとまりの間に間にあって西口氏のおおらかな語り口による捻りの効いたフレージングはこれがまた明確な自己主張を吐露して訴求力十分だった。
総じて、古谷氏が自身の HP上にてこのユニットに寄せた想い「アザーサイドで演奏する楽曲は皆自分にとってとてもパーソナルなテーマを持っている(中略)アーティスト三人の手を借りて楽曲たちが語るものが聴いてくれる人たちそれぞれの物語であることを切に願う」は、私に関しては(一切の忖度無しに)しかと受け止めさせて頂いた。それはとりもなおおさず幸いにも今宵行動し、彼らとの現場を共有し、バンドスタンドから溢れ落ちた麗しき音達が今紛れもなく萌芽となり私の身体の中にじわり感じられて来ているのだから。


#331 6月4日(日)

横浜野毛 Jazz Spot ドルフィー
https://dolphy-jazzspot.com/
quiet Ub-X:橋本一子 (p/vo) 井野信義 (b) 藤本敦夫 (ds)

今宵は横浜野毛ドルフィーにて、待望の「quiet Ub-X」を聴いた。
橋本一子(P/VO)井野信義(B)藤本敦夫(DS)。私はお初。
長らくご対面を切望していながらも、相変わらずその音創りの詳細についてさしたる予備知識のない中、真っ新な気持ちで迎えた開幕の瞬間。
先ずはその清冽なスピード感に唸らされた。
それは単にテンポの遅速にあらず、一音に込められた極度なまでのテンションの高さのことであり、以降三者は全体のステージを通して、何ものにも囚われない自由度を発揮しながら極めて抑制された高い緊密度を保ちつつ、解像度に秀でた音のせめぎ合いを展開していった。御三方の音創りに接していて、編成はピアノトリオでありつつ途中ハイパーな〈all the things you are〉が飛び出した一場面もあったものの、総じて各々が依って立つジャズ・イディオムに敢えて固執していると感じられた局面は少なく、他方、其々は各々の操る楽器に関するマスターでありながら、時にそのことへの拘りから離れて、Ub-Xというひとつの楽器としての解放感と拡がりに強く想いを馳せているのではと思わされること度々だった。其々の意識が意識下で静かに交錯しつつ新たな像を結び、それが再びゆっくりと頭をもたげて来たとでも言おうか。そんな境界線を行き来する軽やかな身のこなしの持つ自由度にこのユニットの旨味を感じ細胞が沸き立つ想いをしたのは私だけではあるまいと今振り返り強く実感している。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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