Live Evil #41 「福盛進也トリオ」@Cotton Club

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text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
写真提供:COTTON CLUB
photo by Yuka Yamaji 山路ゆか

2019.6.14 丸の内 Cotton Club
ECM Artist in concert 2019 vol.6

福盛進也トリオ
福盛進也 drums
トリグヴェ・サイム sax
ウォルター・ラング piano

01.Timeless (John Abercrombie)
02.Flight of a Black Kite (Shinya Fukumori)
03.Sorrow March (Trygve Seim)
04.Takibi (Shigeru Watanabe)
05.Randalusian Folk Song (Trygve Seim)
06.For 2 Akis (Shinya Fukumori)
07.Spectacular (Shinya Fukumori)
08.Little Brother (Walter Lang)
09.Birth (Shinya Fukumori)
10.Snow Castle (Walter Lang)


福盛進也のトリオを聴くのは昨年(2018) 4月の渋谷・ラトリエに次いで2度目である。但し、今回はサックスがマチュー・ボルデナーブからトリグヴェ・サイムに代わっている。今回のコットン・クラブでの公演は「ECM Artist in concert」と名付けられた一連のECM 50周年記念ライヴのVol.6だったので、「レギュラーのマチューに代えてECMアーチストのトリグヴェを起用したのか?」との問いに、福盛は「50周年企画とはまったく関係ありません。というか、あまり自分の音楽にイベント事を持ち込みたくない、と思っております。」と毅然と答えを返し、「これから先の自分の音楽を創っていく中で、彼の向かっている方向性に限界を感じてしまいました。今まで培ってきた音楽面での信頼に揺らぎが出始め、長い時間考えた結果、これ以上一緒に演奏することはできないという判断で彼にはトリオを去ってもらいました。」と明確にその理由を告げた(本誌ツアー直前緊急Interview #185)。サックス、ピアノ、ドラムスという編成にとって、メロディ楽器であるサックスの比重は圧倒的に大きい。とくに福盛トリオのようにメロディを重視するユニットではなおさらだ。次作がリリースされるまではデビュー・アルバムを追体験すべくリスナーがライヴに足を運ぶのが通例なので、レコーディング・メンバーはトリオにとって不可欠なはずだ。そのオリジナル・メンバーの首を切って新しいサックスにすげかえた!、これは大きなリスクを伴う決断のはずである。しかし、福盛はいう。「トリグヴェの演奏を初めて耳にしたのは10年以上も前のこと。ちょうどECMが好きになった頃に彼のサウンドに出会い、こんな美しいサックスの音色はこれまで聴いたことがなく、衝撃的だったことをよく覚えています。いつか一緒に演奏したいと片想いの時間が何年もありました。」と。さらには、「これまでヤン・ガルバレクの音が代表的だったノルウェーのサックス界が、トリグヴェの出現で見事に新たな風が吹き、革命が起きたのは紛れもない事実。」とまで断言する (Blue Note Club / What’s New)。福盛にとってトリグヴェは共演を待ち焦がれていた念願の奏者だったのだ。

トリグヴェ・サイム Trygve Seim は、1971年、オスロの生まれ。トロンハイム音楽院でジャズ・サックスの教育を受け、1992年以来プロとして活動。ECMでの録音活動は、2002年の『The Source and Different Cikadas』(ECM1764) 以降リーダー・アルバムは7作を数え、2003年のクリスティアン・ヴァルムルーの『Sofienberg Variations』(ECM1809) に始まる共演作は15作に及ぶ。来日経験はすでに数回に及ぶが彼の足跡は Office Ohsawa 大沢知之氏のブログ Real&Trueに詳しい。トリグヴェは1984年生まれの福盛のひと回り年長で、1961年生まれのウォルター・ラングはさらに10歳年が離れる。日本に発つ前にこの新しいトリオでミュンヘンでの公演があったのだが、「素晴らしい成果があった」と福盛の目が輝いていた。その後、ソウルでの公演を経てコットン・クラブのステージに立ったのだ。

ワンセットで許された時間は1時間弱。福盛は、「できるだけ演奏を聴いていただきたいので途中のトークは無しにします」と言い残し、ラングとトリグヴェを紹介しただけで演奏を始め、9曲をストレートで演奏した。上に掲げたセットリストは後日入手したもので、オープナーがジョン・アバークロンビーの<Timeless>とは現場では気が付かなかった。これはECMファンへの挨拶、あるいはECM第一世代に対するリスペクトの証しだったのか。前半に2曲トリグヴェのオリジナルを配し、トリグヴェの存在感をアピールする。トリグヴェは非常に構成力のある音楽家でテーマからソロにいたるまで一音の無駄もなくきっちり組み立ててみせる。ヤン・ガルバレクが愛用していたカーヴド・ソプラノでノルウェーの民謡に取材した自作曲の演奏ではどことなくヤンを彷彿させるが、音色はヤンより野太くトリグヴェ独自のものを聴かせる。ノルウェーの民謡に続いて日本の童謡<たきび>が演奏される頃には”福盛ワールド”が全開、デビュー・アルバムから<For 2 Akis>と<Spectacular>が続けて演奏され1stセットはクライマックスを迎えた。福盛のドラミングはブラシやブラシのスティックまでを駆使した最微弱音からタムを連打する最強音までダイナミック・レンジは広いがソロにあってもフルセットを叩きまくるということはない。ラングも饒舌というタイプではまったくなく、選び抜いた音をもっとも効果的に配していく。アンコールはラング作の<Snow Castle>で、ラングとトリグヴェがたっぷりラング節を聴かせた。総じてこの夕べは過度にメロディの美しさに頼ることなく、隅々まで抑制の効いた快い緊張感に満たされていたといえよう。トリグヴェを得たことで、マンフレート・アイヒャーの美学に支配されていたレコーディング・トリオから一歩前進、アイヒャーの美学を栄養としながらもアイヒャーの呪縛から脱却した新しい福盛進也トリオが歩みを始めたといえよう。2ndセットを聴くチャンスには恵まれなかったが、1stセットからだけでも充分そのことがうかがい知れたのだった。

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稲岡邦彌

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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