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No. 204Live Evil 稲岡邦弥

#010 Ky Japan Tour 2014「生きるという営み」

2014.11.30@東京・千駄木「記憶の蔵」
text & photo: 稲岡邦弥 Kenny Inaoka

スライド・ショー「ウイグル民族の記録」(2009):谷内俊文
ドキュメンタリー映画『黒い肺・黄金の腹』(1976):エリック・ピタール
演奏:Ky
仲野麻紀(alto-sax/clarinet/percussion)
ヤン・ピタール(oud/guitar)

今回のKy(キィ)のジャパン・ツアーは1ヶ月前後続いたはずなのに、スケジュールの都合がつかず、僕が潜り込めたのは最終近くの千駄木の「記憶の蔵」。「蔵」はあくまで抽象的な意味に捉えていたのだが、着いてみると文字通り住宅地の中の民家の蔵だった。僕は青梅の廃業した質屋の蔵をレコード倉庫として使わせていただいているのだが、民家の蔵がミニ・シアターとして映画館やライヴハウスに早変わりするとは想像もしなかった。キャパは詰めに詰めて30人くらいだろうか。僕は出演者が出入りする真ん中の通路に座布団を敷いて立膝を両手で抱え込んで座った。しびれを切らさないように時折り膝を倒したり開いてみたり..。

オープニングは谷内俊文のスライド・ショー。2009年撮影の新疆ウイグル自治区でのウイグル族の記録。自らのアイデンティティを守るために漢民族との文化的同化を拒み中国とさまざまな軋轢を抱える彼らの表情は暗く、むしろ無表情に近い。銀塩と思われるフィルムが醸し出す手触りは温もりに満ち、Kyのはまった演奏に呼応し今にも彼らが動き出しそうな錯覚に襲われるのだが。終演後、彼らのDNAを埋め込んだインクで印刷したという写真集『Lineage』を観た。ドキュメンタリー映画『黒い肺・黄金の腹』は、70年代フランス北部の炭鉱夫の一日を追った短編。炭塵を吸い込んだ炭鉱夫の黒い肺と石炭で儲けた経営者の黄金の腹。ウード奏者ヤン・ピタールの父親の作品という。Kyの演奏はここでも映像と付かず離れず、観客のイマジネーションの振れを増幅する。この日、時間の関係でエリックの長編『危機的時代におけるセックストーイの使い方』は上映されず、仲野のヴォーカルとアルト、ピタールのギターでメインテーマが披露されたが、シャンソン風のとても印象的なメロディで、映画を離れて充分自立する楽曲だった(会場で買い求めたサントラ盤はセンスとウィットに満ちとても楽しめる内容だった;http://www.jazztokyo.com/gallery/gallery30.html)。Kyの演奏はあえてカテゴライズするならワールドミュージック的といえようが、「生きるという営み」というシリアスなテーマにヒューマンな温もりを与え、「それでも生きる」という悦びを引き寄せることに成功していたと思う。その象徴がアンコールで演奏されたブルターニュ地方のフォークダンスのロンドではなかったか。

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稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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