#28 居座る虎〜●●●●とリトアニア

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text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

Jazz Tokyo恒例の年末特集「この1枚」に昨年は「このライヴ/コンサート」と題し、もっとも印象に残ったナマ演奏の選考を加えたところ原稿量が膨大になり、結論としてとりあえずリストだけを掲載することになった。選考結果と共に素晴らしいコメントを寄せてくれたコントリビュータが多かったので順次 それぞれのコラムで紹介していきたい。名盤は廃れない。時を超えて生き長らえるのが名盤だから。
ここでは、昨年、僕のもっとも印象に残ったアルバムを書き留めておきたい。

■ 国内盤

国内盤については選出された当事者より2019年9月17日付けにて、突然、本誌に掲載された当人に関する記事、画像を早急にすべて削除するよう強い要請が出され、その理由として、「当方はこれ以上の掲載を望まず、第三者による閲覧を防ぐ事を目的とします。」とありました。拒否の場合は法的措置も辞さないという構えであることから当誌としては執筆者の同意を得てやむなく削除することといたしました。(2019年9月20日)

(■ 海外盤
『Jazz from Lithuania 2010』

NoBusiness Records NBLTCD1(非売品)

1. The Vilnius Explosion/Untiled(The End)
2. Juozas Milasius/The Rowels of Spurs
3. Kestutis Vaiginis feat. David Berkman & Herman Romero
4. Vytautas Labutis Quartet/After Hours
5. Dainius Pulasukas Group/Expromtum
6. Spontanica/Spontanica VIII
7. Charles Gayle-Domic Duval-Arkadijus Gotesmanas/Our Souls
8. Egidijus Buozis Quartet/Froglet’s Dance
9. Liusdas Mockunas-Marc Ducret/And
10. Arturas Anussauskas Quartet/Balade
11. Aprasymaa/Exad
12. Baltic Jazz Trio/Free Samba
13. Saga Quartet/Not a Dilemma Any More
14. Kaunas Big Band/Harlem Airshaft

Produced by the Lithuanian Jazz Federation, Liudas Mockunas and Vytis Nivinskas
Co-produced by NoBusiness Records, Danas Mikailionis and Valerij Anosov

去る9月、ピアノの宝示戸亮二(ほじと・りょうじ)とのデュオCD『バケーション・ミュージック』の発売を機にツアーを敢行したマルチ・リード奏者リューダス・モツクーナス(別項にインタヴューを掲載)から手渡された。人口三百数十万の小国とはいえ、一国のジャズの全貌を一枚のCDで伝えきれるはずはないが、少なくともリトアニアというバルト三国の一つの現在のジャズ・シーンの精髄を切り取ったものであることは間違いない。モツクーダス自身の演奏も3曲収録されているが(#1、9、13)、リトアニア・ジャズの尖兵として各国のミュージシャンと渡り合う彼の存在感を存分に示すものである。
オープナーは、今年9月奇しくも日本で鉢合わせとなったスカンジナヴィアと東欧(東欧という分類はソ連時代の政治的な意味合いを持っており、ソ連崩壊後の現在は中東欧または北欧と分類されるようだ)の最強のリード奏者マッツ・グスタフソン(スウェーデン)とモツクーダスの壮絶なバトルで“平成の惰眠”を木っ端微塵に吹き飛ばされる。一方、クローザーは、ランディ・ブレッカーが参加したカウナス・ビッグバンドがエリントンの<ハーレム・エアシャフト>を一糸乱れぬ見事なアンサンブルでスインギーに締めくくる。その間、ソロ、デュオ、トリオ、コンボとさまざまなフォーマットでオリジナルが演奏されるが、どの演奏も卓越した技量と創意に耳を奪われる内容で、リトアニアの豊穣なジャズ・シーンが見事にプレゼンテーションされている。
リトアニアは独立、合同、分割、消滅、侵略など国家として多難な歴史を背負っており、ソ連時代にはKGBの厳重な監視下でジャズが演奏されてきた。自由を獲得したのは1990年のソ連の崩壊による共和国の再建以来で、わずか20年が経過したに過ぎない。(リトアニアのジャズの歴史については、別項のヨナス・リムサ氏のエッセイを参照願いたい
圧政下のアングラ的雰囲気を引きずっている演奏もあるが、多くの演奏にみられるのはジャズ本来が持つ楽しさであり内在するリズムである。そして傑出したアイディアと技術。この技術はソ連時代から続く充実した音楽教育の成果によるものに違いない。クローザーの華やいだビッグバンドの演奏が、リトアニア・ジャズの真の開花に向けての祝杯に聞こえてならない。
なお、本CDの制作はリトアニア・ジャズ連盟で、上記モツクーダス氏とリトアニア唯一のレコード会社No Businessのヴィチス・ニヴィンスカス(Vitis Nivinskas)氏が手を貸している。プレス向けの非売品であるが、興味のある向きはNoBuziness Records社(nobusinessrecords@mail.com)へ連絡すれば入手できるはずである。(稲岡邦弥)

追)休刊となった「スイング・ジャーナル」誌の元編集長・中山康樹は月刊「JAZZ JAPAN」誌11月号所載のエッセイ「癒されないジャズ考現学」第2回で、“「音楽を書く」という行為において最大の難関に挙げられる「誰もが知っているミュージシャンやアルバムについて書く」ことを避け、評論家の仕事を「知られていないミュージシャンやアルバムを紹介すること」と勘違いし、無意識のうちに「逃げ」を打ちつづけている”と述べているが、誰も知らないリトアニアのジャズのコンピレーションを“今年もっとも印象的なアルバム”として紹介することは “勘違い” も甚だしく、中山の言う「逃げ」の典型に違いないと思われる。しかし、中山は「誰もが知っているミュージシャンやアルバムについて書」き続けた「スイング・ジャーナル」誌と、ジャズCD業界の衰退および同誌の休刊の事実との因果関係については触れていない。連載の佳境に筆を進めるのだろうか。期待したい。
関連リンク:

http://www.jazztokyo.com/column/rimsa/001.html
http://www.jazztokyo.com/interview/interview090.html

#初出 Jazz Tokyo #151 (2010.12.24)

稲岡邦彌

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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