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Reflection of Music 横井一江No. 336

Reflections of Music Vol. 108 高瀬アキ
〜ドイツ・ジャズ賞[生涯功績部門]受賞、Timeless Project in Japan

高瀬アキ @新宿PIT INN & 静岡青嶋ホール 2026
Aki Takase @Aki Takase @Aoshima Hall in Shizuoka, March 21, 2026 & Shinjuku PIT INN, April 03 & 04, 2026
photo & text by Kazue Yokoi 横井一江


ベルリン在住の高瀬アキが3月から4月にかけて帰国し、サックス奏者ダニエル・エルトマンを伴って日本ツアーを行った。それが終わり、エルトマンが帰途についた4月15日、良い知らせが届く。ドイツ・ジャズ賞生涯功績部門で高瀬アキが受賞することが発表されたのだ。同賞の発表並びに授賞式は、2026年4月25日に jazzahead! の20周年記念プログラムの一環としてブレーメンのコングレス・センターにて開催されるが、生涯功績部門のみ事前に発表するのが慣例となっている。

このドイツ・ジャズ賞 Deutscher Jazzpreis はコロナ禍の2021年に当時のドイツ連邦文化大臣モニカ・グリュッタースの肝入りで創設された賞で、現在は22部門あり、演奏家だけではなく、フェスティヴァル、評論家などもその対象となっている。ちなみに高瀬アキは2021年にピアノ/キーボード部門で受賞、また2024年には夫であるアレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハが生涯功績部門とピアノ/キーボード部門でW受賞した。

授賞理由はプレスリリースによると「数十年にわたり、作曲と即興、さらには多様な文化的文脈や美学的伝統のあいだを行き来する、独自の音楽言語を体現してきた」ことによる。また「 ジャズを固定的で不変のものではなく、常に変化し続ける開かれた実践として捉えるアーティストとしての彼女を高く評価して」おり、「その影響力が、とりわけ参加型の創作手法や、そこから生まれた多様な音楽的横断性に顕著に表れている」ことを挙げていた。1970年代にジャズ・ピアニストとしての活動を始めた高瀬だが、1981年のベルリン・ジャズ祭出演をきっかけにヨーロッパでツアーを行うようになり、1988年にベルリンへ移住してそこを拠点に活躍してきた実績が認められたということである。

なお、同賞の受賞にあたり、高瀬は「キャリアも終盤に差しかかっているのかもしれませんが、夫のアレクサンダーとともに、できる限り長く音楽活動を続け、健康で《Take the AA Train》し続けられることを心から願っています」とコメントしていた。AAはタイプミスではなく、AkiのAとAlexanderのA、ジャズファンならば誰でも知っているエリントンの有名な曲名をもじってそう言ったのである。

今春のツアーは、高瀬とダニエル・エルトマン (sax) とのデュオとそれにプラス・ワンで内橋和久 (g, daxophone) あるいは瀬尾高志 (b) のトリオ編成やゲストでダンサーの岡登志子や垣尾優を迎えた公演、エルトマンと共同で始動したばかりの Timeless Project で行われた。その主軸のひとつはデュオである。高瀬ほど長年に亘ってデュオというフォーマットでの演奏にこだわってきたミュージシャンはいないだろう。個と個が即興で直にぶつかり合うことの面白さ、そのインタープレイから新たにサウンドが引き出されることに着目し、自身の音楽プロジェクトのひとつとしてデュオを位置付けている。アルバムとしては井野信義 (b) との『天意無縫』(Mobys, 1985)  が最初だが、ドイツに移住後にマリア・ジョアン (vo) とのデュオで注目され、以降アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ (p)、デイヴィッド・マレイ (sax)、ルディ・マハール (bcl)、ルイ・スクラヴィス (cl, bcl, ss)、ローレン・ニュートン (vo) などと演奏してきた。そして、2018年に高瀬の「JAPANIC」のメンバーとなったダニエル・エルトマンとはデュオ活動も行うようになり、来日時に特別先行販売した3枚目のアルバム『Timeless』(enja) を今夏リリースする。フランス在住で自身のバンド、ヴェルヴェット・レヴォリューション Velvet Revolution  などで独仏で活躍するエルトマンは今年3度目の来日。実に表現のバリエーションが豊かなサックス奏者だ。特に印象的だったのは以前に新潟を訪れた際に着想を得たという作品《Niigata》でピアノに近づき、屋根に向かって吹くことで谺する音を音響的に取り込むという面白いことを試みていた、

そして、今回の帰国公演で試みた Timeless Projectは、高瀬とエルトマンのこれまでの共同作業から、より大きな編成で活動し、実験的に音楽の可能性をさらに広げたいという願いから生まれた。2025年秋にベルリンでのアンサンブル公演で始動。2026年秋にはフランクフルトで若い世代のミュージシャンを集めてワークショップを行い、その成果とし Timeless Workshop Orchestra での公演が決定している。それに先立っての東京と札幌での Timeless Project 公演だった。東京では20代から70代まで、第一線で活躍する多彩なミュージシャンを集めた特別編成のラージ・アンサンブルでの演奏。リズムセクションは高瀬と長年に亘って共演してきた井野信義 (b)や共にツアーした田中徳崇(ds) だが、管楽器奏者は吉田隆一 (bs) を除いて初顔合わせ。国内のジャズ・ミュージシャンの活動を日常的に追いかけているファンから見ると一風変わったメンバー構成だったかもしれないが、吉田が上手くサポートしていた。アレンジされたパートと即興演奏によって音が立ち上がっていき、作品が構築される。各所で個々の持ち味が活きており、それが奏功してライヴ・ミュージックたるジャズのあるべき姿がそこにあった。札幌もリズムセクションは共演歴のある瀬尾高志 (b)と田中徳崇だったが、吉田野乃子 (as) を始めとする北海道を拠点にする若手ミュージシャンを集めた編成で当然のことながら初めて知るミュージシャンばかり(*)。だが、ワークショップを兼ねたリハーサルを2日間行ったことから、高瀬が考えていた以上によい結果が得られたという。高瀬は若い人達が前向きに新しいことに取り組んでくれたことが嬉しかったようだ。世代的なことも含めて多彩なバックグラウンドを持つメンバーが集合した今回のTimeless Projectによる東京と札幌の公演は、このプロジェクトを継続するためのひとつの弾みとなったのではないか。

プロジェクト名が Timeless(=時代を超越した) であるように、「過去の良いものを未来のアイデアと今につなぎ合わせたい」という高瀬の意図が今度ドイツなどでこのプロジェクトを展開していく中でどう進化していくのかが楽しみだ。


高瀬アキ (p)  ダニエル・エルトマン (ts, ss) DUO
2026年3月21日 静岡市青嶋ホール

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Timeless Project in 東京
高瀬アキ(p, cond)、ダニエル・エルトマン(sax)、塙正貴(as)、吉田隆一(bs)、山田丈造(tp)、後藤篤(tb)、井野信義(b)、田中徳崇(ds)、赤い日ル女(voice)

2026年4月3日 新宿ピットイン

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2026年4月4日 新宿ピットイン

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【注】

*Timeless Project in 札幌のメンバーは下記のとおり
高瀬アキ(p, cond)、ダニエル・エルトマン(sax)、瀬尾高志(b)、田中徳崇(ds)、按田佳央理(fl)、主枝涼(as)、吉田野乃子(as)、野村碧斗(tb)、坪田佳之(tuba)、塚原義弘(g)

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記念本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 https://kazueyokoi.jimdofree.com

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