Reflections of Music Vol. 109 木村泉&ジェリー・ヘミングウェイ
木村泉&ジェリー・ヘミングウェイ @両国門天ホール 2026
Izumi Kimura & Gerry Hemingway @Ryogoku Monten Hall, April 30, 2026
photo & text by Kazue Yokoi 横井一江
ジェリー・ヘミングウェイが来日した。前回はWHOトリオ[ミシェル・ ヴィンチ Michel Wintsch (p) バンツ・オスター Bänz Oester (b) ]での2016年だから、11年ぶり。 初来日はおそらく1998年だろう。ボブ・オスタータグの”Say No More”[オスタータグ (sampler) フィル・ミントン(vo) マーク・ドレッサー(b) ジェリー・ヘミングウェイ(ds)]のコンサートや新宿ピットインでは加納美佐子 (p) とのデュオで演奏している。前回来日時は見逃しているが、同年のベルリン・ジャズ祭でアキム・カウフマンのプロジェクト「SKEIN extended」のメンバーとして出演していたのを観た。その時にヘミングウェイはルツェルンの大学で教鞭をとっていると誰かに聞いた記憶がある。
ヘミングウェイはフリージャズ、即興音楽での活動で欧米では高い評価を得ている作曲家/ドラマー/パーカッショニスト。だが、日本ではしばらく来日していないこともあり、語られることが少ないので、まず彼の楽歴についてごく簡単に記しておこう。
1955年生まれのヘミングウェイは、1970年代にニューヘイヴンで活動を始め、アンソニー・ブラクストン (sax)、ワダダ・レオ・スミス (tp)、ジョージ E. ルイス (tb)、アンソニー・デイヴィス (p) などと出会い、共演し始める。1983年から1994年まで参加したアンソニー・ブラクストン・カルテット[他のメンバーはマリリン・クリスペル (p) マーク・ドレッサー (b)] での活動でその名が知られるようになる。1980年代後半にはレジー・ワークマン・アンサンブルでも演奏。また、レイ・アンダーソン (tb)とマーク・ヘライアス (b) とのトリオ「BassDrumBone」でも半世紀近くに亘って活動している。また、セシル・テイラーを始めとする多彩なミュージシャンと共演してきた。
2009年以降はスイス・ルツェルンを拠点に、ヨーロッパの即興音楽シーンとの結びつきを深めている。ゲオルグ・グラーヴェ Georg Gräwe (p) とエルンスト・レイスグル Ernst Reijseger (cello)とのGRHトリオ、来日した WHO トリオ[ミシェル・ヴィンチ Michel Wintsch (p) とベンツ・エスター Bänz Oester (b)]、ゼバスチャン・ストリニング Sebastian Strinning (ts, bcl) とマヌエル・トローラーManuel Troller (g) との”Tree Ear”、自身のカルテットやクインテットなどで演奏。また、デレク・ベイリー(g)、エヴァン・パーカー(ts, ss)、ジョン・ブッチャー(ts, ss)、トーマス・レーン(syn)、フランク・グラトコフスキー(sax)、サイモン・ナバトフ(p)など数多くの即興音楽系ミュージシャンとコラボレートしてきた。ドラマーとしての活動に加え、作曲家としての作品制作にも力を注いでいる。アメリカのフリージャズとヨーロッパ即興音楽の双方を繋ぐ存在だ。
今回はアイルランド在住のピアニスト木村泉とのデュオでのツアーだった。木村泉は桐朋学園大学卒業後、1995年に移住したアイルランドで、ジャズ・ミュージシャンや即興演奏家と知り合い、現在はクラシック/現代音楽から即興演奏まで幅広い活動を行っている。2016年に初めて一緒に演奏し、以後バリー・ガイ (b) とのトリオ、またヘミングウェイとのデュオ活動をスタート、継続的に活動してきた(→インタビュー)。ヘミングウェイとのデュオでは『Kairos』(Fundacja Słuchaj, 2023) と『How the Dust Falls』(Auricle, 2025) をリリースしている。
ヘミングウェイとピアノのデュオというと、マリリン・クリスペルとのアルバムがまず思い浮かぶ。セシル・テイラーの影響下から出発し、独自にサウンドを構築するスタイルを打ち出したクリスペルと木村は全く異なるタイプの演奏家だ。木村とのデュオは、爆発するエネルギーには頼らず、より音色や呼吸を意識した演奏。ゆえに色彩感や微細なサウンド、音響的な表現、間合いを大切にしたダイアローグで独特の空間が構築されていく。
両国門天ホールでは、長めのワン・ステージで、完全即興演奏ではなく、構成が決まった作品を主に演奏。ここではピアノの内部奏法や特殊奏法はなかったものの、ヘミングウェイの多彩なアプローチによる音色の変化といい、このデュオの特性がよく現れていた。二人が繰り出すサウンドが絡み合い、融合して流体のように変化しつつ、音響的に空間を満たたす。演奏曲の中で唯一五線譜に書かれていた《Cloud Echoes》は、世界で起こっている悲しい出来事に思いを馳せて書いた曲だった。木村が首に巻いていたのはクーフィーヤだろう。いかなる時も我々は世界の政治情勢と無関係でいることはできない。どこかで生活と繋がっているからだ。静かにプロテストする姿勢から、木村が長年住んでいるアイルランドは長きに亘る宗主国との闘いの歴史があることがふと脳裏に浮かんだのは偶然か。また、ヘミングウェイは1920年代に録音を残しているゴスペルの先駆的存在であるギター・エヴァンジェリスト、ブラインド・ウィリー・ジョンソンの《Dark Was The Night, Cold Was The Ground》が原曲の《This Waiting Place》を歌った。彼のハーモニカ演奏もまたシンプルながらも耳に残る。古いゴスペル/ブルースも不思議とプログラムにハマっていた。彼は歌うのも好きなようで、『Afterlife』(Auricle, 2022) というヴォーカル・アルバムもリリースしているが、デュオ活動の中で歌もシームレスにつながっているのもまた興味深い。
二人が創出したサウンドの存在感を抱きながら帰路についた。もっと幅広く知られていいユニットだろう。
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Gerry Hemingway, Izumi Kimura, ジェリー・ヘミングウェイ, 木村泉
