Reflection of Music Vol. 69 アクセル・ドゥナー

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アクセル・ドゥナー @Ftarri Festival スーパーデラックス  2008(東京・六本木)
Axel Dörner @Super Deluxe, Ftarri Festival Tokyo, April 20, 2008
(一番上の写真は2007年7月20日東京にて撮影)
Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江


2019年度のベルリン・ジャズ賞 Jazzpreis Berlin はアクセル・ドゥナーに決定、6月27日にはベルリン・ブランデンブルグ放送局 (RBB) 小ホールで授賞式とコンサートが行われた。この賞はRBBとベルリンの文化局が3年前に創設した新しい賞である(賞金は15,000ユーロ)。「意図的に伝統的な奏法から離れることによって、アクセル・ドゥナーは全く新しい音空間を創造し、大きな注目と聴衆に予期せぬ喜びを与えた」ことが評価された。一般的なジャズとは異なった方向性で独自の道を探求してきたアクセル・ドゥナーにジャズ賞が与えられるのは、国籍を問わず様々な背景を持ち芸術家や音楽家が多く住み、交流しつつ未来へと繋いでいるベルリンならではなのかもしれない。

アクセル・ドゥナーといえば、日本では、ロビン・ヘイワードやアンドレア・ノイマン、アネッタ・クレブスなどと即興音楽のあり方を模索していたゼロ年代初頭からの即興音楽シーンでの活躍のほうがよく知られているように思う。ちょうど音響派、ベルリン・リダクショニスト、ニュー・ロンドン・サイレンスなどと呼ばれた演奏家が、ほぼ同時期に東京、ベルリン、ロンドン、ウィーンなどから出てきて、交流し始めた頃である。それぞれの音楽的なバックグラウンドは様々だったが、ジャズ/フリージャズを演奏してきたミュージシャンはさほどいなかったように記憶している。

しかし、アクセル・ドゥナーは10代の頃からジャズ演奏家に学び、ケルンの音楽大学に進んでいる。その頃ケルンに住んでいたジョン・アードレーにトランペットを習い、パリでスティーヴ・レイシーのレッスンも受けたことがあるという。ケルン時代はフランク・グラトコフスキ、あるいはマチアス・シューベルトらのユニットで演奏している。1994年にベルリンへ出てきてから、ルディ・マハールと知り合い、「ディー・エントィシュング(失望という意味)」での活動を始め、セロニアス・モンク作品を彼ら独自の解釈で演奏していた。それがアレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ の目に留まり、2人はベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラやグローブ・ユニティ・オーケストラにも呼ばれることになる。それだけではなく、彼らに刺激を受けたシュリッペンバッハ は、「ディー・エントィシュング」と共に全モンク作品を一日のコンサートで演奏するというプロジェクト「モンクス・カジノ」をスタートさせた。その3枚組CDがヨーロッパだけではなく、アメリカでも評価を受けたことは記憶に新しい。この失望バンド「ディー・エントィシュング」での活動は続いており、現在はメンバーのオリジナル曲を演奏している。

ドゥナーは、他にもヴァンデルヴァイザー楽派と呼ばれる音数が少なく、しかも弱音という極端に制限された作品を創る作曲家達の影響を受けた音楽家との繋がりもあり、その活動の領域は幅広い。ただ、即興音楽ファンにはジャズ方面での、ジャズファンには即興演奏家としての活動が見えづらいかもしれない。そんな彼だが、2006年には「現代のジャズと即興演奏を切り拓く独自の発想の豊かさが、新しい展望の星」と評価され、南西ドイツ放送 SWR ジャズ賞を受賞している。

もう十年くらい前になるが、彼にインタビューをした時にこのようなことを言っていた。

「この音楽は保守的だとか、そうでないとか、そういうふうに音楽を分けて考えていない。いろいろやるのはとても大事なことなんだ。ひとつのことだけをやりたいとは思わない。全てが同時にある。それがポイントだと思う。ディー・エントィシュングで演奏するのと(音数が少なく、間の多い演奏をする)ロビン・ヘイワードと一緒に演るのでは、視点も違うし、音楽的にも全く違うけれども自分のどこかで繋がっている。歴史もまた違う音楽、あるいはフォーカスや印象、音色の異なったサウンドを一緒にやる。そんな可能性に興味があるんだ」

そのインタビューの直前に井野信義とのセッションで、特殊奏法で非楽音を繰り出すノン・エモーショナルなサウンドと、ジャズ的なフレージングを吹くプレイを同じセッションの中でやっていたのが興味深かった。それについて尋ねたところ、「井野さんとのセッションのように、ジャズ・ミュージシャンのように吹いた後で、特殊奏法で吹くというのは珍しいことなんだ。たまにはこのようにミックスするけど」という答えが返ってきた。そして、シュリッペンバッハ の先生だった現代音楽の作曲家ツィンマーマンが好きだという。そして「時間はとても重要、同じ時間にいろいろなことが起こる。それは面白いアイデアだと思う」と。

ベルリン・ジャズ賞授賞式では、ピエール・アントワーヌ・バダルー Pierre-Antoine Badaroux (sax)、パット・トーマス Pat Thomas (p, electronics)、ジョエル・グリップ Joel Grip (b)、アントニン・ガーバル Antonin Gerbal (ds)で演奏。そのライヴ・ストリーミングを見たところ、トランペットに何か装置をつけて演奏している姿も映し出されているではないか。コンピューターを介在させてリアルタイムでサウンド・プロセッシングのようなことをやっているようだ。「音色に興味がある」と言っており、これまでも奏法を拡張してきたドゥナーだったが、楽器そのものの拡張も試みている。様々な奏法、音楽的な要素を取り込み、異なったサウンドが共存する空間を発展させている。アクセル・ドゥナーのあくなき冒険はそこにおいて連綿と続いているのだと再確認した。と同時に、あらゆるスタイルや奏法が出揃った現代において、そのような方向性にこそ今日的な音楽のあり方が提示されているように思ったのである。

 

 

横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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