Reflection of Music Vol. 77 林栄一

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林栄一 @新宿ピットイン 2020
Eiichi Hayashi @Shinjuku Pit Inn, September 25, 2020
Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江


今年(2020年)の元旦、林栄一が古希を迎えた。それを祝して、新宿ピットインでは「俺たちの栄ちゃん Happy 70th Birthday Live」と題した 2 days が1月10日と11日に行われた。フライヤーを見た時に、世の中には1月1日生まれの人がいるんだと思ったことも確かである。それならば、とスケジュール表に書き込んだのだが、正月早々に風邪というか、インフルエンザもどきに罹ってしまい、外出できず。インフルエンザの検査をした上で医者が言うには「偽陰性」の可能性が高いということだった。初日の出を見ようと寒空の中、マンションの屋上に行ったのがいけなかったのだろう。「偽陰性」なる言葉を耳にしたのはその時が初めてだった。その後、新型コロナウイルスのPCR検査がらみの話題で再び「偽陰性」という言葉を何度も目にするとは思わなかった。コロナに振り回される一年を予感させるような年明けである。今年最初の本連載は、70歳記念の林栄一にしようと目論んだものの先延ばしにせざる得なくなってしまったのだ。

何よりも残念だったのは、林 栄一 MAZURU ORCHESTRAを見逃したことである。林栄一が自身のオーケストラでも活動していることは全く知らなかった。フライヤーによると、2015年の札幌シティジャズにオーケストラで出演していて、それを再びということである。林栄一といえば、「渋さ知らズ」のレパートリーとして有名な<ナーダム>やデイヴィッド・マレイも取り上げていた<回想>を始めとする作品を書いており、作曲の才もなかなかのもの。編曲者として、バンドリーダーとして、このオーケストラをどう鳴らすのか大いに興味があったのに、その機会を逸してしまった。だが、幸運なことに、地底レコードから新宿ピットインでのライヴ『林栄一 Mazuru Orchestra  / Naadam 2020』が秋にリリースされた。オーケストラはガトス・ミーティングのメンバーを中心とした編成である。タイトル曲<ナーダム>では、こちらが本家と言わんばかりに、大陸的な情景を浮かび上がらせるメロディー・ラインをベースに、厚みのあるアンサンブルとその中で繰り広げられる各人のソロが祝祭空間を盛り上げる。蓋し名曲であろう。他に収録曲は<フォーバス知事の寓話>、そして林の代表曲「ノース・ウエスト」「スモーキー・ゴッドII」「森の人」「鶴」などを<組曲>としてアレンジし構成した作品。ソロや小編成でのプレイを織り込みながら、オーケストラならではのダイナミズムで聞かせる。林栄一の世界ここにあり、と言っていい。CDを聴くことでやっと溜飲をおろしたのだった。

林栄一を最初に聴いたのはいつだったのか、思い返してみた。録音としては、山下洋輔『寿限無 Vol. 2』(日本フォノグラム、1981年録音)である。高校生の頃、山下洋輔のバンドへの飛び入りで参加したことは夙に知られている。1980年代に山下洋輔トリオ+ワンでのヨーロッパ・ツアーを観ているライプチヒ出身の評論家ベルト・ノグリックは著書『Klangspuren 』(Verag Neue Musik、1990)の山下洋輔の章でこのようなことを書いていた。

山下は、ダブルキャストで交代で出演させる気は全くなかった。テナー・サックス奏者の武田和命と、時折ソプラノ・サックスを演奏するアルト・サックス奏者の林は、いずれも独自のスタイルを持っている。武田は音色が充実していて、バラードに徹した演奏ができるし(山下とのコラボレーションでバラード・アルバムを制作している)、林はより燃えるような音を出す。林はビバップの伝統に則り、ロックやファンクを演奏してきたが、その様々な経験を演奏に反映させている。山下はそれが好きで、既に始めていた武田とのコラボレーションに林を組み込むことで、新たな緊張感と課題を生み出そうとしたのは間違いない。

サックス奏者としての林栄一が耳の奥深くに刻みつけられたのは、1996年のソロCD『音の粒』(off note)を聴いた時である。多面的に林栄一のアルトサックスの魅力を伝えるアルバムで、その演奏テクニックもさることながら、特殊奏法を駆使する曲とスタンダードを同じアルバムの中で共存させるところに、彼ならではの感性と持ち味を感じたのだ。すぐさまそれとわかる硬質ながらも叙情性に富み、色気のある音色は言うまでもない。この機会に聴き直そうと、うちにあるリーダー・アルバムを引っ張り出したところ、片山広明との「デ・ガ・ショー」を含めて片手プラス・アルファしかなかった。改めて調べてみたが、それでも半分以上持っていることに気がついた次第である。林栄一は思いの外、寡作家だったのだ。そういう意味では、記念の年にアルバムもリリースされたことは喜ばしい。

やはり、彼の活動の基軸にあるのはライヴ活動で、多くの林栄一ファンにとってもライヴありき、なのだろう。自身がリーダーのガトス・ミーティング以外にもベテランから若手まで様々なミュージシャンとの日々のセッション、板橋文夫オーケストラや渋谷毅オーケストラのメンバーとしての活動、まさにローカルに根付いた、日本を代表するミュージシャンと言っていい。だからこそ「俺たちの栄ちゃん Happy 70th Birthday Live」の発起人がトロンボーン奏者でガトス・ミーティングのメンバーでもある後藤篤だったこと、つまり後輩ミュージシャン達がお祝いとしての企画を立ち上げたことも納得がいくのである。

個人的には、2012年から2014年にかけて高瀬アキが帰国時、林栄一、井野信義、田中徳崇のカルテット編成でツアーをブッキングしたことが思い出される。林はそれ以前にも、1990年代半ばには高瀬アキ・セプテットでヨーロッパもツアーし、また1996年のベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ日本公演のメンバーとして参加、エヴァン・パーカーに負けず劣らないソロを繰り広げていた。とりわけ、2014年のドルフィーにテーマにした「ソー・ロング、エリック!」ツアー最終の新宿ピットイン2 daysは、林の持ち味も上手く引き出された特に記憶に残るものだった(→リンク)。スケジュールの関係でリハーサル時間が満足に取れないことがネックとなって継続を断念せざる得なかったのが少し心残りである。

9月25日に『林栄一 Mazuru Orchestra  / Naadam 2020』発売記念を兼ねてガトス・ミーティングのライヴが新宿ピットインで行われた。その時に、林栄一の70歳記念の年を締めくくるべく、12月30日(水) に新宿ピットインでMAZURU ORCHESTRAの再演が行われるということがアナウンスされた。これを見逃す手はない。私にとってはリベンジだ。コロナで外出禁止とならないことを切に願っている。

12月30日(水) 新宿ピットイン
MAZURU ORCHESTRA
林栄一(as)   松井宏樹(as)   藤原大輔(ts)   吉田隆一(bs)  山田丈造(tp)  類家心平(tp)  後藤篤(tb)  高橋保行(tb)  石渡明廣(g)  石田幹雄(p)  岩見継吾(b)  磯部潤(ds)  外山明(ds)
http://pit-inn.com


2020年9月25日 新宿ピットイン
ガトスミーティング  Gatos Meeting
林 栄一(as)  吉田隆一(bs)  山田丈造(tp)  後藤篤(tb)  石渡明廣(g)  岩見継吾(b)  磯部 潤(ds)

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横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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